21話
それから俺たちは数日間レベル上げやクエストの消化を勤しんだ。主に採掘での装備の充実化を目的としていた為、ダンジョンには行っていない。LV30ちょっとだと適正なダンジョンが少ない為、回避盾だと辛いらしい。
そしていつの間にか俺たちのレベルが40まで到達したある日の出来事である。
「うおらぁ」
目の前の男が手に1本ずつ剣を持って切りかかってくる。1撃目の斬撃は盾で殴り、2撃目は何なく回避する。この程度の攻撃では当たるつもりは全くない。
「この程度か?」
「畜生……何であたらねぇんだよ」
俺は口で挑発をする。プレイヤー同士の対人戦では挑発の効果はない。なので雰囲気作りに言っている。彼とは何度も戦っている。確か攻略組のメンバーの1人だった気がする。グレッグが連れて来ているので良く知らない。
「ほら、頑張れー」
家の食堂から声援が飛ぶ。名前は忘れたが、この子も攻略組のメンバーだったはずだ。ハイプリーストらしい。
「アインさん、足や体当たりも使いましょうよ。フィルム相手に剣やスキルだけでは当たりませんよ」
これはグレッグだ。結構前からアドンやエイミーと一緒に戦闘技術を教えている。たまに俺が的として参加する事がある。
「んな事を言われてもそうそう出来るもんじゃねーよ」
「そりゃ、グレッグは元不良だからな。使える物は何でも使ってたし」
さり気なくグレッグの過去をばらす。3年位前までこいつはそんな事をしていた。高校入学と共にモテたいからとか言って引退したんだとか。
「え?この優男が?ハハハハハハハ」
アインと呼ばれた男は大笑いする。どうやら何か壷に入ったらしい。
「フィルム、人の黒歴史を勝手にばらさないでよ……」
少し落ち込んでグレッグが言ってくる。これもまたいつもの事だ。パーティのメンバーは全員知っていたりもする。M趣味と一緒に。
「そんな事よりアインさん。そろそろ時間になってしまいますよ」
グレッグがメニューから時間を見て言う。スタミナのようなゲージがない為、戦おうと思えばいくらでも戦える。こっちからは攻撃が出来ないので時間制限を設けていた。
「おっと、笑っている場合じゃねーな。一撃くらい入れてやる」
「おう、来い」
俺はその気合を受け取り剣と盾を構える。アインはいきなりダブルスラッシュを撃って来る。こんな見え見えの攻撃は簡単に避けられる。そこから蹴りが放たれた。これも予想内だ。グレッグと戦っていればいくらでもやってくる。全く問題は無い。
そこから左手の剣で突いて来る。この程度では当たる気配はない。そして最後に剣閃を使ってくる。範囲攻撃は卑怯です。魔法ではないから空蝉で回避する。そして俺は距離を取る。
「時間です」
グレッグが言うとアインは肩を落としてがっくりとする。結局1発も当たらなかった。
「最後に範囲攻撃は嫌らしかったな。攻撃範囲が狭いから剣士タイプの攻撃は範囲でも中々当たらないんだがなー」
俺はそれだけ言ってフォローしておく。空蝉がなければ普通に当たっていたと思う。何でこいつらは変な姿勢から攻撃に移れるのか解からない。
「次は当ててやるからな。待ってろよ」
アインはそう言うと剣を鞘へ戻す。あっちもそろそろ終わりそうだ。
「フハハハハハハ、まだまだ甘いぞ!!」
「ちょ、止めて下さい。捌き切れないですよ」
横を見るとアドン、エイミー組対重戦士、魔術師組の戦いが起こっていた。戦いというより一方的な蹂躙の様な気がするが……。
「盾役!後衛を守れてないわよ!!」
「うおおおおおお」
アドンが盾役を魔法の弾幕で連続ヒットさせている間にエイミーが飛んで後衛の魔術師を強襲していた。あれはマジで勘弁願いたい。対人戦だと気をつけないと後衛にすぐに行けるから盾役は余り役に立てない。
「ありゃ、すぐに決着が付くな」
近くに居たアインが決め付ける。お前の仲間だろうに。その後バランスを崩された勝負は呆気なく終了した。対人で空を飛ばれたらどうしようもないわな。
「お疲れ様でした」
グレッグが訓練を終了させ食堂に集まっている皆に声をかける。今回も広める為に料理を披露している。ちゃんと食事をしている者も居ればデザートばかり食べている者もいる。太らないって素晴らしいな。
「攻略は順調なのか?」
「ああ、今の所はお前たちに力を借りなくても済みそうだ。水中は魔法主体だな」
攻略組のリーダーの魔術師、クラークに聞いてみると問題は無いらしい。そもそも魔法が主体になっていたら範囲で俺は焼かれているだろう。炎かどうかは知らないが。
「盾役は少ないからすぐにでも参加して欲しいくらいだがな。忙しくて他のメンバーの強化に行く盾役が全然足りていない」
そりゃ痛みをリアルと同じ様に感じるゲームで盾役はやりたくないだろう。この重戦士は大変そうだ。火山エリアとか来たら更に辛そうだ。戦闘中はそれくらいの重装備である。
「その辺りは止めておこう。俺たちは自分達の強化だな。今の目標はドラゴン討伐に設定しているし、余裕がない」
「ほう、ドラゴン討伐するのか。あそこは未だに達成した者がいないから情報が欲しいな。討伐したら教えてくれ」
盾役同士苦労も解かるからか、結構意気投合する。ちなみに名前は未だに覚えていない。
「ちゃんと情報は出すよ。可能なら何度もクリアしたいしね」
グレッグが会話に参加してくる。何度もやるのか……下手な強さだときついんだがな。そうして、俺たちは雑談を続ける。他のパーティとの交流は余りないから貴重である。
「それじゃ、ドラゴン退治に行こうか」
翌日、当たり前のようにグレッグが言ってくる。相変わらず突然だな。
「戦い方とかは解かったのか?」
「もちろん。ドラゴンの攻撃の手段は腕による攻撃、突進、ブレス、尻尾による旋回の4つだね。腕による攻撃は1人に攻撃だからフィルムだけ警戒すればいい。突進は後衛まで巻き込む事があるから後ろの人たちは油断しないでね。距離を取れば事前モーションを見てからでも歩いても避けられると思う」
グレッグはそこで一旦切り、質問がないか皆を見渡す。皆真剣に聞いている事を確認するとまた話し出す。
「尻尾による旋回は前衛アタッカー、つまり僕とエイミーが気をつければ大丈夫かな。フィルムは問題なさそうだし。問題はブレスだね。これは魔法扱いだから来たら絶望的だと思う。威力がイマイチ解からないけど食らったらすぐに回復をして欲しい」
攻撃に関して説明を終える。ブレスがそんなにやばいのか。また痛みに耐える必要が出そうだ。グレッグが絶望的というくらいだ。相当やばいのだろう。1回食らってみない事には具合も解からない。以前動画で全滅したのを見たが視点が盾役ではなかったので、ブレスの発動までの間隔や仕草の変化は確認出来ていない。自分の目で見るしかないだろう。
「一応火耐性に強くなっておけば軽減できると思うからボス戦前にバフお願いね。サーシャ」
「うん、ちゃんと忘れずにかける」
どうやら属性防御が関係しているらしい。軽減は出来ても無効出来ないのは残念ではあるが、ないよりは大分いいだろう。サーシャも最近は明るくなってきて大分他のメンバーとも打ち解けたようだ。以前のような緊張が見られない。
俺たちは新調した装備を持ちドラゴン討伐の為にトゥースの村へ向かった。
ゲートを抜けるといつもの風景だ。何度もレベル上げで立ち寄ったので見慣れている。俺たちはそのままドラゴンを呼べる土台がある所まで歩いてく。以前オーク狩りをした森の辺りだ。周囲には敵が居ないので警戒をする必要はない。
「今回はこれだね。竜の牙」
そう言ってグレッグが白い物を取り出す。こんなもの何時の間に手に入れたのだろうか。
「竜の牙なんて良く手に入ったな。いつの間に取ったんだ?」
「ん?村の土産物屋で売ってるよ」
どうやら竜の牙と呼ばれるただの工芸品のようだ。それでいいのか?
「それじゃ行くよ」
グレッグはそう言って牙を置く。するとすぐに草原のフィールドへ移動した。ドラゴンが遠くに見えるが、一向に寄ってくる様子はない。近寄ってくるまで待っているのだろう。
「バフかけるから寄って」
サーシャがそう言うと対象範囲の拡大を行っていつものバフと火属性防御を全員にかける。俺たちはそれを確認し、ドラゴンへと歩いてく。近くで見ると相当な威圧感だ。写真でも取って飾りたいような姿だ。
「行くぞ。”空蝉”」
俺はそう言うとスキルを使ってドラゴンに向かって走り出す。気合で負けたら勝負にならない。勝つつもりでやらなければならない。俺は接近して挑発を使う。敵の前足での攻撃は遅いので簡単に避ける。グレッグとエイミーがドラゴンの左右に走っていく姿が見える。後方からは早くも魔法が飛んで来る。出来ればもう少しヘイトを稼いでからにして欲しかったが、皆緊張しているのだろう。なら、俺が全力で味方に攻撃を行かないようにすればいい。
定期的にヘイトを稼ぐスキルを繰り返し使う。今の所は前足での攻撃と尻尾での攻撃しかしてこない。この程度であれば簡単に避けられる。そうしているとドラゴンが前足を少し下げる。
「突進が来るよ!!フィルムの後ろに居る人は注意して!」
グレッグから指示が飛ぶ。俺の少し後方に居たサーシャとアシュリーが俺を中心に扇状に横にずれていく。回復やスキルの範囲ギリギリで移動しているのだろう。
ドラゴンは前足に力を込めると一気に突撃してくる。俺はそれをドラゴンの腹の下を通り抜けるように回避する。凄い迫力だ。
「っと、回避成功だ。問題ない、攻撃を続けてくれ」
俺は状況を伝えると仲間達は攻撃を開始する。痛覚がなければそのまま行けるが、下手にダメージが大きいとのた打ち回ることもある。そうなったら攻撃を続けるのは難しいだろう。
俺はブレスに警戒する。物理攻撃は全て避けることが出来そうだが、ブレスだけは回避が一切出来ない。全然撃つ気配は無いが、HP減少での攻撃なのだろうか。
そのまましばらく攻撃を続け、ドラゴンのHPを順調に削っていく。攻撃力がどれくらいか解からないが、当たらなければどうという事はない。ドラゴンが残り3割程になった頃だろうか、遂にそれが来る。
ドラゴンが尻尾で旋回してくる。タイミングが悪かったのか回避の姿勢が取れない。俺はそれにぶつかりそうになると空蝉が発動した。
「ハハハ、馬鹿め!残像だ」
一生に一度は言ってみたかった。少し離れた所に瞬時に移動する。そして仲間達の冷たい視線が……なかった。何か嫌な予感がしてドラゴンの方を見ると口から火が漏れている。これはやばい。
そしてドラゴンのブレスが飛んで来る。炎は扇状に広がっていく。これは距離を取れば回避できるかも知れない。そう思いながら俺は焼かれている。痛覚も痛いというより麻痺し出して口から息しか出来ない。自分が立っているのか倒れているのかすら解からない。
火事などの火傷であれば徐々に熱気で焼かれていくが、ブレスは一瞬だ。一気に高温で焼かれる為、痛みというより熱いとしか思わない。このまま救出されれば痛みがあるかもしれない。だが、俺は一瞬でHPが0になる。
「アドン!盾の代わりを頼む!僕とエイミーでは防御とHPが足りない。アシュリーはフィルムの復活は後回しだ。アドンのHPを全力で回復してくれ。ここからは消耗戦だ。アイテムを使っていくぞ」
グレッグが一瞬で判断を下し、すぐに仲間達は対応していく。サーシャはこちらをチラチラ見ながら戦っている。ちゃんと自分の役目を忘れずにやっていて良かった。戦闘はまだ終わっていないのだ。アドンが剣と盾に持ち替え防御と魔法を交互に行っている。だが、その表情は険しい。前衛寄りになったとは言え、本来はウィザードである。リザードマンで金属鎧を装備していてもダメージは大きいだろう。
ターゲットを取らないようにアシュリーが必死で回復を飛ばす。エイミーとグレッグは威力の高いスキルを使わずに通常攻撃で確実にダメージを与えていく。アドンとアシュリーはポーションをがぶ飲みだ。薬中毒とかないのかね。サーシャはライトボールを使うのと同時にアシュリーに無理やりポーションを飲ませている。ゲームならではとも言えるが、その光景は結構酷い。
個人チャットをしたら邪魔になるので俺は漠然とその様子を見ている。時間はかかったが、どうにかドラゴンを倒せたようだ。仲間達が全員こちらに向かってくる。アシュリーは何か詠唱を始める。サーシャが近寄ろうとしているがエイミーに捕まって止められている。アシュリーの魔法が発動すると俺のHPはわずか残して復活した。
「うおおおおおおおお」
痛みがぶり返してくる。HPが殆どない状態なのだから当然だろう。死に戻った方がマシだと思う。デスペナないし。慌ててアシュリーが回復魔法を使い、サーシャが俺にポーションを無理やり飲ませる。しばらくすると痛みが落ち着いてくる。
「復活魔法やばいな……戻った方がマシだ……」
「みたいだね。まさか瀕死で復活するとは思わなかったよ」
グレッグが理解してくれたようだ。何を考えてこんな仕様にしたのだろうか。嫌がらせか。
「何はともあれ、倒せてよかったではないか。ギリギリだったがな」
アドンが何が面白いのか笑いながら言っている。戦場の高揚感全開なのだろうか。いや、いつもこんな感じか。
「そうだな、俺が倒されて壊滅しなくて良かったよ。まさか即死するとは思わなかった」
「うん、心臓に悪い」
サーシャが上半身だけ起こした俺に抱きついてくる。さすがにこの場所は録画されているので、それ以上のことはしない。俺たちは立ち上がり、宝箱へと向かう。何が出るのだろうか。
「さて、開けるよ」
グレッグが待てないとばかりに箱を開ける。今の所情報として公開されていないボスの戦利品だ。ゲームのプレイヤーとしては凄く興味があるだろう。中に入っていたのは、鎧、盾、そしてスクロールだった。
「思いっきり防具だね。とりあえず鑑定に行こうか」
俺たちは鑑定をする為に村の道具屋へと向かう。結構大変だったが、倒せてよかった。アドンが思った以上に盾役が出来て凄かったと思う。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ぬるいわっ part6
558 名無しの大剣士さん
最近ネタがないと思ったらリーダーからの情報で見てきた
っ「動画」
559 名無しの魔術師さん
え?これドラゴン?
こいつら正気か?
560 名無しの大剣士さん
ああ、攻略組の精鋭でやってもまだ倒せない相手だな
ブレス以外はどうにかなるんだが、ブレスで盾役はやばい
561 名無しの突撃兵さん
火属性の耐性に各種バフか・・・
初期だとエンチャンター系は役に立たなかったがそろそろ必須だな
562 名無しの魔術師さん
猫耳ちゃんハァハァ・・・
563 名無しの弓使いさん
相変わらずの回避だな
全然当たってないわ
お、突進まで綺麗に回避しやがるのか
564 名無しの回避盾さん
回避するにも左右じゃなくて
股下とかどんだけ度胸あるんだよ
下手したら潰されて即死だぞ?
565 名無しの忍者さん
残w像wだw
いや、気持ちは解かる
俺も忍者だし
566 名無しの大剣士さん
そしてすぐその後焼かれて倒されてるしwwww
相変わらず格好つかねぇな
567 名無しの魔術師さん
え?リザードマンがサブ盾やるのかよ
ウィザードじゃなかったっけか
568 名無しの弓使いさん
リザードマンは硬いな
金属鎧を種族で装備できるから魔術師でも何気にいけるな
569 名無しの大剣士さん
下手したら俺より硬いぞ、これ
後でリーダー経由で聞いてみよう
570 名無しの肉壁さん
-= ∧ ∧
-=と(・∀ ・) <ハハハ、馬鹿め!残像だ!
-=/ と_ノ
-=_//⌒ソ
. -‐ニ ̄ニ‐- .
_/ \_
=二 ̄ / ',  ̄二=
 ̄7'' ―― ___ ―― 戈 ̄
――― 从,,i ; `. 、 .尢r、――――――
/\じ'jl|此ト=メ i;_,,爻,,i| 刈ゞメ
``‐ヾ:;!Iヅ 〃!iメト辷-" ^
571 名無しの槍使いさん
爆発でけーよ
572 名無しの大剣士さん
お、倒しやがった
何気に凄いパーティだな
573 名無しの忍者さん
問題はブレスみたいだね
耐性装備を用意すればどうにかなりそうな感じがする
574 名無しの大剣士さん
回避盾で耐性装備か
集めてやるぞ、忍者
575 名無しの忍者さん
お断りでござる
576 名無しの魔術師さん
振られるの早すぎwwww
あれ?猫耳ちゃんが・・・
577 名無しの大剣士さん
お前も振られているじゃないかwwwww
しかも告白前にwwwwww
攻略組の数名が登場しました。
アイン:ダブルソードの男。攻略組の前線でがんばる人。
エイク:ハイプリーストの女の子。男で始めるつもりだったらしい。
ブラッド:へビィウォリアーの男。攻略組の数少ない盾役。
クラーク:ハイウィザードの男。攻略組を纏めるリーダー。