表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

スーパー貧弱魔法少女こまちゃん

作者: チラリズム

悔いが残らないように後書きに全部書きました。


 あの子はダメだ。


 魔法使いとしては前代未聞の低レベル。


 魔術女子学園に入学できたのは何かの間違いと大半の生徒は口を揃えて言う。


 名前は『下之下小鞠しものした こまり

 年齢は十四歳。

 首筋まである黒髪はキッチリと揃えられ、額に触れる髪も横一列。

 オシャレな赤色のメガネに同じく赤色のヘアピンを両サイド一つずつ付けている。

 学園には決まった制服がないゆえ、一般の女子中学生と同じ制服を着用している。

 生徒の中には私服で登校する者もいて、規則が厳しいイメージのお嬢様校にしては少し自由があるようだ。


 しかし魔術学園としてのレベルは他校より一枚上手なこの学園。

 生徒達の成績、熱心に取り組み部活動や委員会。

 ますます彼女。下之下小鞠には似つかわしくない場所である。


 さらに問題は彼女の隣で一緒に登校する女性にある。

 小鞠も決して可愛くないワケではないが、その彼女には足元にも及ばない。


 髪は肩にかかる程度の茶色のセミロング。近くに寄ると香る甘い香水の匂い。

 全てにおいて完璧な立ち振舞いをする彼女の名前は『天上院花束てんじょういん はなたば

 小鞠のクラスメイトで学級委員長。

 もちろん成績優秀。

 才色兼備文武両道。老若男女問わず人気があり、学園ではファンクラブが存在する。

 二年からは生徒会長も勤める。

 習い事もあり多忙ゆえ部活動には入部していないが、助っ人として主に運動部に参加する。

 去年は風紀委員と図書委員による抗争が勃発した際も的確な判断により鎮圧。

 その件を通して委員会からの信頼も厚い。

 第一印象は『気の強そうなお嬢様』で、実際に実家は豪邸のお嬢様。

 だがそれを鼻にかけたりする素振りはない。

 彼女のスゴいところはソレだけでは終わらず、忘れてはならないのが魔法使いとしての能力。


 まず火・水・土・風の四大元素を入学して一年を通して学ぶところを、たった三日で熟知した。

 教わった魔法は全て完璧に会得。すでに数体の召喚獣との契約も済んでいる。

 ちなみに小鞠は唯一の魔力供給用の使い魔と契約したものの、見事なまでにコキ使われている。実に情けない。

 さらに花束は雑誌『週刊・魔女マジョ』の表紙を何度も飾る専属モデル。

 断り続けているものの魔法アイドル事務所からのスカウトも絶えない。

 それを踏まえて学園では昔に生きた伝説の魔術師『漆黒の女王エステリア』の再来と言われている。


「ふあぁ~、やだよ花ちゃん今日もテスト~」

「泣かないで小鞠。テストが終わったら遊びにでも行きましょ……二人きりで」

 花束はそう言うと小鞠の手を繋ぎ微笑みかけた。

 小鞠もそれに答える。

「あ、麻耶さんだ! おはよ~!」

「おはようございます麻耶さん」

「おはようございます小鞠様、花束様」


 学園の校門前に立つ一人の女性は手を前に揃え、二人に向かって頭を下げた。

 彼女の名前は『麻耶まや

 麻耶は学園で雇われているお手伝いメイドで本来ならば生徒に対して名前を呼ぶことはないのだが、小鞠と花束の希望により二人とは名前で呼び合う友達となったのである。

 彼女の仕事は主に登校してくる女生徒を門にある『魔力データゲート』に通して記録をとる記録係だ。


 ――ピピッ。


「花束様の魔力値『五十三万』です」


 ――ピピッ。


「小鞠様の魔力値『四』です……今日も素晴らしい学園最低記録でございます」


「ち、違う違うよ麻耶さん! 私の魔力値は五だってば!」

「申し訳ございません小鞠様。今日の小鞠様の魔力値は『四』でございます……カス」

「が~ん!!」


 麻耶の言葉に小鞠は膝からガクッと崩れる。

 そんな小鞠を見て花束は頭を撫でてやるしかできないでいた。

 ちなみに学園の歴代魔力値トップは卒業したある女生徒の『四万二千』が最高だったという。


 校門を抜け、教室へ向かう前に花束は図書室への用事を思い出した。

「ゴメン小鞠。本返しに行ってくるから先に教室行ってて」

「うん」

 アカシックレコードなどに関する分厚い資料のような本を片手に図書室へ向かう花束の背中を見とりながら小鞠は。

 余裕ですな花ちゃん、と思いながらテストが待つ教室にその重くなる足をあげて階段を登った。

 もちろん花束の読む数々の難しそうな本に関しても、小鞠はまったくと言っていいほど理解できない頭脳である。

 ――テストが終わり放課後。


「終わった。そして‘終わった’!」


 ロッカーに上履きをしまいながら小鞠は落ち込む。

「気にしないで小鞠。次があるわ」

「ふあ~んダメだよ花ちゃん! 私きっと卒業できないよ。てか今回は進級すらできないかも」

 二人が通う魔術女子学園はテストの成績次第で進級が出来るか出来ないかの制度で、しかし一年は下手な事をしない限り例え成績が最悪でも二年生にはなれるのである。

「大丈夫よ小鞠。

 ……その時は私も進級しないで小鞠のそばで一緒にいてあげるから、いつまでもドコまでも永遠に。なんだったら(ボソボソッ)」

「ふぇ? 何か言った花ちゃん?」

「……ううん何でも無いわ小鞠。

 そうだ小鞠。息抜きに遊びに行こ! ん~でもまずは帰りに商店街のたい焼きかしら?」

「うん。そ~だね。お腹もすい……あっ!?」


 小鞠がフッと空を見上げた。

 それを見た花束もスグに反応する。

 小鞠には。小鞠だけには生まれた時から備わっている特別な力があった。

 それは危機感知能力。

 とても素直で優しく正義感に溢れている小鞠にだからこそ身に付いた能力ともいえる。そうして今日も小鞠はどこかで平和を脅かす危機から人々を救いに行くのだ。

「ごめん花ちゃん私行かなきゃ!」

「ちょっと小鞠!」

 花束の制止を振り切り小鞠は走り出す。


「どういたしましょうマスター?」

 立ち尽くす花束の頭上に突如ポンッと現れたクマの人形。

 どうやら花束の使い魔の一つらしく人語も話す。

「スグに準備をして‘私の’小鞠を追うわ」


 ――――。


「ゼェ、ハァハァ……よ、よぉし変身だ」

 走り出してスグに息を切らし始めた体力が全然ない小鞠は、自分のヘアピンを二つとも外す。

 そして彼女のお色気(?)変身シーンに移る。

 ピンクの光に包まれた小鞠は、おそらく衣服が全て……そして片方のヘアピンが勢いよく飛び、小鞠の身体に触れると。ピンクをベースにしたフリフリの魔法少女コスチュームへと変身した。

 もう一つのヘアピンは一瞬にして如何にもな杖に。

 足と背中からはカワイイ白い羽が身体から少し離れた位置に出現する。


「げほっごほっ! う~よし。なんとか変身でき……ハァ」

 演出的には低予算だが多数存在する変身ヒロインアニメとの違いは。何を言おう小鞠の哀れな姿である。

 衣装などは問題ないのだが、運動が苦手で身体が弱くスグに咳き込む。

 本当は『ぜん息もち』なため呼吸器がいるレベルなのだ。

 変身しただけで体力をほぼ使いきり変身前より更に弱く見える。ついでに言うと約三回に一回は変身に失敗するセンスの無さ。


「飛んで行けば間に合うハズ」

 勢いよくジャンプした小鞠はフワフワと宙に浮きだし、そのまま空を飛んで現場へと向かう。



 だが遅い。


 おまけにその飛行魔法は小鞠の体力を更に削り、みるみるうちに顔色が悪くなる。

 見ているコッチが心配になるスーパー貧弱魔法少女……それが下之下小鞠なのである。


「ま、待ってて……世界の平和は私が守る。必ず救うんだからっゴホッゲホっ!」


 まずは自分自身を救うのだ小鞠!


 ――――。


 かろうじて現場に到着した瀕死の状態の小鞠が見た光景は。


「デカッ!」


 おそらく空から、もしくは異空間から現れたであろう全長五十メートルの緑色の特大スライムが小鞠の前にそびえ立っている。

 天辺には人のように象った姿の本体。

「ぐふふっ。この星なかなかに居心地が良いな。

 よし。さっそく周囲の建物を壊して住みやすくするか」

「ちょ……ダメダメそこの喋るヘンテコスライムさん! そんなこと絶対させないんだから!」


 そういうと小鞠は手のひらを空に向けた。

 ポンッとオレンジ色の球体が飛び出し、それを持っていた杖でスライム目掛けて打ち込む。

「マジカルボール! シュート!」


『ペチッ』

 球体はスライムに触れると何のダメージもなく消滅した。

「あぁ!」

 予想通りの無意味な攻撃とその攻撃の反動で、目眩を起こし小鞠は貧血気味になる。


『グルグルッ』

「きゃああああ!」


 スライムは無数の触手を小鞠の身体に巻きつけた。

 コレはもうお決まりの展開である。

「いやぁ! 変態! 私にいやらしい事する気でしょ……エッチな本みたいに!」

「しね~よ!」


 スライムはそのまま小鞠の首を絞め殺すかのごとく触手を硬化させた。

「……うぐぐっ!」


 意識がなくなりそうになったその時。


『ズバッ!!』


「なにぃっ!」


 鋭い風の刃がスライムの触手を切り裂いた。

 触手から解放され落ちていく小鞠を、黒色をベースにした魔法少女コスチュームを着た女性に抱き止められる。

「うっ……は、花ちゃん」

「小鞠! 大丈夫!? まったくいつも一人で先走るんだから」

 その正体は天上院花束だった。

 装飾品のハデさからして明らかに小鞠とは違うスゴ味のある魔装備。

 杖もまた弧を描く刃と中央には禍々しく光る紫色の水晶玉。

 その姿まさに魔女。

「ごめんね花ちゃん。私また役に立たなく……ガクッ」

「小鞠!! いやぁぁ! 小鞠! 目をあけて小鞠!!」


「……いやいやマスター。小鞠様は気を失ってるだけですよ」

「…………」


 冷静に状況を説明する使い魔を、まるでブチ殺すかのような眼差しで睨む花束。

「ちょっと黙ってなさいよ」

「こわっ!」

 花束のその瞳はスグに自分の使い魔から町を破壊しようとするスライムに向けられた。

「よくも私のカワイイ小鞠にヒドイ事をっ!」

「けっ! そんな弱々な小娘がなんだってんだ! そんな足手まといのザコ魔法使いなんざいない方がテメェのためじゃねぇの?」



『ブチッ!!』


 花束さんキレる。


 花束さまマジ覚醒。


「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!」


 色鮮やかなシャボン玉に小鞠を包み、離れたビルの屋上へ移動させた花束は自分の前方に大きな六芒星を出現させた。


「サンダーボルト・ジャッジメント!!」


『ザアァァァァン!』


 破壊力抜群。攻撃特化の雷魔法がスライムに直撃した。

 スライムは予想を遥かに超えた魔法に声も出せずに身体のほとんどを消し飛ばされた。

「私の小鞠をキズつけたクサれスライムには問答無用に天誅を下す!

 いい……よく聞きなさい。小鞠はね。小学三年生の頃に海外から日本に転校して来たばかりで人見知りが激しかった私に、笑顔で話しかけてきて友達になってくれたスゴく優しい子なのよ」

 急に過去話をしだした花束にスライムは聞き耳たてずに身体の回復を始めた。

「その時から小鞠は私にとって女神なの。

 ……絶対に誰にも渡さないわフフフッ」


 内容はともかくだが、次第に花束は興奮しながら自分だけの世界に入る。

「はぁぁ愛くるしい小鞠。

 常に小鞠の周囲を警戒して男が寄り付かないように細工もしたし。

 いつだってカチコチに凍らせて……ううん、ホルマリン漬けにして私だけの永遠の小鞠にしようと思ったことか。

 あぁダメよ花束。それじゃ小鞠の天使がささやくような声が聞けないじゃない」

 スライムの出現と、それを倒そうとする魔法少女の戦いに巻き込まれた一般市民達は。逃げることも忘れて花束の言葉に引いていた。

 すでに回復したスライムも花束の言葉に引いてみせる。

「コイツいろんな意味でヤベェ。ひとまず逃げるしか」

「ムダよ。すでに準備は済ませて来ているわ」

 そう。花束がココにたどり着いた時点で勝負は決していたのだ。

 このスライムは日本にある魔術協会という対モンスター討伐組織に存在が確認されている。

 その強さはランク分けされていて、最高ランクがSだとすると次にA・Bと下がっていく。このスライムは最低ランクのGより少し強いFである。


 だが花束にとってはそんなことは関係なく、例え誰であろうと小鞠に害を及ぼす者は全力で始末にかかるのだ。

「!!」

 逃走を図ろうとしたスライムは驚愕する。

 目の前には杖を構える花束。

 右を向けば花束が召喚しておいた天空の支配竜『バハムート』

 左には大地をかける獰猛な獣『フェンリル』

 後ろに広がる海から顔を出すのは海底の破壊神『リヴァイアサン』

 全て召喚難易度の高い。ましてや一人の魔法使いが呼べるレベルではない召喚獣ばかりが揃い済み。

 ヘタすると上にも下にも何か潜んでいるかもしれない袋のネズミ。

「ゴミにしては大した再生力ですが、私達の一斉攻撃で跡形も無く消して差し上げましょう」

「ちょちょちょっとま……ッ!」


『ズドォォォォン!!』


 ――また一つの戦い(崩壊)が終わった。

 この戦い(イジメ)による損害は、本当ならば軽く済むハズなのだが。

 毎度毎度。小鞠が現場に駆けつけ・敗北・花束が怒り・必要以上に町を破壊してモンスターを倒す。

 その繰り返しが続き、いつも魔術協会の修正部隊が苦労する羽目になるのだ。


 そして。


「うぅ……花ちゃん」

「気がついたのね小鞠。本当に心配したわ(ハァハァ小鞠の匂い)」

 二人きりでビルの上、まだ意識が朦朧もうろうとして寝ている小鞠を抱き寄せる花束。

「顔が近いよ花ちゃん」

「そんなことはないわ小鞠、怖い思いをしたわね。もう大丈夫だから(あぁ今の無防備で弱った小鞠なら舐めるくらい)」


「でもゴメンね花ちゃん。また助けられちゃった……私役立たずだって分かってはいるのに」

「ううん。そんなことはないわ小鞠、あなたが立派に戦ってくれたから私も勝利することができたのよ」

「本当に?」

「そうよ。だから自信をもって。あなたがピンチになったら、また私が助けにくるから」

「うん……ありがとう花ちゃん大好きだよ」

 その言葉に花束はギュッと小鞠を抱きしめて。とても他人には見せられない笑顔になる。

 こうして最弱と最強の二人の友情は更に深まっていくのであった。

次回の『スーパー貧弱魔法少女こまちゃん』は『花束危うし・小鞠を狙う謎の転校生』をご期待ください(ウソ)

《お知らせ》

全国のロー〇ンで発売中の『スーパー貧弱魔法少女こまちゃんヌードル』に付いているシールをハガキに貼って送ると、応募者全員に『小鞠ちゃん抱き枕を抱いている花束ちゃん抱き枕』が当たります。

みんな今すぐロー〇ンへ急げ!(ウソ)

《お知らせ2》

劇場版『スーパー貧弱魔法少女こまちゃん・お菓子な国のプリンセス』のDVD&ブルーレイが早くも発売決定。

予約特典にはチラリズム先生「書き下ろしフンドシ」が付いてくる。発売日は9月32ウソ

そして劇場版第2弾『スーパー貧弱魔法少女こまちゃん・四天王激闘編』同時上映『花束博士の小鞠ちゃん研究所』制作決定!(ウソ)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 1、テンポが良い。 2、会話が楽しい。 3、ギャグが面白い。 [一言] ぜひ、続編を書いてください。 小鞠ちゃん抱き枕を抱いている花束ちゃん抱き枕が欲しいっ!
2013/09/15 21:54 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ