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三大陸記  作者: 広谷砥石
第一章 近衛連隊編
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05.確執

副連隊長のオフィスに入室したベルンハイムらは先に連隊長に行ったのと同様に報告と敬礼を済ませた。副連隊長の頭髪は白髪交じりでわずかに腰が曲がっており、壮年に見えた連隊長よりも更にもう一回り程年上に見えた。


「儂が副連隊長のフォン・リッターだ。」


 リッターは短く答えた。言及こそしていないが副連隊長であるならば中佐であろう。ベルンハイムは一応肩についている彼の階級章を確認した後に返事をした。


「連隊長殿からは副連隊長殿の職務を補佐するようにと仰せつかっております。どうかご指導ご鞭撻のほどをお願いいたします。中佐殿。」


形式的な挨拶に対しリッターの方も適当に返した。


「本日はもう官舎に帰ってよろしい。長旅で疲れたことだろう。実際の職務に移るのは明日からでいい。詳細はそこにいる大尉から聞いておけ。」


一応ベルンハイムを気遣う体であるが、その表情からは仕事とはいえ若造の相手をするのはめんどくさいといった態度がにじみ出ていた。


「では失礼いたします。」


ベルンハイムの方もそれを感じ取り長居は無用と立ち去った。




「なるほど録でもなかったな。」


退室後、官舎に向かって歩を進めながら、またベルンハイムはエインホフに対して切り出した。


「やはり若造は信用できんということか。ああいう人間もどこにでもいるな。」

「心中お察しいたします。とはいえ、副連隊長の態度はなにも少佐が若いだけではないのですよ。」

「どういうことだ?」


質問に対してエインホフは若干答えるのをためらった後、小声で話しかけてきた。


「実は副連隊長は連隊長と犬猿の仲なのです。」


副連隊長は伯爵家の当主である。自分たちが生まれる前から軍に入り、華々しい実績はないもののこれといった失態もなく堅実に昇進を繰り返していた。しかし、まだ伯爵家を継ぐ前の事、伯爵家の後ろ盾であったさる公爵が政争に敗れ宮廷から追放された。当然、後ろ盾を失った伯爵家も政治中枢から追いやられる形となった。その後ろ盾であった公爵を追放した一派が現在の宮廷のいわゆるところの主流派であり、参謀総長もその中核に名を連ねている。そして連隊長は参謀総長の一門であるのだから・・・。


「なるほど、連隊長がよこした私をつけ馬とでも思ったか。」

「端的に申し上げてその通りです。縁故の参謀総長の後ろ盾で連隊長は副連隊長の階級を追い抜いて彼よりも若く現在の地位に就きました。ましてや少佐殿は連隊長が少佐になった時よりも若い。だから副連隊長は二重に偏見をお持ちなのでしょう。少佐が着任する数日前にも二人が角を突き合わせている場面を目撃しています。一応ご留意ください。」

「なるほど。分かってはいたつもりだが実際に来てみないと分からんな。さすがは近衛連隊。ここも既に宮廷政治の一部なのか。」


 そう言いつつ、ベルンハイムは心中でくだらないと断じる。どのような組織でも不和があるものだが、ここは国家を守護すべき軍隊、ましてやここは国家の象徴たる皇帝を守護すべき近衛連隊なのだ。国中から集めた精鋭による鉄壁の部隊という評判はどうしたというのか。


「兵は紛う事なき精鋭です。しかしそれを使う者まではそうではないのでしょう。」

「所詮ポストの一つか。嘆かわしいな。」

「とはいえ無理もないという物です。最後に帝都が敵の襲撃を受けたのはもう200年も前の事。皇帝親征も然り。」

「前線に出ることがないからより濁っていくわけだ。」

「濁るという言い方も適切ではないでしょう。腐っているのですよ。古老たちの統治が長引けば長引くほどにそれは進んでいくでしょう。古老に追随する者たちのそれも。」


 エインホフはそう締めるとしばし無言になった。あるいはわずかでも逃避したかったのかもしれない。


「だが」


程なくしてまたベルンハイムが口を開いた。


「だからこそ我々が目指すべきところは明確だ。」


発言はそれだけだった。だがエインホフの表情は再び好転した。


「左様です。」


 やはり自分は間違えていない。この男についていこう。エインホフはそう心中で確信し、二人は司令部の庁舎を後にした。


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