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113、いきなりCLIMAX

 

「召喚術ですか。魔法に長けているとは聞きましたが…もしかして全属性持ちとか?」

 だとしたらチートこの上ないですね。

「いや、さすがにそれは無いよ。光魔法だけは使えないからね」

 ウェルやサミーがスケルトンを切り払っている合間に聞いてみたら、そんな答えが返ってきました。


「光魔法だけですか、やっぱりチートですね」

 やれやれと首を振ってから息を大きく吸って歌い出します。

アンデッド系にはこれが一番効きますからね。

それでは頑張って歌いましょう。

私が知る最強のレクイエム、幾千の風になって。

当然ながら魔力はMAXなので、効果はバツグンだ…です。


歌声が響く中、その姿が次々と砂化して崩れてゆきます。

崩れた後から浮かび上がるのは…小さな光。

さながら蛍火のように宙を舞い、歌声と共に天へと昇ってゆきます。


「そう簡単に浄化されたら困るんだけど」

 カリカリと頭を掻いてから此方に向き直ります。

「取り敢えず場所を移そうか。何をするにしても此処じゃ狭すぎる」

 軽くウィンクを寄こした途端、周囲の風景が一瞬で変わります。

広い草原の向こうに神国の石壁が見えますから、イース大陸側の国境沿いまで移動してきたようです。



「くっそー、頭がクラクラする」

 私の後で息を切らせながらカナメ君が悪態をつきます。

どうやら巫女さん達を避難させて超特急で戻ってきたところで転移に巻き込まれたみたいです。

確かにいきなりの転移は、呪の所為で魔力が少ないカナメ君には負担が大きいですよね。


「あれ、余計なおまけまで付いてきちゃったか。まあいいけど」

 カナメ君を見て肩を竦めるアトラさんに、良い機会なので聞いてみます。

「2,3質問があるのですが」

「何だい?」

「神殿の造りや神兵の鎧とかが某ゲームに出てくるものとそっくりなのは何故です?偶然と言うには多すぎますよね」

「ああ、それね」

 クスリと笑うと種明かしをしてくれました。


「あの召喚陣は元々異世界の品を引き寄せる為のものって知ってた?」

「ええ、カナメ君から聞きました」

「その一つに興味深い本があってね。何かの冒険譚みたいだったけど文字は異界のものだから内容はよく判らなかった。でもその中にあった絵が凄くカッコ良かったんで、教皇に言って同じにしてもらったんだよ。その方が楽しいだろ?」

 それって絶対にドラ〇エの攻略本ですよね。


「で、そこの道化君から聞いた話が本の絵にあった通りだったから、これは使えると思って魔国との戦争に利用させてもらったのさ」

 無邪気にそう答えてから、次は?と顎を上げて新たな質問を促します。


「無差別に異界の物を引き寄せていたのが、勇者役の人間を呼ぶ為のものに変わったのはどうしてです?」

「苦労して引き寄せても全部が高値で売れる訳じゃないからね。っていうか使えない物の方が多くて採算が取れないって判ったんで、狙いを勇者に絞ったんだ」

 

アトラさんの話をまとめると、150年ほど前に失われた召喚陣の使用方法が発見され、朽ちかけていた陣を修理して実験的に起動させてみたら。

なんとビックリ、見たこともない美しい絵画や彫刻や宝石など金銀財宝の山が現れたそうで。

どう修理したらそうなるのか判りませんが、偶然にも召喚陣は空間ではなく次元移動の魔法陣に変わってしまっていた訳です。


当時の神国は信者の寄進が頼りで祝福料も高額でなかった為、資金繰りに苦労していたので、それらを売り払ったお金で随分と助かったそうです。

(でもそれって泥棒ですよー)


これこそ神の恵みと、以来せっせと召喚陣を起動させては現れた物を売ってましたが、最初の大当たり以外は成果はしょぼいものばかり。

起動させるのに結構な魔力が必要ですから、そろそろ見切りをつけようとしていた矢先に現れたのがカナメ君。


アトラさんの進言もあり、彼を勇者に仕立て上げて魔国侵略の先兵として使うことにしましたが失敗。

それでも魔国にある宝の山を諦めることが出来ず。

第二次勇者計画を実行し、何回かの失敗を経てヤサカさんを呼ぶことに成功したものの思惑を勘づかれて逃亡され。

これで断念すれば良いのに魔国のお宝は余程魅力的なのか、懲りずに第三次勇者計画を始めることにしたと。


「どうしてそこまで勇者に(こだわ)るんです?他の国に呼びかけて連合軍を組織して攻め込んだ方が効率的でしょう」

「えー、ただ戦うだけじゃつまらないじゃないか。やっぱり戦いにはロマンがないと観ていて楽しくないだろう」

「てめっ、ふざけんなっ!」

 怒りを込めてカナメ君がアトラさんを睨み付けます。

本当なら斬りかかりたいのでしょうが、残念ながら体調不良の所為でままならないようです。

ある意味、良かったですね。


「そんなに人を困らせるのが好きですか?」

 私の問いに、そうだねとアトラさんが大きく頷きます。

「死なれたりするのは寝覚めが悪いけど、困って右往左往しているところを眺めるのは好きだよ」

 楽し気に笑う様に思い切り見覚えがあります。

王都のギルマスのローズさん、もしくは美少年ジジイの同類ですね。

他人をからかうことを生き甲斐にしている性悪です。

まったく、エルフや竜人族みたいな長命種は他にやることが無いんですか?



「他に質問は無いかな?無いならそろそろ次に行こうか」

 ニッと笑うアトラさんの足元に再び魔法陣が浮かび上がります。

「アンデッドはダメだったけど、こっちならどうかな」

 その言葉が終わる前に魔法陣から現れたのは。

「なんと、ベヒーモスかっ」

 驚くウェルの目の前で10mはある巨体が雄叫びを上げます。


「面白い、私が相手をしよう。トア、いつものを頼む」

「了解。頑張ってね」

「任されたっ」

 嬉々として剣を構えたウェルの為に、彼女の運命の一曲を歌うべく大きく息を吸います。

曲はもちろん千本の桜です。


「我が名はウェルティアナ。いざ参るっ」

 勢い良く飛び出しベヒーモス目掛けて剣を振り上げるウェルの背を押すように歌声が草原に響き渡ってゆきます。

「す、凄っ」

「強いねー、ウェルさん」

 陸の王者ベヒーモスを相手に一歩も引けを取らない…いえ、完全に圧しているウェルの戦いっぷりにカナメ君とサミーから感嘆の声が上がります。


お、その尻尾を一刀の下に斬り落としました。

すぐに痛みに叫ぶベヒーモスの後に廻り両の足を斬り付け、次いで前に出て今度は両前足を攻撃。

それを何度か繰り返すと、さすがのベヒーモスもたまらず膝をつきます。

「これで最後だっ」

 態勢が低くなったところを見計らい気合と共に水魔法を纏ったウェルの剣が一閃し、巨大なウォーターカッターがベヒーモスを見事に真っ二つにします。

相手にまったく反撃させることなくのKO勝ち。

その様は完全に『一狩り行こうぜ』のハンターそのものでカッコ良いの一言です。


「お疲れ様、ウェル」

「うむ、良き戦いであった。…こいつを頼む」

 言いながら渡されたのは切り落としたベヒーモスの尻尾。

「尾の肉は特に美味いと聞く」

 嬉々として向かっていったのは食材確保の為でしたか。

さすがはウェル、いつでもどこでもブレません。


「だったら後でテールステーキとスープにするね」

「よろしく頼む、トアが作るものはどれも美味いから楽しみだ」

 そんな会話をしていたらアトラさんに呆れ返った顔を向けられました。


「目的はそっち?でもマジで凄いね。たった一人でベヒーモスを倒すなんて」

 感心するアトラさんでしたが、すぐに次の刺客を用意します。

「ベヒーモスがダメならこっちはどうかな」

 赤く光った魔法陣から姿を現わしたのは。

「火喰い鳥だね」

 赤とオレンジの羽根に包まれた炎属性が非常に高い怪鳥です。

「今度は僕にやらせて」

「ええ、でも気をつけて下さいね」

「大丈夫だよ」

 ニッコリ笑うとサミーの姿が魔族のものへと変わります。


「あれ?、君って魔族だったんだ」

「闇魔法を使えるのが自分だけと思わないでよね」

 アトラさんにそう言い返すサミーに問い掛けます。

「応援歌は要ります?」

「うん、お願いします」

 嬉しそうに頷くサミーの為に、旅の間いろいろ試して見つけた彼の運命の一曲を歌います。

曲は『凛とし〇咲く花〇如く』です。

元はゲームに使用された楽曲なのですが、娘がこの歌が大好きでよくカラオケで歌っていて私も一緒に歌わされたものです。


「行くよー」

 6枚の漆黒の翼を広げて空に舞い上がると、私の歌に乗り火喰い鳥を相手に物凄い空中戦を開始します。

初手は火喰い鳥の口から吐き出されるファイアボールVS水、風魔法の応酬です。

しかもお互いに縦横無尽に飛び回りながらの魔法戦なので、見ているこっちの方が動きを追うだけで疲れます。


そんな攻防がしばらく続いてから。

「楽しいけどそろそろお終いにするね」

 ニコッと笑うサミーの両手に黒い塊が出現します。

「グラビトンっ」

 黒い塊はどうやら重力魔法のようです。

それに圧し掛かられた火喰い鳥が悲鳴のような叫びと共に地へと落ちてきます。

「はい、終わり」

 軽く言いながら動けない火喰い鳥の首を腰にあった剣で切り落としました。


「トアー。これで唐揚げ作ってくれるー」

 首なしの火喰い鳥を担ぎ上げて、大変良い笑顔を浮かべるサミー。

「良いですよ。他にレモンチキンも作りましょうね」

「やったっ、あれ好きなんだ」

 大喜びで此方に駆け寄ってくるサミーの姿に、アトラさんから派手なため息が漏れ出ます。



「君らを見てるとホント調子狂うよね」

「でしたら子分を呼ぶばかりでなく御自分が戦ったらいかがです?」

「えー、良いの。そうなったら君ら全員此処で死ぬことになるよ」

「さあ、それはどうでしょう。私の仲間は此処にいるメンバーだけではありませんから」

「どんな奴が来ても僕には勝てないと思うけど。ま、そう言うなら御期待に応えないとね」

 クッと笑ってからアトラさんが前に進み出ます。


さて、その正体は私の予想通りでしょうか。

だとしたらアトラさんは中ボスではなくレイドボスなはずですが。

どうなりますかね。






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