台風襲来 その4
「剣 三十郎、参る」
鎧武者がボソリと言って腰の剣に手をかける。
剣 三十郎、現在の源十郎、すなわち能登 源十郎が幼少の頃に作り上げた鎧武者であり、両親を亡くした分家の小倅にすぎない彼を”源十郎”の名を継ぐ最有力候補におしあげることとなった人形である。用途はその外見通りの戦闘用で、その身に様々なカラクリを持つ。
「そんなからくりオモチャが役に立つもんですか。源十郎様は私がもらい受けてあげますっ」
言った如月 葉月の内側の筋肉が盛り上がる、肌の露出部分には獣毛が生え、頭部が狼のそれとなり唇からは犬歯がのぞく。
「ふむ、人狼というのは本当だったか」呑気に呟いて、賞品となった源十郎は無責任にもこのまま登校するべきかどうかを迷っていた。
が、迷う必要も別になさそうだった。目の前に柔道部部長、加納 虎次郎がいた。
いや、この場合”神無ちゃんをあの悪魔の毒牙から救おう同好会”会長と言った方がより適切だろう。と柔道部以外の猛者達が集いだした周りを見渡して源十郎はそう思った。
「ふむ、用件はわかっているんだがな」彼らにそれを実行させてやる気はあまりなかった。
「そうか ならば話は早い、われわれ”神無ちゃんをお前のような悪魔の毒牙から救おう同好会”会員の全員は神無ちゃんの幸せの為に自分達の生命をも惜しまぬ覚悟である」そこで一息つくと集まった彼の同志の瞳の中に自分と同じ光を見いだし、満足げに一息ついて続ける。「よってその元凶たる能登 源十郎の抹殺を我々は決意した」その瞳に悲壮なまでの決意を込め、普段は柔和で人好きのする顔を鬼のように歪めて彼は言い放つ。「これは昨日の事件によって能登 源十郎の悪行が確定したこともあり、第二、いや第三以降の被害者が出ないようにするための緊急措置である」言いつつじりじりと包囲の輪をせばめてくる。
「ふむ、一対多数っていうのは卑怯とはいわないのか」
とりあえず源十郎は言ってみた。
「おまえのような低俗な男にそのような配慮は無用っ! 害虫相手に礼節など必要ないわっ!」あっさりと切り捨てられた。
「ふむ、こういうのは神無は嫌いなんだがな」
さらに言ってみる。
「…、貴様から解放したあとでよく説明して納得してもらう。正義は我らにあるのだ。誠心誠意、もって当たれば恐いものなどなし」
苦渋に満ちた顔でそう言う彼らにもはや何を言っても無駄だと諦めた。
「かかれいっ!」
かけ声とともに野郎どもがわらわらと源十郎めがけてやってくる。




