8:Bランク指定の森の中での戦闘
森に囲まれた一本の道は途切れることなく続いている。その道をあっちに行ったりこっちに行ったりとふらふらと一人の男がゆっくり歩いていた。
時折、通りかかる旅人や商人は男のふらついた歩き方を心配し、声をかけようとするが仲間や護衛に止められている。何故なら話しかけようと近づいたところで隠し持っていたナイフでぐさり、ということがおこる可能性があるからだ。ここは国と国を遮る森の中。完全に無法地帯だからだ。
だが実はこの男。体の調子が悪かったりお腹が減っているというわけでふらふらと歩いているのではなく、珍しいものを探すために、あっちにいったりこっちにいったり、歩いているのだ。
「なかなか面白いものは見つからないな」
男が面白いものを最後に見つけたのは3日前。木の実がはじけて散弾銃のように種を発射する木を見つけた時が最後だ。
その散弾銃の木の種は鉄と同じくらいの強度があり、男が狩りをする時はもっぱらこれを使っている。
彼女の家を出てから5日。進んだ距離は帝国までの道のりの約半分。男は彼女とたてた計画通り、順調に帝国までの道のりを歩いていた。
帝国まで後半分だが、その半分がつらい道のりなのだ。
何故なら山をこえないといけないのである。標高はそれほど高くなく緩やかなのだ。では何が大変か、それは道がある所が崖に面しているということだ。足場も悪く、年に何百という犠牲者を出している。
新しい道を作れば良いと思うかも知れないがその山の森は危険度C~Aランクの魔物が闊歩しているのだ。その森は通称入らずの森。Bランク危険地帯に認定されている。そのため簡単に道を新しく作れない。
普通の人間なら危険で険しい道でもC~Aランクの魔物がうようよいる森には入らず、道を行くこと選ぶだろう。
しかし、男は普通の人間ではない。
男は強くなるために旅をしているのだから楽な道を進んでも意味がない。彼女は猛反対したのだが男は自ら入らずの森に入る事を決めたのだ。
「もうすぐ入らずの森に着くかな」
男は立ち止まった。上り坂になってきたからだ。アイテムバックを腰に結びつけ、左手を散弾銃の木に変え、右手はナイフの木に変える。
散弾銃の木から木の実を作るのに必要な魔力は5、発射するのに必要な魔力も5。つまり、一発撃つのに10の魔力が必要だ。
男の魔力量からしてみれば微々たるものだが油断してはいけない。Bランクの魔物となると、鉄の剣でも刺さらない奴がうようよいる。
もし散弾丸銃の木の弾をはじく魔物が出てくれば逃げるしかない。幸い、Bランクの魔物には鉄を噛み切れる奴がいないので危なくなったら全身を鉄に同化してしまえば、傷つけられる事はないだろうし。
Aランクの魔物が出て来てしまったら仕方ない。全身をいずれかの気体に同化させれば無傷で逃げる事が出来る。気体に同化するのは魔力を段違いに消費する。気体によっても違うが、酸素なら1秒で200だ。
魔力を消費すればするほど男は理性が薄くなり、フェイスが移動してしまう。だから、あまり大量に魔力を消費するわけにはいかないのだ。
と言っても、危なくなってしまったら大量に魔力を消費しても逃げるつもりだが。
「入るか……」
男はゆっくりと足を前に出し進む。
入らずの森はもう目の前だ。30メートル以上の大樹がここからは入らずの森だということを示している。光は大樹によって遮られ、辺りは薄暗く気味が悪い。
男は目を夜行性の魔物の目と同化させる。すると薄暗く2メートル先も見えなかった視界が100メートルほど先まで見えるようになった。それに動態視力も飛躍的に上昇した。
すぐ近くに生えている木を同化したが、特殊な能力は何も無く、男は小さく舌打ちをした。
魔物の鳴き声も聞こえず、魔物の気配が無い。Cランクにもなると魔物はある程度知能をつけ、気配を消すこともできる。
男は慎重にゆっくりと森の奥へと進んでいく。左手の散弾銃の木はいつでも撃てるように実を作っている。それに魔力を流せばすぐに撃てる。
男が森に入って30分。ようやく魔物を視認することが出来た。
魔物のランクはC。名はオーク。身長は2,5メートルほど。ピンク色の肌に豚の顔。お腹には脂肪がたくさん詰まっているのかポッコリと出ていて右手には1メートル以上ありそうな斧を担いでいる。
どうやらオークも男に気付いたようだ。訪れては見ると雄叫びを上げ、斧を振り上げながら突進してくる。そんなオークに、焦らず男は左手の散彈銃の木をオークの左胸に向け魔力を流した。
ーーー ドゥンッ
何十個にも別れて飛んでいく種は狙いたがわずオークの左胸の肉をえぐった。
しかし、オークの分厚い胸肉に阻まれ、心臓には届かない。オークは怯えず先程よりも大きな雄叫びを上げたが、突進を止めない。
だが男はそれを予想していたようですぐに魔力を流し実を作成、発射した。
ーーー ドゥンッ
今度こそ散弾銃の木の種はオークの胸をえぐり、心臓を貫通した。
ガァアァアア……ア
断末魔の叫びを上げ、オークは地面に倒れた。
男はそれを見届けるとオークの死体に見向きもせずに森の奥へと進んでいった。
男がオークの死体に興味を示さなかったのは食べられる肉が無い事と同化しても強くなれそうになかったからである。
オークを倒してから1時間経っても、銃声を聞きつけた魔物が次々と襲って来るためオークの死体がある場所から1キロくらいしか進めていなかった。
幸い、襲ってくる魔物は全てCランクだったおかげで苦戦はしなかったが、これからは分からない。
魔物が住み着く森は何故か奥に行けば行くほど強い魔物が住んでいる傾向があるのだ。
襲って来た魔物の中に手の指からピアノ線のような頑丈な糸を出せる奴がいたので同化し、右手のナイフの木の同化をやめ、その魔物、スパイダーナイトの手を同化した。
スパイダーナイトは人型魔物で蜘蛛のように糸を出し、夜のように漆黒の色をしている。
糸に粘着性はないが、細いうえに頑丈なので魔物の体に引っ掛け、勢い良く引っ張ると切断することができる。任意で指から切り離すことが出来るので罠にも使えるだろう。
一度に糸を出せるのは指一本につき一本だから合計5本出せる。
スパイダーナイトは糸を打ち出して引っ掛けるだけだったが、男は固有魔法の能力の内の1つで魔力を消費して糸を操る事ができため、現在の主要武器はこれになっている。
戦闘をおこおこなう際、男は同化した5体の魔物の意識を乗っ取り、6つの思考で戦闘を行っている。5つは糸を操るのに使用し、残り1つは左手の散弾銃の木を発射する時に使用している。
百体ほどの魔物を倒しただろうか。男は少し疲労を顔にだし、木に手をついて休んでいた。
ようやく魔物が襲ってこなくなったと思っていたら、男の背後で物音がした。
慌てて振り向くとそこには首の無い暗黒の騎士。両手の肘から下は手では無く、剣になっている。
「首無し騎士、デュラハン…………」
Bランクでも上位に位置する魔物が男の前に姿を現した。