台風襲来 その5
能登 源十郎は人形師である。そして彼が”源十郎”の名を継ぐ人形師であるということは、この場合 彼が人体の構造を知り尽くしているということを意味する。とくに経絡とか秘孔とか呼ばれるものに精通している。三人まではその場所を手持ちの針で刺すことで眠らせるなどして行動不能に陥らせた。だが相手は多勢、動いている的に正確に針を刺すのは至難の業だ。先ほどの三人にしても自分に組み付いて動きが止まった所でなんとか打ち込んだのである。そうやってさきほどから逃げ出す機会をうかがっているのだが包囲の輪はそのままで次の相手がその輪の中からのそりと現れる。自分を弱らせたところで確実に仕止めるつもりだと看破したが、だからといってどうなるものでもない。
「お館様になにをするっ!」
「御主人様になにする気っ!」
二種類の声が同時にその場に空から舞い降りた。かと思うと源十郎の周りを囲む人垣をなぎ倒していった。いくら多勢とは言え突然現れた鎧武者と人狼にはなすすべもなく次々と倒れふしていく、そして最後の一人 加納 虎次郎が「無念…」とか時代がかったことを呟きつつ倒れふした。
「ふむ、助かったか」
「御意」
「当然の事をしたまでです。でもこれでけちがついてしまいました。神無先輩もう一度 今度は邪魔が入らないところで勝負です」言いながら人間形態に戻る。
「よかろう、その挑戦しかと受けた」
「どうでもいいんですけど神無先輩、その喋り方なんとかならないんですか」
「まぁ、それは仕方ない。神無の特質上、自分の溶け込んだ形代の影響を受けやすくて な」
「ふーん、ま、いいや、じゃぁねっ御主人様っ」
答える源十郎に片目をつむると、迅雷の速度で彼女は去って行った。




