35話
本日は決戦だ。最後の戦いだ。それはいい。食堂のテーブルの上には1枚の紙が置いてあった。
【ちょっと待ってね by グレッグ】
一体これは何だろうか。いつもの時間8時頃に俺とサーシャ、アドンとアシュリーが集まってこれを発見した。待ち合わせの10時に間に合うのだろうか。個人チャットをしても拒否されるので連絡が出来ない。
「どうすんだろうな、これ」
「むぅ……待つしかあるまい」
アドンがそう言ってくる。確かにそうなのだが……寸前になってこんな素晴らしい世界から出るのは嫌だとか言っていないよな?
とりあえず、余った料理を全て出す。この間ストックしていた物は全部サーシャに食われたので、ほんの少しだ。最後の戦いの前の腹ごしらえにしては少ないが、ないよりはマシだろう。もう食材も全て使い切っている。
パーティの位置確認をすると地下室に2人はいるらしい。寸前まで何をしているのだか。4人で雑談をしているとエイミーだけが来た。何だろう?
「お待たせ、行きましょ」
エイミーがそんな事を言ってくる。グレッグはどうしたのだろう?まさか牢屋で拘束して放置とかはないよな?
パーティの位置を確認すると広場にグレッグがいた。まさかの死に戻りである。こいつらやばいわ。
「あ、ああ、行こうか」
俺はかろうじて声に出すと全員がパーティの位置確認をして理解したのか表情が微妙だ。さすがのアドンですら笑い飛ばせなかったらしい。出来れば関わりたくないという気持ちは解かる。
俺たちは途中でグレッグと合流すると攻略組の本部へ向かった。グレッグの表情がこの上なく爽やかだったのは正直ウザかった。
「戦い方は昨日話した通りだ。皆の奮戦に期待する。行くぞ」
攻略組の会議室にてクラークが最後の言葉を言う。俺たちは立ち上がり、ボスの部屋に向けて歩き出す。外に出ると今日で終わるかも知れない、という情報が流れたのか多くの人が見物に来ていた。応援をしてくれる者、無言で見ているだけの者、こちらを睨みつける者など様々だ。
睨んでくる者はゲームを終わらせたくないのだろう。そういう気持ちは俺にもあるが、それはただの現実逃避だ。現実とゲームがあるからこそ俺たちは生きている。睨んできてもPK保護があるから手を出しては来ない。安心である。
「これは恥ずかしいな。負けたら町を歩けないぞ」
「だろ?俺は一度味わったんだぜ……」
アインが同意してくる。そういえばこいつらは1回負けたんだっけか。町を歩くのすら辛くなりそうだ。俺たちは馬車でボスの神殿まで進んだ。まさか神殿内まで馬車が入れるとはどう考えておかしいと思う。
俺は馬車をアイテムボックスへ仕舞うと扉を開ける。そして強化魔法を使ってもらうのを待ち、それが終わったら剣を抜く。
「行くぞ」
緊張からか俺はそれだけ言う。今度こそ勝ちたい。そう思いながら。
攻略組の面々が雑魚を倒し、俺が受け持っているゴーレムへ近寄ってくる。作戦と言えるかどうか解からないが、もう少しで倒せそうになったら近接職は離脱。魔法でトドメを刺す事になっている。俺だけは絶対回避があるから、動かずにずっと待機だ。このスキルがなかったら盾役を1人犠牲にする必要があったらしい。
「近接職は離れろ!HPが後1割を切ったぞ」
俺は避けながら叫ぶ。少し早いかも知れないが、逃げる時間を考慮すれば早すぎるという事もないだろう。後衛職は攻撃の手を止めて近接職が離れるのを待つ。大事を取って部屋の壁際まで皆移動したようだ。爆発まではタイムラグがある為、後衛職もHPが0になったら逃げる算段になっている。本当に最後まで待機するのは俺だけだ。
近接職が壁際に到着すると魔法の詠唱が始まる。徐々に削り、遂にゴーレムのHPが0になった。後衛職は走って壁際まで逃げる。俺は絶対回避を使い、爆発を待つ。そして閃光が部屋を照らした。
爆音が止むと俺は周囲を見渡す。どうやら皆無事のようだ。そして俺は目の前で仁王立ちになっている新たなゴーレムを睨みつける。挑発を使ってターゲットを取ると新たな戦いが始まった。
ゴーレムは20m程の高さで片手剣を2本装備しているタイプだ。今度は足がある。肩にはロケットランチャー、足にはミサイルが装填されていることは確認済みだ。何と戦うのを想定しているのやら。
普通に考えれば剣と魔法を駆使して戦う相手ではないだろう。SFの世界に乗り込んだようなものである。
ゴーレムは剣を振り下ろしてくる。動きが単調だ。この程度なら紙一重で避けられる。すぐさまもう片方の剣で横薙ぎにしてくる。範囲攻撃の為、数名がダメージを食らっていた。だが、俺まで食らう理由はないのでジャンプしてかわす。空蝉が張られているから当たっても問題は無いが、温存はしておきたい。
後ろでは回復職が食らったメンバーの回復をしている。だが、ずっと見ている余裕はない。次は背中のブースターを噴射させて突撃してくる。直線的な動きな上に安全な隙間は前回の戦いで調べた。なのでその股下をくぐり抜けさせてもらう。そうして回避が可能な攻撃をしばらく避けているとそれがきた。そう、俺の天敵、必中攻撃だ。
肩のロケットランチャーが噴射される。これを無防備で全弾食らうと即死だ。俺は避けるのを止め盾を構えて受け入れる。前回試した時はぎりぎり生存した。避けようとした時は即死して指輪が発動していた。1発食らう毎にHPがごっそり減っていく。全弾食らうがどうやら耐え切れたようだ。全身が痛い。このままでは回避すらままならないだろう。俺はポーションを取り出し少し回復する。すぐに過剰なまでの回復魔法が複数飛んできてHPを満タンにする。
ロケットランチャーは防御でどうにかなる。他の攻撃は回避で余裕。本来であれば負ける戦いではないと思う。だが、俺の直感の警告はまだ終わらない、そう告げていた。ボスのHPが5割、半分減った時だ。ゴーレムの胸の部分が開く。内部には筒状の何かがあり、それが出てくる。そこで砲身だと気が付いた。
「全員射線上より退避しろ!!あれはやばい」
俺は直感を信じ叫ぶ。俺は少しずれるとこちらにあわせて体が動く。どうやら必中攻撃らしい。厭らしい。避ける事を諦め、俺は盾を構える。耐えられる攻撃であればいいのだが……。
そして砲身にエネルギーが充填されていく。これは嫌な予感しかしない。砲身の中に雷が見える。まさか……。
「荷電粒子砲かよぉぉぉぉ」
打ち出された太いレーザーのようなモノが接近してくるのを目にして叫ぶ。ロボットモノで良くあるアレである。俺は盾を構えてそれを受ける。1割程HPが減って耐えられるか!?と思った瞬間にHPが0になる。無理でした。
そのレーザーのようなモノが消えた時、俺は倒れていた。ゲームで良かったな、リアルだったら消滅していたぞ。
あれは耐えられるものじゃない。食らったら即死コースの必中攻撃だ。相変わらず、厭らしい。
俺は身代わりの指輪を使って復活する。既に死んでいるのに身代わりとはなんだろうな。皆その砲撃の威力に呆然としていたがすぐに攻撃を再開する。アレを再度撃たれたら終わる。そう思っているのだろう。実際そうだと思う。
復活してもヘイトは維持されていた様で助かる。ゴーレムは俺の方に嬉々として走ってくる。正直好かれるのは勘弁願いたい。通常の攻撃は避けられる。問題は無い。ロケットもミサイルも必中とは言え瀕死で耐えられる。心が折れるのとどっちが先かの話だ。
「もう腕を上げるのも嫌になってきた……」
『フィルム頑張れー』
俺が呟くとサーシャが個人チャットを飛ばしてくる。よし、頑張ろう。現金なものである。だが、それとは裏腹にまたあの砲身が出現した。どうしろと……。
皆俺から離れて距離を取る。誰だってアレを食らいたくはない。俺だって食らいたくない。そして粒子砲は俺に降り注いだ。瞬時にHPが0になる。痛みすらない。
アシュリーが蘇生魔法を詠唱している。俺が倒れている間は攻略組の盾役が耐えるらしい。いっそこのまま眠りたい。
ボーっとしていると詠唱が終わり強制的に蘇生される。前回とは違いHPは半分残っていたので激痛はない。普通に痛いだけだ。すぐに回復され、俺は戦場へ連行された。
すぐに戻って挑発を使う。ヘイトは大分あちらの盾役に流れたが、すぐにこちらへ向かってくる。もう少し休んで居たかった。残りのHPは2割程度だ。運が良ければもう来ないだろう。
また耐える時間が始まった。必中攻撃はもう勘弁して欲しい。リアルに戻ったら存分にサーシャをいじくりまわす事だけを支えに俺は頑張る。
ミサイルを食らいHPが半分になる。そして瞬時に砲身がその姿を覗かせる。ボスの残りのHPは1割もない。急げ、急げアタッカー。エネルギーが溜まっていきもう少しで撃たれる、と思った瞬間にゴーレムが倒れた。
「……助かった」
思わず声が漏れる。両膝をついて剣と盾を落とす。もう嫌な予感はない。終わったのだろう。
*ゲームクリアおめでとうございます。そのまま自動ログアウトまでお待ち下さい*
そんなメッセージが流れる。皆歓声を上げる。俺たちはクリア出来たんだ。でも誰かHPを回復してください。半分減っているから体中痛いんです。サーシャが駆け寄ってくる。そしてポーションを飲めとばかりに渡してくる。それを寂しく飲んだ。
「終わったな」
「うん、あっちでまた会おうね」
俺は座りながらサーシャを抱きしめてキスをする。ログアウトするまでずっとこうしていたい。一部の冷やかしの声が上がるが無視だ。リハビリとかでしばらくの別れがあるのだから、最後までくっ付いて居たい。
そして俺たちはゲームの世界から消えた。
VRMMOの部分は終わりです。
戦闘などももうありませんので、面倒なエピローグを読みたくない方はここで終わらせた方が良いかも知れません。




