イカロスの翼
会話ほぼなし。少女の思いのみ。
私の得た翼はイカロスの翼だった。
あなたの元へと行くことのできる唯一の手段。
太陽に晒されると溶けて消えてしまうイカロスの翼。
あなたに会うために、一緒に一時で良いから会うために。
私は昼を捨てて、夜の世界の住人となった。
この終末に近い世界で、純真で無垢で儚いあなた。
落ちてくる太陽を支える柱にされてしまったあなた。
顔が醜いことを気にして、いつも顔を隠していたあなた。
その溶けてしまったような肌も、片方しかない瞳も、私にとってはあなたの愛しい部分で。
だから、私は行くの。あなたの元に。
つけられたばかりの翼が、一度の羽ばたきですら背中が引き裂かれるほどに痛くても。たとえ夜空を翔ることで手足が動かなくなっても。
あなたの元に私は行くの。
あなたに会うことだけが私の幸せだから。
心を殺してしまうことが私にはできなかったから。
あなたに会えないのなら、この世界があっても意味はないのだから。
あなたがいないのなら、中身のない人形がそこにあるのと何ら変わりはないのだから。
私こそが柱になるべきだったのに。
私こそが担うはずだった役目を背負ってしまったあなた。
「もう来なくても良いんだ。私は大丈夫だから、幸せになって」
口癖のようにあなたは言うけれど、そんなことできやしないの。あなたの存在しない未来はいらないのだから。
あなたに触れることは叶わないけれど、私は今夜も羽ばたくの。羽ばたくたびに限界がわかってしまうけれど。
深淵の夜を幾度も越えて。
「愛してるわ」
私の囁く言葉。
羽ばたくたびに何度もあなたに告げる私の心。
「私も愛してるよ、はじめて見たあの時から」
幾度かの夜を越えて、羽ばたきは聞こえなくなった。絶望の叫びは夜を呼び、魔を呼んだ。
そして太陽は世界に堕ちた。