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104/124

104、改めましてメンバー紹介です。


「で、カナメ君はアキナ派?ミホ派?それともキョウコ派?」

「…何の話だよ」

「いや、君が日本にいた頃のアイドルの話」

 カナメ君がアーステアに召喚されたのは1988年の9月だそうなので、この辺りがストライクかなと。


「…ミホ派」

「やっぱりねー。ルーナスさんもそうだったけど美人さんタイプが好みなんですね」

「いいだろっ別にっ」

「そう(とん)がらない。では彼女の代表曲『ツイて〇ねノッ〇るね』を」

 ふいっと目を逸らせたカナメ君でしたが、私が歌い出すと驚いた様子で此方をガン見してます。


ちなみに今は歌巫女一行とは別行動をとることにしたので、留守番をさせていたキョロちゃんとマーチ君を迎えに行ったウェルを待っているところです。

つまり暇だったんですよ。


街道から離れた草原に私の歌声が響き渡ります。

「…偽歌姫のはずなのにちゃんと歌えるんだな」

 呆れと驚きが混ざった顔でカナメ君が呟きます。


「歌うことは好きですよ。死んだ旦那を恋しがって、よく一人で泣きながらカラオケで歌ってましたしね」

「死んだ旦那…って」

 驚いて聞き返すカナメ君に、私がこの世界に来た経緯(いきさつ)を話します。


「…本当にオバさんだったんだ」

「そこっ?」

「だってそう歳は変わらないと思ってたから…でもそれなら納得かな。言う事がババ臭…」

「あぁっ?」

「い、いや大人っぽかったから」

「まあ、それなりに苦労はしたし、長いこと社会に出て働いてましたからね。それで随分と鍛えられましたよ。私の失敗が同僚だけでなく、会社全体に迷惑を掛けることもあるから必死でしたね。大人になると何をするにも責任が付いて回るものですから」

「…大人…か」

「そ、時間が経てば大人になれるって訳じゃないですから。誰もいろんな経験や失敗を重ねることで大人になってゆくんです。カナメ君はこれからですね。サミーと一緒にたくさん経験を積んでゆくと良いですよ」

 離れた所でイブさんと私が作ったお手玉で遊んでいるサミーを見やります。


「サミーか…ところであいつは何なんだ?」

「何って?」

「魔法の天才とか言われてるけど言う事もやる事も子供っぽいし。それに俺以上の世間知らずじゃないか」

「まあ、サミーは正真正銘の子供ですから」

「子供って…17だって言ってたぞ」

「人族なら大人なのでしょうけど、サミーは違いますからね」

「へ?」

 思い切り首を傾げるカナメ君に、ちょうど良い機会なのでメンバーのことを改めて紹介しておきましょう。


「話すより見た方が早いですね。サミーっ」

 手を振って呼ぶと、すぐに此方にやって来ます。

「ちょっと人化の術を解いてもらえます?。ちゃんと紹介したいので」

「うん、いいよー」

 素直に頷くサミーの姿が陽炎のようにブレ出します。

次にはヤギに似た金色の角と背中に広がる3対…6枚の黒い翼が現れます。


「お、お前っ」

「はい、改めて紹介します。サミュアレイス・フォルネウス殿下。魔国の第3王子です」

「はあぁ!?」

 何を今更と言いたいところですが、120年ぶりのカレーに夢中で昼食会の時に魔王さまとサミーが話をしていたのを見なかったようなので、これは仕方のない反応ですかね。


「人族の成人は14才ですけど、長命種の魔族は40才なのでサミーは人族で換算すると10才くらいです。ね、まだ十分子供でしょう?」

 魔族の姿になったサミーを前にして、あわあわしているカナメ君にそう説明していたら上空を黒い影が覆います。

どうやらウェル達が戻って来たようです。


「あ、あ、あれはっ!」

 焦り捲って空を指差すカナメ君の視線の先にあるのは…。

コウモリに似た黒い翼、捩じれた2本のいぶし銀の角、漆黒の鱗に覆われた身体は尾を合わせると30mはあるでしょう。

眼の下と背中に鮮やかな黄色で特徴的なギザギザ模様が入っています。


「ど、ドラゴンが何故っ!?」

「彼も旅のメンバーの一人だからです」

「はあぁっ!?」

 そんなに目を見開いてると落っこちますよ。



「サンダー君ーっ」

 大きく手を振ると、それに応えるように一声鳴いてから黒い巨体が少し離れた場所にふわりと着地します。

『あるじー』

『姐さぁん』

 その背からキョロちゃんとマーチ君が飛び降りてきました。


「2人ともお留守番ありがとうね」

 スリスリと懐いてきた2人の頭を撫でてあげます。

『さびしいけど がんばったー』

『へい、ですがこれからはずっと一緒なんで嬉しいですぜ』

 健気なことを言ってくれる2人を久しぶりにモフっていると、その横にウェルが歩み寄ってきました。


「ウェルもお疲れ様」

「ああ、これがマロウから渡された契約書で…こっちがティアからの手紙だ」

「ありがとうね」

 ニッコリ笑って受け取ると、剣の柄を握ったまま挙動不審なカナメ君に目を向けます。


「無暗に向かってゆかないところは分を判っているので評価しますが、少しは落ち着きなさい」

 そう声を掛ける私の後でサンダー君がSサイズに戻ってゆきます。


「お、お前っ。そこらにいた飛びトカゲっ」

 私の肩に降り立ったサンダー君に指を向けてそんなことを言ってます。

「相手を指差すのは失礼に当たるから止めなさい。彼はサンダー君。見た通りに普段はこのサイズですが本来の姿はあの雷竜です」

『よろしゅうな』

 ヒョイと右手を上げるサンダー君を、酷く脱力した様子でカナメ君が見返します。


「それと人の姿は取ってますが、イブさんは光龍ですから」

「なっ」

 さすがに光龍がどんな存在か知ってるようですね。

イブさんのことをじっと見て…どうやらなけなしの魔力を使って【鑑定】を掛けたようです。

それで私の言葉に嘘がないと判ったらしく、たちまちその顔色がメッサ悪くなり地面に屈み込みました。

あまりの事に立っていられなくなったようです。


まあ、気持ちは分かります。

この世界で最強の存在であるドラゴン。

それもランキング№1と№2が揃い踏みですからね。

2人を相手にしたら全力を出した魔王さまだって秒殺でしょう。


ちなみにカナメ君の【時止めの呪】は未だ継続中です。

彼のそもそもの不幸は、最初に身に余る力を得てしまったからです。

その力に見合った心を持たないまま、調子に乗った挙句に利用されることになった訳ですから。

ちゃんと勇者の力を使いこなす事が出来る心を得るまでこのままの方針です。

自分がした事を償う道を見つけて、自分らしく生きられるようになったら解呪しようと思ってます。


「あんた、本当に何なんだっ」

 怯えた目でグルリと一同を見回してから、カナメ君が私に問い掛けてきました。

「ただの人族の小娘です」

 そう言ったらウェルを除いた全員が胡散臭げな目でこっちを見てきましたよ。

酷くない?




「はい、今日のおやつは果汁をたっぷり使ったレモンタルトですよ」

 お使いに行ってくれたウェル達を慰労するために、アイテムボックスから自作のタルトとオリジナルブレンドのハーブティーを出します。


爽やかな香りとさっぱりとした酸味が魅力的なレモンは、暑くなってくるこれからの季節にぴったりの食材です。

特にこのタルトはレモンの黄色と白いメレンゲの色合いが綺麗で、香りも味もさっぱりとしているので食後のデザートとしてもすっとお腹に入ってゆきます。


作り方はとっても簡単。


1、小鍋に卵黄1個、砂糖15gをすり混ぜ、コーンスターチ10gを混ぜてから牛乳100㏄を入れ混ぜ、弱火に5分ほどかけます。

2、固まってきたらレモン汁大さじ1を混ぜ入れます。

3、砕いたビスケット150gに溶かしバターを入れてよく混ぜ、パイ型に入れて形を整えたら冷やし固めます。

4、出来上がった型に1を入れ、卵白に砂糖を数回に分け入れたしっかりしたメレンゲを作って格子状に絞り、粉糖を振りかけます。

5、200℃に温めておいたオーブンで4~5分程、メレンゲにほんのり焼き色が付くまで焼いたら出来上がりです。



「相変わらずトアちゃんのお菓子は最高ね」

『ほんまやー』

『あるじのおかし すきー』

『まったくですぜ』

「当然だ。私のトアだからな」

「…美味い」

 誰もが嬉々としてタルトを堪能してます。

良かったです。


その間に私はウェルが持ってきた書類に目を通します。

まずはヨウガル国との魔道具賃貸契約書。

これから設置に行きますから、その時に使います。

うん、不備はないですね。


それとカナメ君との労働契約書。

借金返済の為とは言え、雇用する以上は待遇とかちゃんとして決めておきますよ。


Cランクの冒険者に護衛をお願いすると1日5000エルが相場です。

働きによっては昇給もありますから、1千万エルを返済するにはだいたい5年くらいですか。

頑張りなさい。


ちなみにその契約書をよく読みもせずに気軽にサインしようとしたので、めくら判の怖さをガッツリ教えて涙目になるまで説教しました。

自分に不利益なことが書いてあっても、サインしたら承諾したことになりますからね。

後で判って文句を言っても取り合ってもらえませんよ。


最後にティアさんからの手紙を開きます。


『万能薬をありがとう。おかげで長年の病が嘘のように治りました。このために兄はどんなに悪名を付けられても頑張ってきたんですね。私はそのことを知らず、毒師と呼ばれる兄を恥ずかしい存在としか思っていませんでした。でも初めて兄の想いを知って、申し訳なさで一杯です。兄は私の為に…病気で苦しむ人を救いたい一心で努力していたのに。これからは薬に添えられた言葉通りに兄の分も生きてゆきます。兄のことを誇りに思いながら…』

 

 そこには感謝の言葉と、師匠を長い間誤解していた事への後悔の言葉が綴られていました。


ティアさんはハルキス師匠の妹さんです。

師匠が万能薬の研究を始めたのは、病に苦しむ妹さんを治したいとの思いからでした。

その一環として毒を研究し、作り出したのが毒ガス兵器である煙玉です。

ですがあまりの威力に戦争に利用され、師匠は薬師ではなく毒師と呼ばれるようになってしまい。

そのことで家族であるティアさん達は随分と肩身の狭い想いをしてきたようです。


それで疎遠になり、師匠が戦争で死んだ後は醜聞を嫌って住居を移ってしまい探すのに時間が掛かりました。

でもこうして完成した万能薬をやっとティアさんの下に届けることが出来ました。

師匠の心残りが一つ消えて良かったです。






総合評価が1500ptを超えました。

これも読んで下さる皆様のおかげです。本当にありがとうございます。

今後も楽しんでいただけるよう頑張ります。(⋈◍>◡<◍)。✧♡

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