20話
「ドラゴン?」
あの後、俺とサーシャは皆と合流し自宅へと戻ってきた。現在食堂で話し合いをしている。そこで出たのがこの単語である。
ドラゴンと言えばファンタジーの代名詞とも言える存在だろう。最近は結構噛ませもあるが。
「うん、あの村にドラゴンがフィールドボスとして居る場所があるんだってさ」
「フハハハハハハ、それはいい。戦ってみようではないか!」
アドンが凄くやる気だ。確かに珍しい相手なら良い装備が手に入るかもしれない。問題は俺たちで倒せるかどうかだ。
「そのドラゴンはどれくらいの強さなんだ?」
「結構強いね。戦闘データを見る限りでは、僕達でもLV40近く必要そうかな。まだ勝った人は居ないみたいだし」
どうやらすぐにどうこう出来る相手ではないらしい。ドラゴン討伐を目標にしてダンジョンやクエストを消化してレベルを上げる。そういう方針に決まった。
アドンはすぐにでも向かいたそうにしていたが、グレッグとアシュリーの説得でどうにか落ち着いた。
俺たちは解散し、各自別行動のようだ。もう20時だが、風呂に入れるようになるにはまだ時間があるし、買ってきた材料で料理でもしようと思う。
とりあえず米を炊く。洗うのと火力を変更するだけだから特別な手順は必要ない。ただ火力を間違えると芯が残ったり焦げたりするので注意だ。
同時にパエリアを作る。魚類はマルタの町で以前入手済みだ。アイテムボックス内は鮮度を保っているのでかなり便利である。
パエリアは基本的に炒めて炊いて完成である。炊く所まで進めていると湯上りの状態のサーシャがやってきた。
「お、サーシャ。匂いとか体に付くから離れていてくれ」
パエリアは基本的に匂いの強いニンニクを使用する。近寄ったら折角風呂に入ったのに匂いが移ってしまうだろう。
「ううん、いいよ」
そう言うとサーシャが後ろから抱き付いてくる。後は炊くだけなので、特に大した手順はない。しかし、料理をする男に抱きつくって逆だろう、と思う。
エプロン姿のサーシャを妄想しているとエイミーがやってきたようだ。
「良い匂いね。何を作っているの?」
「パエリアだ。完成したらまた配るよ」
そう伝えるとよろしくねーと言って去っていく。抱きついているサーシャは放置らしい。既に知っているのかもしれない。
「サーシャ、エイミーに相談とかしたのか?」
「うん、喜んで乗ってくれたよ」
もしかしたら抱きついてキスをしようとしたのもエイミーの策だったのかもしれない。盛大に失敗していたが。気が弱くて積極的とはお世辞でも言えないサーシャにしては珍しい行動だったと思う。
パエリア作成と米炊きを終えるとアイテムボックスへ仕舞っていく。こうすれば分配する時に暖かいままで渡せる。リアルでもアイテムボックスが欲しい。そうすればサークルでカレーパーティが出来るのに。ちなみに、何のサークルに入っていたかは秘密だ。
時計を見るともう21時になっていた。米を使った料理は時間がかかるから困る。だが、これで風呂に入れる時間だ。
「サーシャ、そろそろ風呂に入るから離れてくれないか?」
「ん、後で部屋に行くね」
そう言うと俺から離れる。後で部屋とは……考えないでおこう。色々と危険になる。色々と考えながら風呂の扉を開けると目の前には裸の……アドンが居た。何でこいつは裸なんだろうか。
インナーを外せない状態でも体を洗えばそんな気がするし、風呂に入れば濡れている感覚はある。汚れるわけではないから風呂に入るのは自己満足だ。必ず必要なわけでもないし、ましてや全裸になる必要もない。
「お前、何で全部脱いでいるんだ?」
「風呂で裸になるのは当然だろう」
アドンは当然のように言ってくる。俺が変なのだろうか。後から入ってきたグレッグに聞いてみると好みは人それぞれだからね。とはぐらかされた。ちなみにグレッグは全裸ではない。そんなもんかね、と思いながら風呂を出る。
『フィルム、来たよ」
自室に戻り、ベッドの上で大の字になっているとサーシャから個人チャットが飛んで来る。
『許可を出したから入ってくれ』
操作をしながら個人チャットを送り返す。すぐに部屋にサーシャが入ってくると俺のもとへ小走りで向かってくる。そして寝転がっている俺に抱きついてくる。2人でベッドに寝転がっている姿勢だ。今回は予測して空蝉を使っていない。この状態で使っていたら俺だけベッドから落ちていた。
告白後のサーシャの様子を見ていると、どうやら俺よりもくっつくのが好きらしい。俺もそこそこ好きだから苦にはならない。ただ料理中は離して欲しいが。
ベッドで抱きつかれていると変な気分になる。さすがに今日の恋人になってすぐに手を出すのはどうかと思う。そんな事を言っているから俺はまだDTなのかも知れないが。
サーシャの頭を撫でながら尻尾に触れる。サーシャは触れたときに少し驚いたようだが、すぐに力を抜く。どうやらOKらしい。
「なぁ、サーシャ。耳の中ってどうなっているんだ?」
「んっ……どうと……いわれてもっ……」
尻尾に触りながら聞いてみる。何か声が怪しい気がするが、単に尻尾に触れているだけだ。
「耳の中まで触ってみても良いか?」
「ゾクゾクしちゃうから駄目」
サーシャは俺に抱きつきながら言ってくる。そんな事を言われたら触りたくなる。俺は指で猫耳の毛の部分を触れてみる。フサフサしている。もうすこし指を入れてみるとサーシャは耳をビクッと動かす。どうやら効いている様だ。
サーシャの耳と尻尾に触れていると、どんどん息が荒くなっていく。舐めたかったが、さすがにそこまでやるのは危険だろう。尻尾だけで我慢する。こうなったら最早、理性との勝負だ。どちらが先に負けるかの瀬戸際である。こうして夜は更けていった。
目を覚ますと隣に裸のサーシャが居た。結局我慢できずに手を出してしまった。何が今日恋人になってすぐに手を出さないだ。数時間前の決意すら意味がなかったようだ。
「ん、おはよう」
サーシャも目を覚ましたようだ。自分の格好を見てすぐに装備を開いて変更する。とても残念だ。俺もちゃんと服を着てベッドから降りる。体に汚れが付着しないというのは便利だ。このまま普通に歩いて外に出れそうである。
「お風呂に入ろう」
サーシャにシャツの裾を捕まれるとそう言われる。気分的な問題なのかもしれないが、恥ずかしいのだろうか。俺とサーシャは風呂場に行き、入浴中の札をかけて2人で入った。インナー付きで。
気分的にさっぱりして風呂から出ると食堂に皆集まっていた。こちらを見る目が生暖かい。バレバレのようだ。
「おはよう。早速料理をくば……」
「その前にいう事があるんじゃないの?」
エイミーに遮られる。どうやらちゃんと仲間には言えという事らしい。お前らだって隠していたじゃないか。そう思ってエイミーを見ると睨みつけられた。怖いです。
「ああ、うん。サーシャと付き合う事になった。共々よろしく頼む」
早くも屈した。サーシャは俯いている。どうやら照れているようだ。グレッグ、エイミー、アドン、アシュリーが祝ってくれる。アドンは宴会だ、とか言いだしているがアシュリーがいつものように止める。
「まぁ、なんだ。料理を配ろう」
俺は強引に話を変えると炊いたご飯、パエリアを皆に配る。アドンはパエリアより白米が気になったようだ。昨日見た感じでは特に臭みもなかったので大丈夫だろう。皆料理を回収していく。
「ご飯は後で食べるとして、今日の予定を決めてしまおう。今日は昨日の村の警備団の所でオーク討伐のクエストがあったから消化しようと思う。殲滅速度次第だけど2件こなしたいと思う」
アドンとアシュリーが加わった事で殲滅速度は上がるし、多少無理しても回復があるから持久戦も出来る。バランスの良いパーティというのはそれだけで狩りの速度が上がるものだ。
「フィルム、オークには魔法を使ってくる相手もいるから範囲魔法に注意してね」
どうやら俺の最大の敵がいるらしい。気をつけないと倒されてしまう。魔法だとじわじわ来るらしいから大変だ。俺たちは食事を終え、ゲートを使って昨日の村へと向かった。
村に到着すると自警団へクエストを貰う為に移動だ。同時に2つを受ける事が出来ない為、往復が面倒だがそういう仕様なのだから仕方ない。移動しようとするとサーシャが手を繋いでくる。俺はその手をしっかり掴むと一緒に歩き出す。エイミーがこのバカップルがという冷たい目で見てくるが、今の俺たちは無敵だ。バカップルには敵が居ない。
自警団に入るとグレッグがパーティを代表してクエストを受けてくる。一応全員でマップを確認してサーチを行う。全員で確認するのは非常時に逃げた時に方向を見失わない為だ。迷子になったら助かる見込みはまずない。誰だって痛いのは嫌なのだ。
「西門だね。村からそう遠くない位置に居るみたいだから、逃げ帰るのも大丈夫かな」
グレッグが声に出して言う。最初の町はそこそこの大きさだったので自警団も大きかったが、この村の規模を見ると逃げ帰ったら大惨事になりそうな気がする。大丈夫なのだろうか。それをグレッグに聞いてみると
「ん?ああ、大丈夫みたいだよ。自警団の人たちが倒されると村人が総出で狩るらしい。倒されても広場で復活するみたいだし」
との事。俺たちと同じように復活するらしい。てか、村人強いのな。
俺たちは村から出ると街道をしばらく歩く。街道の横には木々が連なり視界が悪い。その後しばらく歩くと林というよりは森に近付いてくる。サーチを見る限りそろそろのようだ。
「ここが安全みたいだし、釣って来るよ。ここで待機してて」
グレッグが行って来るらしい。エイミーや防御の高いアドンでも行けると思うが、サーシャのバフを確認するとグレッグがこれは自分の役目とばかりに有無を言わさずに向かう。
「ごめん、オーク3体」
叫び声が聞こえる。どうやら失敗して3体リンクしたようだ。といっても3体程度ならどうにかなるとは思う。魔術師タイプが居たら厄介だけど。
「”空蝉”」
空蝉のスキルを発動し、万が一に備える。そのスキルの発動を見てサーシャが睨んでくる。やっぱり許してなかったようだ。
剣を構えて待っていると、グレッグが飛び込んできた。その後ろにはオークが3体いる。プロヴォークを使い3体をこちらに向ける。見た感じでは戦士が2体、魔法が1体だ。面倒な。
「魔法タイプから倒すよ!範囲を使われたら壊滅する恐れがある」
グレッグはそう指示を出す。まるでそれを聞いていたかのように魔法タイプのオークは長い詠唱を始める。接近している2体のオークの攻撃を回避しながら俺は覚悟を決める。
普通のプレイヤーであれば攻撃を与えたりノックバックや頭を狙って一瞬気絶させるという手もある。だが、俺たちの今のスキルにはそんなものはない。精々アドンのスリープが入るかどうかだ。アドンはそういう小手先の技を使わない。攻撃あるのみ、というタイプだ。期待はしない。
俺はいつもより剣と盾を強く握り、ダメージに備える。必死にアタッカーの3人が攻撃を仕掛けるが間に合わないようだ。俺は炎に包まれる。歯を食いしばりそれに耐える。その間も戦士のオーク2体の攻撃を避けなければならない。盾役は耐えてこそ意味があるのである。
皮膚を焼かれ火傷に似た痛みを発する。肌を見ても爛れたりはしていない。あくまでダメージだけ来る。体の一部が未だ焼けるように痛いと思ったら燃えていた。どうやら燃焼の状態異常を食らったようだ。アシュリーがキュアを使い燃焼を消す。そして回復魔法の詠唱を始めた。魔法で燃えている間に1度痛みが和らいだ気がしたので、途中に1回、回復魔法を使っていたのだろう。痛みが減るという意味でも助かる。
魔法タイプのオークの方を見ると既に地に伏せていた。どうやらあの後すぐに倒されたらしい。そこまでHPがある感じではないようだ。戦士タイプだけなら6体でも行けるかもしれない。魔法タイプと半々になったら絶望的だが。
回復魔法を使ってもらい痛みはもう殆どない。順調に避け戦士のオーク2体を難なく倒す。
「釣りミス。ごめん」
「長くやっていればそういう事もあるさ。次を頼むぞ」
釣りのミスは仕方ない。運が悪くてどうしようもない事もある。それを1人に責任を負わせるほど俺たちは薄情でもない。今まで少なくとも1ヶ月一緒に居たのだ。アドンもアシュリーも大人だ。実年齢は解からないが、野良パーティをやっていれば、これくらいのトラブルはあるだろう。
サーシャが駆け寄って来たそうだったが、それを片手向ける事で制する。下手に心配しすぎるとグレッグの気分が落ち込む。サーシャは頷くとその場で待機する。
「それじゃ、行って来るね。今度は気をつけるよ」
「魔法タイプじゃなかったら6体までいけるぞ」
先程の手応えから普通にいけそうだ。空蝉が消えてしまったのは残念だが、そもそもあれは保険だ。無くても問題は無い。その後、俺たちは特に問題なくオーク200体討伐を終えた。
「次はなんだ?」
「採取だね。薬草と鉱石の採取になるからアシュリーとエイミーに頑張ってもらう事になると思う。場所は襲ってくる敵が多いみたいだし、僕達も護衛で必要になるよ」
グレッグが一気に話す。どうやら俺たちは採掘や採取する場所で踊っていれば良いらしい。楽な仕事だ。
俺たちはつるはしの残数の確認をし、余裕を持つ為に余分に買って採掘、採取出来る場所へ向かう。近い所から根こそぎという流れだ。他にプレイヤーも居ないし取りたい放題である。ゲートから近くなのに居ないのは少し不自然かも知れない。
「ここが最初の採掘場所だね。エイミーお願いね。さて、僕達は警戒するよ」
「ん?周りに敵の様子がないが、何に警戒するんだ?」
ここに来るまでに雑魚は数体居たがどれも殲滅してきたし、ここに到着してからは戦いすら起こっていない。敵が湧く心配もないと思うのだが……。
「あ、言ってなかったっけ?ここで採掘に失敗するとモンスターが湧くんだ。それは倒せない上に最後に自爆するから面倒なんだよね。でも、ダメージ自体はそこまで大きくないからフィルムなら耐えられると思う」
最初に言って欲しかった。てか、俺が壁になって避け続けるのが前提らしい。盾役は辛いや。
「解かった。という事は、俺以外は皆爆発に巻き込まれないようにしてくれ。どうせ避けられないんだろ?」
俺がそう言うとグレッグがとても良い笑顔で頷く。そして親指を立ててその感情を示す。俺も親指を立て見せて上向きの親指を下に向ける。俺たちはいつも通りだ。
「失敗したわ。出るわよ!」
エイミーが叫ぶ。例の敵が湧くらしい。周囲を確認すると岩男が居た。どうやらこいつらしい。挑発を使い俺にターゲットを向ける。そして仲間達から少し離れる。攻撃自体は単調だ。腕を振り回すくらいしかしない。ゴーレムの銃身がないのと変わらないため避けるのも容易だ。
避けていると岩男は凄い速度で動き俺はそれに捕まる。どうやら必中攻撃らしい。そして岩男は赤く光り爆発した。俺の体に凄い痛みが発生する。先程の魔法では比にならない。そして爆発が終わると俺は地面に倒れていた。体を動かすのが面倒なくらいだ。
「無茶しやがって……」
グレッグがそんな事を言ってくる。無茶をさせたのは誰だ。アシュリーが回復魔法を飛ばしてくれる。完全回復すると俺は立ち上がった。すぐにサーシャが俺に抱きついてくる。どうやら心配をまたかけてしまったらしい。
アドンはエイミーの近くで警戒している。いくら他の敵が近くに居ないからと言って他のプレイヤーがトレインしてこないとも限らない。
「どんどん続きいくわよー」
鬼だ。鬼がおる……。そして俺は合計3回爆破されましたとさ。
「次は採取だね。こっちは安全だから周囲を確認しておくだけで良いよ」
精神的にボロボロな俺にグレッグが言う。どうやら次は大丈夫なようだ。エイミーはクエストに使わない良い鉱石を入手できたとかでご満悦だ。その笑顔が憎い。
俺たちは街道から外れた森へ移動する。どうやら採取できるのは森でらしい。嫌な予感しかなしない。突然横を歩いていたサーシャが足を掬われ逆さ吊りになる。
「助けてー」
サーシャがそう表情も変えずに言ってくる。いつもはすぐに驚くのに何でこういうときは冷静なんだろうか。
「僕が剣で縄を切るから、フィルムが下で拾ってあげてね」
グレッグがそう言ってくる。どうせ俺だと縄を切っても回避されるのだろう。悲しいものである。そして落下してきたサーシャを上手く受け止め抱える。サーシャは俺の首に手を回すとしがみ付くように抱きつく。そして俺たちは見詰め合う。
「あの……時と場所は考えようね」
グレッグが遠慮がちに言ってくる。恐らく自分たちの行動を振り返るとそう強く言えないのだろう。俺はサーシャを下ろすと採取場所までゆっくり罠を確認しながら歩いていった。
「何とも面倒な場所だな。ここって罠に捕まったままになるとどうなるんだ?」
「モンスターが寄ってきてなぶり殺しかな。かなり危険みたいだよ」
それはトラウマになりそうだ。動けない上にじわじわ殺されるとか味わいたくはない。
「あ、ここです。しばらくお待ち下さい」
アシュリーがどうやら群生地を見つけたらしい。後は周囲を警戒するだけだ。サーチでは魔物が引っかかる様子はない。アシュリーはどんどん採取を行いそれらをアイテムボックスへと仕舞っていく。
俺たちは順調に採取を終えると村へとゆっくり歩いて帰還した。どうやら採掘だけ辛かったようだ。
村に着くとグレッグは必要な鉱石と薬草を貰い自警団の中に入っていく。報酬を貰っているのだろう。今回の報酬はいくらになるのだろうか。そう考えているとグレッグが戻ってきた。
「お待たせ、一応雑費の経費としていくらかは預かっておくけど、それを抜いた金額は1人当たり3000Gだね」
どうやらクエストにしては結構高額だったようだ。全員合わせて2万近く稼いだらしい。インスタンスダンジョン並である。あれもボスが居なければ楽なのだが、それを含めた稼ぎだ。倒さない事にはどうしようもない。
「結構な金額になったな。で、どうするんだ?ここで解散か?」
「それでもいいね。ゲートを使えば安全に帰れるし、皆帰りは遅くならないようにね」
「ふむ、わしは武器でも見てくるかな。折角ソードウィザードになったのだしな」
「アドン、私も一緒に行きます」
グレッグが締めるとアドンとアシュリーが一緒に歩いてく。武器を探しに行くらしい。
「私はこの重い鉱石をどうにかしたいわね。グレッグ、鍛冶に行くわよ」
「はいはい、解かったよ。フィルム、防具に期待しててね」
エイミーとグレッグはそう言うとゲートの方へ向かった。どうやら自宅の鍛冶場を使うようだ。
「さて、俺たちはどうするか」
「何か食べたい。この前の食堂にいこ」
サーシャに聞くとそう返ってくる。お前は本当にブレないな。リアルでもそんなに食べるのだろうか。体型を見る限り太っているようには見えなかったのだが……。
「フィルム、失礼な事考えているでしょ。リアルだとこんなに食べられないんだけど、ここだといくらでも食べられるから食べているの」
サーシャがいつもに増して饒舌だ。勘違いとかされたくないのだろうか。大食いは恥ずかしいものかね。ファミレスとかに行って目の前で5,6人前とか食べられたら多少引くとは思うが……。
俺たちは食堂まで歩いて行きテーブルに座ってメニューを開く。今回とんかつの材料を倒したわけだが……さすがに食べる気にはなれない。米を使った料理を自分で作って食べた事でそこまで渇望はない。デザートでも食べるかと探すとあんみつがあった。餡子とかあるのな。
「サーシャはどうする?俺はあんみつを食べようと思うのだが……」
「ん、私はラーメンを食べる」
マイペースなようで助かる。下手に遠慮されてもこちらが困るしな。てか、ラーメンとかあったのか。少し興味が出る。レシピを確認してみると麺を作れるらしい。後で試してみよう。でもアイテムボックスからラーメンとか出前か。
注文した品が出てくる。サーシャのラーメンは味噌のようだ。普通に味噌が売っていたし、そんなもんだろう。あんみつは普通だ。嫌になるくらい普通だった。こういう寒天はレシピにないけど直接売っているのかね。餡子のレシピがないので作りようが無いが。
サーシャはどうやらラーメンを啜って食べるのが苦手らしい。盛大に音を鳴らして食べて欲しかったのだが、残念だ。その姿をジーッと眺めて恥ずかしがらせる算段だったのに……。
あんみつをゆっくり食べているとサーシャがこちらを見ている。食べたいのだろうか。急いで食べても口の中が甘くなるだけだ。正直緑茶が欲しい。
「一口食べるか?」
「うん」
そう言ってサーシャは口を開ける。指とか突っ込んでみたいが噛まれたら痛いので止めて置く。ちゃんとスプーンに掬って食べさせる。途端に幸せそうな顔になる。やはり甘いものが好きなのだろうか。その内ケーキとか作ってやろう。そこで思い出した。
「サーシャの誕生日って何時なんだ?俺は5月でもう過ぎているが……」
「ん?私は4月だから過ぎてる。どうかしたの?」
どうやら誕生日は俺と近かったらしい。このゲームを始めたのが5月末辺りだったので今は大体7月過ぎだ。
「いや、誕生日とか近かったらケーキとか作ってみようかと思ったんだが」
「作って。誕生日とか関係なく作って!」
いつも平坦な声のサーシャが感情を込めて言ってくる。これは変なスイッチが入ってしまったのだろうか。
「あ、ああ。今度材料を集めていくつか作ってみるよ」
俺がそういうと今までに無いほどの笑顔をしている。俺と結ばれた時もこんな笑顔してなかったぞ。どれだけケーキ好きなんだ。俺とケーキどっちが好きかとか定番の質問をしてみたい気もあるが、ケーキと即答されたら凹むからしないでおく。
レシピを確認すると定番のショートケーキにシフォンケーキ、キャロットケーキなど様々だ。ここの開発者は変な所で凝っているな。
「それで、サーシャはどんなケーキが好きなんだ?」
「何でも!」
この話題には食いつきがいいな。何でも良いなら色々と作って味見してもらおう。太らないって素晴らしい。
「なら適当に作るから味見よろしくな」
そう言うと嬉しそうな顔をしてラーメンを食べ始めた。これで作れません、とか言ったら凄く落胆するんだろうな。言ってみたいけど口をきいてくれないとか言われても困る。
食事を終えると俺たちは外へ出る。小麦粉はあるのだが、ハーブ類や砂糖、卵や生クリームそういった物を買わないとならない。サーシャに言うと一緒にお金を出すくらいの勢いで買い漁る羽目になった。
ノックバック:押し出し攻撃とも言う。単純に押してバランスを崩す事で詠唱を中断させたり、一瞬の隙を作る事を言う。
頭を攻撃:いわゆるスタン攻撃と言われている。一瞬気絶させて行動不能に陥らせる。麻痺とかとは違い本当に一瞬だけなので、使い所は難しい。
パーティの入浴時間割り
0~21時:女湯
21~0時:男湯
風呂に関して
風呂に入るのは必ずしも必要ありません。
ですが、毎日入っていた人からすれば入らないというのは気分的に良くないんですよね。
真似事をする事で精神的に落ち着かせる、という意味合いがあります。
1話で終わらせるはずが3話に
どうしてこうなった……。




