16話
*アドン視点*
武道大会決勝、わしとムラクモは対峙している。ムラクモはこちらを見ながら剣を構える。もしかしたらこの大会で剣を構えたのは初めてなのではないだろうか。
「お前が剣士だったらもっと楽しめたのにな」
ムラクモが声をかけてくる。魔術師を選んだのだからどうしようもない。それにわしはもう剣を止めている。
「魔術師がやりたかったからな。剣はもう置いている」
「……そうか」
奴とはリアルでの知り合いだ。ある意味で若さの過ちと言っても良い。奴が居る道場の門下生だったというだけだ。若い頃はそういうものに憧れるだろう?そう言う事だ。
今でもあの頃に学んだ技術は役に立っている。身のこなし、基礎体力の鍛錬などはそこで学んだものだ。道場に通うのを辞めてもしっかりと毎日こなしていた。そのお陰か大した病気もなく今に至る。
「お前に勧められてこの大会に参加したが、なかなか面白いプレイヤーがいるな。門下生にスカウトしたいくらいだ」
「そうだろう?お主も随分と飽きていたようだからな。良い刺激になっただろう」
ムラクモは「ああ」とそれだけ返事をするとわしたちは各々の武器を構える。お喋りはもう終わりだ。
アナウンサーは完全に放置する。邪魔をされたくはない。慌てて始めてくださいと言っているがどうでもいい。
今までの相手には全てグレイブランスを放ち弱い魔法を連続で食らわせていた。あくまでそれは小手調べに過ぎない。その程度で倒される相手ならそれまでだ。そして、こいつには小手調べなぞ必要はない。
わしは杖を構えて走る。こいつ相手に遠距離から魔法を撃っても全て避けられるだろう。全くの無駄だ。本来の魔術師のスタイルとはかけ離れているだろうが、そんな事はわしには関係ない。
攻撃範囲まで近寄ると杖を振り下ろす。ムラクモは剣でそれを流れるように受け流す。これで終わらせるつもりはない。すぐにファイアーⅡを詠唱すると杖で殴りながら魔法を発動する。ムラクモは魔法を切り裂くが杖の攻撃まではかわせずに受ける。痛みがないからか受けてもそのまま反撃をしてくる。
わしはそれを体で受ける。伊達にリザードマンの防御とHPは馬鹿に出来ない。大したダメージになっていない。削った割合で言えばこちらの杖での攻撃の方が多いくらいだ。
「俺が知っている魔術師と大分違うな。杖で殴る方がメインとは……」
「フハハハハハ、当然だ。貴様を普通の魔術師が倒せるわけがあるまい?」
わしとムラクモは言葉を交わす。懐かしい光景だ。昔は良くこうして互いの欠点や上手くいった点を褒めあっていた。まさかこの歳になってゲームでまた味わえるとは思わなかった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
*フィルム視点*
「何だあれ……」
「あの剣士の方とアドンさんは現実での知り合いらしいです。ゲーム内で再会して良くパーティを組んで討伐やダンジョンに行きましたよ」
今明かされる衝撃の事実。アドンは30代前半くらいだし、相手も同じくらいだ。その上、戦う方法も両方特殊だ。出会うべくして出会ったのだろうか。
今もまたアドンは杖を剣の代わりに振り、オマケで魔法を使っている。本当に魔術師か、あんたは。その表情は嬉々として凄く楽しそうだ。剣士の方も今までの詰まらなそうな表情と違い真剣だ。
範囲魔法、魔法の連打、今まで使っていた方法を一切使わない。恐らく相手に全て回避されるからだろう。動きは素早く確実にお互いダメージを与えている。ただ、アドンの方が回避能力がないからか、食らう回数が多いようだ。
「楽しそう……嫉妬してしまうくらいに……」
嫌な予感がして横を見ると、ギリッと音が聞こえてきそうな程に歯を食いしばるアシュリーが居た。こいつもやばい性癖を持っているらしい。マジで勘弁して欲しい。
「ま、まぁ……男同士の友情というのもある訳だし……」
俺も見ない振りをすれば良いのに何故か声をかけてしまう。どう考えても失策だ。ギリギリ音を立てるかのようにゆっくりアシュリーがこっちを向く。口元は笑っているが目が笑っていない。凄く怖いです。
その表情を見たサーシャが震えだす。その気持ちは凄く解かる。俺もそのまま全てを投げ出して逃げたい。正直、先程のエミリーの姿が可愛いくらいだ。この手の相手は絶対に関わってはならない、そういうタイプだ。
「ああ、アドンは頼りになるが、どこか危うい所があるからな。アシュリーの様なしっかりとした人がちゃんと見ておかないとな!」
自分でも何を言っているのか良く解からない。とりあえず、アシュリーがアドンにとって必要な存在だと言わなければならない気がした。主に俺の身の安全の為に。
「そうですね。私がしっかりと見張らないと。フィルムさんはアドンさんに良からぬ感情を持ったりしませんよね?」
「はい、当然です。頼りになる兄貴分ですが、その様な感情は今後一切を含めてありません」
だから、お願いします。助けてください。とまで言いそうになったが、どうにか抑える。サーシャも隣で凄い勢いで首を縦に振っている。それを見たアシュリーが安心したかのように微笑む。どうやら危機は去ったらしい。
サーシャが青い顔をして震えている。俺だって震えている。サーシャを膝の上に座らせるとそのまま覆いかぶさる様に抱きしめる。猫耳成分を補充したい。俺の心の安寧の為に。
「お二人は仲がよろしいですね。そのままお付き合いしてはどうでしょうか」
アシュリーが笑顔のままそんな事を言ってくる。俺にはその笑顔が怖い。別の意味が含まれてそうで恐ろしい。
「はい!そうさせて頂きます!!」
俺は一体何を言っているんだろうか。何かとてつもなくやばい事を言ってしまった気がする。サーシャがハッとなってこちらを見つめる。そして俺は自分で言った事に気が付いた。やっちまった……。
俺にとってサーシャは守るべき存在であり、どちらかと言えば家族の様なものだ。恋愛感情があるのか解からない。解からないが、そういう未来も悪くないんじゃないかとすら思えてくる。俺はサーシャを抱きしめながらそう考える。
今はゆっくりと考えよう。早急に答えを出すような問題じゃない。良く考えてお互いを知って、それでも付き合いたいと思ったら俺から告白をしよう。
こんな状況だ。未来の事はどうなるか、俺にも解からない。
そんな事を考えていると戦いは佳境に入っていたようだ。戦闘を全然見てなかった。すまん、アドン。
両者のHPは殆ど尽きている。アドンはテレポートを使って一気に剣士へと迫ると杖を振り下ろす。いい加減、お前は魔法を使えよ。
その瞬間何かが起こりアドンのHPが尽きて倒れ伏していた。一体何が起こったのだろうか。回避を多く得た事で動体視力はかなり鍛えられたと思っていたのだが……。
「テレポートしたアドンの腕を掴んで地面に叩きつけ、剣でトドメを刺したみたいですね。一瞬でそんな事が出来るとは侮れないです」
とアシュリーが解説する。どうしてお前は見えているんだ。お前の方が侮れんわ。
「私がアドンの周りの行動を見逃すはずがないじゃないですか」
何を馬鹿な事をいっているんだ?とばかりに言ってくる。心を読むとか怖いです。恋する悪魔さんとても怖いです。
どうやら表彰は1位と2位だけのようだ。剣士とアドンが何か商品を貰っている。てことは、グレッグとエイミーはどうしたのだろうか。様子を見に行ってかなり遅い気がする。
今は帰る人たちも多いだろうし、表彰が終わるまで俺たちは待機する。ちなみにサーシャはちゃんと椅子に座っている。膝から下ろす時に残念そうな顔をしていたのは見ていないことにしておく。
しばらく待っているとグレッグとエイミーがやってきた。どうやら無事合流は出来ていたようだ。
「遅かったな。どうしたんだ?」
「それは、うん。迷ってしまったんだ」
グレッグが言葉を濁して言う。これは解かった。直感で理解した。きっと2人はエロい事をしていたのだろう。
「そうか、大変だったな」
解かってはいるが言わないのが社交辞令である。だが、俺の表情はニヤニヤしていたので気が付いているだろう。
「賞金は受け取ったからこれで家が買えそうだよ」
「おお、やっと宿生活も終わりか。やったな」
グレッグが金額が達成した事を告げる。サーシャも拍手していたし、エイミーもどこか嬉しそうだ。
「私たちも合流しますし、今回のこちらの賞金を合わせればもう少し良さそうな家が買えそうですね」
アシュリーがそんな事を言う。どうやら出してくれるようだ。アドンと相談でもしていたのだろうか。
「あ、アドンとアシュリーも合流してくれるんだ。これで6人揃ったし、出来ることが増えそうだね」
グレッグが何も知らずにそう言い出す。円滑なパーティライフの為に後でアレに関して注意しておこう。俺たちはそこで待機しアドンが来るまで待つ事になった。しばらくするとローブに身を包んだ人がやってくる。
「こんにちは。俺は攻略を進めている所のリーダーなんだが、そちらのリーダーはどなたかな?」
攻略組のリーダーらしい。目立つ活躍をした2人のスカウトに来たのだろうか。グレッグとエイミーが居なくなると寂しい気がする。
「あ、はい。僕ですが……」
「あ、君でしたか。では、あちらで少しお話をいいかな?」
そう言ってグレッグを連れて行く。変に他人の意見を含めるよりリーダー同士で話した方が円滑に進む場合がある。スカウトが全員ではないのであれば尚更だ。
「スカウトかしらね」
「多分そうだろうな」
エイミーの呟きに俺は答えた。サーシャが俺のシャツの裾を握っている。俺はどんなスカウトが来てもサーシャを放り出す気はない。初日にそう決めている。
しばらく話すとグレッグだけこちらへ来た。交渉はどうなったのだろうか。
「やっぱりスカウトだったよ。さすがに全面協力はこのゲームを楽しもうっていう方針に対して合わなかったから、最低限必要なときだけ協力するって形でまとめといたよ」
どうやらそこまで強い勧誘ではなかったようだ。最低限がどれくらいなのかは解からないが、常時協力でもないのなら良いだろう。頻繁に協力を要請して来たら拒否すれば良い。
俺たちはアドンが来るのを待つ。アシュリーが個人チャットで伝えたので、しばらくすればやってくるだろう。その後は家の購入の為に物件を見て回るだけだ。
待っているとアドンがやってくる。相変わらずの体格に黒い鎧と随分凄い装備をしている。
「アドン、久しぶりだな」
「おう、どうやら更に強くなったようだな。今回から本格的に加入させてもらう。楽しみにしているぞ」
俺とアドンは言葉を交わす。ちょっと後ろのアシュリーにビクビクしながら……。
「それじゃ、早速だけど家を探しに行こうか。もう15時だけど、まだ開いている所はあるだろうしね」
グレッグがそうまとめて俺たちは歩いていく。6人パーティになって最初の仕事だ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
大会スレ part15
225 名無しの剣士さん
いや、今回はレベルが高すぎたな
226 名無しの双剣士さん
本当にな
LV30未満の方が本当にやばかった
227 名無しの重戦士さん
レベルを上げて物理で殴れ
だと思っていたのに技術も必要なんだな
228 名無しの弓使いさん
ああ、今まで進むのが止まった理由が解かった気がする
229 名無しの槍使いさん
明日からは攻略やレベル上げより技術を上げる鍛錬だな
230 名無しの大魔術師さん
契約をとったどー!!
231 名無しの双剣士さん
リーダー、空気を読めwwww
232 名無しの重戦士さん
お、リザードマンと剣士、槍使いペアのどっちだ?
233 名無しの大魔術師さん
それ全員同じパーティだとさ
そのパーティリーダーからあの剣士と同じ契約を結んだ
ちゃんとフレ登録まで済ませたぞ
234 名無しの剣士さん
よくやった
これで非常時には助けを呼べる
235 名無しの付与師さん
あの回避の人のパーティだっけか
かなりの戦力上昇になりそうだね
236 名無しの大魔術師さん
まぁ、常時は呼べないけどな
暇な時は訓練に付き合ってくれるってさ
237 名無しの双剣士さん
お、それは嬉しいな
誰かがちゃんと技術を知らないと
仲間内に教える事も出来ないし
238 名無しの剣士さん
早速明日聞いてみてくれ
早くやりたい
239 名無しの大魔術師さん
さすがに今日の明日で約束は難しいと思うが聞いてみる
240 名無しの双剣士さん
頼んだぞ、リーダー
241 名無しの魔術師さん
猫耳ちゃんに会いにいけるとか羨ましい
242 名無しの剣士さん
いや、会うのは剣士と槍使い
あと可能性があるのは回避の人くらいだし
243 名無しの治療師さん
遊びに行くわけではないですからね
料理をご馳走になりに行くんです
244 名無しの魔術師さん
え?それって遊びじゃないの?
武道大会はエターなるかグダグダになり易いという言葉が解かった気がします。
他の話と似たより寄ったりの話になってしまうんですよね。
掲示板があって助かりました。




