3話
携帯表示だとAAがずれる可能性があります。先に言っておきます、ごめんなさい。どうしてもやりたかったんや……
「さて、今後どうするかを考えよう」
俺たちは宿屋の1室を借りて相談をする。今居るのは俺、グレッグ、サーシャの3人だ。さすがに知り合いの居ないサーシャを放り出すほど俺たちは非道ではない。
「はい、まずは衣食住を整える必要があると思います」
グレッグが律儀に手をあげて答える。確かに衣食住は必須だろう。スタミナゲージとかはこのゲームではないので食事を取らなくても死ぬわけではない。だが、日々の娯楽として食事は欲しい。食べる必要が無くても食べたいのが人間である。
「正確には食と住ね」
サーシャが訂正する。少なくとも衣は装備が劣化しない為変える必要はないだろう。風呂に入れないのは残念だが、ゲーム内では汚れることはない。リアルの体が心配だが、今の俺たちが気にしても仕方ないだろう。国の保護に期待するしかない。それでもデバイスを外した時が怖いが。
「食は必須ではないにしても食べたいよな。折角味覚もリアルと同じらしいし、あっちでは食えない物を食べられるかも知れない」
このゲームを始めたきっかけの1つがそれだ。こんな状況になったとしてもそこは外せない。
「後の住は宿かな。でもある程度の資金がないと毎日宿に泊まるのは難しいと思う」
グレッグが言ってくる。確かに今の路銀では1室借りるのがやっとだった。装備を整えたりする事を考えると難しいだろう。
(そうなると3人で肌を寄せ合って野宿か……)
サーシャの方を見て考える。それもありかも知れない。身の危険を感じたのかサーシャがちょっと震えている。
「アパートみたいなのがあれば良かったんだけどね」
それをスルーしたかのようにグレッグが言う。このテンプレ優等生が。ありがとうございます。
「食事にしろ宿にしろまずは路銀稼ぎだな。俺は攻略組に入るつもりはない。というか回避のみでは参加出来ないだろう。2人はどうする?」
「さすがに参加する気になれないかな。痛みとかあるらしいし、先行している人たちってどこか無茶をするみたいだしね」
「私も痛いのは嫌。2人が良ければ一緒に居たい」
どうやら俺たちの意見は同じらしい。それに危機的状況で女の子に一緒に居たいと言われて断るのは難しいだろう。
「なら決まったな。俺たちは3人で頑張ろう。仲間は多い方がいいだろうし、同じような境遇の人が居たら誘っていこう」
2人は頷く。俺たちは手を合わせてこのゲームの中で必死に生きる事を誓う。
(あれ?手を合わせることが出来るという事は……)
考えてはならない気がするが、そこを考えてしまうのが男というものだろう。あえてサーシャの手を握ってみると普通に握れた。他の事も出来るのかもしれない。さすがにやらないが。
「問題はどうやって金を稼ぐかだな。敵のドロップは金以外にないのか?」
俺が聞いてみるとグレッグが毛皮を出す。どうやら兎は毛皮も落とすらしい。俺に1個も入っていないのはどういう事なのだろうか。
「ああ、それはね。このゲームのドロップの順位がダメージや回復量で決まるからなんだ」
「何そのアタッカーとヒーラー優遇機能。盾とサポート職が怒りそうだな」
グレッグはそうだね、と苦笑して答える。そういうシステムなのだから俺たちは従うしかないわけだが。
「だからドロップアイテムを全員で確認して分配するのが普通」
サーシャがそう言ってくる。システムで保護されていない以上、自分たちでやるしかないのだろう。合理的である。
「まぁ、そうだな。野良パーティと組んだときとか気をつけるとしよう。俺には入ってこないだろうけどな」
何せダメージ0である。尤も俺が野良パーティに入れるかどうかがまず疑問ではあるが。
「でも、思ったより回避盾っていいね。ヒーラーが居ないと、どうしても狩りがゆっくりになりがちなんだよね」
そりゃダメージを一切受けなければ連続して狩る事が出来る。ただ、俺がダメージディーラーになれない以上殲滅速度は下がりそうではある。
先程1時間ほど兎狩りをしたが、1度もダメージを受けていない。このゲームの回避は確率ではないのだろうか。
「宿は取ったし、兎の毛皮が売れないかどうか調べようか」
そう言って宿から出て道具屋か雑貨屋を探す。マップがあるから迷わずに到着した。
「すみませーん、買取お願いしたいんですけどー」
俺はそう言って道具屋に入る。禿げたおっさんが出てきた。
「何を売ってくれるんだい?」
グレッグが前に出て集めた兎に毛皮を渡す。
「兎の毛皮か。1つ6Gだね」
それが12枚ある。全部で72Gだ。宿代が50Gなので、3人で1時間狩って130Gなのは正直きつい。ちなみに宿は食事が出ないため、部屋単位での貸し出しになる。
「はい、それでお願いします」
グレッグは承諾するとお金を受け取る。財布はグレッグに渡しておけば無駄使いはしないだろう。俺はする自信がある。
「サーシャ、金はグレッグに持たせても良いか?リアルでの知り合いだから持って逃げたら俺が追いかけられるし」
グレッグは俺の言動に少し驚いた顔をする。そしてすぐに「逃げないから」と言い返す。
「うん、1箇所に纏めた方が宿とか便利だと思う」
サーシャも同意してくれる。出来れば支払いの面倒は避けたい。
「それじゃ、宿へ戻ろうか。1部屋しか借りれなかったのはサーシャに申し訳ないと思うけど、我慢してもらう事になるかな」
グレッグがサーシャに謝る。サーシャは気にしなくて良いと言ってくる。俺たちが手を出さなければ済む事だ。
そして俺たちは宿で一晩明かす。ベッドが1つしかなかったのでサーシャに使わせて俺たちは雑魚寝だ。屋根の下なだけマシだろう。
翌日、俺たちは目を覚ます。ゲーム内で眠れるという行為に驚いたが、同時に体の節々が痛い事にもビビッた。どこまでリアルに出来ているのだろうか。
今日の目的はレベル上げと路銀稼ぎだ。俺に攻撃が当たらない以上兎を狩る理由はない。もっといい狩場を探そうと思う。俺たちは兎の群生地帯を抜け森へ入る。
兎の多い場所は取り合いで殺伐としていた。ネトゲの醍醐味だが、リアルが絡むと危険のような気がする。俺たちは奥に蜘蛛が多く生息している場所を見つけた。さすがにリアルで大蜘蛛はグロい気がするが、そこは気合で我慢する。
サーシャがグレッグに攻撃力アップのバフをかける。それを確認すると俺は蜘蛛に挑発をかける。そして向かってきた蜘蛛相手に回避を続ける。グレッグはチャンスを見つけると切りかかっていく。サーシャは後ろの方に居るようだ。本来バッファーとしては正しいのだろう。
「サーシャ、攻撃にっ、参加っ、してもいいんだぞ」
俺は回避を続けながらサーシャに言う。立場的に遠慮しているのかも知れない。
「俺がっ、君をっ、守るっ。遠慮っ、するな」
ある意味一生に一度は言ってみたい台詞だ。回避しながらだと体を常に動かさないとならないので決まらないが。
「違う。蜘蛛が苦手」
サーシャが答える。どうやら勘違いだったらしい。恥ずかしくなってくる。
(確かにリアルだからなぁ……この魔物。苦手な人からしてみたらきつそうだ)
俺たちはそうして蜘蛛を乱獲していく。他にライバルが居ない為良い狩りが出来ているようだ。レベルが7まで上がった。ドロップは絹の糸らしい。蜘蛛から絹とはこれ如何に。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
狩場スレ part2
114 名無しの剣士さん
おい、今森に迷い込んだんだけど凄い集団が居たぞ
っ「動画」
115 名無しの魔術師さん
吹いた、何この回避wwww
116 名無しの弓使いさん
残w像wがw見wえwてwるw
どこまで回避上げたらこうなるんだよ
117 名無しの剣士さん
そのくせ1回も攻撃しないとかwwwww
118 名無しの治療師さん
でも相手にしているのって蜘蛛だよね
一度迷い込んだ事があるんだけど、一撃で半分以上HP持っていかれたんだけど
119 名無しの肉壁さん
ヒーラーが防御低いとは言え半分はきついな
盾役でも結構削られるんじゃないか?
下手に回復をして貰ってしまうとヘイト管理が難しそう
120 名無しの魔術師さん
もっとレベルを上げて早期決戦かね
121 名無しの弓使いさん
しかし、こいつらの容姿のレベルが高いな
今リアルの容姿のままなんだよな?
122 名無しの剣士さん
そうだな
確かに動画を見る限りだと剣士と猫耳の子の容姿はいいな
回避している人は早すぎて解からんけど
123 名無しの魔術師さん
俺がっ、君をっ、守るっ
ワロタ
124 名無しの弓使いさん
そう言ってやるなよ
男なら言いたいじゃないか
125 名無しの剣士さん
いや、言ってみたいけど、実際言うのは別だろ
しかもその後に蜘蛛が苦手なだけとかワロス
126 名無しの魔術師さん
見事な空回りだよね
哀れを通り越して応援してやりたいかも知れない
127 名無しの肉壁さん
/
(^o^)/
/( ) 俺がっ
/ / >
(^o^) 三
(\\ 三 君をっ
< \ 三
..\
(/o^)
( / 守るっ
/く
128 名無しの弓使いさん
やめてあげてwwww
野良パーティ:知らない人とパーティを組む事。固定メンバーやギルドメンバー以外と組むことを指す。
ダメージディーラー:主に攻撃役を指す。反対にタンカーという存在が居る。
タンカー:盾役の人のことを言う。自分に攻撃のターゲットをひきつけて防御の低いアタッカーの変わりにダメージを受けるマゾな人。
バフ:支援魔法の事。能力を上げたりする。下げるのはデバフと言われる。バフを使う人をバッファーとも言う。プログラムの用語と混ぜないように注意。
ヘイト:相手からの敵対心の事。どれだけ恨まれているかという数値。盾役の人は必ず気にしないとならないし、アタッカーも高威力の攻撃を連発しないように注意しなければならない。