13話
この章は視点が頻繁に切り替わります。誰視点と記載されますので、読む際にはご注意下さい。
*フィルム視点*
俺たちは今、武道大会の会場の入り口に居る。まさか街中にこんなコロシアムがあるとは思わなかった。中に入ると人が一杯居る。座って見る事が出来ないかも知れない。
「あ、僕たちはこっちだね。行って来るよ」
グレッグが選手の待合室への矢印を見つけたようだ。俺とサーシャが頑張れと伝えると、グレッグはエイミーの手を取って選手の待合室まで歩いていく。何時の間にこいつらそんな関係になっていたんだ?
「なぁ、あいつらって付き合ってるのか?」
「そうみたい」
サーシャは知っていたらしい。エイミーと話していたのかもしれない。グレッグが俺に話してくれなかったのはちょっと寂しい気がするが、どうせ気恥ずかしかったのだろう。。家を持ったとき変な声が聞こえてこない事を祈るしかない。
「それじゃ、俺たちも観客席に向かうか」
「うん」
サーシャがこちらを見上げて何か期待している様に見えるが、俺はまだ手を出そうとは思っていない。頭を軽く撫でて誤魔化すと俺たちは観客席に向かった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
*グレッグ視点*
僕たちは選手の待合室に移動している。さすがに入る前には手を離すつもりだけど、さり気なく示す事でフィルムに知って欲しかった。
「気が付いたよね」
「さすがにね。これで気が付かなかったらサーシャは苦労しそうね」
僕たちはお互いに苦笑する。サーシャがフィルムを見る視線が変わってきている事には気が付いていた。何かと相談に乗ってくれたし、応援したいと思う。フィルムは変な行動はするけど、悪い奴ではない。僕も沢山助けられた。それ以上に迷惑を受けた気がするけど。
手を離し、待合室の扉を開けると人が一杯居た。こちらを見る人、目を閉じて何か呟いている人など様々だ。さすがに邪魔になるので素振りをしている人は居ない。
私闘をすると即失格なので絡んでくる人もおらず、そのまま時間まで待機する。変にエイミーと話していると面倒事に巻き込まれそうだから止めておく。
僕たちは2人で並んで壁によりかかる。たまに目が合うと微笑み合ったりしていた。周りの人が凄くうんざりした顔をしていたが、気のせいだろう。
しばらく待っていると係員の人が入ってくる。どうやらこれから予選らしい。1人1人名前を呼んで行く。僕の番になったのでエイミーにお互い頑張ろうと告げると係員のもとへ歩いていった。
20人位だろうか、集団で歩いていく。皆、緊張した面持ちだ。案内された場所は広場だった。どうやら予選は他の人から見れないらしい。見れたら予選とは言わないだろう。
「ここで上位2名が本戦出場になります。痛覚は最低に設定されておりますので、相手を倒すか降参するまで存分に戦って下さい。また飛行や空間による断裂を使用し一方的に攻撃をし続ける行為は禁止されています。使ったら即失格になりますのでご注意下さい」
係員はそれだけ説明をすると広場の端へ移動する。どうやら飛行が禁止されているらしい。ある意味予想通りなので特に思うところはない。訓練も飛行にあわせたモノは行っていない。
ここに居るメンバーも鳥人は居ないので、特に不満の声は上がらなかった。寸前まで伝えないのは少し意地が悪い気がするけど、初の大会って事で穴があるのだろう。
「では、準備は良いですか?始め!」
そう係員が言うと戦闘禁止が勝手に解除される。僕は剣を鞘から抜くと近くの参加者にいきなり切りかかる。こういったものは先手必勝だ。スキルを使用し一気に1人倒す。倒れた参加者はすぐに広場の端の方にワープした。踏み潰される心配はないようだ。僕は次の獲物を探す。
「”スラッシュ”」
突然後ろから切りかかられる。回避が0なので当然当たる。寸前で回避とかはゲームの仕様上不可能だ。1でも有れば直感で避けることは出来るらしい。ちょっと失敗したかも知れない。とは言えちゃんとした防具を揃えたので僕のHPはわずかに減っただけだ。
僕は後ろに居た参加者に振り向かずに体当たりを食らわせるとダブルスラッシュを放つ。スキルの発動中に左手で相手の顔面を殴り動きを一瞬止めると、その隙にスラッシュを繋げて倒す。フィルムとの訓練は連続で攻撃をしないと当たる気配すらなかったので、変な戦い方が身に付いてしまったようだ。
誰だってスキルが発動している間に別の攻撃が飛んで来るなんて予想は出来ないだろうし、やろうとも思わないかもしれない。僕たちが行った訓練はそんな感じだ。殴る事で相手の行動を阻止できる。魔術師の口を塞ぐようなものだ。殴ったとしてもダメージに繋がらない。
そうして戦っているうちに大分人が減っていた。残ったのは本戦に出場出来るような強さなのだろう。5人いる。1人が3人を相手するという異様な光景が見えた。もしかしたら凄い人なのかも知れない。僕は参加せずにその人の行動を見ている。
攻撃を全て紙一重でかわして1人また1人と確実にダメージを与えて倒している。もしかしたら必要のない素質を一切捨てた回避型なのかもしれない。攻撃できる分、フィルムの上位互換みたいなものだ。そして僕とその人だけが残った。その人は剣を鞘に収める。
「終了です。おめでとうございます。あなた方2名が本戦出場となります」
係員の人がそう言って終わらせる。また戦闘禁止の空間に戻ったようだ。僕は剣を収めて係員の人についていく。負けた人はこのままでいいのだろうか。そのあたりは良く解からない。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
*フィルム視点*
「フハハハハハハ」
俺は今サーシャを小脇に抱え疾走している。目的はそう席取りだ。恐ろしいほどの人数が一挙に席へと向かっていく。俺は持ち前の回避を利用し、サーシャのムーブアップを合わせて凄い勢いで他人を回避しながら走っていく。高笑いは気にしないで欲しい。癖みたいなものだ。
左右に走りぬけ、隙間があれば即通り抜ける。今の俺を抑えることは誰にも出来ない。そして俺は念願の席まで辿り着いて座る。戦闘を行う中央を一番見やすい場所を占領できたようだ。
「ふぅ……」
「お疲れ様です」
座って隣にサーシャを下ろすといきなり声がかかってくる。何事かと見るとアシュリーが居た。どうやってここまで辿り着いたのだろうか。侮れない。
「久しぶりだな。元気か?」
「ええ、私は問題ないのですが、隣のサーシャさんが……」
アシュリーに言われて隣を見るとサーシャが青い顔をしていた。あの回避に酔ったのかも知れない。俺はいつも通りなので慣れているから問題は無いが、初めてあれを味わったらやばいようだ。今は声をかけない方が良いかも知れない。
俺は自分の太ももを叩くとそれを理解したのかサーシャは俺の太ももに頭を乗せて横になる。落ち着いたらジュースを奢ってやろう。前に買ったラフな格好で来て良かったと思う。サーシャはいつものローブ姿だが。
『フィルム、僕とエイミーは予選を通過できたよ。本戦に出れそうだから応援よろしくね』
『おう、頑張れよ。負けて泣いた姿を晒したら指を差して笑ってやるからな』
どうやらあの2人は無事に予選を通過出来たようだ。この席を取ったのは無駄にならないようで良かった。しかし、アシュリーはどうやってこの席を取ったのだろうか。聞いてはならない気がする。
しばらくアシュリーと近況を報告し合う。あちらは結構濃い時間を過ごしていたようだ。野良パーティに入りまくって経験を積んでいたらしい。だが、どこも俺たちみたいに楽しいという訳ではないようだ。
「ええ、ですからこの大会が終わったら私たちも合流する事になると思います。大丈夫ですか?」
「大丈夫だ、問題ない。アレから他のメンバーの補充とかしていないからちゃんと空きはあるぞ」
どうやらこの大会が終わったら参戦してくれるらしい。これで6人パーティになるので、出来ることが増えるだろう。そう考えていると突然歓声が上がる。サーシャはビクッと肩を一瞬震わせると体を起こした。そろそろ大会が始まるのかも知れない。
「ジュースは飲めるか?100%だが」
「うん、貰う」
俺はアイテムボックスから飲み物を取り出しサーシャに渡す。途中でトイレに行かなくて済むから混んでいる所で飲んでも問題ない。ゲームならではである。ついでに俺の分とアシュリーの分も取り出して渡す。
「私も良いんですか?」
「この後仲間になるんだ、遠慮はするな」
そう言って押し付ける。ただ100%だから飲めるかは知らない。苦手な人はどこにもいるものである。サーシャは俺の肩にしな垂れかかってくる。まだ体調が優れないのかも知れないので、背中をさすっておく。このまま手を下まで持って行きたかったが、さすがにやばいと自重する。
そうしていると選手が入場してきた。アナウンサーが何か言っているが聞き取りにくくてよく解からない。見ているとグレッグとエイミーの姿も見える。どうやら選手を1人1人紹介しているようだ。アナウンサーのテンションが高すぎて言葉になっていない部分が多くて笑える。
紹介が終わって選手が退場していく。本当にこれは一体なんだったのか。最初は知らない人同士の戦いのようだ。他の人の戦闘は見たことがないので楽しみだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
大会スレ part2
114 名無しの剣士さん
あー負けたー
115 名無しの槍使いさん
おつ
結構レベルの高い奴らが集まったらしいから辛そうだな
116 名無しの弓使いさん
ああ、弓矢をちゃんと用意したのに1本も撃てずに終わった
何だろうな
ちょっと自信なくしたわ
117 名無しの双剣士さん
集まっているのが戦闘狂ばかりだからなぁ・・・
独自に戦い方を調べている人が一杯居る
118 名無しの忍者さん
回避しようとしたら的確に狙ってくる人がいてマジで困る
ああいうのってどうやったら予測出来るようになるんだろうな
119 名無しの剣士さん
対人は魔物とは違って回避仕切れない事があるんだよな
120 名無しの重戦士さん
正確には避けた先を狙っているという感じだな
ある一定の回避能力がないと二段で避けるのは難しいらしい
121 名無しの槍使いさん
回避がないからと武器に攻撃してきて防ぐ方法もあるらしいぞ
俺はそれをやられて攻撃できずに終わったわ
122 名無しの魔術師さん
何とも高度なテクニックだな
勉強になるわー
123 名無しの治療師さん
いや、魔術師が殴るのかよ
124 名無しの剣士さん
まぁ、やられると考えていれば対処法もあるって事だろう
知らないのが一番危険だしな
125 名無しの付与師さん
確かにそうだね
そう考えると杖でいなす方法もあった方がいいのかな
126 名無しの回避盾さん
接近されるのならありだけど
付与師が接近されるって余程の事だと思う
127 名無しの神官戦士さん
ソロでもしてない限りないよな
回復職だと稀にあるけど
128 名無しの大魔術師さん
今、席争奪戦に参加しているんだけど
高笑いしながら女の子を小脇に抱えて走っていった人がいた
何あれ
129 名無しの聖騎士さん
ああ、居た居た
凄い勢いで人と人の間を走っていったよな
ぶつかりそうになっても変な体勢で回避してて笑ってしまった
130 名無しの剣士さん
もしかして、その抱えられた子は猫耳?
131 名無しの大魔術師さん
頭は見てないから解からないが
尻尾が見えたからそうかも知れないな
132 名無しの剣士さん
彼だな
高笑い、猫耳、回避といったら1人しか思い当たらない
133 名無しの魔術師さん
彼だね
どう考えてもそんな奇行をする人は1人しか居ない
134 名無しの聖騎士さん
いや、そもそも1人思い当たること自体が凄いのだが・・・
抱えられていた子の顔が青くなってたのが可哀想だったな
135 名無しの剣士さん
そりゃあの回避を味わったらそうなるわな
猫耳の子可哀想wwwwwww
136 名無しの魔術師さん
ゲームだから吐くに吐けないからなぁ・・・
でも、青い顔の猫耳ちゃんを持って帰りたいかも
137 名無しの大魔術師さん
有名な人なのか
攻略組ではないよな?
見たこと無い人だったし
138 名無しの回避盾さん
どっちかと言えばネタ行動で有名な人だな
139 名無しの剣士さん
女の子と一緒にボスを攻略し
女の子と一緒にダンジョンを駆け
女の子と一緒に海に出かけたら蟹と戦い
女の子と一緒に大会観戦
爆発しろ……畜生
140 名無しの魔術師さん
おい、書くなよ
書くなよ……