表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

イカロスの翼

作者: 針と糸

会話ほぼなし。少女の思いのみ。

 私の得た翼はイカロスの翼だった。


 あなたの元へと行くことのできる唯一の手段。


 太陽に晒されると溶けて消えてしまうイカロスの翼。


 あなたに会うために、一緒に一時で良いから会うために。


 私は昼を捨てて、夜の世界の住人となった。



 この終末に近い世界で、純真で無垢で儚いあなた。


 落ちてくる太陽を支える柱にされてしまったあなた。


 顔が醜いことを気にして、いつも顔を隠していたあなた。


 その溶けてしまったような肌も、片方しかない瞳も、私にとってはあなたの愛しい部分で。


 だから、私は行くの。あなたの元に。


 つけられたばかりの翼が、一度の羽ばたきですら背中が引き裂かれるほどに痛くても。たとえ夜空を翔ることで手足が動かなくなっても。


 あなたの元に私は行くの。


 あなたに会うことだけが私の幸せだから。


 心を殺してしまうことが私にはできなかったから。


 あなたに会えないのなら、この世界があっても意味はないのだから。


 あなたがいないのなら、中身のない人形がそこにあるのと何ら変わりはないのだから。


 私こそが柱になるべきだったのに。


 私こそが担うはずだった役目を背負ってしまったあなた。



「もう来なくても良いんだ。私は大丈夫だから、幸せになって」



 口癖のようにあなたは言うけれど、そんなことできやしないの。あなたの存在しない未来はいらないのだから。


 あなたに触れることは叶わないけれど、私は今夜も羽ばたくの。羽ばたくたびに限界がわかってしまうけれど。


 深淵の夜を幾度も越えて。



「愛してるわ」



 私の囁く言葉。

 羽ばたくたびに何度もあなたに告げる私の心。




「私も愛してるよ、はじめて見たあの時から」








幾度かの夜を越えて、羽ばたきは聞こえなくなった。絶望の叫びは夜を呼び、魔を呼んだ。






 そして太陽は世界に堕ちた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ