下着幻想談
私立丘品学園にからんだ連作です。
くだらなくて笑える話を目指しています。
男の娘が出てきます。
指摘がありBL指定入れました。
下着幻想談 綾科ららら
私立丘品学園は古くからある中高大一貫の学校で、近郊からは変わった生徒が集まる学校として知られていた。
実際生徒には変わり者が多く、そのため様々なトラブルが起こる。
そしてそれは高等部の学生寮でも変わらなかった。
「ああああっ!」
日曜日の夕方近く、古い木造二階建ての男子寮から女性のような声が響いた。
「なんだ?」
「どうした?」
「何事だ?」
声に驚いた一階の寮生は窓から顔を出した。
二階の寮生はドアをあけ廊下から様子をうかがった。
さらには道路をはさんだ隣近所の者まで窓から様子を見ていた。
そしてその視線はどれも二階の特定の部屋に集中していた。
「ごめんなさい! な、なんでもないです!」
声がした部屋の窓からブラウスにスカートの姿の綺麗な子が身を乗り出し姿を現し、隣近所に聞こえるような大声で叫んだ。
漆黒の前髪を揃えた肩に少し届かない長さのストレートなボブ。
あごの細い鼻筋が通った整った顔立ち。
160cmと背はさほど高くはないが、胸は豊かでウエストが細くスタイルは悪くない。
見ると恥ずかしそうな表情で、頬を赤らめている。
寮生の輪灘ひかるである。
様子を見た人達はひかるを確認すると、何事も無かったよう顔を引っ込めた。
慣れているのだ。
この寮で騒ぎが起こるのは日常茶飯事である。
そしてみんな、ひかるがどんな子かを知ってた。
だからいつもの騒ぎだろうと判断したのだ。
「どうしたんだ?」
雲内月太は、見ていたコミックを閉じてちゃぶ台の上に置くと、窓辺に立っているひかるを見た。
「なんでもないわ」
ひかはそう答えたが何も無いはずがなかった。
ひかるは乾いた洗濯物を取り込もうと窓を開けたとたん叫んだのだから。
それになぜか顔が真っ赤だ。
「なければ叫ばないだろう」
ひかるは一度ため息をついてからボソっと小声で答えた。
「下着が無いのよ!」
「え~~~~~~~っ!」
次の瞬間月太は先ほどのひかるより大きな声で叫んだ。
しかし他の寮生や近所からの反応は無い。
寮生は月太の悲鳴に関心をもたないのである。
「下着が無くなっている?」
「ええ」
ひかるは頷くと窓にぶら下がっている洗濯物を指差した。
そこには、セーラー服にスカートにストッキングに靴下と、ひかるの洗濯物が色々干してあり、見るとひかるの指はその中のランジェリー用のソフトハンガーを指していた。
月太は何も考えず見てしまったが、そのハンガーにはブラジャーにショーツ、スリップにストッキングと女性物の下着類が風で揺れている。
正直、色々な意味で目の毒である。
「えーっと」
月太は首をひねった。
色々な下着がぶら下がっていて、何か無くなったのかわからなかったのだ。
「良く見てよ、そこにかけていたブラとショーツが無いの」
言われて指の先を見るとちょうど外側の洗濯バサミが二個だけ空いている。
「盗まれたのかも」
「なるほど」
月太はひかるが顔を赤くしている理由をやっと理解した。
「もしかしたら風に飛ばされたんじゃないか?」
月太は少し考えて言った。
「風ですって?」
「ああ、たまにあるんだよ。俺の下着も時々風に飛ばされるよ」
「うそ!」
ひかるは月太の言葉に驚いた様子だった。
「まあ、探して見つかった事無いけどな」
そう言った時にはひかるの姿は無かった。
ひかるは聞くなり慌てて部屋を飛び出したのだ。
月太は頭をかきながら洗濯物を眺めた。
「それにしても……」
目の前にはひかるの洗濯物がぶら下がっている。
ベージュにピンクに水色とカラフルで、刺繍やキャラクターがプリントされたものと、色々な下着が風で揺らめいていた。
「男子寮なんだけどなあここ……」
そう言ってため息をついた。
「おーい、うわっぷ!?」
月太は風に揺れ顔に引っかかったひかるのスリップを避けながら窓から顔を出した。
洗濯物は丁度長身の月太の顔に当たる位置にあったのだ。
「少し慣れたとはいえ、やっぱり恥ずかしいよな……」
他の下着を手で払いのけながらそう言うと、外の様子を探った。
ちなみに月太は、ランニングシャツにジャージズボンと言う男子寮生にありがちなラフな格好だ。
「どうだ?」
月太は見下すとひかるに声をかけた。
見ると、ひかるは四つんばいになって寮の塀の草むらをかき分けて必死に下着を探している。
「なんか危なかしいなあ……」
月太は顔をしかめつぶやいた。
上からでは見えないがひかるは短めのスカートなので、後ろからだと下着が見えるのではないかと変な心配をしたのだ。
もっともこの寮でひかるの下着を覗きこむ物好きはいないのだが。
「みつからないのか?」
また声をかけてみる。
「ええ、無いのよお気に入りの下着。ここらへんだと思うんだけど……」
ひかるは探す手を止めずに答えた。
「塀を乗り越えたんじゃないか?」
「ええっ!」
ひかるは体を起こすと月太を見た。
「いや、俺の下着も何回か風に飛ばされて無くなったことがあるんだ。二階だしちょっと風が強けりゃ塀を超えちゃうんじゃないかな?」
月太は思いついた事を言ってみた。
「嘘でしょう!」
それを聞いたひかるは、あわてて塀の外に飛び出した。
「残念ながら、外を探して見つかった事は無いんだが……」
そう言った時には、ひかるはすでに塀の外に出て見えなくなっていた。
「うううう、お気に入りだったのに……」
ひかるは部屋に戻るそうそう、ちゃぶ台にうつぶせた。
よほど気に入っていたのだろう、かなり落ち込んでいる。
月太はひかるの正面に座って、困った表情で手にした湯のみのお茶を無言のまますすっていた。
あの後月太も探すのに手伝わされたのだが、残念ながら見つからなかった。
なぐさめるにしても言葉が見つからない。
「そんなに気に入っていたのか?」
ひかるは伏せた顔を上げ月太を見た。
「そうよ、おそろいのブラとショーツなんだから。高かったんだからあれ!」
ひかるは月太にくってかかる。
「いや、俺に怒っても」
思わず苦笑した。
「そうよね……」
ひかるはため息をつくと、またちゃぶ台にふせた。
「それにしても、お気に入りのおそろいが飛ばされるって、ついていないよなお前」
なにげなくつぶやいた。
「そうよね、何もセットで飛ばされなくたっていいのに」
ひかるは愚痴た。
「全くだ」
「見つかれば良いけど」
「見つかればって?」
月太が不思議そうなに聞くので、ひかるはゆっくりと頭を上げ月太を見た。
「ええ、紛失物として交番に届けたわ。誰か届けてくれたら良いのだけど」
ひかるはそう言うとため息をついた。
「交番って…… 下着を? 普通届けるか?」
月太は首をかしげた。
「あら、紛失物だし、落し物って拾ったら交番に届けるものでしょう?」
ひかるは何言っているのという感じで月太を見た。
「いや、まあ、そうだけど、普通下着って拾っても届けないだろう?」
「えー、ハンカチとか拾ったら届けるわよ」
ひかるは主張した。
「ハンカチならそうかも知れないけど、手袋とか拾ったら届けるか? 近くの電柱や塀の上の方にひっかけておかないか?」
「手袋だとそうね」
ひかるは少し考えた。
他の地方ではわからないが、北海道では冬にそのまま置いておくと雪に埋もれるせいか、帽子や手袋等の落し物は電柱にひっかけたり台に乗せたりする習慣がある。
そのため雪のない季節でも同様に対応する人が多いのだ。
「それに女性物の下着とブラだぞ、見つけたのが男なら誤解されそうだから余計届けないぞ。俺なら絶対届けない」
「そう言われればそうかも……」
「放っておくか電柱にひっかけるんじゃないか?」
「電柱にひっかけてさらされているってわけ?」
「ああ」
月太は頷いた。
「いやあああああああああっ!」
ひかるは叫んだ。
「隣うるさい!」
壁を叩く音といっしよに声が聞こえた。
隣部屋の三年生である。
「勉強中だ騒ぐな! 夫婦漫才は食堂でやれ!」
「「は~い」」
ふたりは同時に返事すると声をひそめた。
「さらされるなんて嫌よ」
ひかるはひそひそ声で言った。
「確かに下着がさらされるなんて嫌だろうな」
月太も小声でそう応えると頷いた。
「それだけじゃないわ。恥ずかしいんだから、さらしたくないわよあの下着」
「恥ずかし下着!?」
ひかるはあわてて掌で月太の口を塞いだ。
「しーっ!」
「すまん。でも、どんな下着だよそれ」
「言えるわけないでしょう、見られたくないから探してくる!」
ひかるは小声でそう言うと、また部屋を飛び出して行った。
しかし結局下着は見つからなかった。
それから一週間たった月曜日のことだった。
ひかると月太は学園から帰ってすぐに寮の食堂で夕食を取っていた。
食べ始めしばらくしてから、寮母が現れひかるに声をかけた。
寮母は体格の良い太ったおばさんである。
「ひかるちゃん警察の方よ、いらっしゃい。下着が見つかったとか言っているけど」
「うそっ!」
「まじ!?」
月太とひかるは思わず立ち上がると顔を見合わせた。
「行きます!」
ひかるは、寮母の後をついて玄関へと向かった。
月太は別に呼ばれてはいないが、気になるのでその後について行った。
玄関に出てみると、そこには駅前交番で勤務している顔なじみの若い男性警官と見知らぬ婦警、そしてやせた中年の男が立っていた。
やせた男は無精ひげを生やし、上下共によれたジャージを着ていた。
「これ、見覚えがありますか?」
婦警はそう言うと、黒い布のようなものが入ったビニール袋をひかるに差し出した。
ひかるはそれを手にする。
月太は横からそれを覗き込んだ。
ビニール袋に入っているのは、黒地に白い糸で刺繍された妙に大人っぽい女性用の下着だった。
「あーっ、このまえなくしたやつ!」
ひかるが声を上げた。
「やはりそうか」
若い警官は嬉しそうに言った。
「驚きました、本当にセーラー服の美少女ですね。この人の証言とも合います」
若そうな婦警はひかるを見つめながら、少し興奮美味に言った。
ひかるは首を傾げた。
ひかるは気が付かなかったが、部屋にかばんを置いてすぐに食堂に行ったので、まだ着替えておらず制服として使っているセーラ^服姿だったのだ。
「新しい婦警さんですか?」
ひかるは若い警官に尋ねた。
「熊みたいなお巡りさんが首になったとか?」
続けて月太が警官に尋ねた。
「ちゃんといますよ。最近ひかるさんがらみのトラブルが多いのと、今回扱うのが女性の下着だったので、女性職員が必要だという事になって新しく配属されたんです」
「よろしく!」
婦警は嬉しそうに微笑むとひかるに敬礼した。
「あ…… よろしくお願いします」
ひかるは元気いっぱいな感じの婦警に戸惑いながらお辞儀をした。
「ここって、本当に男子寮なのか?」
無精ひげの男が疑わしそうに尋ねた。
「そうよ。看板じゃわからないだろうけど男子寮さね」
寮母が答えた。
確かに寮の表には寮名である『光進寮』としか書いておらず、男子寮か女子寮かはわからない。
「そんなばかな! それにあんたが男だって? 嘘だろう?」
男は寮母ではなくひかるにむかって叫んだ。
月太とひかるは、誰この人? と言う感じで互いに見つめた後、男を見た。
「この男、下着泥棒なんですが、美人の下着しか盗まないので有名なやつなんですよ」
男の警官はそう切り出して説明を始めた。
「たまたま他の家で盗もうとしているのを見つけて捕まえたのですが、こいつの家を調べたら多量の下着が見つかりましてね。証言を元に被害者を確認していたんですが、どうもこの下着の持ち主だけが見つからないので調べているのですが、もしかしてひかるさんのではと思いまして」
「はあ……」
ひかるは曖昧に頷いた。
「この男の手口は、気に入った女の子の後をつけては家を確認してから盗むという方法でして、最近この町内を狙いだしたのです。
本当は被害者に会わせたりしないのですが、あくまで女子寮から盗んだと主張するし、確認する必要があったものですから」
「「盗まれていたんだ!」」
月太とひかるは同時に声を上げた。
「わかると思いますが、女子寮の方には該当者がいなかったんですよね」
警官はそう続けた。
「女子寮にも行ったの?」
ひかるは何気なく聞いた。
「もちろん。確認しに行きましたよ。全員に見てもらいましたが高等部の女子寮では該当者がいませんでした。デザインがデザインですので大学部の方じゃないかと思ってそちらも確認したのですが、違いましたね」
「みんなに見られたんだ……」
ひかるは顔を赤くすると、恥ずかしそうに両手で顔を覆ってそうつぶやいた。
「じゃあ、どうしてひかるの物だとわかったんです?」
月太は警官に尋ねた。
「後で、美人でセーラー服だったと証言したのと、あと古い木造の建物って言っていましたから。
それについ先週落し物として届けたじゃないですか。日にちも同じだったし、黒地に白のレース模様の紐パンと聞いていましたからね。
とても女子高生が身に付けるとは思えない大人っぽい下着だったけど、すぐにピンときました。ひかるさん恥ずかしいのか説明しずらそうに言っていましたし」
「そ、そうですか……」
ひかるは恥ずかしそうに両手で顔を覆うとうつむいた状態で応えた。
婦警は、当たった事を誇らしげに言う警官の腰を膝で突いた。
警官はあわてて真面目な表情に変えた。
「なるほど。近所でセーラー服着ている美人って言うと、ひかると中等部にいる子ぐらいだしなあ」
月太は納得して頷いた。
「それにしてもこんな大人っぽいセクシー下着だったのか。どおりで必死に探すはずだよなあ…… ぐはっ!?」
月太はみぞうちを押さえうずくまった。
ひかるが思いっきり膝で突いたのだ。
「それにあちらは一軒屋で、寮と間違えるような造りではないですし、そもそも木造の建物なんて、ここか学園の旧校舎ぐらいですし」
警官の言葉に、月太はうずくまった状態で頷いた。
「確かに木造の時点でうちの寮しか無いわねえ。看板みても男子寮かどうかわからないから、勘違いしても不思議無いかもしれないわ」
寮母も頷いた。
「ええそう思ったんですよ」
警官はそう答えた。
「まあ、わたしを見て男だなんて思う人いないもの、間違えてもしかたないわよ」
ひかるは気を持ち直したらしく、コホンと咳をしてから下着泥棒にそう言った。
ひかるは女装子、いわゆる男の娘だった。
しかも自意識は女性であり、肉体的には胸が出ているのでややこしく複雑だ。
学園では女性と認めて女の子扱いしていているのだが、女子寮に空きがなかった事と前例があるとの事で男子寮に入る事になってしまったのだ。
「本当に男なのか?」
下着泥棒は信じられないといった様子でひかるの顔を見つめた。
「あんた、警官の言うとおり本当に男なのか? その…… 本当にアレが付いているのか?」
月太は顔をしかめた。ひかるに下半身の話はNGである。
ひかるは警官を睨みつけた。
「申し訳ない、つい余計な説明をしてしまって」
「付いていたら何だというよ」
ひかるは不快そうに男を睨みつけた。
「じゃあその胸は偽物?」
男は胸を指差し尋ねた。
「本物よ! 良く見なさい!」
怒ったらしく、ひかるは両手で服のすそを掴むと、めくってみせた。
セーラー服の裾を寝来ると、白いシミーズとその中に付けた薄いピンクのブラ、そしてそれに包まれた豊かな胸が現れた。
「ば、ばか!」
「ちょっと、ひかるちゃん!」
月太と寮母があわてて服を下ろさせた。
少ししか見えなかったが、ブラに覆われた豊かな胸は作り物ではなかった。
「本当に本物ですね」
婦警はまじめな表情でそう言うと、手帳に何かメモした。
「な、言った通りだろう。見たからって区別なんかつかないんだよ、でもここは男子寮でこの子は”一応”男なんだ」
警官は犯人に、こころなしか同情するような口調で言った。
「まあ、確かにひかるは美人だし、男と思うほうがどうかしていると思うけど、一応男だからなあ」
月太は下着泥棒に同情するかのように言った。
「月太さんひどい! わたしは女ですっ!」
ひかるは月太に噛みついた。
ひかるの自意識は女性なのである。
「あ、ごめん」
月太はあわてて謝った。
「う、嘘だ!」
下着泥棒は叫んだ。
「信じたくないが、あるんだよなあこれが……」
警官がつぶやいた。
「そんな、この町一番のお気に入りの子だったのに! こんな可愛い子が男だなんてありかあ!」
「世の中、不思議な事があるんですねえ、わたしも見るまで信じられませんでした」
婦警は腕を組むと頷いた。
「そんな、あんまりだあ! 嘘だと言ってくれーっ!」」
町内に下着泥棒の悲痛な叫びがこだました。
数週間後の日曜日。
「あら? 盗まれちゃったみたい」
窓に干していた洗濯物を見てひかるがそんな事を言った。
「え? ちょっとまて! お前、あれ以来下着は部屋の中で干してるだろう?」
「ええ」
ひかるは制服やスカートは軒下に干しているが、下着泥棒事件以来、ランジェリー類は部屋に干していた。
「下着じゃないのか?」
「下着よ」
「なんだそれ?」
ひかるの答えに意味が分からず月太は首を傾げた。
「それにしてもまた下着泥棒とはなあ。下着ってそんなに良いものなのかねえ。いったい何に使うのやら」
月太は全く理解出来ないと言った。
「何に使うのかなんてあまり考えたくないわ」
ひかるはそう答えた。
この前の事件の後、しばらくしてから下着は戻ったのだが、犯人が身に着けたと聞いてひかるはそれを捨てた。
いくらお気に入りでも気持ち悪いというのだ。
まあそうだろう。
「まあな。それにしても美人はつらいね。ご愁傷様」
そう言ってひかるの肩を軽くたたいた。
「え? 何言っているの?」
「何ってまたお前の下着が盗まれたんだろう?」
月太は不思議そうにひかるを見た。
「はあ?」
ひかるは目をぱちくりさせた。
「何言っているの? 盗まれたのは、わたしのではなくて月太さんの下着よ」
「なにっ!?」
月太はあわてて軒下の洗濯物を見た。
そして自分の下着がひとつ無くなっているのを確認した。
「ちょっとまて、俺は男だぞ。しかもトランクスだぞ?」
月太はそう叫んだ。
「ええ。でも状況的にはわたしの時と同じよ」
「いやいやいやいや、いくらなんでもそれはないだろう」
月太はあわてて否定する。
しかしひかるは続けた。
「たぶん今までも風で飛ばされたんじゃなくて盗まれたんじゃないかなあ? でも女の子が下着を盗むってあまり考えられないからたぶん……」
ひかるはわざとらしい微笑みを浮かべると続けた。
「いったい何に使うのかしらねえ?」
とどめだった。
「やめてくれえええええええええっ!」
月太の悲鳴が響いた。
町内中に響く大声だった。
しかし悲しいかな、男子寮から聞こえる男の悲鳴を近所の人が気にすることは無かった。