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114、まさかの怪獣大決戦


「元の姿に戻るのは久しぶりだな」

 うーんと大きく伸びをしてからアトラさんは此方に向き直ります。

「言い出したのはそっちだからね。僕を(うら)まないでよ」

「そんな気はさらさら無いのでお気遣いなく」

 ニッコリ笑ってそう言い返せば。

「なら遠慮なく」

 その言葉が終わらぬうちにアトラさんの姿が黒い霧に包まれます。


「トア、奴はいったい…」

 油断なく前を見つめていたウェルが、一気に変わった強烈な気配に身構えます。

霧の中から現れたのは太い四肢とそれを覆う黒い鱗。

コウモリに似た紫紺の羽。

青銀の髪と赤い眼はそのままですが、その姿は見慣れたものです。


「なんとドラゴンか。それも闇竜」

 呆れるウェルに、ええと頷きます。

ドラゴンの中でもランキング№3に位置している強者ですね。


『あれ?、驚かないんだ』

 つまらなそうに私を見るアトラさんに、肩を竦めながら言葉を返します。

「予想の範疇でしたから。香で誤魔化してはいてもそのペパーミントの匂いは消し切れていませんでしたし、光魔法が使えない、行動原理は楽しいか楽しくないか…これらに当て嵌まるのは闇竜だけでしたし」

『本当に賢しい子だよね。そういう子は嫌いじゃないけど』

「それはどうもありがとうございます」

 軽く会釈をする私の後方から聞きなれた声が上がります。


『ちょう待ってやー』

 ぱさぱさと音を立ててサンダー君が私の肩に舞い降ります。

『なんやおもろい事になっとるやないか』

「ええ、中ボスだと思っていたらレイドボスでした」

『雷竜!?嘘だろっ』

 突然のサンダー君の登場にアトラさんが目に見えて動揺してます。


此方を驚かすつもりが逆に思いっきり驚かされてしまいましたね。

前にサンダー君に聞きましたが、ドラゴンは他への影響を考えて常時気配を消しているのだとか。

なので同族が近くに居ても、顔を合わせるくらいの距離でないと判らないことが多いのだそうです。

とは言え気配は消せても匂いは消せませんから、魔獣達はそれで近付こうとはしない訳です。



『久しぶりやなー。しばらく姿を見せへんから何しとるんやと思うとったらこんな所で引き籠っとたんか。相変わらず暗いやっちゃなー』

『フラフラ遊び歩いてばかりの君に言われたくないよっ』

「お知り合いですか?」

『生まれた巣が隣でなー。ま、幼馴染ちゅうやつやな。意気地が無いもんでなかなか巣立ちをしぃひん。で、業を煮やした親に巣を叩きだされた後、音沙汰があれへんと思うたらこれかー』

『うるさいよっ。何をしようと僕の勝手だろ』

『そういう訳にはいかへん。トアはんはワイの大事な仲間やからな。迷惑をかけるんならちーと焼きをいれんとな』

『ふん、やれるものならやってみるがいいさ。けど昔のままの僕だと思わないでよね』

『おもろいやないか。どない強うなったか見してみ』

 そう胸を張るサンダー君の姿が元のサイズへと戻ってゆきます。



空に飛びあがった両者が同時に咆哮を上げ、それが戦闘開始の合図となりました。

すぐさまお互いがお互いに向かって突進します。

「ぶつかるよっ」

 サミーが指差す先で体長30mを超す2頭のドラゴンが激突しました。

「わあああっ!」

 思わず悲鳴を上げて頭を抱えるカナメ君。

ですが無理もないです。

それはまるで巨大な稲妻が爆発したようでした。

「トアっ」

 ウェルが身を挺して庇ってくれましたが、次に襲ってきた衝撃波に全員が吹き飛ばされます。


その間にも空では続けざまに魔法が炸裂しています。

それは目にも止まらぬ攻撃魔法の応酬。

防御の合間に闇のブレスと角から発せられる雷での攻撃が繰り返され、互いに上を取ろうと空中で激しく回転しています。


「すげぇ…」

「うん、そうだね」

 地に転がりながら空を見るカナメ君とサミーから感嘆の声が上がります。

ドラゴン同士の空中戦など見るのは初めてですからね。

「おおう、ファンタジー」

 かくいう私もその凄さに見惚れるばかりです。

 

しかしながら…。

「不味いぞ。これは」

 眉を顰めるウェルの言葉通り、零れた攻撃魔法が神国周辺を直撃しています。

このままでは人的被害が出るのも時間の問題です。

「被害が出る前に止めさせましょう」

「どうするのだ?」

「前にサンダー君にやったのと同じです。子守り歌で眠らせます」

 そう言って立ち上がったら聞き慣れた声が。

『あるじー』

『姐さーん』

 驚いて振り向けば、イブさんとマーチ君を背に乗せたキョロちゃんが駆け寄ってきました。


「はーい、トアちゃん。楽しそうなことになってるわね」

 上機嫌で手を振るイブさんでしたが。

「ちょっと、どうしたの。これっ!?」

 私の頬を両手で挟むなりクイッと上を向かせます。

「頬と鼻が擦り剝けているじゃないっ!?」

「ああ、さっき吹き飛ばされましたから。その時に…」

「つまり悪いのはあの2人ね」

「えっ…と」

 笑みは浮かんでいますが目がぜんぜん笑ってません。

竜人国で青リーダーの暴言に怒った時以上のお怒りを感じます。


「女の顔は命の次に大切なのよ。傷をつけた責任はきちんと取ってもらわなきゃ」

 ふふっと笑うイブさんの周囲が(まばゆ)い光で包まれてゆきます。

「離れろっ」

 ウェルの警告に、私の側にマーチ君をくっ付けたキョロちゃんが走り寄ります。

『あるじー、のってー』

『急いで下せえ、姐さん』

 ウェルが私をキョロちゃんの背に乗せてから走り出し、カナメ君とサミーも

慌てて後に続きます。


どんどん大きくなる光の中から現れたのは。

「…羽根だ」

「白くて綺麗だね」

 呆然と呟くカナメ君の隣でサミーが素直な感想を口にします。

サンダー君もアトラさんも背中の羽はコウモリに似た形をしていますが、イブさんのは白鳥と同じ白い翼です。

身体を覆う鱗も白く光を弾いて虹色に輝いて凄く綺麗です。

顔付もサンダー君たちは爬虫類系なのに、イブさんはどちらかと言うと鳥に近い感じがします。


『いい加減になさいっ』

 空に飛び上がるなり、そう叫ぶと大きく開けた口元から光が溢れます。

『あ、危ないがなっ』

『殺す気かーっ』

 慌てて回避するサンダー君とアトラさんの脇をイブさんのブレスが。

いえ、この威力はブレスではなくビームですね。

2人の間を通過したビームは、そのまま遠方にあった山脈の頂上部を直撃。

一瞬でその部分が消えて無くなりました。

さすがはランキング№1の光竜です。

「…きょ、〇神兵」

 ですがその様を見たカナメ君から不穏な発言が。

ちょっとそれアウトォ、撤回してー。


「随分と見通しが良くなったな」

 呆れ半分なウェルに、そうだねと私もため息混じりに言葉を返します。

標高の高さで有名な山脈の上部が、綺麗な一直線を描いてテーブル状に平らになってしまってます。

「まあ難所である峠越えが楽になったのは良いことだよね」

 深く考えるのは止めておいた方が精神衛生上良さそうです。


そうこうしているうちにイブさんに叱られながらサンダー君とアトラさんが地上に降りてきました。

『ほら2人とも、トアちゃんに謝りなさいっ』

 ゲシゲシと背を足蹴にされ、慌ててサンダー君が頭を下げます。

『ほんますんまへん。堪忍してや』

「大丈夫ですよ。これくらいすぐに治りますから」

 笑って手を振るとサンダー君から安堵の息が漏れ出ます。


『闇竜もよっ』

『なんで僕が…』

『あぁっ?』

『すみませんでしたぁぁっ』

 おおう、世にも珍しいドラゴンの土下座です。

その巨体をプルプル震わせて怯えている様は憐れを誘います。

ま、せっかくなのでこの機会に神国でのことを聞いてみましょう。


『えっと、僕が神国に来たのは…』

 怖々(おずおず)と口を開いたアトラさんの話をまとめると。


二百年前に強制独り立ちさせられた後、50年くらいの間は人の姿を取って世界のあちこちをふらついていたのですが。

150年前に召喚陣が起動して異界の珍しい物を呼び寄せたことを耳にし、面白そうなので神国に居ついたのだとか。


召喚陣起動に必要な魔力を提供することで神官として迎えられ、悠々自適な生活を送っていましたが、召喚陣から排出された一冊の本(ドラ〇エ攻略本)の内容…楽しそうな冒険譚に強く興味を惹かれたのだそうです。

で、時の教皇だったガニメデスに頼んで本の通りに神殿をモデルチェンジしたり、コスプレを楽しむレイヤーさん達みたいに変えた神兵の鎧や神官服を着たりして悦に入っていたとか。


そんなことをしていた120年前、カナメ君が召喚され彼が口にした『俺って勇者なのか?』『悪い魔王を倒すために呼んだんだろう?』 との言葉に、来たこれーっとハッチャケたようです。

本物の勇者の冒険が間近で見られると思ってワクワクした…とは当人の弁です。



「ふざけんなっ、そんなことの為に俺はっ」

 思わず殴りかかろうとしたカナメ君に、心外だとばかりにアトラさんが言い返します。

『そう言う君だって勇者って呼ばれて喜んでいたじゃないか。世界を救えるのは俺だけだって』

「そ、それは…」

 おお、カナメ君の顔が真っ赤に染まってゆきます。

確かに調子こいていた時のことを暴露されるなんてのは羞恥プレイ以外の何ものでも無いですからね。


「発端が貴方なのは判りました。ですが勇者を利用して戦争を画策したり、祝福料を高額にしたのは貴方ではないのですね?」

 実年齢がどれくらいか知りませんが、精神年齢はどう見ても小学生なアトラさんに出来るはずがないと思って聞いてみたら。


『そういうのはガニメデスとモーゼスが決めていたよ。僕は興味なかったし』

 と、案の定な答えが返ってきました。

やはり諸悪の根源はその2人のようです。


「ガニメデスは貴方の正体を知っているのですか?」

『知らないよ。里長から他種族の前に出る時はドラゴンであることは極力秘密にするようにって言われているから』

 ですよね。

アトラさんがドラゴンだと判っていたら、勇者召喚などと回りくどいことはしないで、言葉巧みに操って魔国に向かわせていたでしょうから。



『取り敢えず雷竜、その闇竜を里長のところに連れて行って』

『ええけど』

『い、いやだよ。何で行かないといけないのさっ』

『あぁっ?』

 大きく首を振るアトラさんをイブさんが睨み付けます。

『他種族に迷惑を掛けるなって言われているでしょう。闇竜がやったことは完全な迷惑行為なの。きちんと話して叱られて来なさい。逃げたりしたら…分かっているわね』

『は、はいぃっ』

 千切れんばかりに首を縦に振っているアトラさんを一瞥してから、イブさんは私達の前で深々と頭を下げます。


『同族であるドラゴンが迷惑をかけてごめんなさい。特にカナメ、貴方には本当に申し訳なく思うわ』

「…いや、勇者って呼ばれて有頂天になってた俺も悪かったんだ。あの時、もっとちゃんと周りを見ていたら防げたことも多かった。それに俺は騙された八つ当たりに関係ない人達にいっぱい迷惑をかけた。そうしてしまったのは俺が子供で未熟だったから…だからどんなに時間がかかっても俺はそれを償ってゆく」

 毅然と言葉を綴るカナメ君。

きちんと自分がしたこと、されたことが分かったようです。

少しの間に成長しましたね。

良かったです。


ちなみにイブさんが山頂を真っ平にした件は、戦いを諫める為に仕方なく行ったことなのでジャッジスルーだそうです。

異を唱える勇気のある人は手を挙げて…。

誰もいませんね。

つまりそういうことです。




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