幕間3 リザードマンの罠
*アシュリー視点*
「フハハハハハハ、燃え尽きろ!」
アドンが笑いながら敵を焼いています。今日も素敵です。私はその背中を見ながらパーティの盾役の人のHPに気を配っています。
私たちは今野良パーティに参加し、ダンジョン攻略を進めています。私たちを含めて男4人、女2人のパーティです。私が警戒しているのは敵ではなくもう1人の女ですね。アドンに色目を使ったら即討伐してみせます。
ボス戦が無事終了し、戦利品の分配が始まります。正直今の装備の方が良いので欲しい物はありません。お金もドラゴン討伐でかなり潤っています。とは言え要らないと言うと軋轢を生む為装備ではなくお金を受け取ります。
「アドンさん。うちのパーティと固定メンバーになりませんか?」
警戒していた女がそんな事を言い出しました。始末しなければならないのでしょうか?出来ればそういう光景をアドンには見せたくないのですが……。
「いや、既に固定のパーティは組んでいるのだ。今回は休暇中の暇つぶしのようなものだ」
アドンはそう言って断りました。今の固定メンバーの4人は全てカップルになっている為、私も安心出来ます。フィルムとサーシャは鬱陶しいくらいベタベタですし、グレッグとエイミーは変な信頼関係が生まれています。他のパーティではこうもいきません。
せめてもの救いはアドンの年齢が少し高いことでしょうか。以前聞いた時は30と言っていました。私と11歳も離れています。ゲームのプレイヤーとしては高めの年齢の上にリザードマンなので他の女のプレイヤーが色目を使ってくる事はそこまでありません。
とは言え、油断はせずに行動しなければ危険です。どこにそういう趣味の女がいるか解かりません。アドンは割と古風なタイプなので既成事実でも作れば真摯に受け止めてくれそうです。その為のあの薬なのですから、慎重に行動しなければなりません。
私たちはあの後解散し、自宅へ戻って来ました。他のメンバーは旅行の為、2人きりです。これ以上のチャンスはないでしょう。狙うタイミングはアドンが寝てからです。
この人は察しがいいので、下手に起きている時に透明になっても気が付かれそうです。なので寝ているときに拘束し、襲い掛かるしかありません。幸いアドンはPK設定を切っています。何でも掛かってくる者は誰でも受け入れて戦うんだそうです。男らしくて素敵です。
「アシュリーよ、最近何かよからぬ事を考えてはいないか?」
「何の事でしょうか。特に私はいつも通りですが……」
アドンは何かに気が付いたのでしょうか。私自身も嘘は付いていません。アドンと会った頃から何一つ私にとって悪い事は考えた事がありません。いつもと同じです。そうあの頃から……。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「どういう事だよ!!」
近くで石碑を見ていた男が騒ぎ出しました。集団ヒステリーというのは恐ろしいですね。今、この石碑を見ている人の多くが嘆き悲しみ、泣きながら嗚咽を漏らしたり酷い有様です。1人が騒ぎ出すと不安が伝染したかのように広がりました。私自身はその様子を他人事のように眺め、こんな所に居ても煩いので別の場所へ移動しました。
「どうしようかな……」
恐らくゲームどころではないでしょう。私は呟いて空を眺めます。誰かがクリアしてくれるまでずっと何もせずに居るというのも性に合いません。とは言え、痛みを伴う戦闘を行うのは怖い。ただ町の壁に寄りかかって答えの出ない思考を続けていました。
「お主どうした?」
私に声をかけくる人が居ました。ナンパでしょうか。現実と同じ容姿と解かるとそうしてくる人が何人も居ました。正直、ゲームをやりたかっただけなのに。と言っても先程の騒ぎからは自分の事で精一杯でそんな余裕はないみたいですが。
私は声をかけてきた人を見ると人間ではありませんでした。リザードマン。説明書を読んだ時に書いてありましたが、殆どが人間に近い種族ばかりです。耳と尻尾だけ違う獣人系、羽が生えているだけの鳥人。ほかは殆ど人間です。VRMMOは見た目が思いっきり影響する為、いかにも魔物という風貌の人は少なめです。
「いえ、どうしようかな、と」
「もったいないな。共に狩りに行くか?」
まさかこの状況で狩りのお誘いが来るとは思いませんでした。ここで立っていても仕方ないので、警備団の詰め所でクエストを受けると兎狩りへと向かいます。詰め所でクエストを受けられる事自体知りませんでした。
「フハハハハハハ」
この男は信じられない事に兎からの攻撃を何なく食らっていきます。痛みに対する恐怖がないのでしょうか。私も慌てて回復魔法を飛ばしていきます。HPが3割を切る程減っていても気にせず狩りを続けます。私はプリーストなので攻撃は来ませんが、この男、アドンさんはずっと気にせずダメージを食らい続けます。痛みが麻痺しているのでしょうか。私は狩りを終えてアドンさんに尋ねてみました。
「アドンさんは……どうしてこんな事を?」
「質問の意味が解からんな」
痛みを無視して戦い続ける、それはまるでゲームをしているようです。こんな状況でそんな事をし続けるなんて正気の沙汰ではありません。
「ふむ。ゲームなのだから楽しむのは当然だろう?」
驚きました。こんな状況でも未だにゲームと言える事に。
「で、ですが、痛みも本物と同じなんですよ?」
「と言ってもゲームだ。死ぬ事はない。ならば全力で楽しむだけだ」
死ななければ何でも良いのでしょうか。正気とは思えません。この人に付いていったら私もおかしくなりそうです。ですが、私は何故か去る事が出来ませんでした。
「お主に声をかけたのは、同士になれると思ったからだ。一緒にこの世界を楽しめる同士にな」
アドンさんは私をじっと見つめ言ってきます。私は目を閉じて考えます。一緒に楽しめる同士……。
「いきなりこんな事を言われても困るだろう。良く考えてみてくれ。ではわしはこれで……」
「いえ、一緒に行きましょう。私もこのゲームで楽しみたいから始めました。こんな状況になってしまいまいたが、始めた切っ掛けは変わりません。楽しみましょう」
アドンさんが去ろうとした時、私は自分の答えを出しました。私はゲームが好きです。だからVRMMOという普通の人には少しハードルの高い遊びもやっているのです。
「そうか、よろしくな。アシュリー」
アドンさんは笑いながら私の名前を呼んできます。
「こちらこそよろしくお願いします。アドンさん」
この数日後、まさか範囲魔法を使って狼の集団に追いかけられるとは思いませんでしたが。
それから私たちは色々なパーティと組みました。その中でも一際目立っていたのは、ゲームを心の底から楽しんでいるパーティです。彼らと固定パーティを組もうという誘いにアドンさんは経験を積みたいから、と断りました。恐らく経験値は私たちではなく、私のだと思います。アドンさんの立ち回りはゲームの枠を超えて素晴らしい物がありました。私が足手まといになっているのかも知れません。
そして、私の経験を得る為に様々なパーティと組み始めました。中にはアドンさんの強さに惚れ込みパーティに誘う所、断られても色仕掛けで誘おうとする人まで居ました。そういう誘惑に強いみたいですが、アドンさんはどこか無茶な所があるので、私が守らないと駄目ですね。そう思うようになっていきました。
大会を経て私たちは以前言ってたパーティと合流しました。その日の夜の出来事です。
「なぁ、アシュリー。そのさん付けを止めないか?」
アドンさんがそんな事を言い出しました。もしかしたら遂に認められたのでしょうか。
「はい、解かりました。癖もあるので間違えて付けてしまうかも知れませんが」
平静な顔をして言っておきます。ですが、内心は私は喜びが止まりません。このままアドンさんに襲い掛かりたいくらいです。
長く回想をしてしまいましたが、私は一点を除いて現状に満足しています。アドンは私を大切にしてくれます。ですが、一向に手を出そうとしてくれません。そこでこの薬です。アドンがインナー設定を外している事は確認済みです。限りなくリアルに近い設定をしている事は既に調べています。
夜、アドンが寝静まった事を確認すると透明になります。音を立てずに部屋に入りアドンの手足を拘束していきます。これでアドンはベッドの上下の柵に括り付けられました。
「む、なんだこれは」
さすがのアドンも起きたようです。身動きできない事に困惑しているようですが、私はアドンに馬乗りになると透明になる効果を切りました。
「アシュリー?これは一体どういうことだ」
「いえ、アドンが一向に私に手を出してこないので、強行しようかと思いまして」
アドンの顔が青くなります。ここまで取り乱すアドンは初めて見ました。そして私は抵抗の出来ないアドンを弄びました。
「これを外してくれないか?」
「いやです」
私は即答で答えます。今は既に行為も終え2人でくっついて寝ています。
「アシュリーがこんなにも想ってくれているとは思わなかった。そういうのには疎くてすまん」
「いえ、気付いてくれただけでも嬉しいです」
どうやら怒ってはいないようです。これなら拘束を外しても問題なさそうです。拘束を外すとアドンは手足を軽く回し、状態を確認すると私の頭に手を置きます。
「アシュリーはわしでいいのか?11歳も離れているぞ」
「良いんです。私が愛しているのはアドンだけです。ログアウトして現実に戻っても離しませんよ?」
ゲームの中だけで終わらせるつもりはありません。私はこの人とずっと、それこそ死んでも一緒に居たい、そう思っているのですから。
病んでいる人の視点で書きました。難しいですね。
罠に掛かったのはリザードマンの方でしたとさ。
本人は自分が病んでいる事に気が付いていません。とても恐ろしいです。
アドンにとってのアシュリーは歳の離れた妹くらいにしか思っていませんでした。
追加:アドンは大らかなのか、普段から部屋の鍵をしていません。常時開けっ放しですね。
誰かが入ってきたら何となく解かるようですが、今回はアシュリーの気配を上手く隠す技術と透明になる薬のお陰でこんな結果に。




