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回避特化のメイン盾  作者: Bさん
5章 ドラゴン
29/55

19話

 目を覚ますとサーシャが隣で寝ていた。いや、寝ている振りをしていた。少し耳が動いている。


「おはよう」


 そう声をかけるとサーシャは目を開く。そして俺に抱きついてきておはようと返してくる。俺は頭を撫でベッドから出る。


「着替えてくる」


 サーシャはそう言って小走りで部屋から出て行った。


「”空蝉”」


 どうやら今朝の空蝉も正常らしい。効果は1時間くらいで切れるけど。


 時計を見るとまだ7時だった。そういえば、彼らの毎晩のアレはどこまで出来るのだろうか。メニューを開いて設定から感覚の強度を変えられる場所を見てみる。五感は相変わらず変更不可だ。


 それ以外は衣類設定、性欲設定、PK保護設定があった。PK保護はやられないようにする保護だろう。とりあえずオンにしておく。衣類はインナーをどこまで脱げるかの設定らしい。全部外せるようにしてみた。


 普通に下着が脱げた。息子よ久しぶりだな。でも元気がないようだがどうしたんだ。性欲設定を最大にしてやる。


「う……これはやばい」


 すぐに0の状態に戻す。あれは正直やばかった。すぐに暴発しそうだ。ゲーム内ヘルプを見ると性欲は半分くらいはリアルレベルらしい。これまで最大に固定にされなくてよかった。そんな事をしたらゲームどころじゃなかったぞ。俺はその設定を半分にする。0というのは何か悲しい。


 これで俺は全裸になれる普通の人間になったわけだ。更にリアルに近付いた。



 

 8時になったので俺は食堂へ降りていく。食事が必須ではないので特に決めては居ないが、毎日一応作ってはアイテムボックスに入れている。そしてそれを皆に配って食べたい時に食べてもらうようにしている。


 スキルレベルも結構上がって作れるものは増えたが、最初の町とマルタの町だけでは買えない素材も多い。米がないのは残念だ。パエリアとか作れるだけに。


 デザートや肉、魚料理をどんどん作ってはアイテムボックスに入れていく。作っている最中の匂いからだろうか。他のメンバーが降りてくる。


「今日は何を作ったの?」


 エイミーが少し眠そうに聞いてくる。毎晩お疲れ様です。


「ああ、これだ。また分配してくれ」


 そう言うと料理を全部出す。食費として貰っているから全部無料配布だ。皆手際よく受け取ってはアイテムボックスに入れていく。そして食堂のテーブルを囲んで座り、今食べる料理を各々が取り出す。アイテムボックス便利すぎる。


「頂きます」


 グレッグが行儀良く食べ始める。こいつは何だかんだで真面目だったりする。変態趣味さえなかったら完璧だったのにな。


 

 俺たちは食事を終えると、今日から何をするか議論する。クラスアップも果たしたし、次は何をしよう。


「そうだね。他の町に行ってみるとかはどう?ゲートで行ける町を網羅してからゲートを使えない町を探す。そして珍しい素材とか探してみよう」


 グレッグがそう言ってくる。俺たちの目的ゲーム攻略ではない。一言で言えば楽しむ事だ。ログアウト不可でもそこは重要だと思う。


「この間は海に行ったが、山やのどかな村も良いかも知れないな。食材でも見たことないのを必要としている料理もあるし、探し回ってみたいとは思う」


 俺は賛同し意見を言う。いつもは料理という言葉にサーシャが飛びつくのだが、今日は大人しい。昨日の事が原因なのだろうか。


「うむ、まだ見ぬ敵との邂逅。素晴らしいな」


「また旅が出来るのですね」


 アドンは相変わらずだ。アシュリーが続くが内容に何か含まれているんじゃないか、と邪推してしまう。エイミーはこっちを見て何かニヤニヤしているが、放っておく。どうせ昨日のサーシャの件に関わっていたのだろう。


「それじゃ、場所だね。どこか希望とかあるかな?ないならこっちで決めてしまうよ」


 グレッグが話を進めるが、俺はこの世界の地図すら知らない。アドンやアシュリーは旅慣れてそうだが、何も言わない。どうやら目的はないようだ。


 サーシャとエイミーは参加せずに後ろで何か話し合っている。嫌な予感しかしない。


「特になさそうだね。それじゃゲートの町を適当に行ってみようか」


 そういって今回の意見交換を終了させる。ろくに意見は出ていなかったが。



 俺たちはゲートまで歩いていくと相変わらず混んでいる。明らかに海に行くような格好の人も居れば、冒険に行くのかちゃんとした装備をしている人もいる。今回の俺たちは後者だ。


 そもそも色んな町を回ろうとしか考えていないが、敵が居る場所を探索する事になるかも知れない。臨機応変に出来る格好だ。アドンのアロハシャツとか見て見たい気はするけども。


「最初に行く街、というより村だね。東の方の山の近くの村だよ。割とのどかな所で珍しい食材とか有るかも知れない。その反面、山にはかなりレベルの高い敵がいるから行くとしたら慎重にね」


 グレッグが解説してくれる。解説と言うよりは山に勝手に入るなよ、という忠告かも知れない。アドンの表情を見る限り意味はない気がするけど。


 しばらく待っていると俺たちの順番になる。行き先を全体マップから選ぶ。大陸の東の端の方にある村を選んだ。トゥースの村と言うらしい。歯?


 俺たちがゲートをくぐるとその先は田園風景だった。田んぼがあるようだ。これなら米とか売っているかも知れない。


「それじゃ、皆解散して村の中を見て回ろうか。お金を持っていない人はいないよね?夕方くらいに集まろう」


 グレッグが引率の先生の様に皆に言う。個人チャットやパーティによる位置把握がし易いから特に集合を決めなくてもどうにでもなる。エイミーがサーシャに何やら耳打ちするとサーシャがこちらに駆け寄ってくる。


「フィルム、一緒に回ろう」


 そんな事を上目遣いで言われたら断れない。俺はサーシャの頭を撫でああ、解かった、とだけ返した。もう少し気の利いた言い方が出来なかったものだろうか。


 グレッグとエイミー、アドンとアシュリーで固まったようだ。グレッグとエイミーはカップルだし、アドンとアシュリーの間に入る勇気はない。アドンが騒ぎを起こさない事を祈る。


 グレッグとエイミーが手を繋いでいるのを見て、リア充爆発しろと心の中で考えていると、サーシャが俺の手を掴んでくる。どうやら俺もそうしないといけないらしい。人の事を言えないようだ。


「それじゃ、どこから行こうか」


「食堂」


 即答だった。この子はブレないな。食事の後に食材探しや珍しい物を見て回ろうと思う。とりあえず、食事が出来そうな場所を探す。かなり田舎の風景だったので、店がかなり少ない。歩いていた人に聞いてみるとそういう通りがあるらしい。場所を聞き、礼を言ってそちらの方へ歩く。


 グレッグとエイミーは何故か人気のない方向に進んでいくが気にしないでおいた方がいいだろう。アドン達は森へと向かっていく。彼らには村でも町でも関係ないのかもしれない。


 


「寂れてるな」


「そう言う事を言っちゃ駄目」


 通りに着いた俺たちの感想はそんな感じだった。こういう村の市場は決まった時間に賑わうのかも知れない。この時間は殆ど人が居なく、俺たちと同じような観光者がまばらにいるくらいだ。


 俺たちは1件しかない食堂に入り、店の中を見渡す。時間が半端だからか、人が殆どいない。このゲームの食事事情がどうなっているのか解からないが、食事を出来る場所が混んでいる光景を見たことがない。店としてやっていけるのだろうか。


 メニューを見ると最初の町とは全然違う。食材は米、根野菜など、調味料は醤油や味噌といった物が多かった。どうやら西洋より日本に近いのかも知れない。そして中には恐ろしい料理があった。


「オークのとんかつ……」


 思わず呟いてしまう。オークといったら二足歩行の豚人間みたいな感じだ。物語やゲームによっては人の言葉を喋り、集落を形成しているものまである。この開発に今更倫理観を求めても無駄だとは思うが、オーク……哀れな。


「とんかつ?久しぶりに食べたい」


 サーシャがそんな事を言ってくる。オークはどうでも良いのだろうか。もしかしたら俺が変なのかも知れない。そう思っておこう。食わないけど。


「煮物に米、味噌汁、どう考えても和食だな。焼き魚を付けて頼むか」


「私はとんかつを食べる」


 注文を店員に頼むと裏で作り始めたようだ。しばらく待つと注文した品物がやってくる。まだここに閉じ込められて1ヵ月半程度だが、凄く懐かしく感じる。


 とんかつは普通にとんかつだった。オークの欠片もない。メニューを見なければ解からないだろう。サーシャが美味しそうに食べる姿を見ると言い出せない。言わない方がいいだろう。俺は久しぶりの和食へと手を伸ばす。途中煮物をサーシャに強奪されながら食べた。


「さて、店を見て回るか」


「うん」


 食事を終えて店を出ると、俺たちはまた手を繋ぎ歩く。何と言うか初々しいカップルみたいになってしまった気がする。告白もしていない訳だが。


 通りには道具屋、雑貨屋、武器防具屋のようなゲームならではの店から、土産物屋のような観光客を対象とした店まである。露店のような所は誰もいなかった。時間で一斉に開くのだろう。後で1人で食材探しに来よう。


 手を繋いで武器や道具を見るのも何なので土産物屋に行く。中に入ると壁に掛けてある三角のタペストリーが目に入る。”トゥース村へようこそ”と書いてあるが、こんなの誰が買うのだろう。ちょっと色あせている。


 瓶詰めの佃煮や饅頭のような定番品まである。現代と大差ないようだ。この世界の価値観が良く解からない。


「しかし、ゲートで来れるのに土産って何か変だよな」


「美味しければいい」


 サーシャがそう言う。確かに爬虫類を干したのとかモンスターの剥製とかあっても困る。キーホルダーまであるのは開発者の趣味だろうか。鍵は勝手に吸収されたし、鞄はアイテムボックスがあるから必要ない。どこに付けろと言うのだろうか。


「なぁ、サーシャ。キーホルダーってどうするんだ?」


「ん?武器に付けたり出来るよ?」


 自分の装備している剣の柄を見ると小さな穴が開いていた。どうやらここに付けるらしい。わざわざ付けられるという事は、付与効果でもあるのだろうか。試しに1つ買って付けてみるが全く装備に情報に変化はない。どうやら本当に飾りのようだ。


 俺たちは適当に饅頭や特産品の米を買って土産物屋を出る。料理レシピを確認すると米を炊くというだけの物まであるから驚きだ。補正が付くらしい。


 店を出るとまた手を繋いでくる。サーシャはこんなにくっついてくる子だっただろうか。エイミーに変な事を吹き込まれていないといいんだが……。


 俺たちは武器防具屋、道具屋、雑貨屋と冷やかして行く。売っているもの自体は最初の町と大差ない。どうやらダンジョンや生産に頼らないとならないようだ。


「”空蝉”」


「どうしたの?」


 突然俺が空蝉を使ってサーシャが驚いたように聞いてくる。すまない、ただの定期空蝉の時間だったんだ。


「いや、気にしなくていい。癖みたいなものだ」


「そう」


 俺の奇行も何なく受け流してくれた。町中であっても空蝉を定期的に使うのは回避盾の癖だろう、多分。俺たちは商店が連なった通りを抜け、畑や田んぼが多い所に着いた。どうやら店はアレくらいらしい。食材が少なかったので、やはり市の出ている時に来る必要があるようだ。


 しばらく歩くと草原のような場所に出る。周囲をサーチしても敵が居ない。どうやらまだ村の中扱いらしい。草原の中にある木の下に俺とサーシャは腰を下ろす。俺はアイテムボックスからジュースとクレープを取り出す。何か食べてばかりの様な気がするが、腹が膨れない以上いくらでも食える。


 俺たちは2人でしばらくのんびりとした時間を過ごす。今まで慌しい時間が多かった。落ち着いて色々と考えるのも悪くはない。サーシャが俺の肩にしな垂れかかってくる。俺はサーシャをどう思って居るのだろうか。


 好きかどうかで聞かれたら好きな部類だろう。見た目も少し幼いがもう少しすれば許容範囲だ。一応実年齢が17歳らしいし問題も無い。見た目も悪くないし、俺を慕ってくれている、と思う。好みも合っていてもう少し歳を取れば体つきもよくなるかも知れない、性格は自己主張が弱いが、エイミーのように強くても困る。もう答えは出ているようなモノじゃないか。


 告白をするとなるとかなり度胸が居る。今すぐいきなりは無理なのでタイミングを狙おう。雰囲気が出ていた方がお互い流されるかも知れない。それでは駄目なんだろうけど。


『フィルム、そろそろ集まろう。サーシャもそこにいるよね?一緒に戻ってきて』


 グレッグから個人チャットが飛んで来る。舌打ちをしたくなるくらいタイミングが悪い。後で嫌がらせをしよう。


「サーシャ、そろそろ集合らしい。村に戻ろうか」


 俺の肩に頭を乗せて目を閉じていたサーシャは露骨に嫌そうな顔をする。確かに会話はなかったが良い時間だったと思う。俺たちは立ち上がり、村までは手を繋ごうと思い俺が手を差し出す。


「フィルム!!」


 サーシャは俺の名前を呼んで首に抱きつこうとする。勢いで顔も向けてきているからキスでもしようとしたのかも知れない。サーシャが俺の首に腕を回そうと触れた瞬間に”空蝉”が発動した。


 サーシャはそのままの勢いで草原の草に顔から突っ込む。


「あああああああ」


 思わず俺は頭を抑えてしゃがみ込む。これはサーシャのトラウマになりそうだ。成功すれば恋愛小説や漫画のように良いシーンだっただろう。誰も空蝉でかわされるなんて思わない。俺だって思わなかった。まさか攻撃判定とシステム側に判断されるとは……。


 サーシャが起き上がって来ない。こ れ は や ば い。


「サーシャ?」


 俺が声をかけると肩を震わせる。泣いているのかも知れない。俺は早着替えで鎧からいつものラフな格好になる。そして倒れたサーシャを顔を見ないように起き上がらせ抱きしめる。鎧だと硬くて悪いので着替えた。俺は無言でサーシャの頭を優しく撫でる。


『すまん、グレッグ。もう少し時間がかかる。食事でもしていてくれ』


 急いで個人チャットを送ると一方的に切る。さすがにこのままにはしておけない。俺はサーシャの肩が震えが収まるのをしばらく頭や背中を撫でながら待つ。落ち着いてきたようなので俺はサーシャの顎に手を当てると上を向かせる。その目は涙で泣き腫らしていた。居た堪れない。


「サーシャ」


 俺はサーシャの名前を呼ぶとそのままサーシャの唇に顔を近づけ口付けを交わす。仕切りなおしだ。さすがにこんな状態で終わらせるわけにはいかない。すぐに俺は唇を離すとまたサーシャを抱きしめる。サーシャは呆然としていた。この行為で忘れてくれると良いのだが……無理だよな。


「サーシャ、俺はお前が好きだ」


「っ!!」


 サーシャが無言で肩を俺を抱きしめ返してくる。こんなタイミングで告白は酷いだろう。最悪な告白だ。俺はそう思う。だが、俺はそのままにはしておけなかった。


「私も……フィルムが好き……」


 消えそうな声でサーシャが言ってくる。振られなくて良かった。パーティ内恋愛で振られたら色々とぶち壊しになる。そして俺たちはまたキスをする。



 


 俺とサーシャは先程のように木に寄りかかって座っている。さすがに泣き腫らした目の状態で仲間のもとに戻るわけには行かない。アイテムボックスから水を取り出すと、桶のような器に入れサーシャに渡す。サーシャは無言で受け取ると顔を洗いだした。顔を布で拭き終えたのを確認すると俺はサーシャの肩に手を回して密着する。桶は放置である。後で飲むほど変態ではない。


 俺は感慨深く思う。初彼女だ。19年生きていて初である。これ程嬉しいものはない。俺は自分で思っていたよりベタベタくっつきたがるのかも知れない。俺はサーシャの尻尾に手を伸ばす。


「今は駄目」


 だが、拒否された。今じゃなければ良いのだろうか。家に帰ったらたっぷり触らせてもらおう。この尻尾の感触が癖になる。


「そろそろ落ち着いたか?」


「うん、泣いちゃってごめんなさい」


 謝るのは俺の方だ。空蝉が発動しなければ色々と上手く行っていたかもしれない。サーシャも勇気を出してキスしようとしてくれたのだろう。こちらの方が申し訳なく思う。


「俺の方こそごめんな。空蝉が発動するとは思わなかった」


 サーシャは首を振って答える。どうやら許してくれるらしい。いつかこの出来事も笑い話として話せるようになるのだろうか。サーシャは思いっきり怒りそうだがな。


 俺たちは立ち上がり手を繋いで村へ歩いていく。気分を高揚させながら。


衣類設定:上、下の着脱の可否

性欲設定:無し、並、最大

PK保護設定 オン、オフ

になります。


PKの判定は攻撃する、という動作全てになるのでその人の身体にダメージを与えずとも不快にさせること全般に該当します。

本人が嫌がらなければどこまでもOKですね。本気で嫌がれば同じ動作でも出来なくなったりします。

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