台風一過
「ふむ、たったこれだけの動作でも身体に負担がかかるか」
言って源十郎はその場にへたりこむ。
「マスタぁーッ、勝ちましたッ」どうやら葉月とかいう人狼は一度も神無に痛撃を与えられなかったようだ。いくら人狼とはいえ文字どおり無限の体力を持つ神無が相手では分が悪かったか。それでもやりようはいくらでもあったはずだが…。
「負けましたぁ、って源十郎様どうしたんですか?」
「ふむ、ちょっとな」
「ちょっとな、って、ああーっ私をマスターから救うだのなんだのってしつこい男っ! てことは源十郎様っ、ご自分に傀儡針をお使いになられましたねっ。あれは危険ですからおやめ下さいって何度いったらわかるんですかっ! 文字どおり寿命が縮みますよっ!!」
人形師 能登 源十郎が人体の経絡秘孔等に詳しいのは既に述べられた事実である。傀儡針というのは針、札、香、呪言等を併用し生物の肉体、記憶を操る術の事である。源十郎は自分の身体のあるツボを針で刺すことにより多少人体のリミッターをはずしたのである。
が、そのような火事場の馬鹿力を出す事が身体に過負荷をかけることになるのは当然である。最悪 身体の各所に機能障害を起こしかねない。
源十郎の身体にはしる鈍い痛みは急激な酷使に彼の身体の各所が抗議の声を上げているのだった。
「今日という今日は許しませんっ、ご自分の身体をなんだと思ってるんですか、って 私に負けた葉月ちゃんっ、私に負けたクセに何エッチいっぽぉい事してるのかなぁぁっ!!」
「治癒の力です」
「治癒の力って、源十郎様の服ひっぺがして、身体中を舐め回すことがぁぁ?」
「そうです、外傷ならその場所だけでいいんですけど、内蔵の方はこうしないと、う、ううんっ」
人形師 能登 源十郎は逃げ出す力もなく ただ困っていた。
*
加納 虎次郎は困惑していた。たしかに自分はあの憎っくき男、能登 源十郎を尾行していたはずだ。それなのに今、自分は学校の柔道部にいて打ち込みの練習をしている。誰も自分がここにこうしていることに疑問を持ってないようだ。<t-PB>
「練習中に白昼夢を見るとは、たるんでおるな」そう小さく独白すると「打ち込み終わりっ、乱取りを始めるっ!」気合いで心気一転してそう叫んだ。
その日 彼の練習はいつになく激しいものとなった。<t-PB>