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119、ラスボス登場


「此処が最終目的地ですね」

 私達の前にあるのは地下1階、2階とはまったく違った豪奢な扉。

樹の魔物であるトレントを素材にして綺麗に磨き上げられた周囲を金で縁取りしてあります。

取っ手を飾っているのは、どう見ても10カラット以上はある宝石達です。

「成金趣味全開ですね」

 この中にいる者の品性が垣間見られてうんざりします。


「中に居るのは1人だな。しかし…」

「どうかした?」

 首を傾げるウェルに問い掛けると。

「この扉の向こう…何やらおかしな魔力が充満しておる」

「うん、初めてだよ。こんなみっしり詰め込んだみたいなの」

 サミーもそんなことを言って首を捻ります。


「まあ良い、扉を開けるぞ」

 先頭のウェルが取っ手に手を掛け、その後にサミー、私、キョロちゃんに乗ったカナメ君、マーチ君が続きます。

左右に開いた扉の向こうにあったのは、壁一面に埋め込まれたダークレッドの魔石。

しかもその数は半端なく、四方の壁はもちろん天井までびっしりと魔石が

埋められています。

唯一埋まっていないのは床だけですが、その全面には召喚の魔法陣が描かれています。


「ふむ、此処まできたと言うことはモーゼスとガラハッドは敗れたか。役立たずめ」

 不意に上がった声の方を見ると、床から一段高くなったところに置かれた豪奢な椅子に男の人が座ってます。


「…この私の計画の邪魔をするとは」

 忌々し気に此方を睨むのは絶世の美女と見紛う金髪碧眼の美形男子。

その手には幾つもの魔石が付いた黒い錫杖があります。

「貴方がガニメデス?」

 私の問いに、そうだと相手が大きく頷きます。

「この世界で最も優れた存在である人族。その頂点に立つのが我だ」

 中二病満載なセリフを臆面もなく言い切りましたよー。

得意げな様に感心よりも呆れが先に立ちます。


「この部屋はいったい何なのだっ?」

「そうだよ、こんな気味の悪い魔力っ」

 そんなガニメデスにウェルとサミーが問い掛けます。

「ふん、この部屋の素晴らしさが判らんとは。やはり人族以外はクズだな」

「え?」

「我の眼を誤魔化せると思ったか?」

 言いながらガニメデスが右手を軽く振ると、一瞬ですが空間が歪んでウェルとサミーの姿が元へと戻ります。


「これは…まさか」

「時魔法で時間を戻したの?」

 驚く2人の足元を小さな影が走り抜けてゆきます。

『覚悟しろっ、この野郎っ!』

「マーチ君っ!?」

 ガニメデス目掛けて蹴りを繰り出しますが、軽く躱されて逆に床に叩き付けられてしまいます。


「落ち着いて、マーチ君っ」

 起き上るなり再び向かってゆこうとするマーチ君を抱きかかえることで止めます。

「いったいどうしたの?」

『止めねぇでくだせい、姐さん。あいつは仲間の仇なんでぃ!』

「仇?」

「そうか、これはっ」

 マーチ君の様子にウェルが何かに気付いたようです。

「壁にある魔石…これらはすべてゴアラルのものか」

 痛まし気に壁を見つめるウェルの言葉に、誰もの顔色が変わります。


壁を埋め尽くす魔石…その数は軽く万を超えています。

ウェルの言ったことが本当なら、この魔石と同じ数のゴアラルが殺されたことになります。


「そうだ、次元転移の魔法陣。その力をさらに引き上げるために特別に作らせた。この部屋全体が時魔法を発動させる魔道具なのだ」

「そんなことの為にゴアラルを狩ったのかっ」

 ウェルが怒りも露わに叫びます。

確かにゴアラルという種が絶滅寸前になるまで個体数が激減したのは120年くらい前のことです。


「ああ、ついでにそのゴアラルの魔石も我に捧げよ。愚にも付かぬ獣が人族繁栄の役に立つのだ。名誉なことと喜ぶが良い」

「ふざけるなっ!好き勝手するのもいい加減にしろっ」

 キョロちゃんの上からカナメ君がガニメデスを睨み付けます。

「…お前は…誰だ?」

「なんだとっ」

 眉を寄せて聞き返す様は、本当にカナメ君のことが判らないようです。


「120年前、お前達が呼び出した勇者だっ」

「そんな者がおったな。まだ生きていたのか。…せっかく魔国を滅ぼす先鋒の役目を与えてやったのに、それすら出来なかった役立たずか。人族の中にもお前のようなクズがいるとは嘆かわしい」

「てめっ!」

「ダメですよ」

 いきり立つカナメ君を(なだ)めつつ、マーチ君を抱いたままガニメデスに問い掛けます。


「貴方はいったい何がしたいのです?他種族を迫害し、魔国に侵略戦争を仕掛けたり、自分に賛同しない者を闇に葬ったり。カナメ君のように貴方の所為で不幸になった者は大勢います。そうまでしてやろうとしていることは何です?」

「知れたことよ」

 小馬鹿にした視線を向けてガニメデスが口を開きます。


「人族こそが最も優れた種族であると知らしめる為だ。その邪魔となる魔族、竜人族は滅ぼし、他の種族は人族の奴隷とする。そうなった世界の頂に立つのが我だ。我の為に死した者はその礎となれたことを誇るが良い」

「…分かりやすい世界征服ですね。そんなカビの生えた野望をまだ持っている人がいたとは驚きです」

「何っ」

「だいたいどの種族が一番とか馬鹿じゃないですか?確かに異種族間でのハンデは大きいです。ですが一番大切なのは此処です」

 言いながらトントンと人差し指で頭を叩いてみせます。

「知恵のある者が最終的な勝利者となるのは自明の理です。つまり種族ではなく個人の資質の問題です」

 私の話に、うんうんとウェル達が頷いてます。


「そうだな。口でトアに勝てる者はおらん」

「魔将軍達もトライアルで完全敗北を喫したしね」

「悪知恵の働かせ方は天下一品だからなー」

『あるじ すごーい』

 後で何やら聞き捨てならないことを言ったのが1名いますが、締めるのは後にしておきます。


「そもそも人族が優秀だと言いたいのなら、こんな風にコソコソ隠れてないで貴方が率先して誉められることを成せば良いでしょう?」

「う、うるさいっ。周囲がそれをさせなかったのだっ。我が間違いの教皇だと」

「はい?」

 怪訝な顔をする私の前でガニメデスが忌々し気に言葉を綴ります。


「占星術者たちが計算を間違えたと。教皇になるのは本来は我ではなく別の者だった。しかしそれが判ったのは披露目をしてしまった後だった為に仕方なく教皇に据えておいたと言われ続け、何もさせてはもらえず。ただ人形のように教皇席におかれておったのだ」

「つまり自分を馬鹿にした者達を見返したくてこんなことを仕出かしたと。…アホですか」

 思わず心の声がダダ漏れました。


「ぶ、無礼なっ」

「無礼とは礼を尽くすべき相手にそれを怠った場合に使う言葉です。貴方はそれに値しませんからノーカンですよ」

 バッサリ切って捨てると、それでとガニメデスに向け言葉を綴ります。

「神国の資料ではカナメ君を使った魔国侵略が失敗に終わり、そのすぐ後に教皇ガニメデスは死去となっています。侵略戦争失敗の責任を取ったと自分を死んだことにし、その後も裏からいろいろ画策して廻った訳ですね。仲間に闇魔法の使い手であるアトラさんが加わったのも大きな力となったのでしょう」

「そうだ、アトラに頼めば大抵のことは何とかしてくれた。不必要な者や邪魔者も簡単に排除してくれたのだ。…アトラはどうした?」

 漸くその存在を思い出したようで、私を睨み付けます。


「アトラさんなら故郷に帰りましたよ。神国に戻ることはもう無いでしょう」

「な、何故だっ。奴にはどんな望みも叶えると言ってある」

「誰だって好き勝手に生きることなど出来ないからですよ。何でも守るべきルールがあります。アトラさんはそれを犯したので罰を受けることになったんです。ですから此処には帰ってきません」

 ドラゴンの里長に叱られて、外出禁止くらいは喰らうでしょうからね。


「それと、貴方の主張を潰しておきます。貴方は人族が最も優秀だと言いますが、その根拠たる歌巫女の力が発現するのが人族だけというのは、神の恩恵ではなく種族特性の一つに過ぎません」

「何だとっ!?」

 驚くガニメデスにその根拠を教えます。


歌に魔力を乗せるにはソプラノ以上の高音域が必要。

ですが他にもう一つ発動には条件があります。

それは適量の魔力。

歌に乗せる魔力の量が多すぎても少なすぎても発動しないのです。

魔族、竜人族、エルフでは多すぎるし、獣人族やドワーフでは少なすぎて上手く発動せず、ちょうど良い量なのが人族だっただけのことです。


「それは魔力を乗せた歌を歌える巫女ならよく分かっていることです。ちなみに私も歌巫女と同じように歌えます。最初からどの種族が優秀とか比べること自体が無意味なんです」

「ええい、黙れっ!最も優秀なのは我だっ。人族などそのついでのようなものだっ」

 おや、追い詰められて本音が出ましたね。


栄えある教皇に選ばれて得意になっていたら、実は間違いでしたと自分の存在価値を根底から覆され、お飾り教皇として冷遇され続けた。

それは確かに不幸なことだったでしょう。

自分を蔑む者達を見返し、誰にも自分が一番だと認めさせる。

その志は立派ですが、その為の努力の方向性を彼は間違えました。

まさしく名の通り間違い教皇ですね。


「その間違いの犠牲となった者達への償いをきっちりしてもらいます」

「ふん、我に無礼を働いたのだ。此処から生きて帰れると思うなっ」

 大変分かりやすい脅し文句を言ってガニメデスが立ち上がります。


「下がれ、トアっ」

 同時にウェルが私を後方に押しやりガニメデスと対峙します。

その横には魔剣を構えたサミーが続きます。


「何っ?」

「え?」

 ですが次の瞬間、ガニメデスの姿が消え。

すぐに2人の背後に現れて風魔法を纏った錫杖を振りかざします。


「ぐっ」

「うわぁっ」

 受けの構えを取る暇もなくウェルとサミーが床に叩き伏せられます。

「い、今の動きは…テレポーテーション!?」

 驚くカナメ君の言葉通り、その動きは瞬間移動のようです。


「時魔法を使った訳ですね」

 自らの時間を早めて、目的の場所まで移動してから時間を正常に戻しているのでしょう。

ガニメデスも【時止めの呪】を受けていますので魔法はほとんど使えません。

ですがこの部屋全体が魔道具ですから、その力を利用してるようです。


「マジでこっちが不利じゃん。あの動きについてゆけなきゃ、嬲り殺しにされるだけだっ」

 悲痛なカナメ君の言葉の通り、瞬時に移動するガニメデスにウェル達は翻弄されるばかりでまったく反撃出来ません。

やはり最後のファンタジーの15番目主人公のような瞬間移動技持ちはチート極まりないですね。


さて、どうしますか…。

 






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