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12、お買い物に行こう!2

「奥様はこの薬をどのように摂取しているんですか?」

「薬師の指示通り、1日3回食後に飲んでいますが」

 やはり服用方法が間違っていました。


「此方に霧吹き…水を霧状に噴き出す道具はありますか?」

「は、はい。皮を(なめ)す時に使うものでしたら」

「それを持ってきて下さい」

「僕が持ってくるっ」

 言うなりジョルテ君が走り出しました。

お母さんの為に何かしたくてたまらないのでしょう。

私が病気になった時の子供たちも、あんな必死な目をしてました。

 

渡してくれた霧吹きを【イオン殺菌】で消毒してから、中に回復薬を入れます。

「辛いでしょうが、なるべく大きく息を吸って下さい」

 わずかに頷くサリアさんの口元、特に鼻の周りを中心に薬を吹きかけます。

それを繰り返すこと数度。

すぐに効果が出始め、呼吸が楽になってゆきます。


「これはいったい?」

「奥様の病気が肺炎だからです」

 不思議そうなホルンさんに、理由を伝えます。

「肺炎?」

「ええ、胸の奥にある息をする為の器官が炎症を起こす病気です。

口から飲んでいたので効きが悪かったのですが、こうして直接、薬を吸い込んだからもう大丈夫です」


私の話と呼吸が落ち着き顔色も良くなったサリアさんの様子に、ホルンさんから安堵の息が漏れます。


「日に何回か同じように吸い込んでもらい、食後に飲むことも続けてもらえれば2、3日で快方に向かうでしょう」

 言いながらジョルテ君に霧吹きを手渡します。


「霧吹きを持ってきてくれてありがとう。

それとお母さんに薬を吸わせる役目をお願いしてもいいかな?」

「うん、僕ちゃんとやるよ」

 母親譲りの銀の髪を揺らして頷くジョルテ君の頭を偉い偉いと撫でてあげます。

初めて見せてくれた笑顔は本当に嬉しそうでした。



「それでは2足で28,000エル。出来上がりは10日後になります」

 妻の恩人からお金は受け取れないと(かたく)なだったホルンさんを何とか説得して、金貨2枚と銀貨8枚を払い予約票である木の札を貰います。


「またね、トアお姉さん」

 ブンブンと笑顔で手を振るジョルテ君と、その隣で頭を下げるホルンさんに別れを告げてキョロちゃんと一緒に大通りへと出ます。


何か忘れている気がしますが…まあ、良いでしょう。



「次は道具屋さんかな」

 大通りにある道具屋を何軒か覗きましたが、どれも今一つと言った感じです。

こういった時は奥の手を使いましょう。


「すみません」

 通りの隅で井戸端会議という情報交換場にいる奥様方に声を掛けます。

「私、田舎から出てきたばかりで…」

 上目遣いで不安そうに口を開くと、たちまち周囲を取り囲まれました。

そして矢継ぎ早に質問の嵐です。

名前や歳、何処から来たはまだ良し、彼氏の有無、無しと答えれば好みのタイプに始まり、腕利き興信所員もかくやとばかりにグイグイ聞いてきます。


答えられるものはきちんと答え、教えられないものにはしっかりNGを出す。

此処の線引きをちゃんとしておかないと、話が勝手に独り歩きを始めるので注意しましょう。


質問の洗礼を受けたあと、料理の話など無理なく奥様方の興味の方向を変えてゆきます。

こうして30分も話し込んだら、もうあなたは立派な奥様達の仲間。


「出てきたばかりなので、色々と手芸道具を揃えたいんですが」

「だったらロアの店にお行きな」

「そうそう、あそこは品揃えもいいし、何より安いからね」

「昨日から裁ち落としの端切れ布を一山500エルで安売りしていたよ」

 

おお、耳より情報ゲット。

端切れを使ったパッチワークキルトは前世でもよく作ってました。

これはぜひ行かねば。

やはり何処の世界でも奥様達のコミュ力と情報網は半端ないですね。


「ありがとうございます。早速行ってみます」

 頭を下げる私を知識欲が満たされた奥様達が笑顔で見送ってくれました。


私の個人情報を生贄にして教えてもらったロアの店は、間口が狭いため見つけ辛かったですが、奥行きは広く品揃えも豊富。

これ、通りがかっただけでは絶対に気付きませんよね。

教えてもらえて良かったです。


まずは目玉商品の端切れ。

大きな麻袋一杯に詰められていて、これで500エルは確かに安いです。


それから目的の裁縫道具&一反サイズの布を赤、青、黄、緑、白、黒で購入。

刺繍セットがあったのでそれも。

来月には毛糸も入荷されるそうなので楽しみです。

冬に備えて毛糸の靴下やマフラーにショール、帽子とか編みたいです。


「たくさん買ってくれてありがとうね。けどかなりの量になったけど大丈夫かい?」

 12,000エルを支払う私に、店主のロアさんが心配そうに聞いてきました。

「はい、騎獣がいるので」

 アイテムボックスのことはあまり大っぴらにしない方が良さそうなのでそう言葉を返します。

私の答えにロアさんが納得顔で頷いた時、お店の入口で派手な泣き声が上がりました。


「ミア?どうしたんだい?」

「おがあざぁぁん」

 顔を涙でぐちゃぐちゃにしている6歳くらいの女の子。

見れば赤いスカートのお尻の部分が見事に縦に裂けています。


途切れ途切れの彼女の話を総合すると、幼馴染の男の子とけんかになり取っ組み合っているうちに今日おろしたばかりのスカートを柵の金具に引掛けて破いてしまったと。


「いい加減おとなしくおし。女の子なんだから」

「だってお母さん、タオのヤツがエリーをイジメるんだもん」

 憤懣やるかたないと言った様子のミアちゃんでしたが、破れたスカートを見ると、とたんにその顔が歪みます。


「お父さんが誕生日だからって買ってくれたのに…」

 うーん、大切な思い入れのある品でしたか。

だったら余計に悲しいよね。


「良かったら私が直しましょうか?」

「本当!? お姉ちゃん」

 期待に満ちた顔でミアちゃんがこちらを見つめます。

「うん、こういうの直すの得意なの」

 娘もかなりのお転婆で、よく服を破いてきたので修繕は慣れてるんです。


「すまないがお願い出来るかね。私はこうして道具を売っているのに裁縫はからっきしでさ」

 申し訳なさそうなロアさんを庇うように、でもとミアちゃんが声を上げます。

「お母さんは布を染めるのが町で一番上手いんだよ」

「染物師さんでしたか」

 どうりで此処にある品はどれも色鮮やかな物ばかりです。

「町一番かどうかは判らないけどね」

 はにかむロアさんに許しを得て、お店の奥で Let's sewing time。


まずは裂けてしまった部分を切り取って、そこを袋縫いにします。

縫い目はきちんと揃えましょう。

揃えると布が引っ張られた時に掛かる力が均等になるので丈夫になるんです。


「凄いねー。魔法みたい」

 興味津々と言った様子でミアちゃんが手元を覗き込んでます。

スカートが直ってゆく様が楽しくて仕方ないようです。


縫い上がったら切り落とした布を使ってリボンを3つほど作ります。

それを等間隔でウエストの少し下くらいから縫い付けます。

可愛いし、縫い目隠しにもなるしで一石二鳥です。


「はい、出来た」

「うわーい、前より可愛くなったぁ」

 スカートを手にピョンピョン飛び跳ねるミアちゃんの方が可愛いで(あふ)れてますよ。


「お客さんは裁縫師かい?」

 出来の良さにロアさんが驚いて聞いてきます。

「いえ、薬師です。でも物を作るのが大好きなので」

「だったらお姉ちゃん、また来てくれる?」

「次は毛糸で色々作りたいから、その頃にお店に寄るね」

「うん、待ってる」

 ミアちゃんと再会を約束してロアさんのお店を後にしました。



「さて、次は食材だねー」

 ロアさんに教えてもらったケントの店。

ここらで一番の品揃えを誇る店だそうなので楽しみです。 





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