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100、孤児院にて 2


「ルーナをどうする気だっ」

 此方を睨んで吠えてますが、ここは一旦スルーします。


「彼女はテンサリーヌさんと一緒ですか?」

 此処にいない人の名を告げると、そうだと7人の中でも一番の長身の人が答えます。

唯一の女性メンバーですからね。

側にいるのは同性の方が良いと言う判断でしょう。

「間もなく此方にやって来るだろう」

 その答えに頷いてから改めて彼らを(ねぎら)います。


「遠いところから遥々ありがとうございます」

「いや、トア殿にはいろいろと世話になったからな。これくらい何でもない」

 言いながら深く被っていたフードを外すと、そこから見事な角が現れます。

「イブ殿も久方ぶりだ。そなたが神官を辞めたことを今でも神官長様は惜しんでおられる」

「あらそうなの。でもトアちゃんの側にいる方がずっと楽しいから戻る気はないわよ、バリス将軍」

「そなたらしいな」

 イブさんの答えに、バリスさんの隣に立つガルムさんが苦笑してます。

シャドウムーン壊滅に人手がいると聞きつけて、竜騎士団長と近衛兵団長の仕事を部下に任せて駆け付けてくれました。



「ふーん、話に聞いていたより小っせいな」

 そんな私達の横で、メンバーの1人が腐れ勇者に目線を合わせるように軽く屈んでその顔を見つめます。


「勇者病で亡くなった御両親の敵討ちでもしますか?フォルフス君」

 私の問いに、馬鹿言えと赤毛のヤンキーが顔を上げます。

「こんな弱っちいヤツに手を出したりしたらバアちゃんに叱られるだろ」

「お祖母さんはお元気ですか?」

「おう、殺しても死なねぇくらい元気だぜ。しおらしかったのは会った最初だけで、少し話したらすぐに元のクソババアに戻りやがった」

 そんなことを言いながらも、その顔には笑みが浮かんでいます。

末永く仲良くして下さいね。


「…お前ら、いったい」

 警戒心MAXで此方を見返す腐れ勇者の前に、黒いマントを纏った者が進み出ます。

「久しいな、勇者よ」

「なっ」

 捲られたフードから現れた顔に腐れ勇者が絶句します。

それを横目に疑問に思ったことを聞いてみます。


「でも良く王城から出してもらえましたね、魔王さま」

「ああ、短期であるし政務も全部片付けてきたしな。一応ベリンガムが残ることで王妃と宰相も渋々だが出張許可を出してくれた」

 ウエース大陸中に蔓延(はびこ)るシンジケートの討伐も、魔王さまにしたら出張扱いなんですね。

おかげで思ったより早く壊滅出来て助かりました。



「他の皆さんもお疲れ様でした」

「いや、中々に楽しかった」

「そうだな、雑魚ばかりではあったが久しぶりの実戦だったしな」

 ご機嫌でそんなことを言うのは【清廉の英傑】バードスさんと【剛腕の闘士】テルガエフさんです。


しかしまさか魔将軍と魔王さまが掃討作戦に協力してくれるとは思いませんでした。

魔王様+5人も留守にして魔国の守りは大丈夫なのかと思いましたが。

サミーによると魔法だけなら魔王さまより王妃さまの方が断然強者なのだそうです。

何しろ昔、夫婦喧嘩の時に山一つ消し飛ばしたことがあるとか。

さすがは魔国のファーストレディ。


ちなみにバリスさんとガルムさんは竜人姿のままですが、魔族の人達は全員が人化の術で人族に擬態してます。

さすがにそのままだと騒ぎになりますから。


長命種の竜人族やエルフ、鉱石の輸入で付き合いのあるドワーフは別として120年前に神国が流した風評によって人族や獣人族の間では魔族は戦いを好む血に飢えた蛮族と認識されてしまってますので。


ちゃんと向き合えばそんなことは無いってすぐに判るんですけどね。




「な、なんで魔王が此処に…」

 愕然としている腐れ勇者に、当然よぉとイブさんが笑顔を向けます。

「竜人国でも魔国でも力を貸してもらえるだけのことをトアちゃんがしてきたからよ」

「そうだな、さすがは私のトアだ」

 イブさんの言葉に思いっ切りウェルが頷いてます。

メルさんと再会して以来、ウェルの所有権主張がデフォになって来ました。

いいんですけどね。


そうこうしているうちにテンサリーヌさんがルーナスさんを連れてやって来ました。



「ルーナっ」

「カナメっ」

 2人して走り寄り、互いの無事を確認してます。

「大丈夫だったか?何もされていないか?」

「ええ、だって…あの」

「失礼な奴だな。腹違いとは言え、実の妹を粗末に扱う訳がなかろう」

 ムッとした様子でテンサリーヌさんがとんでも無い事を言い出しました。


「妹さん…ですか?」

「ああ、顔を見てすぐに判った。父上にそっくりだからな。140年ほど前に人族との間に子を成したと聞いていたが、こんな形で会えるとはまさしく神の思し召しだろう」

 つまりルーナスさんは人族と魔族のハーフってことですか。

だとしたら。


「ねぇサミー、ルーナスさんには時止めの呪が掛けられていないの?」

「うん、そうだよ。呪の波長がぜんぜん感じられないもの。たぶん首から下がってる石…あの呪返しの護符のおかげじゃないかな」

 言われてルーナスさんを見れば、確かに青い石のチョーカーをしてます。


「やっぱりですかー」

 これで腐れ勇者が一命を取り留めた訳が判りました。

魔法を封じられていないルーナスさんが治癒魔法をかけ続けていたからなんですね。

120年間、姿が変わってないのは魔族の血のおかげでしょうね。


「妹って…本当なのか?」

「ええ、私も会ってビックリしたの。こんなことがあるなんて」

 魔族とのハーフと聞いても動じないところをみると、既に告知済みだったようです。


後日に聞いた話だと、ウエース大陸を旅していたお父さんがお母さんと恋に堕ちて生まれたのがルーナスさん。

お父さんは母子を魔国に連れ帰ろうとしましたが、これをお母さんが拒否。

幼い娘を環境が厳しいノース大陸に連れては行けないと判断したようです。

で、ルーナスさんが成人したら訪ねてゆく約束をして別れましたが、その間にお母さんが病で亡くなり、一人残されたルーナスさんは治癒師の叔父夫婦に引き取られて同じ治癒師になったそうです。


勇者のパーティーメンバーになったのは、魔国に行って父親に会おうと思ったからだそうです。

何と神国はルーナスさんに魔国行きは武闘大会に勇者を参加させる為としか言ってなかったそうで、ガラハッドの話を聞いて初めて自分達が侵略戦争の先兵だと知ったそうです。


ま、それはさておき。

役者が揃ったところで説教タイムとまいりましょうか。



「そこの腐れ勇者っ」

「何だ、それっ。だいたいお前は何のためにこんな…」

「いいからそこに正座っ」

 近くの地面を指差すとビクンと勇者の肩が跳ねます。


それを受け、その場にいた全員が顔色を変えて素早く撤退を始めます。

まあ良いですけどね。

今回は怒りMAXですから容赦なく行きますよ。


「これまで貴方が辿ってきた道程を考えれば、神国やそれに協力した国を恨むのも判ります。でもだからと言って当事者の子孫にその恨みをぶつけたのは許されることではありません」

「お前に何が分かるっ。信じていた相手に裏切られて殺されかけたんだぞっ。毒を盛られた後の最初の60年はほとんど意識を保つことが出来なかった。けどだんだん良くなっていっても、ずっとベッドから離れられなくて、どうして俺がこんな目にって。俺を(おとしい)れた奴らを恨むことしか出来なかった。奴らに仕返しすることだけを考えて今まで生きてきたんだっ!」


「つまりどうあっても復讐を続けると」

「当たり前だっ!」

「分かりました。でしたらあそこで遊んでいる子供たちを腰の剣で切り殺して来て下さい」

「なっ」

 私の言葉に腐れ勇者が絶句します。


「なんでそんなことをしなくちゃならないっ」

「おや、おかしなことを言いますね。前に貴方はこう言ったはずです『相手がいるから戦いになる、だったら無くせばいい。僕に与しない者はすべて塵一つ無く』と」

「だったらどうしたっ」

「ならばあの子達は貴方の敵です。貴方に親を殺されたのですから死んでも貴方側には付きません。大きくなれば男の子は兵士となり、女の子はその兵士を産む母親になります。貴方のことを殺したいほど憎んでいるのですから、何があっても彼らは剣を手に貴方に向かってゆくでしょう。でしたら後から殺すも今殺すも大差はないのでは?」

「そ、それは…」

「ぐずぐずしてないでさっさと行きなさい」

 迷う素振りをするその背をドンと押して子供たちの下へと行かせます。


のろのろと近付いてくる勇者に子供達が不思議そうな目を向けます。

ですが腰の剣を見て、男の子達が憧れに満ちた顔で勇者を取り巻きます。

「お兄ちゃんは剣士なの」

「凄いねっ」

「僕のお父さんも剣士だったんだよ」

「うん、僕のお父さんもー」

「大きくなったらお父さんと同じ剣士になるんだー」

「俺もー」

「お父さんみたいな強い剣士になってみんなを守ってあげるんだ」

「…そ、そうか」

 たくさんの無垢な瞳に囲まれて勇者の顔が歪みます。

何しろその大好きなお父さんを彼らから奪った張本人ですからね。


「どうしたの?」

「なんで泣きそうな顔してるの?」

「どっか痛いの?」

 勇者の様子に気付いて、今度は女の子達が心配そうに寄ってきます。


「だったらおまじないをしてあげる」

 一人の女の子が勇者の手を取ってゆっくりと撫でてゆきます。

「痛いの悲しいの飛んでゆけー」

 そう言うと何かを掴む仕草をしてから、それを空に向けて投げ上げます。

「お姉ちゃんがね。私が泣いてるといつもやってくれたの」

「そっか…良いお姉さんだな」

「うん、もう死んじゃったけど」

 少しばかり悲しそうに言うその子は、さっきサミーが指差した子です。


それに気付いた勇者が辛そうな顔のまま問い掛けます。

「お姉さんを殺した相手に復讐したいか?」

「ううん、しないよ」

「何故だ!?そいつが憎くはないのか」

「だってそんなことしたら幸せになれないよ」

 思ってもみない彼女の答えに勇者は唖然とした表情を浮かべます。


「お姉ちゃんは凄く歌が上手くて、いつも私が幸せになるようにって歌ってくれたの。だからその望み通り死んだお姉ちゃんの分も幸せになるって決めたの」

 幼いながらも凛とした顔で言葉を綴る様に、打ちのめされたように勇者が地に膝をつきます。


「お、俺は…間違って…たのか?」

「カナメっ」

 崩れ落ちるその身をルーナスさんが受け止めます。

「カナメは何も悪くないの。傷付くのはカナメだと判っていたのに復讐を止められなかった私が悪いのっ」

「…ルーナ」

 

2人して抱き合ってボロ泣きしてますけど、私のお説教はまだ終わってませんよ。

正座させ直してから第2ROUND開始です。





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