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回避特化のメイン盾  作者: Bさん
4章 武道大会
23/55

15話

*グレッグ視点*


 僕は剣を構え、どう攻めるか困惑する。相手は同じ剣士だ。なのにどう攻めて良いか解からない。正直彼とは戦いたくなかった。


 彼はずっと動かず、構えも取らずに立っている。カウンターというよりは、手を抜いているのだろう。それだけ僕と彼の間にある力量の差は大きい。彼から攻めてきたら恐らくすぐに僕は負けるだろう。



 


 僕は2回戦、3回戦を勝って進んだ。次は準決勝だ。どうにも2回戦の相手は戦いのレベルが違うと戦う前から諦めて棄権をしたらしい。3回戦は槍使いでそこそこ強かったけど、エイミーに比べると、どうしても見劣りする。


 エイミーの方はあの嗜虐性を出さずに2回戦、3回戦を順調に勝ち進んだ。3回戦の相手は突然土下座して殴ってください、とか言って会場を騒然とさせた後に係員に連れて行かれた。どうしてこうもまともな人が少ないんだろうか。


 そして準決勝に僕たちは勝ち進めた。ここまで来れば各1万Gの賞金が出るから家を買って家具を最低限揃える程度は買えるだろう。だけど、負けるつもりでこの大会に挑んだわけじゃない。出場したからには優勝したい、そんな願望がある。


 僕が準決勝の舞台へと歩いていくと、彼が居た。ただ立っているだけで放ってくる威圧感。だが、戦う前からそれに負けていたら、勝負にすらならないだろう。僕は気合を入れて規定の位置まで歩いていく。


「準決勝、グレッグ対ムラクモ。勝負を開始します。両者、準備はいいですね?始めてください!」


 アナウンサーの人が大声で言う。相手の剣士はムラクモと言うらしい。黒い長髪を1箇所で纏めている。いかにも日本の剣士っぽい出で立ちだった。髪の長さもリアルと一緒のはずだから、こういう人なのだろう。変えられるのは髪の色くらいだ。


 僕は剣を抜き構える。相手は剣を抜くがそれだけだ。ただ突っ立っている。それだけでもこちらは息が苦しくなる。彼は何もこちらに感情をぶつけてこない。ただ、相手が来るから火の粉を払うように相手を斬っている。今までの彼の戦闘はそんな感じだった。


 僕たちはどれだけ馬鹿にされているんだろう。この達人とやらに。本気で相手をする価値すらないと思われているのだろうか。そう思うと勝てないまでも一矢報いたい、そういう感情が湧いてくる。


 僕は戦う方法を考え、そして止めた。恐らく無駄だろう。ならこの感情を開放した方がいい。僕には被虐趣味がある。だけど、同時にエイミーと同じ嗜虐趣味もある。ただ、それを表す事は滅多に無い。それで以前の彼女に振られてからずっと抑えていた。それが反転していつの間にか責められる方が好きになっていた。


 剣を構え、口の先を鋭くしニヤリと笑う。そして僕は一気に飛び出す。狙うのは剣だ。本体を狙った所でかわされるだろう。なら確実に攻撃を止める。今までの戦い方を見る限り殆どが回避をした後に剣で斬りかかっていた。


 相手は案の定回避を優先させて立っている。僕はその構えも取っていない相手の剣に対して僕の剣をぶつける。さすがに相手も予想外だったのか驚いた顔をしている。攻撃すらしていない剣を攻撃するなんて普通は有り得ない。だが、それで終わらせるつもりは無い。すぐに僕は蹴りを放つ……が、かわされた。


 ここで攻撃の手を止めるつもりはない。1歩相手が引いた状態で斬りつけてくるが、僕は一切かわさずそのまま食らう。それと同時にダブルスラッシュを放つ。1回は相手に当たるが1回は回避される。休む間も与えずにスキル中に開いた左手で相手を殴りつける。まるで喧嘩だ。殴った手は相手の顔面を捉える、だがそれはダメージには当然ならない。痛みも無くただ押されるだけだ。


 だが、次のスキルを撃つには十分な時間を稼げる。スラッシュを放ち相手を捉える。それを繰り返し相手のHPをゆっくりだが削っていく。だけど、突然終わりが来る。目の前がいきなり暗くなった。次に気が付いた時はベッドに寝かされていた。


「ああ、そうか。HPが尽きたのか……」


 自分のHPの確認をしていなかったらしい。そんな余裕すらなかった。そうでもしないとダメージを与えられる相手ではなかった。痛覚が殆どないというのはこういうデメリットがあるらしい。


「次はエイミーの番かな」


 僕はいつもの調子に戻るとベッドから起きて戦闘を見る為にフィルムたちがいる場所へと向かった。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


*フィルム視点*


 グレッグが凄い戦い方をしていた。鬼気迫る戦い方だった。まるで昔のあいつを見ているかの様な雰囲気を出していた。それを思い出さないと戦えない相手だったのだろう。いつもみたいな打算的な思考ではなく完全な勢い任せである。


「グレッグ、少し怖かった」


 サーシャが言ってくる。確かにいつもの温厚な人格からは予想も出来ない戦い方だろう。それでもアレはあいつだ。


「大抵の奴は裏表があるもんだ。俺たちにはあれを向けて来ないから安心しとけ」


 そう言ってサーシャの頭を撫でる。そう、あいつは敵には容赦しないが、味方にはとても優しい奴だ。鬱陶しいくらいに。


「フィルム、サーシャ、ここに居たんだ」


「もういいのか?」


 グレッグが歩いて観客席に来た。待合室からは観戦出来ないのだろうか。復活してここに来るとは思わなかった。


「うん、痛みとかはなかったからね。あ、アシュリーさん、こんにちは」


「ご無沙汰しております。先程の戦いは凄かったですね」


 グレッグとアシュリーが挨拶を交わしている。


「お、次はエイミーの試合か。槍をぶん回しながら出てきた」


「アドンの試合でもありますね。お二人と戦うのを楽しみにしていましたから」


 俺とアシュリーがそう言うとアドンも出てきた。どうやらこの勝負は知り合い同士のようだ。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆


*エイミー視点*


 会場に入ると正面にいるのはリザードマンだった。しかも見知った顔。正直この人とは戦いにくいと思う。真っ黒な鎧を身に纏い凄く重装備だ。魔術師になんて思えない。


「おお、エイミーか。やっと手応えのある相手と戦えそうだな」


「こっちは楽をしたかったんだけどね」


 そう言うと私たちは合図を待たずにお互いの武器を構える。アナウンサーが慌てて始めてください!と合図をする。どうやら焦らせてしまったようだ。


 私は先手必勝とジャベリンを投げる。それは直線に飛びアドンに刺さると消える。そしてすぐに私の手に現れる。これでアドンのHPは1割削れた。


「ほう、面白い武器を持っているな。今まで隠していたのか?」


「ええ、今回は手を抜けないのよ。貴方が相手ではね」


 私はアドンと言葉を交わす。アドンは嬉しそうに魔法を詠唱し始める。アレはやばい。そう思って距離を詰めようとすると地面から大量の石槍が現れて私は串刺しになる。今までの相手はここで一気に集中砲火を食らって倒されていた。だから、足を止めてはいけない。


 痛みは無くても足や体が貫かれた光景を見ると止まってしまうだろう。私はそんな事を気にせずにアドンのもとまで走り抜ける。石槍があった所に大量の魔法が着弾する。止まっていたらもう試合は終わっていただろう。


 私は一気にアドンへ詰め寄ると槍を振るう。その槍に対してアドンは杖で殴りかかってきて止められる。どう考えても魔術師の戦い方ではない。すぐにアドンは詠唱すると炎の矢を撃ち出して来る。私はその魔法を直撃してしまい、少し後方に押される。


「全く、やり難いわね」


「ハハハハハ、そう言うな、こっちも必死だったんだぞ?」


 それだけ言葉を交わすと、また戦闘に入る。私が槍を投げるとそれに対して杖をぶつけてくる。私は既に走って距離を詰めていた。手元に槍が戻ってきたので二段突きを放つ。さすがのアドンでも2連続の攻撃の両方を防ぐ事はできなかったようだ。HPが削れる。普通の魔術師なら結構なダメージになるはずなのに殆ど減っていない。


 本当にリザードマンのウィザードは厄介だ。対人以外では邪魔になるSTRやVITが有効活用されている。狙い目はMP切れだが……。


「その杖、かなり嫌らしい効果がありそうね」


「フハハハハハハ、解かるか。この杖にはMP自動回復の効果があるぞ。MP切れを狙うのは止めておくことだ」


 弱点すら克服して来たらしい。本当に厄介だ。ならこっちも切り札を出すしかない。この仕様を知っているかも知れないけど、出来た時は本当に驚いた。


「”バーサーク”、”チャージ”」


 私はその2つのスキルを使う。槍を構え勢い良くアドンへ詰め寄る。槍をアドンの杖で防がれる。このスキルの目的は瞬時に距離を詰める事だ。すぐにエイミングを放ち必中させる。


 アドンはその状態から氷の矢を放ってくる。私はそれを避けずに槍で切り裂いた。スキルが防げるのに魔法を防げない道理は無い。そう、これが魔術師用の切り札だ。範囲魔法は防ぐ事は出来ないけど、見える単体魔法なら全て切り裂く事が出来る。


 アドンは後方に転移する。発動する時にテレポートと言っていたからそういうスキルなのだろう。そんな魔法まで使えるなんてずるい。


「ほう、面白い攻撃だな。ならこれではどうだ」


 アドンは氷や炎の矢を連続して大量に撃って来る。まるでガトリングだ。彼は魔法の詠唱速度上昇をどれだけ付けてきたのだろうか。彼の装備を見ると黒鉄、つまり全身に詠唱速度上昇付きという事だろうか。悪夢としか思えない。


 私は手数が許す限り矢を破壊する。とは言えこの数を全て捌く事はできない。私のHPは1割を切っていた。あと1回くらいしか攻撃のチャンスはないだろう。私は肩で息をする。疲労を感じない世界だけど、精神的な疲労はちゃんとある。生きていると実感する。


 アドンはまるで止めを刺すと言わんばかりに範囲魔法の詠唱をする。恐らく避けられないだろう。私は槍を振りかぶって投げた。その槍が着弾したのかは解からない。


「ハッハッハ、楽しかったぞ。またやりたいものだな」


「私は遠慮したいわよ」


 私は暗転する視界の中でそう呟いて意識を失った。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆


*フィルム視点*


「さて、僕はエイミーを迎えに行ってくるね」


「ああ、泣いていたら慰めてやるんだぞ?」


 グレッグは俺の言葉を背中に受け歩いていった。泣くようなタマには見えないが、皮肉を込めて言う。リア充爆発しろ。


 グレッグが立ち去ったのでアシュリーの方を見ると凄い笑顔だった。応援している人が勝ったのだから当然と言えば当然だが……。


「アドン、強いな。念入りに準備していたようだし」


「はい、色んなパーティに入って戦っていましたし、結構苦労しました。その甲斐があったようでよかったです」


 野良パーティで結構荒稼ぎをしていたらしい。良く気力が持つものだ。あの性格だと強くても煙たがれる気がしなくも無いが。


 頑張ればグレッグやエイミーの装備も良いのを集められたのかも知れない。俺が回避のみだから制限されていたのだろう。そう考えると申し訳なく思う。


 そんな事を考えているとサーシャが俺の手を握ってくる。もしかしたら表情に出ていたのかもしれない。


「気にしないで。フィルムが居て私たちは凄く助かってる」


 サーシャがそう言ってくる。言葉にされると嬉しいものだ。


「そうだな、子供にまで心配をかけるのはちょっと情けなかったな」


「私は高校2年……」


 俺の呟きにサーシャが突っ込んでくる。高校2年?17歳くらい?2つ下?


「え?マジで?」


 そう言うとサーシャがムッとした顔で睨んでくる。どうやら本当らしい。正直、5~8つくらい下だと思っていた。


「VRMMOは15歳以上必須ですよ。中学生は殆ど居ません」


 アシュリーが呆れるように言ってくる。そういえばそうだった。結構サーシャを子供扱いしてた気がする。


「それは……なんだ。すまん……」


 とりあえず謝っておく。この武道大会で魔法を破壊できたり色々と突拍子もないことは多かったが、俺はこの事実に一番驚いている。


「いい。フィルムに頭を撫でられるのは嫌いじゃない」


 どうやら許可が下りたらしい。この猫耳の触り心地がなくなるのは寂しいと思っていた。遠慮なく触らせてもらおう。いつかは尻尾も。


「おや、そろそろ決勝戦が始まるみたいですよ」


 アシュリーが会場を見ながら言ってくる。アドンとあの剣士の戦いか。これは期待できる。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


大会スレ part10


877 名無しの双剣士さん

魔法ってさ

斬れたんだ


878 名無しの重戦士さん

ああ、出来たみたいだな

これは良い情報だ


879 名無しの治療師さん

武道大会なんてつまんないネタだと思っていたのに

これは勉強になるね


880 名無しの神官長さん

武器を攻撃して相手を止めたり

魔法を斬ろうなんて考え自体

してませんでしたからね


881 名無しの双剣士さん

マジでスカウトしたいな

準決勝からの4人

全員野良とかやべぇ


882 名無しの大魔術師さん

決勝に進んだ剣士の方は

クリア出来ない場所に限り手伝うという返事を貰ったぞ

過度に頼られるのは嫌いらしい


883 名無しの重戦士さん

おお、これは良い情報だ

んで、リザードマンと槍使いと剣士は?


884 名無しの大魔術師さん

リザードマンはまだ話しかけてない

槍使いと剣士は医務室でイチャイチャしてたから声をかけられなかった


885 名無しの双剣士さん

リア充爆発しろ

あの2人はカップルだったのか


886 名無しの治療師さん

そりゃ、もう1ヶ月以上経つからね

カップルが出来ていても不思議ではないよ


887 名無しの剣士さん

なら俺に何で恋人が出来る気配すらないんだぁぁぁぁぁぁぁぁ


888 名無しの双剣士さん

顔だろ


889 名無しの付与師さん

性格だな


890 名無しの治療師さん

甲斐性もないよね


891 名無しの剣士さん

吊ってくる・・・


892 名無しの重戦士さん

おいおいやめとけ

死んでも復活するだけだぞ


893 名無しの槍使いさん

剣士、哀れな・・・

>相手の剣に対して僕の剣をぶつける。

深く考えては駄目ですよ?

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