37話
「フィルム!!」
サーシャが俺に駆け寄って抱きついてくる。どうやらちゃんと覚えていてくれたらしい。ゲーム後、長期間会えないとなるとそういった不安がある。
俺はサーシャを抱きしめて頭に顔を付ける。そして大きく息を吸い匂いを確認する。ゲームの時と一緒だ。どんだけゲームは高性能だったんだよ。
「サーシャ、会いたかったよ」
「うん、私も」
俺はサーシャに笑顔で言うとサーシャは少し涙目で返してくる。そして俺たちは再会を喜び流れで口付けを交わす。リアルでは初になるのだろうか。
「僕達も忘れないで欲しいかな……」
「そうね。イチャイチャしたい気持ちは解かるけど、いつまでやってるのよ」
グレッグとエイミーが言ってくる。そう言えば居たんだっけか。
「まぁ、良いではないか。これでこそ、わしたちのパーティであろう?」
「そうですね。久しぶりに見て和みます」
アドンとアシュリーが言ってくる。アドンが金髪の外人さんだったのは衝撃だ。リザードマンのときと全然印象が違う。6人が揃うのはゲームクリアしてからかなり久しぶりだ。
俺たちはテーブルに着くと近況報告、そして情報の交換を行った。どうやら皆酷い扱いは受けていないようだ。それだけでも喜ばしい。とりあえず現状を維持し、解放されるまで大人しくしている事を話し合った。
「あ、君達は安全だと判断されたから、一緒に生活をしても良いってさ。ただ、態度次第ではまた離れされることがあるから気をつけてね」
それを聞いたサーシャがまた抱きついてくる。皆の表情は明るい。気心が知れた人たちと一緒に居ればストレスを抱え込まずに済むかも知れないという配慮だろう。
そして担当の男は俺に近藤さんを10箱渡してくる。多すぎやしないか?
「仲がいいのはこちらからも推奨したいけど、避妊だけはちゃんとしてね。子供のデータも欲しいけど、まだ早いから。他に欲しいものがあったら出来る限り用意するからその都度言ってね」
男がそう言うとエイミーが近寄っていく。早速何か要望があるのだろうか。
「えーと、皮製の鞭に蝋燭、木馬もあった方がいいわね」
「あ、はい」
それを聞いたグレッグが凄く良い笑顔だ。エイミーは遠慮しろ。担当が凄く引いている。この人がこんな顔をするのは初めて見たよ。
「これ、半分貰いますね」
アシュリーが近藤さんを半分持って行く。それは良いのだが、アドンが持っていくものじゃないのか?
「え?ああ、解かった」
「ちょっと工作しないといけませんしね」
そう言ってアシュリーが笑顔になる。工作ってなんだよ……。相変わらず怖いわ。
その日から俺たちの生活は始まった。と言っても普通の生活にリハビリという名の訳のわからない実験をする日々だ。その内の1つにこんなのがあった。
「これは、シミュレーターか?」
「ご名答。戦車に戦闘機、船舶まであるよ」
自衛隊とかに配備されてそうな物だと思う。なんでこんなもんを操作する事になったのだろう。VRMMOと同様の技術が使われているようで、没入できるらしい。正確にはこっちの技術をVRMMOに使ったのかも知れないが。
それらの操作をさせられる意味は解からないが、どんな風に変化が現れるか一通りやらせるつもりなのだろう。グレッグが吶喊するが、あっさり倒されて帰って来る。フラグも立てていないのに早すぎるだろ。と言っても操作になれていない俺らでは大した活躍は出来ないと思う。
恐ろしかったのはアドンが初めてなのに普通のスコアを出したことだ。練習すれば熟練の兵並になれるかも知れないとの事。そして俺の番がやってきた。シュミレーターの中なのにどの方向が危険か、どの位置へ行けば安全かが解かる。これが回避を振った性能なのだろうか。今の俺は回避だけじゃない。攻撃だって出来る。
「これは驚いたね」
「そうですね」
担当の2人が驚愕した顔でスコアを見ている。普通にクリア出来たが、そんなにやばかったのだろうか。
「どんな英雄だよってレベルだね。このまま実戦に突っ込んでも大活躍出来ると思う。回避特化にこんな隠れた性能があるとは思わなかったよ」
アレか、初めて巨大ロボに乗って操作して敵を撃退してしまうようなノリか。確かに危険を直感で感じるとかNTみたいだな。
STRは腕力、VITは持久力、DEXは器用さ、INTは知能、MNDは精神力、AVDは直感、LUKだけ良く解からん。幸運になるんだろうか。基本的にゲームと同じような能力が上がるらしい。本当に平均的にすれば良かったな……。
そうして俺たちは数ヶ月という時間を実験に費やした。娯楽も用意してくれるし、何より仲間達と一緒だ。そこまで不服とする部分はない。ただ、家族と会えないのが心配なくらいだ。
「妊娠しました」
「は?」
突然アシュリーが皆の前で発表した。これには俺たちも担当も驚く。何よりアドンが一番驚いていた。まさか、あの工作というのは……。オレハ、ナニモシラナイヨ。
「お、おめでとう。アドン、責任を取らないとな」
「あ、ああ、そうだな」
狼狽しているアドンを見るのは久しぶりのような気がする。今度からちゃんと付ける前には確認しよう。
「丁度いいかな。君たちに朗報だ。やっと君たちの軟禁が解かれる事に決定した。今まで通り研究所に居て実験に付き合ってくれてもいいし、外に出て普通の生活に戻っても良い。ただし、普通の生活に戻る場合はしばらくは監視を付けさせてもらうけどね。報奨金も皆に支払われるから当面の生活費には困らないと思う」
普通に考えれば破格だろう。確かに拘束したのは身勝手ではある。このままずっと研究所を出られないかも知れないとすら思っていた。そう考えれば自由があるだけマシなのかも知れない。そして俺たちが取った行動は……。
俺は、いや、俺たちは研究所へ残る事にした。技術の開発、実用化された時の教官として。俺とグレッグとエイミーは訓練生の鍛錬。サーシャは俺たちのサポート役だ。アドンは以前の細工関係の仕事に戻るらしい。アシュリーはアドンとの結婚し出産後に落ち着いたらアドンの所の経理として雇われるとの事。
グレッグとエイミーが残ったのは意外だったが、あのゲーム内でしか出来ない事に関して心残りだったらしい。上級者はこれだから困る。
俺がここに残った理由は差別に関する件が気になったからだ。もしこの件が明るみに出た場合、俺たちを排除する運動が起こるだろう。その時までに同じ境遇の人間を多く増やしたらどうだろうか?この技術が一般的になればそれが当たり前になる。そうなれば差別は沈静化もしくは大きく二分化するだろう。少なくとも一方的ではなくなる。
それらを早める為に協力する。俺や俺たちの子供の代が普通に生きていけるようにしたいと思っている。未来の話だが、その未来の平穏を得る為に俺たちは進み続ける。




