4:自分が理解できなくて
「もっと強さを、もっと力を、もっと強さを」
渇く。渇く。強さが足りない。力が足りない。
ボロ布製の服を来た男は飢えていた。睡眠欲、食欲、性欲、そして強さを。
その男はかろうじて道と言えないこともない草原の中の道を歩いていた。
足は裸足、男は足に触れるものを、体に触れるものを同化し、自らの強さを高めていった。
男が歩きながら同化したものは100を超える。草原に生える雑草17種類、薬草5種類、毒草12種類、木9種類、虫21種類、動物8種類、魔物35種類。
それほど沢山のものを同化しても男の強さを渇望する思いは無くならない。
「足りない、足りないよ、もっと強くならなきゃ」
男はぶつぶつと呟きながら歩く。目的地は無い。ただ、逃げるためと強くなるために歩く。
「足が疲れた……運動なんてしてないし、………あ、そうか、空を飛べば良いのか」
男は足を休めるため、5時間くらい前に同化した鳩の形になった。
これが男の魔法。固有魔法[同化]である。その力の一部であるこの能力は、同化したものになれるのだ。
勿論、外見だけで無くその同化したものが持っていた力も使える。
男は鳩の姿になったあと、すぐにまた元の姿になった。
「体が小さくなる……っ!大きさも変える事が出来るのか………う~ん、翼だけでいいかな」
男は小さくなるのが気にいらないらしい。しかし男は能力の一部である大きさも変えることができ、部分的に変えることが出来るという事をしると、背中の肩近くを一対の白い翼に変えた。 その姿はまるで神の世界から地上に降りたった天使のようだった。もっとも、ボロ布の服と虚ろな目がそれを台無しにしていたが。
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時速30キロくらいのスピードで飛んでいた鳩の翼を持つ男はふらふらと地上に降りたった。
ぎゅるぎゅるぎゅる~~~
「お腹が減った……」
男は翼をしまった後、うるさく泣くお腹を撫でた。
男は研究所からの脱走後、10時間程歩き翼で空を5時間程飛んでいたのだ。休憩はとらずに15時間も移動し続けてているのだ。
疲労は溜まり、3大欲求は発散出来ず強さへの渇望も強くなるばかりだ。
男は今まで耐えていたのだが、もう限界のようだ。木の上に登ると枝に寄りかかり目を閉じた。
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「食欲……性欲……強さ………欲望」
男が目を開けたのは、木の上に登り目を閉じてから5時間経ってからだった。
ゆっくりと体を起こし、木から降りた男は、何かが、違った。顔も体も違わない。では何が違うか、それは性格………いや人格だ。
寝る前までの男は強さだけを求め動いていた。だが今は違う。男が持っている欲望を発散するために動く。それが今の男だった。
その人格は自らフェイス3を名乗る人格によってフェイス5と名付けられた。その人格の特徴は欲望に忠実な事。悪く言えば欲望を抑えられないし抑えるつもりもない人格だ。
「飯が食べたい。喉が渇いた。女を抱きたい。渇く、渇くよ……」
男はぶつぶつと呟きながら歩きだした。
何時間程歩いただろうか、男はようやく草原を抜け人によって作られた道にたどり着いた。人に作られた道はただ土で固められただけの道で柔らかく、裸足の男には歩きやすい道だった。
「もうすぐかな~、あぁ、早く食べたい、ヤりたい、強くなりたい」
人が通る道を見つけた男は上機嫌だった。
男は歩きながら人を見つけたらどうするか考え始める。
「男だったら食料だけ奪えばいいや、いや、でも通報されたら厄介だし殺そう。そして同化して強さも得られ、証拠隠滅もできる。うんそうしよう。
女だったら襲えばいい。そしてご飯貰って、もし上手くいけば寝床も確保出来るかな」
最悪である。
しかし男にとってはそうじゃない。5年間も拷問され続け、理性が壊れ、何がしてよくて何がダメか。それが分からないのだ。
ただ信じられるのは自分だけ。やらなければやられる。やるなら徹底的に、だ。
何人、人を殺しても何も感じず、盗んでも、犯しても、罪悪感は無い。
それが男の、5年間拷問され続けて男の価値観である。
道を歩き始めてから30分。男はついに獲物を見つけた。
男が見つけた獲物は女。それ18、9ぐらいの女1人だ。持ち物は小さなバックだけだが、容姿も遠くから見た限りでは悪くない、いや、良いように見える。
獲物は男を見ると小走りで近づいてくる。
そのあまりにも無防備な姿を見て口元がつり上がるのを男は感じた。口元がつり上がった理由は理解出来なかったが、男は考えるのを今は目の前の獲物に集中するべきだと判断し、放棄した。
「お~い、こんな所でどうしたの?」
女は手を振りながらこちらに近づいて来た。
女は警戒心をまるで持っていない。何故なら男は精神は拷問のせいで異常に発達しているが、容姿は12歳の美少年である。
「ねぇ、君。こんな所にいたら危ないよ。魔物や盗賊が出る可能性もあるし、親はいないの?」
茶色の腰くらいまである髪型、どこかおっとりとしている目のしている女、美女だった。
男はその問いに答えず、うつむいたままだ。
「耳が聞こえなかったり、話せなかったりするのかーーきゃ!」
男は女が差し出してきた手を掴み、道脇の森に連れ込んだ。男はずんずんと女の手を掴んだまま奥へと引っ張って行く。
勿論女は抵抗しているのだが、男の異常な握力のせいで離れられないのだ。
男の異常な握力は同化した2足歩行で腕が発達している魔物の筋肉を腕の筋肉にしているからである。
「ちょ、ちょっとやめてよ。腕が痛い、離して」
女は捕まれている腕の反対の腕で、男の手を剥がそうと努力していると、男は急に止まり、女を放り投げた。
「きゃッ」
放り投げられた女は2メートルほど飛ばされた後、お尻から地面に落ち悲鳴をあげた。
「な、何でこんなことをするの?今謝ったら許してあげるから」
女は男を諭そうと努力するが、男は無反応だ。
男は女に覆いかぶさり上着を引き千切った。
「いやっ、やめてっ」
女は拒否するが、男は手を止めない。異常な腕力で上着を引き千切った後ズボンも 剥がすようにして脱がせる。女の持っていた小さいバックは横にどけ下着姿になった女を見つめた。
「や、止めてよ……何でこんな…あ」
女は男の目を見た途端小さな声をあげた。
「そ、その目は………」
女はその目を見つめ、言葉を繋げる。
「あなた……つらい思いをしたのね……」
女の顔に浮かんだのは恐怖では無く慈愛。その表情で女は男に話しかけた。
「つらかったね、こんなに小さいのに、つらい思いをしたんだね」
男は混乱していた。何故恐怖に歪んだ表情で怯えていた女が慈愛の表情で優しく話しかけてくるのだろうか。
その話の内容を理解した男に現れたのは、怒り。
「お前に、お前に何が分かる!?」
男は理解出来なかった。この体の奥から湧き上がってくる感情は何だろう。口から言葉が勝手に出てくるのは何故だろう。理解出来なかった。
「お前に、俺の気持ちが、5年間も閉じ込められて拷問され続けた俺の気持ちが、分かるかっ!?」
男は不思議だった。口からでる怒鳴り声が不思議だった。目からこぼれ落ちる何かが不思議だった。
「ご、5年間も……拷問……」
女は目を見開き、目に涙をためる。
「気持ちは分かってあげられないけど、あなたを、私はあなたを理解してあげられる」
「俺の何を理解するって言うんだ!拷問された俺か?お前を犯そうとした俺か?これからたくさん人を殺して強くなる俺か!?」
男は自分でも何を言っているのか分からなかった。何をこんなに必死になって怒鳴っているんだろうと。
「私が、あなたの受け皿になる。私はあなたを理解してあげられる。そして、あなたを、変えてみせるわ。
だから、だから今は、落ち着いてゆっくりと休んで。大丈夫だから」
女はゆっくりと男の背中に手を持っていき、抱きしめた。
「大丈夫だから、大丈夫だから」
男は女の呟きを聞きながら、気を失うように眠った。
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眠りについた男をゆっくりと地面に寝かせてから、女はバックから着替え用の服をだし、着替えてから破けた服をバックにしまうと、男を持ち上げ、おんぶした。
「あなたが自然に元に戻るためなら、私はあなたのためになんだってするわ」
女は涙の後が残っている男に呟いた。