彼と彼女と彼女の風景1
CAUTION!
本作品と作者の趣味、及び性癖とは何の関連もありません
「御主人様っ、待って下さい」
朝のけだるげな雰囲気を吹き飛ばすほどの爽快な声が通学路に響き渡る。声の主は、小学生と見間違えそうなほどの小柄な身体と、見ようによっては耳のようにもみえる真っ赤なばかでかいリボンを頭の上で飛び跳ねさせながらある男を目指して爆走してきた。
「…」声をかけられた男、校則で定められた真っ黒な学生服をキッチリと着こみ、これは校則違反の長髪を後ろで無造作に束ねた丸眼鏡の長身痩躯のその男は 後ろかからかけられた女生徒の声を黙殺した。
「御主人様っ! 能登源十郎様っ!」
長い黒髪を風になびかせながら少女が そう叫ぶ、その声に含まれる一つの単語に彼らの側を歩く者達が振り返る。が二人とも特に気にした様子もない。
「…」呼ばれた男、能登源十郎は再びその声を黙殺し、不自然にならないほどに歩調を早める。が、しょせん彼女の走る速度にはかなうはずもい。長い黒髪の上で耳のようにも見えるいやに自己主張の強いリボンを頭の上にのせた少女が彼の元にたどりつくと、飛びつくようにして彼の耳元でささやく「ネークラでスケベで○×△で○☆◇□な源十郎様ッ! 今ならまーだ許してあげますよぉ、これ以上私に恥をかかせると大声であることないこと言いふらしますよぉーっ、と」
一つため息をつくと彼、能登源十郎はしぶしぶと立ち止まり自分の腕を差し出し、同時に少々タレ目ぎみの黒髪の少女の耳元で「何度も言うが、神無、御主人様はやめろ」と疲れたような声音でいうが、言われた彼女の方はお返しとばかりにそれを黙殺し、「今日のお弁当、楽しみにしておいて下さいね御主人様ッ」とことさらに最後の一言を強調して言い放つ。そして差し出された彼の腕に自分の腕を嬉しそうに絡めると男を引っ張るようにして歩き出す。そして彼女の言うところの御主人様、能登源十郎に侮蔑、軽蔑、嫉妬などの様々な負方向の視線を投げかける通行人にしあわせそうな微笑みを振りまくことも忘れない。
これが能登源十郎と神無と呼ばれる少女の朝の風景だった。




