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三大陸記  作者: 広谷砥石
第一章 近衛連隊編
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20.ラウンジの会談

「それでその後、どうなったのですか?」


 興味津々といった様子で顔を突き出しながらベルンハイムに対して聞いてくるのはエインホフであった。


 民主活動家の地下アジトの捜査に関する一件から三日三晩が過ぎたその日、ベルンハイムと他の四名――ヴァイスマン、クノッヘン、ラウディッツ、エインホフ――は、帝都の中心にある皇宮の南門からほど近い貴族区に所在する士官用ラウンジ『荒鷲の止まり木』に集まっていた。そこは、いわゆる軍人以外はお断りの施設であって、展望席や個室までもが完備された場所であった。帝国軍の士官は貴族が大半を占めることもあって、内装も外装も宮廷内とも変わらないほどに飾り立てられ、ふかふかのソファーや名だたる名人の描いた絵画が部屋中におかれている。将官が同席するならば個室の利用も許され、ベルンハイムらはそこに入ったことはまだないが、エインホフはここよりさらに素晴らしく豪華であるという話だけ聞いていた。本来ならば士官たちが意見交換や親睦を深めるための場として用意された施設だが、飲み物を所望すればジュースからワインにまで至るまで用意され、ビリヤードもダーツも完備され、貴族の屋敷と同様に数多くの使用人が管理する快適ぶりから、非番の士官達が用もないのに集まって酒盛りをしている姿が、大広間のあちこちで散見される。だが、ベルンハイムらは、彼らを横目に大広間の特に隅の日の当たらない場所で丸テーブルを囲みながら顔を突き合わせていた。


「夜に捕縛した男は既に政治犯収容所にぶち込まれたらしいぜ。中で見つけた資料で芋ずる式に構成員の居場所も判明して今、帝都のあちこちで捜索が行われているらしいな。」

「既に関与している者のうち少なくとも半数は捕まったらしい。」

「それとあの夜には調べなかった残りの二つのバッテンの場所――B地点とC地点なんだけど、そこも警官が重点的に捜索してみたら入口が見つかったらしい。」

「隠す方法は似たようなものだったらしいな。」

「見ろよ、一昨日から今日までの朝刊、連日連夜、文屋が競って、報道の嵐だぜ。一昨日の「帝都日報」の見出しなんて見ろよ。『帝都に潜む影を捕える』だってよ。逸脱じゃね!?」

「まぁ、『市民からの通報で発覚』となっていて私たちの名前は載っていないがな。」


 彼らがしていることはといえばベルンハイムら三人が地下アジトで起こった顛末をラウディッツとエインホフに対して説明する事であった。といってもクノッヘンは言わずと知れた無口であるから、最初から何も話さず、喋るのはもっぱらヴァイスマンで身振り手振りをしながら、大仰に話し、彼の説明に時々ベルンハイムが補足していた。彼らが話すその夜の立ち回りに、エインホフは英雄譚に憧れる少年のように目を輝かせながら耳をとがらせ、ラウディッツはそんな友人を見て苦笑しながら、時々相槌を打ちながら話を聞いていた。


「しっかし、大将。小生が思うにわざわざ、そんな木端に小生らの目的を教えてやる必要があったんですかね。大将たちを恨んで適当なことを取り締まりの時にいったりしませんかねぇ。」

「その事はまぁ、もし奴が後々何か言いだしても、『不貞な活動家の戯言』ということで押し切るつもりだったのだが、取り締まりでも何も言わずじまいだったらしいな。ひとまずは手間が一つ省けたということにしておこう。」


 ベルンハイムはそう言いながら、名を聞き忘れた活動家の事を多少は肝の据わった男だったらしいと思い返していた。


「でも、少佐。それだけ働いて軍の勤務評定に影響なしでは割に合いませんね。」

「おいおい、オズヴァルト。勤務評定どころじゃない影響がもうすでに出ているじゃないか。」

「本当ですか、ラルフ?いったい何だというのです。」


 エインホフは本当にわからないといった様子でヴァイスマンに聞き返した。だが、他の四人は分かっていたから、そんなエインホフを見て、しょうがないなぁ、とでも言うように目を細め、その視線を感じてエインホフは若干顔を恥ずかしそうに赤らめた。


「たとえ、軍の勤務評定に影響せずとも、たとえ帝都の臣民に名を知られずとも、大貴族、特に司法省や高等警察に関わる連中は独自の情報網で俺たちの名前や所属を割り出しているということだ。気づかないか。昼間からバカ騒ぎしている士官たちに紛れて、何名かこちらを注視していることを。」

「えっ!」


 ヴァイスマンに代わっておこなったベルンハイムの説明にエインホフは度肝を抜かれた。


「おい、オズヴァルト!キョロキョロするな。向こうさんが気づくだろう。」

「ま、どうせ気づかれても問題ないけどな。今日は何か他に話すわけでもないし。なぁに、たかだか、3人だ。今は少ない方よ。」

「・・・・(コクコク)」


 ベルンハイムの説明を補足する3名にエインホフは動揺を更に大きくした。


「そんな。いつから監視されているんです?相手はどこのやつらです?」

「決まっているだろう。貴族共の子飼いの奴らだ。どの貴族かまでは分からんがな。」

「うわさに聞くところの枢密院議長殿の飼い犬じゃねぇの。」

「もしそうだったとしたら、枢密院議長まで名がとどろいたことにむしろこっちがおどろくがな。」

「いや、小生の見るところ、3名のうち一人は見たことがあります。正規の軍の情報部員でしょう。こっちの方の飼い犬はまぁ、個人的に何人か想像がつきますが・・・。」


 なんでもないかのように他の四人は話し合っているが、エインホフは動揺を通り越して茫然とし始めていた。


「いずれにしてもだ。エインホフ、我々は上が一応目をつけておくかというぐらいには、名が売れ始めたということだな。」

「し、しかしそれは危険ではありませんか。それはもし彼らが我々を危険だと見なしたらすぐにでも消しにかかるということですよ。」

「たかだか一つや二つ大手柄を挙げたとて、たかだか、少佐や中尉、たかだか地方貴族や平民ごときに本気になるようなことはせんよ。士官学校でもそうだっただろう。奴らは自分が巨人だとでも思っているのだ。ネズミが地べたで走り回っていようと知れたことではないのだよ。むしろこの件は名が売れたことを喜ぶべき事案だ。3日かけて作ったものが今度は無駄にならずに済みそうだからな。」

「3日かけて?何を作ったんです。」


 エインホフはベルンハイムの説明に一応安心したが、彼が何かを作っていたとは初耳であったので思わず聞き返した。他の三名もこれはさすがに初耳であったらしく耳をそばだてた。


「奏上文だ。皇帝陛下への。」

「奏上文?まさか!御冗談だろう。」


 まったく言い出すことが突飛であったのでヴァイスマンは四人の意見を代弁した。


「別に冗談でも何でもない。本気で出すつもりだとも。」

「内容は何です?」

「今回、活動家どものの不貞な企ては実際に行動に移ることなく終わったが、また次にいつこのような企てをたくらむとも限らず、また既に企てていることがこの件だけとも限らない。警官隊を増派し、彼らの企てを全て阻止したことが判明するまで、市民に夜間の外出を控えさせるべきだ。という内容だ。」


 ベルンハイムの内容の説明に各人の反応は異なった。エインホフは呆れて口がふさがらないようで、ラウディッツはやれやれといったぐらいに頭をかき、クノッヘンは、意図を掴みかねず押し黙り、唯一意図を察したヴァイスマンも頭に手を当てて、考え込んだ。


「少佐。なんでまた、そんな事を。過激な主張を行う活動家たちの地下組織がこの帝都にいくつあると思っているのです?それらを一つ一つ調べる間に逃げられますよ。第一、わざわざ増派するまでもなく、警官が帝都のあちこちに、昼も夜もあふれかえっているではありませんか。わざわざ市民の外出を禁止するほどでは・・・。」

「ちげぇよ。オズヴァルト。」

「ラルフ。何が違うというのです。」

「この奏上文の内容は当たり前であるがゆえに正論だ。正論ゆえに一応は陛下にお目通りを戴くことになるだろう。だが、この奏上文に従った場合、何が起こると思う?なにかしら行事も自粛しなければならないはずだ。そして直近の行事といえば?」

「建国記念祭!」


 エインホフは思わず声を上げた。


「そう、四百何年目かの建国記念祭だ。この日は普段宮廷から出ることのない皇族も式典行事のためにウォルフブルグまで行幸することになる。テロリストには絶好の狙い目だ。」

「しかし、他の行事ならいざ知らず建国記念祭ですよ。いまだ捕まっていない者もいるとはいえ、強行されるに決まっています。奏上したって却下されるにきまっているではありませんか。」

「却下されて結構。前にも言っただろう。この件はテロリストたちに対する保険だ。もし来なければそれでいいし、来たとしても、奏上する内容通りになったとして、私たちに責任が及ぶことはない。あわよくば、彼らを公務の場で拘束して軍人としての手柄にできるかもしれん。まず、陛下の目にとまることが大切なのだ。」


 ベルンハイムが再びニヤリと笑ったのを見てその場にいた全員が彼の意図を察した。


「まさか、大将。あんた、建国記念祭の場にテロリストどもをおびき寄せようってのか?」


 ラウディッツが声をすぼめて問うと、ベルンハイムは悪びれもせず肯定した。


「諸君!我々の躍進の日は近いぞ。勤務に邁進しようではないか!あぁ、そうだ、私単独ではやはり不安だからこの上奏文はエインホフと連名ということにしておくか。」

「えっ?」


 意気込むベルンハイムの周りで彼の仲間たちは大将の規格外さに何度目かもわからぬため息を発していた。


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