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101、お説教と万能薬


「さっさと座りなさい」

「何で俺が…」

「あぁっ?」

 文句を言いかけた腐れ勇者を一睨みしてやれば、顔色を変えて慌てて正座します。

最初からそうすればいいんですよ。



「みんなー、美味しいお菓子を持ってきたから一緒に食べよう」

 そんな私達の後ではサミーが子供達を集めて室内へと誘導してます。

まあ、これから起こることは見せない方が良いでしょうから。

教育的配慮ですよ。



子供たちの姿が見えなくなったところで改めて腐れ勇者に向き合います。

反抗期を(こじ)らせた上に手酷く裏切られた所為で(ひね)くれまくってますが、どうやら復讐という目隠しで見ることの無かったものが子供たちのおかげで少しは見れるようになったようです。

前のままでしたらいくら言葉を尽くそうと耳を貸しはしなかったでしょうが、これなら効き目がありそうです。


「まず初めに言っておきます。此処は地球でも、ましてや日本でもありません。アーステアという異世界です」

 何を今更と言った顔をする勇者を気にすることなく先を続けます。


「貴方がいた平和な日本と違い、此処は簡単に命が消えてしまう世界です。櫛の歯が抜け落ちるように、昨日一緒に笑い合った人が今日には亡くなる。それが日常によく起こる世界です。そんな環境に置かれた人が何を考えているか判りますか?」

 そう問われても此処での実質の活動期間が3年弱の勇者は判らないようで黙ったままです。


「皆、こう考えます。遥か先の事を考えるより、まずは今日を生き抜き明日を迎えられるようにする。後を振り向くより、前を向いて生きることだけを考えます。でないとこの厳しい環境では生きてゆけませんから」


ヨウガル国から逃げてきた難民の方たちがそうでした。

戦争によって家族を失い、故郷を捨てざるを得なかった人々。

でも彼らの眼にあったのは絶望ではなく…希望。


『私ね、大きくなったらいっぱい子供を産むの。それでね、最初に生まれた男の子にはお兄ちゃんの名前を付けてあげるの』

 飢えからの衰弱により軽い風邪で簡単に命を落としてしまった兄を持つ少女は、そう言って曇りのない笑顔を見せてくれました。


彼らは言います。

『我々は畑に蒔いた種が芽を出しても、その半分は抜いてしまう。そのままでは大地の栄養を奪い合い大きく育たないからだ。だが間引かれた芽は無駄ではない、その命は残された芽に託される。残された芽は大きく成長し、立派な実をつけ、再び種を作り子孫を増やしてゆく。命は死んだら終わりではない。その命を継ぐ者がいる限り永遠に続いてゆく』

 

自分達を害した者を恨む気持ちが無い訳ではありませんが、それよりも託された命を繋いでゆくこと、自分が幸せになることを優先していました。



「それを貴方に強要するつもりはありません。ですが後ばかり見てきた貴方はこの世界に来て何をしました?」

「何って…」

「勇者病を魔国に蔓延させて多くの病死者を出しただけでは飽き足らず、罪もない少女を使ってドラゴンを呼び出して2万人近くを虐殺。さらには不幸な令嬢を利用して死に追いやった。神国が貴方を騙して利用したのと同じように」

「ち、違うっ。俺はそんなつもりじゃ…」

 驚いて言い返そうとする勇者に容赦なく問い掛けます。


「ではどんなつもりで?まさか魔国に病気を蔓延させたのは俺の所為じゃない。女の子に飲めば死ぬ劇薬を渡してドラゴンを呼び出す方法は闇組織が提示したものだから俺は悪くないとでも?」

「俺は…」

 反論しようと顔を上げた勇者ですが、そこから先の言葉は聞こえません。

どうやら自分がしたことの自覚はあるようです。


「自分が復讐される側に回るとは考えもしなかった頭の中お花畑な貴方に現実を教えてあげましょうか」

 そう言ってからまずはルーナスさんに問い掛けます。


「今まで勇者の衣食住に使われたお金はどうやって調達していたんです?」

 唐突な問いに怪訝な顔でルーナスさんが口を開きます。

「それは…あの、私が治癒師として」

「つまりすべてルーナスさんにおんぶに抱っこ状態…体の良いヒモですね」

「ひ、ヒモ…」

 ヒモ認定されてショックだったのか勇者の肩がガクンと落ちます。 


「その通りでしょう。召喚されたばかりの頃は神国に全部賄ってもらってましたし、ゲームの主人公のように勇者さまと呼ばれて、周囲にちやほやされて豪華な食事や装備を与えられて悦に入ってたんでしょう。ですが貴方に使われたお金が何処から出ていたか知ってますか?すべて神国が民からむしり取った祝福料という強制献金ですよ。それが証拠に貴方が召喚された120年前を境にどんどん高額化してますからね。もちろんそうした神国が一番の悪ですが、それを享受した貴方にまったく責任が無い訳じゃありません」

 きゅっと唇を噛む勇者に向かい、さらに言葉を継ぎます。


「まあ、寝たきりだった期間はノーカンとしても、動けるようになってからは何をしたんです?」

「…それは」

「悪の組織の使い走りでしたっけ?ですが対価として復讐の協力を要請していたのですから金銭の授受は発生してませんよね。つまり貴方はこの世界では1エルも稼いだことが無い」

「だからそれがどうしたって…」

「この馬鹿チンがっ」

「ヒッ」

 私の叱責に勇者が竦み上がります。


「稼ぎも無いのに復讐だぁ?寝言は寝てから言いなさい。此処では14歳で成人ですが早い子は7、8歳で働きに出ます。ルーナスさんに寄生していたヒモな貴方と違ってね」


ゲームの主人公だってお金を稼がないと宿屋にも泊まれないし、新たな装備だって手には入らないように、日本より環境の厳しいアーステアでは働かなければ飢え死にまっしぐらです。


「まず最初に言っておきますが、私は自分本位、好き勝手に行動する人間が嫌いです。自由結構、ですがそれには見合った義務が付いて回ります。それを果たすことなく美味しい所だけ持ってゆこうとする情けない根性の持ち主である貴方の存在そのものが許せません。義務を果たしてこその自由。それが分からず欲望のままに行動するのは2、3歳の幼児と同じです。自らの欲望を飼い慣らしてこその大人。それが出来ない貴方は無駄に年を重ねただけのクソガキです」

 

私の説教にどんどん腐れ勇者の頭が下がってゆき、今では地にめり込みそうになってます。

少しは反省しましたか?この推定136歳のアホは。


「か、カナメは悪くないんです。悪いのは私…」

 見かねてルーナスさんが勇者を庇うように間に立ちますが。

「ええ、悪いのはルーナスさんもです」

「え?」

 私の言葉に驚いたように目を見開きます。 


「稼がなくても良いような状況にしたルーナスさんにも責任があります。動けるようになったのなら食費くらい自分で稼がせれば良かったんです。そうすれば自分がいる世界がどんなものか知れたはずです。貴女が良かれと思ってしたことが、逆に勇者を120年たっても世間知らずな子供のままにしてしまったんですよ」


この辺りは治癒師のエルマさんとヨハン君の関係そのままですね。

学ぶという経験を奪われ、精神がまるで育っていない。


もしくはベナアレスさんと出会う前のアンナレーナ様でしょうか。

甘やかすばかりできちんと叱られず、自分以外の者との付き合い方を教えてもらえなかった子供です。


「ですが子供だからと言って貴方がしたことは決して許されるものではありません。貴方の所為で死んだ人は魔国を合わせて3万人は下らないのですから。その遺族…さっきの子供を始めとする人達に貴方はどう詫びるつもりです?それとも自分は悪くないとしらばっくれますか?」

「…俺は」

 自分が被害者だとばかり思っていたら、それ以上の加害者だった事実を突き付けられ混乱しているらしく、その眼は助けを求めるように宙を彷徨っています。


「まあ、貴方がどう思おうが強制的に償わせますけどね。まずはこれの支払いをお願いします」

 差し出された1枚の紙を訝し気に受け取ってから、その内容に絶句します。


「な、何だこれ。薬代1千万エルって」

「貴方がサミーから受け取って飲んだ薬の代金ですよ。サミーは飲むかと聞きはしましたが、ただとは言ってはいませんからね。当然、支払い義務は発生します」


「うわっ、えげつねぇー」

「これは詐欺にならないのか?」

「いや、この場合はギリでセーフだ。心証は最悪だが」

「……………」

 何やら後の方でフォルフス君とガルムさんにバードスさん、それと無口キャラの【鋭槍の天兵】バンデルトさんが呆れ顔でこっちを見てますが気にしません。


「で、でも1千万エルは高すぎませんか」

「そうですか?腐れ勇者が飲んだのは万能薬ですけど」

「はい?」

 その名にルーナスさんが絶句します。


「主成分のマルル草は魔国中央近辺の樹海でしか採れない希少薬草ですし、その効力を最高値までに引き上げる為にドラゴンの血が使われています。それを考えれば妥当な金額だと思いますよ」


ハルキス師匠の長年の研究の結晶である万能薬。

前に模擬戦をした時に、ウェルの一太刀を喰らったサンダー君が流血したことがありました。

せっかくなのでそれをアイテムボックスに取っておいて、素材が揃ったところで調薬しました。

それを未だサユラ草の毒で体調が優れない勇者に渡した訳です。

病人相手に説教をする気はないですからね。


「言っておきますがルーナスさんが稼いだお金は受け取りません。腐れ勇者本人に返してもらいます」

「で、ですけどカナメはお金を…」

「だったら返し切るまで私の下僕とします。キリキリ働きなさい。サボったりしたら利子をトイチにしますからね」


ちなみにトイチとは借入金利が『十日で一割の金利』の略です。

高金利の俗語でもありますね。

例として、100万円を借りると10日目に10万円の利子が発生し。

20日目になると前回の10万円の利子に利子がさらについて121万円に。

30日目には利子に利子がついて133万1000円に。

この調子で返済しないままでいると…360日目には3091万2604円に達します。


「逃げても良いですけど、此処に居る人達に頼めば地の果てでもすぐに見つけて連れ戻してくれるでしょうしね」

 ニッコリ笑う私の前で絶望に染まった目をして崩れ落ちる腐れ勇者。


その様にルーナスさんだけでなく、何故か後に居たメンバー全員が怯え切った目をして此方を見てます。

失礼な。


これから馬車馬の如くこき使って、その情けない性根を念入りに叩き直してあげますから覚悟なさい。

腐れ勇者。








総合評価が 1400ptを超えました。どうもありがとうございます。

これからも楽しんでいただけるよう頑張ります。(⋈◍>◡<◍)。✧♡

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