5話
翌日、目を覚ますと目の前にサーシャが居た。寝惚けてベッドに入ったとかそういう話ではない。どうやら時間だったので起こそうとしていたようだ。起こそうとする寸前で目を覚ましたのに驚かないとか寂しい。
「おはよう」
どうやらグレッグはもう起きていたようだ。挨拶をしてくる。こんな朝早くから誰かと一緒に居るというのはどうにも落ち着かない。昨日もそうだったが、どうやら俺も結構緊張をしていたようだ。
ゲームなので体や服に汚れが付かないし、髭が生えてくる事も無い。便利ではあるのだが、何か物足りない気になる。汚れを落とす以外でも風呂に入る理由があるのと一緒だ。
俺たちは売れた金額でどうするか話し合う。
「装備かなぁ……範囲攻撃とか何が起こるか解からないしね」
「お風呂に入りたい」
「何か食おうぜ」
グレッグ、サーシャ、俺の順に希望を話す。食事は大切だと思うんだ。
(風呂……だと……)
サーシャの一言に驚愕する。覗ける訳ではないのだが、やはりそこは注目したくなる。
「風呂なんてあるのか?」
俺は皆に聞いてみるが、解からないらしい。マップを確認しても街中には公衆浴場はないらしい。残念だ。
「そうなると装備だね。買いに行こう」
グレッグは俺の意見をサラッとスルーする。ゲームの世界である以上食事は嗜好品だ。後回しになるのだろう。
「わかった、行くのは武器屋か?」
「フィルムは武器持っても仕方ないし、防具にしよう。サーシャもそれでいいかい?」
武器ではないらしい。聞かれたサーシャは頷く。方針の決まった俺たちは宿を出て防具屋へと向かった。
「見た目を重視すべきか、性能を重視すべきか」
「性能にしてよ」
俺が呟いているとグレッグが突っ込んでくる。どうやら俺には選択肢がないらしい。
鉄製の防具を試着してみるが、特に重さを感じない。どうやらこのゲームでは装備に重さは無いらしい。
(装備の条件がレベルでよかったよ。装備条件が素質だったら初期装備のままだった)
鉄装備一式を買う。これで700Gだ。グレッグとサーシャも一式を買ったが2人で500Gと安かった。どうやら盾役の防具は高いらしい。それらを支払うと装備をする。
「金なくなっちまったな……」
見事にぴったり0Gだ。買い物が上手いのか浪費癖があるのか解からない。とは言え、壊れるわけではないし、必要経費というものだろう。サーシャは新しい服なのが嬉しいのか鏡を見ている。
(ズボンなのは残念だけどな……初期装備に比べたらマシか)
ぶっちゃけ初期装備はダサい。すぐに変える事を考えているのか見た目を考慮しなかったようだ。俺は全身鉄装備、グレッグは皮装備で冒険者風、サーシャはローブを着て魔術師っぽくなっている。
(街中で兜というのもアレだな。後で装備し直そう)
兜をアイテムボックスへ入れる。説明をしなかったが、アイテムはちゃんと入れるボックスがある。ポーションなどを手に持ちながら戦うとか正直無理だ。落とすと瓶が割れるかして失うだろう。
感覚がリアルと同じなので、兜は蒸れる。ずっと装備して居たいとは思わない。
金の尽きた俺たちはどうするか話し合う。このままでは今夜の宿代すらない。
「クエストでもやってみようか。お金が手に入るクエストもあるみたいだしね」
グレッグが言ってくる。一体どこからこの手の情報を調べてくるのだろうか。全部任せてしまって申し訳なく思う。直接は言わないがな。
話を聞くと結構なクエストがあるようだ。それこそ報酬がポーションだけとかそういうのまである。その辺はコレクターじゃないとやりそうにもない。
町の信頼度とかは無い様でレベル基準で仕事を斡旋してくれるらしい。仕事を貰う為に町の警備団の所へ向かう。
「討伐、調達、その他か……」
「討伐がいい」
俺が張り紙を見ていると横からサーシャが口を出す。討伐はレベルも上がるし一石二鳥だと思うが、数が多い為パーティ必須のようだ。俺たちは変則的なパーティだと思うがどうにかこなせそうな感じがする。
「討伐だと兎と蜘蛛は除外した方が良さそうだね。混んでいるみたい」
グレッグが掲示板とマップのサーチを見ながら言ってくる。便利なもんだ。
「なら南の門から出たところに居る狼か?ボスの時みたいにでかくないだろうし、乱獲できそうな気がするんだが」
すぐ出たところに狼が群れているとかこの町は大丈夫なのだろうか。
「そうだね。でも狼はリンクしてくるから気をつけないと大変な事になるみたいだよ。戦うときは気をつけよう」
グレッグが言ってくる。リンクがあるようだ。
(そういう所ってトレインをやる奴居るんだよな……)
必ずしも意図的とは限らないが、被害を受ける側からしてみたら同じことだ。出来れば町の入り口近くで戦うのは止めた方ががいいだろう。俺たちは狼200体討伐のクエストを受けると南門から外に出た。
入り口付近で戦うのは危険だと解かっていたので、俺たちは町の城壁に沿って少し移動する。これだけ離れれば町に駆け込む奴らの巻き添えにはならないだろう。
「ここを拠点にして釣ってこよう。移動狩りもいいけど、もう少し人数がいないときついからね」
グレッグが提案をする。周囲には結構な数の狼がいるようで、狩場としても問題無さそうだ。
「俺が釣ってくるよ、回避が高ければ途中で倒れる事も無いだろ」
実際、遠距離スキルがあるのはサーシャだけだ。魔術師タイプに釣りをやらせるのは危険だろう。そうなると俺が挑発で敵を釣るしかない。そして俺たちは狩りを始めた。
しばらく順調に狩っていると、町の門の方が騒がしい。何かあったのだろうか。休憩をしていた俺たちは門の方を見る。
「フハハハハハハハ!!」
「だから、無理だといったじゃないですかー!」
そう叫んで大男と女の子は町へ走りこんでいく。トレインだろうか。後ろから大量の狼が迫っていく。全てのHPが少しずつ減っているのは範囲魔法で倒そうとしたからかもしれない。全く迷惑な行為をするもんだ。
迫ってきた狼は町の警備員の人たちが倒していく。どうやら戻る事は無いようだ。
(いつもお疲れ様です)
警備員の人を見ながら心で敬礼する。
「さ、狩りを再開するか」
無かった事にして俺たちは狩りを再開する。思ったより順調に狩れていてよかった。大変な戦闘はボス戦だけでいい。
俺たちは無事クエストを完了し、町に戻る。特に変な事件もなかった。ネトゲの日常なんてこんなもんだ。毎日がお祭り騒ぎでは疲れてしまう。
報酬は1000Gでそれ以外にもドロップがあるようだ。兎や蜘蛛を狩った時に受けていなかったのが悔やまれる。グレッグも情報を知ったのは昨日の夜らしい。βテストをやった先行プレイヤーが居ないと情報を発掘して行かなければならない。
LVは10に上がっていた。集団で狩る事で適正より少し高い相手を狩れたのは大きい。装備も買ったばかりという事で、この金は貯金だ。素材を売って全部で1500Gと今朝よりも多い金額を持って俺たちは満足顔で宿へと向かっていった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
狩場スレ part7
774 名無しの剣士さん
おい、今日の南門のトレイン何だあれ
775 名無しの魔術師さん
リザードマンと人間の女の子が何かしてた奴だろう?
良くわかんね
776 名無しの弓使いさん
リザードマンと女の子とか聞くと卑猥な妄想をしてしまうな
大量に狼を釣ってたし、範囲魔法でやろうとしたんじゃね?
んで、倒しきれなくてトレイン
777 名無しの肉壁さん
それは鬱陶しいな
その場で散れと言いたい
778 名無しの剣士さん
まぁ、そうなんだが、町の門の所で警備隊の人たちが頑張って処分してたぞ
どうやらこのゲームは魔物がポップ場所に戻るとかないらしい
779 名無しの付与師さん
巻き込まれたりはしないのか
NPC頑張ってるな
780 名無しの魔術師さん
その辺りはちゃんと出来ているんだね
でも、集団に殴られて死亡とか勘弁して欲しいかもしれない
781 名無しの剣士さん
ああ、それはあるな
下手に防御が高いとじわじわ殺されていくのか
トラウマになるわ
782 名無しの弓使いさん
それより、クエストをどうにかしてくれ
何だよあの討伐数
200とか1日で終わらん
783 名無しの治療師さん
そりゃ下にパーティ推奨ってあるじゃない
ソロでやるもんじゃない
784 名無しの剣士さん
まぁ、その分報酬も分配前提で高いけどな
3~4人でやるのが丁度いい
弓使いは釣りで重宝するんだから野良でいいからパーティを組め
785 名無しの弓使いさん
俺・・・ソロでやりたいから弓使いなんだ・・・
786 名無しの剣士さん
このゲームはソロ専門とかきついだろ
固定じゃなくてもいいんだから、どっかに入った方がいいぞ
それにログアウト出来ないんだから他人に関わらないとか辛くないか?
787 名無しの肉壁さん
止めとけ
人のトラウマをえぐるもんじゃない
討伐が苦手なら採取やればいいんじゃないか?
弓使いなら素材採取が楽だろう
788 名無しの弓使いさん
そうしとくわ
あと、俺は弓使いとか書いてあるけどメイン装備は短剣だぞ
789 名無しの剣士さん
いや、弓使えよ
790 名無しの魔術師さん
弓は矢が消耗品だから辛いんだってさ
資金に余裕が出来ない限り短剣で戦うらしいよ
791 名無しの槍使いさん
弓を使わない弓使いか
私も槍以外を使うかな
792 名無しの剣士さん
何でわざわざ反発するんだよ!
793 名無しの槍使いさん
剣士も剣だけ使っていて疲れないか?
何で俺、剣使っているんだろう、とか思わないのか?
794 名無しの剣士さん
いやいやいや、思わないから
795 名無しの魔術師さん
え?私はたまに殴ってるけど
796 名無しの治療師さん
常識だよね
魔法だけ使ってても飽きるし
797 名無しの剣士さん
何この流れ
俺だけ変なの?
798 名無しの肉壁さん
今明かすけど、実は俺、盾を持っていないんだ
799 名無しの剣士さん
マジで肉壁かよ
盾買えよ!!
リンク:同種だったり関係した魔物同士が結構遠い距離でも仲間意識を持って協力して攻撃してくる現象。
トレイン:迷惑行為の一種。複数の魔物に絡まれて逃げてきたり、上級者が範囲魔法で一掃する為に魔物を集める事を指す。魔物が湧く時間が不定期になったり、魔物の帰り道で絡まれる人が出たりするので嫌がられやすい。同時にそれを利用したPKも存在する。
拠点狩り:移動をせずに自動湧きを狙って1箇所で動かずに敵を釣ってきて戦う方法を指す。キャンプなど別の呼び方も多数ある。基本的にアタッカーが釣ってきて盾役が迎える形が多い。