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『黒曜石艦隊』

作者: 城元太

 突如浮上した黒曜石艦隊の存在する意味は何か。

〝耐エ難キヲ耐エ 忍ビ難キヲ忍ビ……〟


 昭和二十年八月十五日。

 雑音混じりの玉音放送が日本全土に響き渡る。

 結局、大東亜戦争とは何だったのだろう。

 初めて思った。


 毎日乱舞していたB29はもう一機もこない。ぬけるような青空が、ぽっかりと口をあけ、私を呑み込む錯覚を感じる。

 海を見た。毎晩のように艦砲射撃を加えていた米軍艦の姿もない。あるのは永らく見ることの出来ないでいた、青く広い海原のみだった。

 戦争は終わった。改めてその意味を問いてみる。

 再び海を見た。波濤(はとう)が次第に白い(あわ)をあげて近づいて来る。

 何だろう。

 沖合数十mに黒いものが浮かび上がった。潜水艦ではない。或いは復員船か。

 何だろう。

 黒いものは次々と浮かび上がって来る。数えて十数個。

 それは玉音放送に耳を傾けているみたいにジッとしている。

 何だろう。

 放送が終了した。黒いものたちも、沖合へと進んでいって、戻ってこなかった。


 二〇一六年、平成二十八年、夏。また敗戦記念日が来た。既に七十一年。

 ふと、あの黒いものがなんであるのか気にかかった。

 イルカか、クジラか。しかし、あの時見た物は、クジラの大きさを遥かに凌いでいる。

 何だったのだろう。


 海に来た。暑い陽射しは七十一年前と同じである。

 黒いものが浮上した。あの時と同じに。あの時の記憶と同じに。

 黒いそれは、ガラスの様に光っている。

 まるで黒曜石の様に。


 大きさは二百mもあろうか。やたらにいかつい形――軍艦だ。黒い軍艦。大東亜戦争で活躍できなかった軍艦達だ。

 彼らは静かに佇んでいる。

 本当に静かに。

 観察すると、戦艦、或いは巡洋艦が三隻、空母らしき平坦なものが二隻、駆逐艦らしきものが三隻。立派な艦隊である。私の知る限り、長門型戦艦、天城、信濃型空母、最上型巡洋艦、風型駆逐艦が含まれ、他に形式不明の艦もある。気付いたことは、長門型戦艦の煙突は二本である。それも、前の煙突が大きく湾曲した、近代化改装前の長門型である。


 黒曜石の艦隊は、進むでもなく退くでもなく停泊している。

 何を求めるのか。


 翌日の新聞で、艦型不明の名がわかった。

 ペンシルベニア。長門と共に、ビキニで原爆に曝された戦艦であった。

 太平洋から大東亜戦争のみならず太平洋戦争の亡霊達が蘇ったのだ。

 彼らは空虚であった。脱け殻であった。ただギタギタと輝く船体が、異様だった。

 それだけだった。

 報道機関が調べたところ、艦内はキチンと整っているという。驚いたことに、所々には奇麗に弾痕が残っているという。

 しかし、人は乗っていない。骨もない。ただの幽霊船だ。


 若者達は黒曜石艦隊を尻目に、楽しそうに浜で海水浴をする。

 黒曜石艦隊に何も起こらない。何も起こさない。


 黒曜石艦隊が浮上したのは、この場所だけではなかった。日本各地の旧軍港やハワイ真珠湾。カリフォルニア州や地中海など、世界各地に浮上した。そしてただ、停泊するだけだった。

 マラッカ海峡では、黒曜石艦隊のために一般の船舶の航行が困難となっている。

 パナマ運河の通航が出来ない。

 黒曜石艦隊は邪魔者扱いとなった。まるで動けない老人のように。

 アメリカでは、一隻をミサイルで爆破した。だがその破片は鋭利な刃となり、周囲に多大な被害をもたらした。


 黒曜石艦隊はなおも浮上を続ける。


 もしかしたら、海は黒曜石艦隊でいっぱいになるのではないだろうか。

 戦争で使用された船が蘇るのであれば、数知れない。

 海という海が、黒曜石の船でギュウギュウになり、やがて身動きが取れなくなるのではないか、と。

 以前仕上げた掌編を、今回校正してUPしてみました。

 自分でも何のジャンルかわからない上に、かなり叙情的で意味不明な部分もありますが、雰囲気を味わって頂ければと思っています。

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