曇天そして雨足は速く
能登 源十郎は実は学校で村八分にあっている。
能登 源十郎には彼と神無との関係がいわゆる御主人様と奴隷のそれであるという黒い噂があるからだ。その確たる証拠はどこにもないのだが、大多数が二人の−主に神無側の振る舞いから−そういう関係が事実であると信じ込んでいるためだ。そして今日の出来事は源十郎のその噂を真実として塗り固めるに十分に足る出来事だった。
源十郎は背後の教室から浴びせられる多数の視線を感じて、一つ大きなため息をついた。
「マぁスタぁーっ 一緒に帰りましょっ」
最悪 と呼べるタイミングで神無の喜びに満ちあふれた声が廊下中に響き渡ったのは、その直後の事だった。
*
能登 源十郎はため息をついていた。
部屋中に並べられたSM雑誌なんかでしかお目にかかれないような道具類の|山(実物)を眺めての事である。
家に帰り着くなり、神無が如月 葉月と名乗る少女からもらったスポーツバッグを奪い取り開け始めた。
その結果としての産物である。
「九尾鞭? 簡易組立型三角木馬セットぉ? 『これでどこでもいつものプレイが楽しめます。』ぅ? 動物用浣腸器? 導尿カテーテル? …もぐさにまち針にアルコールに脱脂綿、乗馬用鞭にスパンクロッド、麻縄……」
いちいち数え上げるのも疲れたと言わんばかりの口調である。
「源十郎様、説明していただきます」
一度出した物を厳重にしまい込み、その上に座り込むと、彼女は彼を睨みあげるようにしてそう言った。




