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回避特化のメイン盾  作者: Bさん
2章 ゲームを楽しもう
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7話

 俺たちは連携や情報などを確認する為に酒場へと向かう。普通のゲームであればそのまま突っ込むのも良いのだが、ここでは下手したら激痛コースだ。慎重にもなる。


「事前情報だと敵の数は多めで、6体6の戦いになる恐れがあるってさ」


 グレッグが調べた情報を明かす。盾が1人で近接アタッカーが2、後は全員後衛だ。俺が4体を受け持つしかない。正直この数を受け持った事は無いので捌けるかは解からない。


「とりあえず、フィルムに6体全部のターゲットを受けてもらおうか」


「おい、さすがにそれは無茶だ」


 グレッグがトチ狂った事を言い出す。さすがに回避特化で相性が良いとは言え全てを受け持つのは無理がある気がする。やった事がないのでなんとも言えないが。


「わしもそう思うぞ。いくら何でも全部は無理だろう」


 アドン、冷静な判断をありがとう。


「いや、試してみたい事があるんだ。フィルム、プロヴォークは使えるよね?」


「え?ああ、15になった時に覚えたぞ。周囲全員のタゲを取るんだっけか」


 確かに15になって覚えたが、試したい事とはなんだろうか。嫌な予感しかしない。


「とりあえず、最初は僕の作戦でやって見て欲しい。無理そうなら別の方法を考えよう」


 どうしてもやりたいらしい。リーダー(仮)が言うなら仕方ない。覚悟を決めるか。


「解かった。その作戦とやらを教えてくれ」


「うん、攻撃は全てフィルムが受ける。その間に各個撃破していく。ターゲットは僕が選んで指示するよ。範囲攻撃は使わないでね」


 作戦と言って良いのだろうか。さり気なく俺に対して嫌がらせをされている気がしなくも無い。


「敵は見つけ次第殲滅。他の集団のリンクを防ぐ為に極力近くでは戦わないようにしよう。必要なら僕がこれで釣るよ」


 そう言って出したのはダーツだった。どうやら投擲武器らしい。攻撃力が1だったので、完全に釣り用なのかも知れない。


 戦い方自体は普通のMMOと大差ない。俺が全てターゲットを引き受ける以外は。


「それじゃ、特に意見がないようなら行こうか。ダンジョン自体は町から行けるんだ。すぐそこだよ」


 グレッグは指を指すと何かの土台と数人のプレイヤーが居た。どうやら本当に近いようだ。



 俺たちが土台に行くと既に誰も居なかった。土台を見ると狼のボスの時の土台と変わらない。何かアイテムを捧げるのだろうか。周囲を確認しているとボタンがある。それを押すとダンジョンに挑んだ者たちの履歴があった。横に動画を見るという項目があったので、前に入った人たちの攻略を見れるのだろう。


「フィルム、そろそろ入るからこっちに来て」


「ああ、すまん」


 どうやらすぐに入るらしい。俺は皆の所に戻るとグレッグは兎の毛皮を取り出す。どうやら入る為に置くアイテムはこれらしい。どれだけ兎の毛皮は使えるのだろうか。


 グレッグが土台に置くと瞬時にダンジョン内に飛ばされた。石造りのオーソドックスなダンジョンのようだ。


「僕が先導するから付いて来て」


 グレッグはそれだけ言うと先頭になって進み、俺たちはその後を付いていく。マップを見るとちゃんと表示された。どうやら迷わずに済むらしい。2DのネトゲならまだしもVRMMOでは3Dダンジョンみたいなものだ。マッピングをしないと迷ってしまう。毎回それではダンジョン突入が面倒になるだろう。


「静かに、そこに6体の狼がいる。釣るから後衛の皆は下がってね。周囲に他の敵が居ないからここで叩くよ」


 グレッグがそういうと素直に皆従う。こういう時はリーダーの指示に従うものだ。下手に反発しても良い事は無い。俺たちは各々武器を構えて準備を整える。サーシャが俺たちに範囲に拡大した強化魔法を使う。それを確認するとグレッグが少し進み、ダーツを投げる。狼に当たり、そいつらは6体同時にこちらへ走ってきた。


「”プロヴォーク”」


 意味は確か怒らせるとか刺激するとかだった気がする。スキルが発動されると狼が6体こちらに向かってくる。


(怖っ!!)


 ボスみたいに大きくは無いとは言え、狼が集団で襲ってくるのである。リアルでは会いたくない相手だ。俺は襲ってくる狼の攻撃を紙一重で避けながら受け流す。


「こいつから叩く!!」


 グレッグがそう言いながら1体の狼を攻撃する。俺はそいつに挑発を使い、他のメンバーに攻撃が行かないようにする。狼の攻撃を剣や盾、そしてかわして回避するとリキャスト毎に挑発やプロヴォークを使っていく。そして程なくして狼は全て全滅した。


「ちょ……これは辛い。精神的に」


 さすがに6体から同時に攻撃されるのは凄く怖い。戦利品のお金を回収しているグレッグ達に言う。


「でも、全部回避してたよ?」


 そう、6体に囲まれて攻撃されていたのに全て回避できた。俺はいつの間にか人間を辞めてしまっていたのだろうか。


「きっと大丈夫だよ。このまま行こう」


「後ろから見ていると動きが凄くキモかった」


 グレッグとサーシャがサラッと酷い事を言う。こいつらは遠慮が無いようだ。


「いえいえ、全部避けていた姿は格好よかったですよ」


「フハハハハハハ」


 アシュリーが俺を慰め、アドンは笑っている。何だろう、このリザードマンは。


「アタッカーとしては戦いやすかったかな。一方的に攻撃出来るのっていいわね」


 と最後をちゃんとした意見を言う一部が大きい人。どことは言わない。


「大丈夫、その内慣れるよ。さぁ、次に行こう」


 グレッグからの無慈悲な一言で締めだったらしい。俺たちはそのまま進んでいく。




「ハハハハハハハ」


 何だか楽しくなってきた。回避した後に余裕があればポーズを決めてみる。ちゃんと挑発やプロヴォークを使う事は忘れない。回避が多すぎてまるでダンスを踊っているようだ。


「フィルム、遂に壊れた?」


 サーシャがそんな事を言ってくる。失礼な。


 俺たちはあの後順調に進んで行った。そう順調すぎた。凄い勢いで戦闘をこなしていく。何か楽しみを見出さないと精神的に追いやられてしまう、と俺は危機感を感じた為、発想を変えた結果がこれだ。


 その戦闘が終わり、皆がこちらを見てくる。サーシャが俺を見る目が冷たいような気がするが、気にしない。


「全部回避は凄いんですが……私の出番がないですね」


「楽が出来るのはいいではないか。パーティとは良いものだな」


 アシュリーとアドンがそんな事を言ってくる。完全な回避盾だとヒーラーが暇なようだ。食らってたらヒーラーが1人では足りなかったと思う。


「でも、笑いながら踊っているのを見ると凄く変よね」


 エイミーが何気に酷い事を言ってくる。そりゃ傍から見たら危険人物だろうが、そうやって誤魔化さないと精神的にやばい。


「え?フィルムはリアルでもこんな感じだよ」


 グレッグがそんな事を言ってくる。俺は剣でグレッグを攻撃するが、かわされる。DEX0が憎い。


「畜生、当たれ」


 何度も攻撃するが全く当たる気配がない。DEX0とAVD0ではどうやら回避が優先されるらしい。


「そんな事していないで、進もう」


 サーシャが言ってくる。1回くらい殴っておきたかったが、どうやら果たせないようだ。



 しばらく進むと巨大な扉の前に到着する。今までの部屋とは明らかに違う。


「ここはボスの部屋だね。確かボスは大きな狼だったと思う。以前同じタイプのボスと戦った事があると思うから大丈夫だよね?」


 グレッグは俺に向かって聞いてくる。攻撃パターンがあれと同じであれば問題ない。


「ああ、大丈夫だけど、新しいパターンとかないのか?」


「ないみたいだね。今回は油断はしないように頼むよ」


 新しい攻撃パターンはないようだ、と思っていると釘を刺してくる。俺もあんな痛みは御免だ。


「うん、前回のアレを見た時は凄く冷や汗が出た」


 サーシャが言ってくる。どうやら俺の知らない所で仲間達は焦っていたらしい。自分の事で必死で周囲を見れていなかったようだ。


「フハハハハハ、火力職の本領を発揮できそうだな!」


「アドンさん。ターゲットは取らないでくださいね」


 アドンの普段の行動を知っているアシェリーが突っ込みを入れる。火力職が全力で攻撃したらターゲットが剥がれそうな気がする。


「このダンジョンは飛行が出来ないから、鳥人の本領が発揮できなくて寂しいなぁ……」


「こういう迷宮タイプ以外にも草原や山岳もあるみたいだよ。そういう所なら鳥人が活躍できそうだね」


 エイミーの呟きにグレッグが返す。ダンジョンとか言いながら開放的なタイプもあるらしい。果たしてそれはダンジョンと言って良いのだろうか。


「さて、そろそろ突入しよう。サーシャ、バフのかけ直しをお願い。かかったら突入しよう」


 グレッグがサーシャに言うとバフをかけていく。俺たち全員にかかった事を確認すると突入だ。


「それじゃ、俺が開けるぞ」


 ボス部屋の扉を開けるのは盾役の仕事だ。これだけは譲れない。俺は扉を蹴破ってやろうと蹴りを扉にぶつけるが、びくともしない。STR0では駄目らしい。背中に集中してくる仲間達の冷めた目が痛い。俺は普通にドアノブを使って扉を開く。


 内部は結構な広さだった。思ったより高さもあるらしい。部屋の中心には大きな狼と周囲に小さな狼が居る。どうやら雑魚付きらしい。


「っ!先に雑魚を倒すよ」


 グレッグが少し焦った顔をする。もしかしたら雑魚の存在を忘れていたのだろうか。とは言え、これくらいは許容範囲だ。


 俺はボスまで走るとプロヴォークを使って全部こちらへ向ける。仲間達は周囲の雑魚から攻撃していく。俺は小さな狼の突進を盾を使って殴って止める。これがダメージにならないのは変だと思う。反対から来る小さな狼は口に横から剣を挟む事で突進を防ぐ。STR0でもこれくらいの芸当は出来るようだ。基準が良く解からない。


 さすがに大きい狼が相手だと武器で止めるのは難しいので回避する。そうしている内にどんどん小さな狼が排除されていく。速度が速いようで相手の手数がどんどん減っていくから楽になっていく。そして遂にはボスだけになった。


 正直かなり暇だ。6体同時に相手にしていた時の方が忙しいくらいだった。食らった時のダメージ量は桁違いなのだろうが、回避側からしてみたら当たるか当たらないかの違いでしかない。 


(だが、今回は最後まで油断はしない。あんな痛い思いはしたくないしな)


 あの時は本当に死ぬかと思った。ポーションを飲めた自分を褒めてやりたい。集中を持たせる為に単調にはならないように避けていく。同じ避け方をしているとどうしても慢心や油断が出てしまう。定期的に挑発スキルをかけながら避けていく。


「そろそろ良いだろう!!」


 狼のHP残量が1/3を切った頃だろうか。アドンがいきなりそんな事を言い出すと笑いながら魔法を連発し出す。


「ちょ、抑えろ」


 俺はそう言うが、何か楽しくなってきた。全力でやらないとターゲットを持っていかれてしまう。俺は盾を使わずに紙一重で全てかわす。前に聞いた話だと変に受けるよりも完全に回避した方がヘイトの溜まりが多いらしい。スキルは定期的にしか使えないのなら、こうやって稼ぐしかない。


 遠慮する必要がないと感じたのか、エイミーとサーシャも遠慮なくスキルを連発し出す。


「ハハハハハ、楽しくなってきたぞ」


 もう自棄だ。全ての攻撃を紙一重で避ける恐ろしさすらない。しばらくそうしているとボスが倒れて戦闘が終わった。


「さ、最後までタゲを渡さなかったぞ……」


「あー凄い凄い」


 俺が燃え尽きた様に言うと、どこか冷めたようにグレッグが返す。このハイテンションに乗れなかったのだろうか。哀れだ。


 ボスが居た場所には宝箱が出る。俺たちは全員宝箱の所に集まる。問題は誰が開けるか、だ。


「箱は誰が……」


「私はいい」

 

 サーシャが言い切る前に遠慮する。そんなに前回驚かせたのが効いているのだろうか。


「そうだな。フィルムに開けてもらうのはどうだろうか。罠があっても避けてくれそうだしな!」


 アドンがそんな事を言ってくる。さすがに罠は無いとは思うが、俺はそんな扱いなのか。


「うん、誰が開けても報酬が変わるわけでもないし、さっさと開けてしまおうよ」


 エイミーまで賛同してくる。確かにそうだが、初ダンジョンの箱開けって何か緊張しないか?


 俺は皆に推薦されちょっと照れ臭そうに箱を開ける。少し開けると変なSEと共に箱が自動的に開いていく。こういう所はゲームらしいと思う。


「中には……槍とスクロール、それと剣か」


 どうやら攻撃用っぽいアイテムが多いようだ。


「それじゃ、鑑定してから分配しようか。誰が何を貰うか大体解かるけど」


 少なくともこのメンバーの中は強欲な人はいないと思う。少し一緒に遊んでみて解かった。皆ゲームを楽しんでいる。俺たちは奥にある脱出装置からダンジョンを出て道具屋へと向かった。



 俺たちは鑑定してもらい、今は酒場にいる。結果はこんな感じだ


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

ウルフソード

効果

狼の刻印がされた剣。ATK+16、SPD+4

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

突撃兵の槍

効果

刺す事に特化した槍。ATK+18

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

ワイドヒールのスクロール

効果

ワイドヒールを覚える事が出来る。

使用可能職業

プリースト系

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


(攻撃魔法じゃなかったのか)


 少しアドンががっかりしていた。とは言えアシュリーが覚えられるのなら、このペアには有益になるだろう。


「それじゃ、アイテムを貰った人以外で獲得したお金を分配でいいかな?」


「ああ、それでいい」


「私もそれでいいわよ」


 アドンとエイミーはそう答える。話し合うまでも無く剣はグレッグ、槍はエイミー、スクロールはアシュリーが貰う事になった。道具屋で途中でドロップした品を全て売ったのでお金は合計3000Gになった。アドンと俺、サーシャは各1000Gずつ受け取る。


「そこで相談なんだけどさ。アドン、アシュリー、エイミー、僕達と今後もパーティを組まない?」


 グレッグが固定パーティの提案する。何だかんだで良い奴らだったし、ゲームを楽しもうという姿勢が見られた。俺たちの考え方とも合っているだろう。


「私はいいわよ。そろそろ1人で行動するのにも限界が見えてきたし、皆と一緒なら面白そうね」


 エイミーが快諾する。どうやら大きい人は今後も加わってくれるらしい。目の保養が出来て嬉しい。俺は一部を凝視しているとサーシャが冷たい目で見てくる。癖になりそうだからやめて欲しい。


「わしは、そうだな。加わるのはいいのだが、フィルム、お主が盾だと楽すぎる。それだとわし等は経験が積めない。だから別のパーティも経験しておきたい」


 アドンは色々と考えているようだ。グレッグはそうか……と少し気落ちしている。


「いや、勘違いをするな。あくまでわし等が経験を積む為だ。そうだな、1ヶ月ほどしたら合流しよう」


 確かに別々に色んな経験をした方が後々知識として役に立つかも知れない。


「ああ、そうだな。フレンド登録はしておこう」


 俺がそう言うとこの6人全員にフレンド申請を送る。全員から承諾が来る。どうやら他のメンバーもしているようだ。


「では、わしらはそろそろ行こう。1ヵ月後を楽しみにしておるぞ。フハハハハハ」


「失礼しますね。またお会いできる日を楽しみにしています」


 アドンとアシュリーが席を立つと笑いながら出て行く。静かに出れないのだろうか。俺とサーシャは先程分配されたお金をグレッグに渡す。


「ん?お金を集めているの?」


「ああ、宿とか装備を買う時に一緒にしておいた方が面倒がないからな」


 エイミーの疑問に俺が答える。普通のネトゲであれば個人が所持するものだろう。


「強制はしないよ。その内家を買う為に今は貯めているんだ」


「それなら私も預けた方がよさそうね」


 グレッグが言うとエイミーは賛同したのかお金を渡してくる。どうやらこれで7000G溜まったらしい。家は本当に遠い。


「それじゃ、今日は良い時間だし、宿屋へ行こうか。4人に増えたし1部屋だと狭いから2部屋取ろう」


 グレッグがそう言ってくる。確かにあの部屋に4人で雑魚寝するには狭いだろう。俺たちは宿へ向かい2部屋取る。当然男女で分かれた。とても残念だ。


主人公たちはメインストーリーをしていません。

完全に放置して好き勝手しています。

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