閑話1 他者から見た魔法少女の姿
友達に相談したら、文字数は少なめに早めに投稿してどうぞ、と言われたので、文字数が少ないです(言い訳)。
美しく、可愛らしい黒のドレスを纏った彼女が去っていく。
去り際に見せた、あの笑みが離れない。
儚い様で、温かみのある表情だったから。
思わず手を掴んで、引き止めたくなってしまった。
見惚れていて、それさえも不可能だったのだけれども。
「……可憐だ」
隣でフィリップが、ぼそりと呟いた。
何とも言い難いが、彼も私も一緒の気持ちだった。
いや、それどころか、私に向けてくれた物だからこそ、余計に強く私は感じているのだろう。
彼女は美しい、それは何よりの真理であると。
皆がそう思うかは別だけれども、私の中ではそれが何よりも感じた事であったのだ。
でも、すごかったなって素直に思える。
だって私は彼女に大いに魅せられて、魅了されたのだから。
今度会って、許可さえ貰えたらギュッと抱きしめたいくらいに。
そんなアスキスさんの居ないこの部屋で、残滓を感じながら思いを馳せて。
そして同じような状況であるフィリップが目に入り、ふと思ったのだ。
「私とフィリップって、何時も同じものを好きになるよね」
何時もいつも、私と彼の好みは一緒だったと。
それはもう、子供時代からそうであったのだから、私とほぼ同等の価値観を持っていると思っても過言ではないだろう。
「ん、まぁ、そうだね。
よく骨肉の争いが起きてたの、俺も覚えてるよ」
「フィリップったら、女の子相手に玩具の取り合いなんかするんだもんね」
「君、自分がそんな可愛らしい性格と思っているのかい?」
「女の子相手に酷いんだー」
そう言って私達は顔を合わせて、そして笑う。
もう何回も繰り返してきたような出来事だから。
こうして隣で語り合うことは、私達の中では日常の一種であり、そしてどこか儀式めいたやりとりでもあるのだ。
「でも、いきなり馬鹿するんだもの。
私、すごい驚いたわ。
フィリップにもあんな甲斐性というか、無謀さがあったなんて」
「人をヘタレ呼ばわりは酷くないか?」
「もうしないわよ、馬鹿とは言うけどね」
「どっちにしろロクでもないなぁ」
ロクでもないことをしたのはフィリップの方なのだけれど。
明らかに、錯乱していた。
うん、そうだよ、いきなりだった。
なまじ真剣な分、どう対応すれば良いか一瞬だけれど分からなくなったのだ。
直ぐに頭をひっぱたいたけれど。
「フィリップ、あなたはアスキスさんの見た目が好きになったの?
それとも中身?」
本当に唐突だったから驚いたのだ、フィリップを昔から知ってる私でも。
俺の器量にあった良い嫁さんを見つけるさ、何て恋バナをした時には言ってたのに。
それが急に伯爵令嬢たるアスキスさんに、彼は思いをかけて告白した。
冗談なんかじゃなく本気だって分かったから、息を呑んでしまった。
なので湧いてきた疑問なのだ。
あの人のどこが好きか、そういう事が。
「ん、そうだなぁ」
それはフィリップの中でも整理がついてなかったのか、顎に手を当てて悩み始めて。
探す様に、探る様に、彼は少しづつ言葉にしていく。
彼にとって、心の中身を曝け出すことだったけれど、ごく自然体で話してくれた。
それもこれも、私と彼の長い長い付き合いが故に。
今更、奥底を見られたって、少ししか恥ずかしくなんてないのだ。
「やっぱり、見目が良かったというのは否定できないな」
「そうよね、分かるわ」
そう判断してしまう程に、彼女のスタイルは強烈だった。
元からあった落ち着きが、魔法で変身すると可愛さと気品に満ちた格好になる。
それがどうしてだか、心をすごく揺さぶるのだ。
同性の私でもそうなのだから、フィリップなんかは一撃でのされてしまったのだろう。
だから仕方はないと思うのだけれど……。
「でも、それだけじゃないんでしょう?」
そう尋ねると、間髪入れずにフィリップは頷いて。
物語るように、続きを訥々と話していった。
「どこか、迷子になってしまった様な顔をしてたんだ。
手を引いてあげないと、どこかへと行ってしまいそうな。
それを見た時、抱きしめてあげなきゃって感じてね。
こんな事、馬鹿みたいだけれど彼女と一緒にいなきゃ、いや、居たいとさえ感じたのさ」
我ながら衝動的だね、何てフィリップは苦笑いをしていて。
でも私は、やっぱり考える事は同じだって思った。
あの愛らしさ、その中にある羞恥と不安に満ちた目。
周りの人達は格好に目を取られていたけれど、それよりもその全てを語ってしまっている素直な目に、強烈に惹きつけられた。
彼女は可愛いのだ……思わず守ってあげたくなってしまう。
「ん、私と同じだね。
こういう時、フィリップと同性じゃなくて良かったっても思えるなぁ」
「どういうことだい?」
イマイチ分かってないフィリップに、私はいたずらっぽく笑って言った。
多分驚くだろうなって、彼の顔を見ながらだ。
「同性なら私達、きっと一緒の人を好きになっちゃうでしょう?」
そう言うと、フィリップは目をまん丸にして、私の想像通りの表情をしていた。
けど、それから微笑して優しく私の頭をポンポンと叩いたのだ。
「何か、お前には時々勝てないって思うときがあるよ。
流石はウェントワースの聖女様」
「その呼び名はやめて。
それにアスキスさんの件が広まりすぎて、私のなんて埋没してるでしょう?」
「けど、水面下では確実に広がっているさ」
悪戯をやり返すように、彼はニンマリと笑って。
そんな意地悪を私に言うのだ。
「聖女様って、そんなの私の柄じゃないわ」
「そうだな、精々お人好しの優しいリセナ・アトリーだもんな」
「もうっ」
腹が立って、フィリップの枕を顔に投げつけてやる。
ぽふっと柔らかく着弾したあと、ぽとりと枕は落ちて。
見えた顔は、憎たらしいくらいに笑っていて、どこか諭すように私に語りだしたのだ。
「でもさ、アスキスさんの影に埋もれているとはいえ、お前の姿も相応に目立つものだった、分かるな?」
「おかしいみたいに言わないで!」
「おかしくなんてない、綺麗だったって太鼓判を押してもいい。
まぁ、だからこその問題なんだけどな」
「むぅ」
そんなに言うほどのものではない。
アスキスさんの可愛さと比べると、私なんて単なる雑草に過ぎないのだから。
……単に、ちょっと小綺麗な修道女の姿になっただけなのだ。
「どんな姿をしてても、中身は私なのにね」
「そうだな、どんな姿でもお前はお前さ。
だけどな、だからこそ俺は聞いて成程とも思ったんだ。
お前の気質が、よく現れてるってな。
だから可能性を感じて、ちょっと心配なのさ」
冗談なんか交えずに、フィリップは優しい目で私を見ていた。
慈愛混じりで、フィリップこそが修道士なんじゃないかって勘違いしてしまいそうになる。
こういう目をされた時、私は彼に強く出れないのだ。
……だからずるいって、私は思ってしまって。
「覚えておきなさい」
だから私は軽く睨んで、この優しいいじめっ子に私は鋭く視線を投げつける。
笑った彼の表情が、ちょっぴり心に響いた。
魔法少女の話だけするとは言っていません(言い訳)。
でも、これからこんな感じで行こうかなぁ、と適当に考えてる次第。
切りが良ければ、早めに投稿することにします(多分)。