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回避特化のメイン盾  作者: Bさん
4章 武道大会
22/55

14話

*フィルム視点*


 俺は試合を見て驚いている。避けない、HPが切れるまで殴り合いである。まるで自動で動く戦闘を見ている感じである。


「これは酷いな……」


 思わず呟きが漏れる。サーシャも頷いており、これがここに居る人たちを代表した戦闘とは正直思えない。ゲームならカットしたくなるような部分だ。攻撃できない俺が言うのもなんだが。


 少なくともグレッグとエイミーは回避出来ない事に対して工夫をしていた。グレッグはダメージにはならないが相手を殴ったり蹴ったりして牽制し、エイミーは武器を攻撃してスキルや通常攻撃をさせないという方法だ。


 それなら回避をしなくてもお互いに防ぎようがある。スキル自体も武器を殴る事で発動中にキャンセルさせる事が可能だと訓練中に気が付いた。さすがにタイミングが難しい為、グレッグは使いこなせなかったが……。


「スキルキャンセルに関しては意外と知られていないのかね」


「そうですね。レベル30以上のメンバーは気が付いている人もいるようですが、30未満となると……」


 どうやらアシュリーも知っていたらしい。上級者向けの方法らしい。確かに魔物狩りをしていたら殆ど関係ない戦法ではある。俺も人型の魔物はゴーレムくらいにしか遭遇していない。ゴーレムの腕を武器で叩けといわれても無理がある。この先に進むとそういう敵も出てくるのだろうか。


「その辺りが広まるのは次回の大会以降に期待か。さすがに今回の上位の人たちは使うだろうしな」


「うん、そうなると見応えもある」


 今度はサーシャが答える。ジュースを飲み干したから新しいのをクレと催促が来たので渡す。飲みすぎても問題ない世界って本当にいいよな。今度酒とか飲んでみたい気がする。酔いはどうなるのだろうか。


 何度目になるか解からない体力で直接受ける戦闘を見ていると次の選手が出てきた。どうやら次はグレッグのようだ。


「さすがにここから声援は恥ずかしいな」


「……うん」


 とりあえず、手だけ振っておく。気が付くかどうかは解からない。本人も緊張しているだろうしな。相手は大剣を持った剣士のようだ。それに対してグレッグは片手剣で片方の手を開けている。臨機応変に手を加える為だ。実力を発揮して見事に散ってきて欲しい、そう思う。


 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆


*グレッグ視点*


 緊張してきた。次は僕の番だ。予選は観客がいなかったけど、本戦は多くの人の前で戦わないとならない。係員に呼ばれて待合室から出る。暗い通路を抜けるとそこには多くの人が居た。


「やばい、緊張が……」


 僕はどうにか歩いて広場の中央まで行く。場外判定がない戦闘だから台となっている場所もない。僕は観客を見渡すと手を振っているフィルムとサーシャを見つけた。どうやら見ていてくれているようだ。なら恥ずかしい姿は見せられない。


「両者、準備はいいですね?始め!」


 準備が良いかどうかは関係ないらしい。僕はすぐに剣を抜きその勢いで相手を切りつける。斬り付けて終わりじゃない。


 相手が大剣を振る為に上段に持って行った隙を突いて体当たりをする。相手は押された事でバランスを崩す。その状態からダブルスラッシュを仕掛ける。


 相手は怒ったのか横薙ぎに剣を振ってくる。だけど、すでにそこに僕は居ない。攻撃の射程範囲外に移動・・していたので、相手の剣は空振る。


 剣を振った勢いを殺せないらしく、凄い隙がある。僕は剣を振らずに相手の足に向かって足払いをする。剣を振った勢いと合わさって相手はすぐに転倒し、その隙に僕は何度も切りつける。


 相手が剣を強く握った様子が見えたので、僕はまた距離を取る。案の定、剣を振ってきたようだ。攻撃が単調だから読み易い。僕はエイミーの様に武器を直接殴るのは得意ではないけど、これくらいの洞察力はある。


 相手のHPのバーを見ると7割以上減っていた。一度も攻撃が当たらずに怒っているのか構えも何もなく突っ込んでくる。僕は相手に向かって走り……そのまま減速せずに脇を通り抜ける。


 相手は止まって剣を振ると思っていたのだろうか。変な方向に剣を振っていた。僕はそのまますぐに反転すると大振りで隙が大きくなっていた背中に向かってダブルスラッシュを使った。


 これで相手のHPは全て無くなった。倒れて起き上がってこないようなので倒したのだろう。そのまま消える。医務室にでも飛ばされたのだろうか。結局、僕は攻撃を1度も食らわなかった。これが今の普通のプレイヤーの強さなのだろうか。


「勝者、グレッグ!」 


 係員が宣言する。会場は大きな歓声に包まれた。そして僕はフィルムたちの方へ向いて手を1回挙げると、そのまま待合室まで歩いていった。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆


*エイミー視点*


 私は待合室から出てグレッグの戦いを見ていた。あいつが勝ったのなら私が勝たないわけには行かない。係員が慌てて走ってくる。待合室にいない私を探していたようだ。私は槍を担ぐと戦場へと向かった。


「さて、相手は誰かしらね」


 私はそのまま中央へ歩いていく。目の前には片手剣と盾を持ち金属の鎧を着た男が居た。どうやら相手は盾役らしい。フィルムの装備のイメージを彷彿させる。あそこまで回避が高かったら勝ち目は無い。負けもしないけど。


「両者準備はいいですか?始めてください!」


 私は槍を構えて走っていく。まずは牽制だ。相手の強さが解からないのに全力で行くわけには行かない。防御をしたら防御型、回避をしたら回避型だ。戦い方が変わる為、そこを見極めないとならない。


 相手を槍で突くと……かわされた。すぐに私は槍を引いて距離を取る。槍という特性上、懐に入られると攻撃が上手く入らない。相手はニヤニヤしている。挑発のつもりだろうか。残念だけど、回避型は嫌という程戦っている。しかも彼の様に紙一重でかわしてはいない。かなり大雑把な回避だった。ならば、そこに付け入る隙はある。


 私は変わらず槍で相手を突く。相手が難なく回避すると槍を回転させそのまま石突きを使う。槍の柄の方で殴られた相手は吹き飛ぶ。どうやら回避は高くても防御は高くないらしい。結構HPが減っている。最初の突きはフェイントだ。力を全然込めていない。こんな簡単な手に引っかかるとは全然対人戦に慣れていない。


 相手の表情は驚いており、すぐに先程のような表情に戻る。どうやら偶然当たったと思い込んでいるようだ。それならそれでいい。私が一方的に攻撃をするだけだ。私は距離を詰め槍で突く……振りをした。それだけで相手は早まって回避しようと移動する。そこに二段突きを仕掛けるとあっさり当たる。この程度のフェイントすら予測できないのだろうか。


 相手のHPの残りが半分になる。どうやら回避や攻撃、命中に振って防御には振っていないらしい。半端に攻撃に振らずに回避と防御に振っておけば良かったものを……。


 私は力を入れずに槍で突くと相手が回避する。相手がチャンスとばかりに剣を振りかぶってくる。私はそこに横から蹴りを入れる。戦闘スキルには体術はない。だからダメージにはならないが、STRの素質10の蹴りなので勢いはある。2回ほどバウンドして飛んでいく。ああ、面白い。私は倒れている男に槍を突き入れる。スキルは使わない。


 相手の胸倉を掴み無理やり持ち上げると、槍を短く持ち何度も突き刺す。通常攻撃なので防御が低いと言ってもそこまで大きなダメージは無い。わざと力を入れずに攻撃する。途中で放り投げて立ち上がるのを待っていると、相手が逃げ出した。係員に駆け寄り降参を申請しているようだ。本当に情けない。


「勝者、エイミー」


 係員が宣言すると私は飽きたように踵を返して待合室に戻る。折角乗ってきたのに面白くない。会場は恐ろしいほどに静かだった。



『お疲れ様。惚れ惚れする程の戦いだったよ』


 グレッグから個人チャットが届いてくる。この男の性癖は付き合う前に相談された。そう、私とは対極だった。これ以上の組み合わせも無いだろう。


『ありがとう。今回、上手く勝ち上がれれば家が買えるわね。その時が楽しみ』


 私はとても冷たい声で答える。今頃グレッグは身を震わせているかも知れない。本当に楽しみだ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


*フィルム視点*


「えげつねぇな」


 仲間がやった事だが、楽しむように戦っている姿はとても恐ろしかった。サーシャが肩を震わせていたので肩を抱いて寄せる。確かにあの性格ならグレッグと合うだろう。全く嫌なカップルだ。


「次はアドンさんですね」


 平然とした表情でアシュリーが言う。どうやらこの女も何とも思っていないようだ。こいつら怖すぎるだろう。腕の中のサーシャが唯一まともに見えてくる。


「そ、そうか。アレから強くなっただろうし、楽しみだ」


 かろうじてそれだけ言うと、アシュリーがニコリと笑顔になる。今はその笑顔が怖い。ジュースを持つ手がわずかに震える。


 サーシャがこちらを見上げる。虚勢を張っているのはバレたのだろうか。ここは切り札を出すしかない。


「どうぞ」


 俺はアイテムボックスからクレープを取り出す。これは以前マルタの町で売っていた砂糖をこっそり買った時に作った。


 卵や牛乳も売っていたためグレッグを説得して買った物だ。アイテムボックスの中なら腐敗は無い。生クリームは色んな意味で怖かったが……。


 それを見るとサーシャの耳がピンと立つ。手で持てるような作りではないから皿に乗っている。テーブルがないと食べにくいと思っていたら、フォークで刺して切り取らずに齧り付く。ちょっと行儀が悪い気がする。


 残り4つあるが全部食べさせるのもどうかと思うのでこれ以上は出さない。余り多いと作れる事がバレるかも知れないし。


 そろそろ次の試合が始まるようだ。グレッグの様に片手武器だけ持っている剣士と全身を硬そうな鎧で身を包み巨大な盾を持っている戦士の戦いらしい。あれ?アドンは?


「アドンはどうしたんだ?」


「もう終わりましたよ」


 アシュリーがそんな事を言ってくる。どうやらクレープを渡してサーシャを見て和んでいる数分で終わったらしい。早すぎるだろ、一体何をしたんだ。


「てことは、次は剣士対重装備の盾役か」


 呟くとサーシャがクレープを食べながら試合を見ている。片手剣の剣士はその場から動かず、剣も構えない。もう試合は始まっているのにどういう事なんだろうか。


 盾役の方が待つ事に飽きたのか重そうな装備で剣士に向かう。そのまま殴り続けたとすれば盾役が有利だろう。だが、グレッグやエイミーの様な変則的な攻撃をするとすれば別である。


 盾役の方が剣を振りかぶって剣士へと振り下ろす。だが、それは空を斬り逆に剣士からの反撃を受ける。重装備なだけにダメージは少ないようだ。盾役はそんなダメージを気にせずに再度攻撃をしかけるが、同様に反撃を食らう。


「何だこれ……」

 

 凄く異様だ。俺の回避並に隙が無い。なのに攻撃が届くという事は他のステータスも振って居るのだろう。俺と同じような回避を攻撃しながら行う。それがどれほど難しいか計り知れない。それはつまり、システムの保護を受けずに戦闘が出来る能力が必要になるという事だ。それも小手先レベルではない。


 剣士は攻撃を全て回避し、通常攻撃のみで重装備の盾役を倒してしまった。俺はこいつと戦って勝てるのだろうか。仲間と一緒でも勝てる気がしない。


「こんな剣士も出場してたんだな……」


「ええ、色々なプレイヤーが居るみたいですね」


 正直、こいつと当たったらグレッグもエイミーもやばいだろう。優勝は難しそうだ。


『グレッグ、今の試合を見たか?』


『ああ、これはきついね……何で30以上で出なかったんだろう』


 グレッグに個人チャットを飛ばす。どうやら同意見の様だ。ある程度の戦い方を知っているから出来る圧倒的な力の差を感じた。


『僕がこいつと当たるとすれば準決勝かな、エイミーと相談してみるからチャットを切るね』


『ああ、思う存分イチャイチャして来い』


 そう言って俺たちはチャットを切る。全く世界には強い奴が多くて困る。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆


大会スレ part4


335 名無しの回避盾さん

身震いした


336 名無しの剣士さん

あの鳥人の槍使い、傷付ける事を楽しんでたな


337 名無しの重戦士さん

Mの俺からしてみれば攻めて欲しいがな


338 名無しの回避盾さん

やっぱり重戦士はMだった!


339 名無しの聖騎士さん

味方ならいいんだけどね

敵に回すと怖いね


340 名無しの大魔術師さん

この人って例の回避の人と同じパーティメンバーだっけか

戦力としてはセットで欲しいけど、難しいんだよな?


341 名無しの剣士さん

その前に戦った剣士もセットだな

良いメンバーが揃っているよ

あのパーティは


342 名無しの魔術師さん

性格に難有りっぽいけどな

そんな事よりあのパーティの猫耳ちゃんを連れて行きたい


343 名無しの付与師さん

その猫耳の子は観客席でクレープを食ってたけどな

隣の回避の人がボックスから出してた

何でもありだな、あの人


344 名無しの治療師さん

え?クレープなんてあるの?

食べたいんだけど、どこで売っているんだろう


345 名無しの魔術師さん

最初の町に屋台があるから探してみると良いぞ

40Gだったから大量に食わなければそこまで高くは無い


346 名無しの回避盾さん

どこか忘れたけど最初の町の

どっかの酒場にチョコパフェがあったりする

こっちは50Gだったな


347 名無しの剣士さん

味覚がしっかりしているから料理が美味いんだよな

色んな所を回って特産品とか食べると面白そうだ


348 名無しの重戦士さん

あーそれいいな

休暇にやってみよう


349 名無しの双剣士さん

凄くスレ違いなんだが、いいのか?


350 名無しの回避盾さん

ああ、すまんすまん

その後の戦いも注目出来たよな

リザードマンの魔術師は一瞬で終わってよく解からなかったが


351 名無しの大魔術師さん

あれは、グレイブランスだな

土属性の範囲魔法だ

詠唱速度が異常だったから詠唱速度上昇装備で固めているかも知れない


352 名無しの治療師さん

開始して3秒で発動してたからね

そのまま食らって吹き飛ばされた相手に単体魔法の砲撃で一気に削られて対戦者が哀れだった


353 名無しの回避盾さん

レベル30以下なのに強いのが豊作だな

重戦士が推奨していた盾役の子もあっさり負けてしまったし


354 名無しの剣士さん

アレは運がないとしか言えないだろ

強すぎるぞ

あの人


355 名無しの双剣士さん

ありゃ、武道か何かやってるだろ

俺でも勝てんぞ


356 名無しの重戦士さん

リアルチートって奴か

何で攻略組に入ってくれないのかねぇ・・・

入ってくれればかなり進みが速くなりそうなのに


357 名無しの忍者さん

いや、それで良いのかも知れない

余り強い人が居ると頼ってしまうからな

ある程度手伝ってくれる程度の方が他のメンバーと円滑に纏められると思う


358 名無しの大魔術師さん

確かにな

攻略組に勧誘せずに必要な時に手伝って貰うか

回避の人もそうだけど、その方向で話してみるかな


359 名無しの双剣士さん

おう、がんばれよ

リーダー

主人公は最強ではありません。

特化型なので一部の相手にはほぼ無敵ですが、それ以外に対してはかなり弱いです。

半々くらいですかね。使いように寄ってはかなり便利な盾役です。

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