29話
「そういえば、ランクアップしたんだっけな」
「そうだけど……忘れてたのかい?」
翌日、食堂に集まって今日の予定を話し合っていた時にふと思い出した。昨日はそれどころではなかったのが大きい。ステータス欄を開くと職業が神回避となっていた。何だこれ。
「参考までに聞きたいんだが……皆はどんな職業になったんだ?」
「僕はソードマスターだね。剣特化の攻撃寄りのアタッカーだよ」
「私はランスマスターね。グレッグのと同じのの槍版かな?」
「わしはアタックマスターだな。物理、魔法全般の攻撃職だ」
「私はビショップですね。回復特化になります」
やたらマスター職が多い気がするが、一応MMOとかでも良くある職業っぽい。俺だけ漢字なのはどうなんだろう。ちなみにサーシャは昨晩無理をさせたから未だに寝ている。後で様子を見に行こう。
「俺だけ神回避とかになってるんだが、これって既に職じゃないよな」
「フィルムらしいね。素質特化型は変な職業になるらしいよ。でもそれだけにスキルの性能は凄いみたい」
どうやら俺以外の特化型も変な職業になっているらしい。グレッグ曰くATK特化は破壊者、これは攻撃の極振りはそこそこ居るらしく、それなりに強いとか。INT特化は全能者だそうだ。両方命中に難があるから最初は辛いものの必中スキルや命中アップする装備があるので、それで補っているらしい。
俺はステータスのスキル欄を見る。移動速度上昇、跳躍、握力上昇があった。全部パッシブスキルだ。開発は俺を体操選手にでもするつもりなのだろうか。アクティブは絶対回避、一定時間突っ立っていても絶対に当たらないらしい。凄いスキルだ。
「今日は休みにしようか。昨日の激戦で皆疲れているだろうしね」
グレッグはそう言うとエイミーと共に部屋を出て行く。その方向は部屋ではなく地下室だと思うんだが……朝からお盛んですね。
「では、わしも行くとしよう」
「失礼しますね」
アドンが立ち上がるとアシュリーはその腕に抱きつく。どうやら2人でデートなのかも知れない。俺は立ち上がると俺の部屋で寝ているサーシャの様子を確認する為に向かった。
俺はベッドで寝ているサーシャの様子を見る。どうやらぐっすり寝ているようだ。邪魔をする訳にはいかない。頭を撫でたい衝動はあるが、起こしても申し訳ないのでグッと我慢をする。寝ているのなら溜まった食材で料理を作るのも良いだろう。キッチンへと向かって料理を作り出す。
しばらくそうしているとサーシャが降りてきた。やっと目が覚めたようだ。
「おはよう、今日は休みだってさ」
「……うん、解かった」
まだ寝惚けているのだろうか。水道の所で水を飲んでいる。俺はジュースを取り出し、簡単に食べられるスコーンを取り出す。こんなものまで作れるようになるとは随分と変わったものだ。
「いるか?」
「うん」
俺はそれらをサーシャに差し出す。その光景はどちらかと言えば飼っているペットに餌を与えるような感じだ。決して主に対する献上ではない。ゆっくりと幸せそうに食べる姿を見ている。
それを食べ終えるとこれから何をするか考える。掲示板を見ると南の方の海が安全に入れるらしい。ただ今日は混んでそうだから後日になりそうだ。
「どこか行きたい所とかあるか?」
「トゥースの村に行きたい」
どうやらサーシャは行きたい場所が固まっていたらしい。俺たちはゲートへ向かい、無料でトゥースの村へ飛んだ。
「それで何か予定があるのか?」
「こっち、まずは食堂」
サーシャは俺の手を取り歩いていく。どうやらまずは腹ごしらえらしい。さっき食っていたのにな。食堂に着いてメニューを確認する。相変わらずの和食メニューだ。味噌とか買っていなかった事を思い出す。このゲームでレシピ以外の品物を作るとどうなるんだろうか。
そう思いながら天丼を頼む。サーシャはとんかつのようだ。そういえばオークだっけか……今回は戦った事があるだけに余計食べにくい気がする。
「とんかつ美味いか?」
「うん、食べる?」
そう言って一切れ差し出してくる。俗に言うあーんというやつだ。これは拒否できない。一瞬オーク肉という事で悩んだが、じっとこちらをみるサーシャの視線に負けて食べた。普通の豚肉だった。油が多そうなのだが、特にそういう事は無いらしい。
「中々美味しいな。これなら問題なく食べられそうだ」
「ん?」
サーシャは何の事だか良く解かっていないようだ。メニューを見ていないのだろうか。言わないでおこう。俺たちは食事を終えると外に出た。次はどこに行こうか。
「こっち」
サーシャは俺の手を取るとどこかへ先導していく。もしかしたら今日の行く方向などが決まっているのかも知れない。手を引かれていくとそこは土産物屋だった。以前と変わっていない。
俺たちが土産物屋に入ると相変わらず色のくすんだ色のタペストリーが出迎えてくれる。劣化しないはずなのにくすむとは演出なのだろうか。そこで饅頭と武器に付けるキーホルダーを買う。サーシャが俺と同じキーホルダーを買う辺りバカップル化しているのかも知れない。
土産物屋を出ると通りで開いている店を冷やかして回った。本当にただの観光のようだ。特に何かを買うわけでもなく、ただ商品を見て店主と話す、それだけだ。
俺たちは今、田んぼ道を歩いている。この先はあの草原しかなかった気がする。あの場所は思い出と共にトラウマを抱える原因になっていたからサーシャは近寄らないようにしていた気がするが、どうしたのだろうか。俺たちはそのまま歩き、そしてあの木の下に到着した。
「座ろう」
「ああ、そうだな」
サーシャが座るように言ってくる。本当にどうしたのだろうか。まさかアレをやり直すつもりなんじゃないだろうな。アレから何でもない時に空蝉を使うのは控えている。あれの二の舞はごめんだ。本当にあの時は焦った。
サーシャは俺の肩に寄りかかる様にしな垂れかかってくる。こうしていると眠くなってくるな。
「サーシャ、膝枕してくれないか?」
「駄目」
俺が勇気を出して言うと即拒否された。残念だ。いつもだったら承諾してくれるのにどうしたのだろう。よく解からないが、そうしてゆっくりとした時間を過ごしていった。
夕方になり、そろそろ帰るなり宿を取らないとならないような時間になってきた。具体的に言えば17時。明かりが無いのだから暗くなる前に戻りたい。
「サーシャ、そろそろ戻ろうか」
「ん」
いつもなら普通に返事をしてくれるはずなのに反応が鈍い。体調が悪いのだろうか。昨日は無茶をさせてしまったからそれの影響が出ているのかも知れない。俺は先に立ち上がり、サーシャが立ち上がるのを手伝おうと手を差し出すとサーシャが俺の首に腕を回してキスをしてきた。
俺は驚きながらも振り払ったりはしない。サーシャの背中に手を回すと立ち上がらせてキスを続ける。舌を入れたりなど無粋な真似はしない。やはりサーシャからして見たらあの時の再現だったのかも知れない。
「私はフィルムの事が好きです」
サーシャは唇を離すと俺の目を見てそう言ってくる。
「俺もサーシャの事が好きだ」
俺も見つめ返して言う。あの時、空蝉で回避しなかったらこうなっていたのかも知れない。それの再現だ。傍から見たら茶番だろう。それでもサーシャの中では必要としていたようだ。
サーシャはそれを聞いて、俺を抱きしめて涙を流している。俺はサーシャの背中に腕を回して抱きしめ返す。さすがにこの状態で尻尾を触ったりして茶化す真似はしない。草原の風が俺たちを優しく撫でる。
しばらくそうしているとさすがに暗くなってきた。ここに何時までも居るわけにはいかないだろう。
「サーシャ、帰ろうか」
「うん」
サーシャは泣き腫らした目でこちらを見て笑顔になる。俺たちは自宅へと帰っていった。
「おや?お帰り」
家に入るとグレッグとエイミーが居た。アドンとアシュリーはどうしたのだろうか。
「ただいま、アドンとアシュリーは?」
「2人は泊りだってさ。さっきアシュリーから連絡が来たよ」
毎回帰ってきていたのに帰ってこないとは珍しい。というか、アドンではなくアシュリーから来るとは一体なにがあったのだろう。嫌な予感がするが、巻き込まれたくないので詮索は止める事にする。
「あら?どうやらちゃんとしてきたみたいね」
「うん、大丈夫」
エイミーとサーシャが何か話している。女同士の話に耳を向けるのは失礼だろう。俺は聞かないようにしてグレッグと共に食堂へ向かった。お土産の饅頭を食べたが甘い。緑茶が欲しくなるが、この世界には何故か無く紅茶かコーヒーしかないのでとても残念だ。




