11、お買い物に行こう!
ブックマークありがとうございます。
拙いお話ですが楽しんでいただけましたら幸いです。
「それでだな。登録した使い魔、鳥種には足に認識票を付けてもらうんだが」
言いながらボリスさんは3種類の銀色のリングを取り出しました。
「右から5,000エル、20,000エル、50,000エルだ」
「値段の違いは何ですか?」
私の問いにボリスさんはリングを指さしながら説明してくれます。
「5,000エルのはただの輪っかだ。登録証明だけだな。
20,000エルにはその他に隷属魔法の無効化が付与されてる。
50,000エルはさらに強力で、隷属だけでなく大抵の攻撃魔法を防いでくれる。
俺としては50,000エルがお勧めだが、なんせ高いんでな」
「大丈夫です。薬が思った以上に高く売れたので50,000エルのでお願いします。
キョロちゃんは私の大切な家族ですから」
50,000エルでもキョロちゃんのことを思えば安いくらいです。
私の答えにボリスさんが嬉し気に頷きます。
「そうか、トアちゃんは良い主だな。中には騎獣を使い捨てにするヤツもいてな。
そんな主に当たった使い魔は本当に可哀想なんだ」
そんな例を幾つも見て来たであろうボリスさんがしんみりと呟きます。
やっぱりいい人です。
「それじゃあ気をつけてな」
「はい、いろいろありがとうございました。お勧めのお店に行ってきます」
ボリスさんから騎獣用品のお店を教えてもらいました。
手綱と掴まる時の持ち手は鳥の騎獣には必須なんだそうです。
だから何もつけていない状態で来た私を見た時は驚いたと。
「これ、良かったら皆さんで食べて下さい。自作の物で申し訳ないんですが」
お世話になったお礼にドライフルーツ各種を渡します。
「なんだ、却って悪いな」
恐縮するボリスさんに笑って首を振ります。
【脱水】と【乾燥】で簡単に作れますから、そう手間は掛かってません。
それに疲れた時には甘いものが良いですからね。
木陰にいる人達に軽く会釈をしてから見送ってくれるボリスさんに手を振り、騎獣用品のお店に向かいます。
「ごめん下さい」
「はい、いらっしゃい」
教えられたお店に行くと愛想の良い笑顔のオジサンが応対してくれました。
ピンと立ったウサギ耳がラブリーです。
「この子の装備をお願いしたいんですが」
「おや、フェアリーバードとは珍しいね」
此処でも珍しがられました。
やっぱりキョロちゃんはかなりの希少種なんですね。
「前のはどんなのを使ってたんだい?」
「いえ、装備を揃えるのは今回が初めてで…」
「じゃあ、どうやって乗って」
「何も付けずにそのままで」
私の答えに、オジサンは呆れと感心が入り混じった顔をします。
「普通、装備なしで乗ろうものならすぐに振り落とされるぞ」
「はい、乗り始めの頃はよく落っこちてました」
「それでも今は乗れているわけだ。お嬢さんは随分とこの子に信頼されてるんだな」
その言葉を証明するように、スリスリとキョロちゃんが私の肩に顔を寄せます。
「警戒心が強いフェアリーバードがここまで懐くとはなぁ」
感歎の声を上げると、オジサンは楽し気に装備を選び出し始めました。
しかし警戒心が強い?
誰のことですか?出会った時から甘えモード全開でしたよ。この子。
「ま、こんなものか。素材は魔猪の革だから丈夫だし、使い込めば飴色に変わっていい感じになる」
勧められた装備は、嘴の周りに付ける手綱と胴を一周して背中でたすき掛けになってる革帯に持ち手が付いたものです。
馬の鞍に該当するものはありません。
スピード重視の騎獣は、その邪魔になる重い装備は基本付けないのだとか。
試しに着けて貰うと、おおカッコイイ!
『あるじー、にあうー?』
「うん、凄く似合ってるよ。キョロちゃん」
私の答えにクエッ、クエッと満足げな声が上がります。
「苦しかったり、きつかったりはしない?」
『へいきー』
軽く羽ばたいてみせるキョロちゃんに頷き返すと、オジサンへと向き直ります。
「この一式にします。お幾らになりますか?」
「毎度あり、全部でそうさな…20,500エルだが2万にまけておくよ」
「いいんですか?」
「ああ、フェアリーバードなんて珍しいものをみせて貰ったしな」
笑うオジサンにお礼を言って、金貨2枚を支払います。
「あの、私この町は初めてで。すみませんが靴のお店を教えてもらえませんか?」
同じ革を扱う業種なので試しに聞いてみます。
「靴ならホルンの店がいいぞ。あそこの店主は良い腕をしている」
「ありがとうございます。行ってみます」
頭を下げてから、装備を付ける時に落ちたキョロちゃんの羽根を差し出します。
「良かったらどうぞ、おまけしてもらったお礼です」
「おお、すまんな。娘が喜ぶよ」
お孫さんが生まれたばかりなので祝いの品と一緒に渡すそうです。
幸福がたくさん来るように願いつつ、お店を後にしました。
「すみません」
キョロちゃんにお店の外で待ってもらって中を覗き込みますが、誰もいません。
どうしたものかと考え込んでいたら奥から壮年の男の人が出てきました。
柔和なお顔の癒し系イケメンさんです。
「お待たせしました。店主のホルンです。どんな御用でしょう?」
替えの靴と冬用のブーツが欲しい事を告げると、早速ホルンさんは私の足を測定し始めます。
此方では靴はすべてオーダーメイドです。
多少高くても自分に合った物を長く使うスタイルです。
紙に測った数値を書き込んでから、今度はデザインの相談です。
渡された見本帳を眺めて、シンプルで動き易いものに決めます。
とは言え中身はともかく、見かけは14才の女の子ですからね。
甲の部分にコスモスを模した革の花を3つ連ねた飾りを付けてもらうことにします。
「こんな感じに出来ますか?」
注文表の隅に描いた花を、ホルンさんがガン見してます。
「ええ、大した手間ではないので大丈夫です。しかし…」
そのまま何やら考え込んでしまったホルンさんが、決然と顔を上げます。
「厚かましいお願いで申し訳ないのですが、この飾りを他のお客様にも使わせていただけませんでしょうか」
「構いませんよ。だったら花の他に可愛い動物やリボンもあれば素敵でしょうね。
素材も革だけでなく綺麗な布や薄い金属などで作るとデザインの幅が広がります。
それをピンで止める形にして、交換可能にすればさらに喜ばれると思いますよ」
私の話にホルンさん、ワクワクが止まらないといった感じです。
「ありがとうございます。特許申請はお客様…トワリア様のお名前で此方でしておきますので。使用料は20,000エルでいかがでしょう?」
うわぁぁ、またしてもヤッちまいました。
勘弁してください。
これ以上、人様の知識でお金を貰ったら罪悪感で圧し潰されます。
「い、いえそれは…」
何とか回避出来ないかと焦っていたら、慌てた様子で奥から7、8歳の男の子が駆け込んできました。
「父さん、母さんがっ、また咳が止まらなくなって…」
「落ち着きなさい、ジョルテ」
今にも泣き出しそうな子をホルンさんが背をさすって宥めます。
「あの、病気の方がいるならご迷惑でなければ診ましょうか?
駆け出しの新人ですがこれでも薬師なので」
差し出した薬師資格カードに驚いた様子でホルンさん親子が振り向きます。
「お客様の手を煩わせるのは心苦しいのですが、よろしければお願い出来ますか」
「こっちだよ」
ジョルテ君に手を引かれて連れられた部屋には、銀髪の美人さんが横になっていました。
ですが治まらぬ咳に酷く苦しそうです。
「薬は何を?」
「近所の薬師から買った回復薬です。ですが効き目が悪く、回復の兆しがないのです」
ホルンさんの説明に枕元の回復薬を鑑定してみます。一緒に奥様の方も。
【サリア…ホルンの妻。風邪の悪化により肺炎を併発中】
【回復薬…低級、咳止め効果多し】
薬自体に問題はなさそうです。だとしたら、これは…。