12話
あの後俺たちは最初の町に戻って宿を取った。一度ゲートを使ったのでマルタの町へのゲート使用料は無料になる。今後はいつでも自由に行けるようになった。他には昨日は何もなかった。それでいい。
「あ、蟹の素材が結構良い価格で売れたよ」
グレッグが俺の思考を無視して言ってくる。あの素材売れたのか。皮でも金属でもないから誰も使わないと思っていた。
「物好きもいるもんだな。で、合計金額はどんな感じだ?」
「今4万溜まったよ。後1万だね」
ほほう。思ったより長かったが、ちゃんと溜まっていたらしい。サーシャが拍手をしている。やはり自室というのは欲しい。エイミーはメニューを開いて何かをしている。ほっとこう。
「時期的にそろそろ武道大会向けにレベルを調整した方がいいんじゃないか?」
あと2週間ほどで開催されるらしい。上げすぎても駄目だろうけど、ギリギリにはしておいた方が良いと思う。俺とサーシャは参加する訳ではないから上げても問題ないが。
「ならフィールドボスと戦って良い装備を揃えようか。アレは1日1回だからね」
今後の方針はこう決まった。
・グレッグとエイミーのレベルを29に合わせる
・フィールドボスを積極的に倒して装備品を漁る
・戦闘技術の向上の為模擬戦を行う
模擬戦と言っても俺は避けるだけだが、相手への回避予測を立てるのに役に立つかも知れない。やらないよりはやった方がいいだろう。
「フィールドボスって言ってもどれがいいんだ?ソードマンやランサー向けの装備がどれから出るかは知らん」
最近は俺も掲示板を覗いている。ある一部のスレはなかった事にしている。
「フィルムにはちょっと辛いかも知れないけど、この間のゴーレムとかかな」
「……ちょっと?てか、アドンとアシュリー無しで勝てる気がしないんだが」
あの時も割とギリギリな所があった。銃身が出て来た所はアドンの魔法がないと辛いし、食らったら回復して貰わないと痛みで2回目と3回目が辛い。
「ああ、銃身はないよ。だからどうにかなると思う」
凄く嫌な予感しかしないが、アレがなければどうにか勝てそうだ。サーシャが何か言いたそうにしているが、エイミーが口を塞いでいる。何だろうか。
「それじゃ、フィールドボスに行こうか。思い出さないうちに」
グレッグが先導する。最後にボソッと何かいった気がするがこちらには聞こえなかった。エイミーはサーシャを後ろから抱え口を押さえながら歩く。凄く歩きにくそうだ。
俺たちは今ボスの土台の前に居る。今回は鉄鉱石らしい。インスタンスダンジョンと一緒だ。それを置くとボスフィールドへ移動する。エイミーはやっとサーシャの口から手を離す。いつまでやっているんだか。
「フィルム、今回は死なないでね」
サーシャがそう言って全員にバフをかける。死ぬ?あ、ミサイルがあった。グレッグは銃身はないと言ったがミサイルがないとは言っていない。しまった……。
俺はサーシャの頭を撫でながら「頑張ってみるさ」と言う。約束は出来ないが、どうにかしたい。
「黙っていてごめんね」
そうグレッグが言っているが顔を見る限り全然反省はしていない。エイミーもどうやら同罪のようだ。こいつらは……。
「ここまで来たんだ、腹はくくるさ」
俺はそう言うとゴーレムへ突撃した。
ゴーレムのHPが5割を切る。今回は本当に銃身が出てこないようだ。この調子なら問題なく倒せるだろう。後は1割を切った時に出るミサイルだけだ。俺たちは遠慮なく削っていく。
そして残り1割になった時にミサイルを打ち出すために足の部分が開く。この場所に居たら味方を巻き込むだろう。俺は一目散に反転して走る。そして俺は剣を地面に突き刺し盾をそれにかける。正直それだけで防ぐ事は出来ないだろう。持っている武器や防具を片っ端から積んでいく。これはグレッグの失敗作を一時的に預けられた物だ。どっかに捨てる予定だったがすっかり忘れていた。
そしてそこには簡単な壁が出来ていた。これで無理ならきっと無理なのだろう。俺の方へミサイルが飛んでくる。そしてミサイルは壁にぶつかると爆発する。壁とかなり距離が離れているのにこっちまでダメージが飛んで来る。意味が解からない。全身に痛みが残る。だが、どうやら生き残ったらしい。俺はポーションを飲んで回復すると箱の所まで行く。
「生き残ったんだね。どうやったの?ミサイルを誘導して壁にぶつけようとしても不自然に迂回するんだよね?」
やはり死ぬ前提だったらしい。全く酷い奴だ。壁にぶつける作戦をやろうと思ったが止めて良かったようだ。
「廃材を壁にして爆破した。以前お前が要らないと言って俺に押し付けたアレだ」
「ああ、そんな手があったんだ。情報として書き込んでおくよ。武道大会の後で」
どうやらこいつは中々腹黒いようだ。運が悪ければ動画を発掘されてバレるだろうが、そこまでは責任をもてない。
サーシャが俺のほうに寄ってくる。俺は頭を撫でると「生き残ったぞ」とだけ言っておく。笑顔が眩しい。
「イチャイチャしてないで箱を開けるから集まってー」
いつの間にかグレッグとエイミーは箱の所に居た。お前らは空気を読め。全員が箱の前に集まると今回は俺が開ける。中には剣と槍、スクロールがあった。どうやら当たりらしい。
俺たちはそれを取り出すと鑑定をする為に道具屋へ向かう。これでハズレだったら笑うしかない。稀に店売りの安い装備が混ざっている事があるらしい。そういうのはハズレとして認識されているようだ。ハズレの方が少ないので余程の事がなければ当たりな訳だが。
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スラッシュソード
効果
切れ味の良い剣。ATK+32
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ジャベリン
効果
投げても手元に戻ってくる槍。ATK+40
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空蝉
効果
空蝉を覚える事が出来る。
使用可能職業
忍者系
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「忍者?そんな職業があるのか?」
「30になった時に回避盾だとなれる可能性があるらしいね。フィルムならなれるかもしれないから、取っておいた方が良いかも知れないよ」
確かにもうすぐ30になれるし、使えないと解かってから売れば良いだろう。その頃にはそこそこ需要が高まっているかも知れない。
「しかし、良さそうな武器だな。当たりか?」
「そうね。今回ので揃ったからもう行かなくても済むわよ」
エイミーが答えてくる。どうやらもうミサイルの餌食にならずに済むらしい。残骸は消滅していたのでもう1回やれと言われても困る。最初に置いた剣と盾だけは無事に残っていたので失敗作は壊れるらしい。
「それじゃ次はレベル上げか?」
「それもだけど、防具の素材を取りたいな。黒狼の毛皮が良い感じだと思う」
どうやら防具も揃えるらしい。でも素材があっても作ってくれる当てがあるのだろうか。
「アドンが皮細工の生産スキルを取っていたから作ってくれるよ」
俺の表情を読んだのかグレッグが言ってくる。そういえば、そう言ってたな。DEXが3で皮細工とは、相変わらず奇特だな。
「何でもリアルで細工関係の仕事をしているらしくて、かなり精度が良いからDEXの補正を結構無視しているらしいよ」
それはそれで凄い気がする。しかしリザードマンの体格で細工か。見て見たい気がする。
俺たちは黒狼の素材を取る為に討伐クエストを受けて南門まで来た。サーチを使いどこに居るか皆で調べる。どうやら街道にしばらく進むと出てくるらしい。
「結構遠いね。絡まれたら殲滅していこう」
グレッグが指示を出す。俺たちは街道を歩き、無駄な殺生は極力控えて進む。下手にレベルが上がってしまうと面倒だ。しばらく歩くと黒い狼が現れる。
「あれだね。移動狩りは出来そう?」
「狼なら任せろ。パターンは大体読めるから6体までならいけるぞ」
何度も狼とは戦った。行動は簡単に読めるようになっていた。サーシャにバフを貰うと俺たちは狩りを開始する。
「ふぅ……これで200体か。結構遅い時間になったな」
長い時間戦っていたと思う。でも移動狩りは殲滅速度が速くて楽しい。その分複数に絡まれるから危険だが。
「でもあれだねーエイミーのジャベリンは反則だね。空をずっと飛んで一方的に攻撃出来るとか酷いと思う」
槍が勝手に戻ってくるから投げ放題だ。飛行時間には限界があるが、結構長い間飛んでいられる。PVPとかやったらやばいだろう。
「そうね。私もやっていてこれはずるいと思ったわ。恐らく武道大会では使用禁止になるでしょうね」
普通に考えればそうなるだろう。近接職からしてみたら文句を言いたくなると思う。
「サーシャ大丈夫か?」
サーシャが舟を漕いでいる。時計を見るともう23時だった。最近は規則正しい生活をしていたので、そろそろ眠いのかも知れない。
「私が背負っていくから、グレッグとフィルムは警戒をお願い。2人で戦えそうなら任せるわ」
そう言ってエイミーがサーシャを背負う。どうやらSTR素質10は伊達ではないらしい。簡単に背負っている。サーシャは最初遠慮していたが、すぐに寝息を立てて寝てしまった。
「それじゃ、早く帰ろうか。僕ももう眠いし」
俺たちはサーシャを起こさないように適度に急いで歩く。まだムーブアップが効果あるのでそれなり早い。途中狼を数体倒しながら俺たちは町に着いた。
「エイミー俺が代わろうか?」
「大丈夫よ。それにフィルムに任せたらお尻とかさり気なく触るんじゃない?」
どうやら見破られたらしい。そういう気は少し……いや、結構あった。こっちではそこまで性欲が強く出ないが、現実ではどうなっているのだろうか。余り想像はしたくない。
「こんな時間で宿はやっているのかね」
「どうだろうね。いつもの宿へ向かおうか」
俺とグレッグはそう話して、俺たちはいつもの宿へ移動する。到着したが、普通に閉まっていた。
「そりゃ、戸締りはするわな」
「仕方ない、野宿になるね。一応街中なら魔物は襲ってこないから寝にくいだけで安全らしいよ」
魔物に関しては安全かも知れないが、他のプレイヤーに襲われるという意味ではどうだろうか。一応、同意がなければ性的な事は出来ない規則になっているが、アイテムを盗むスキルはあるらしい。
「俺とグレッグで交代して見張ろう。エイミーはサーシャを頼む」
「それじゃ、どっかの軒下を探そうか。守るにしても正面だけにしておきたいしね」
俺たちは行き止まりの路地を選んだ。建物の近くならそこまで汚れていない。さすがゲームである。現実なら凄く汚いだろう。
「俺のシャツで悪いがこれでも体にかけるか着て寝てくれ。この気温とは言え寝るには寒いだろう?」
「僕のも使っていいよ。結構皮鎧が暖かいしね」
フェミニストという訳では無いが、さすがにこれくらいはしておきたい。
「グレッグ、俺が先に見張りをやるから、先に寝てくれ。3,4時間位したら起こす」
「解かった。よろしくね」
グレッグはそう言うと壁に背をもたれさせ目を閉じる。エイミーとサーシャは肩を寄せて寝ている。まさかゲームの中で野宿をする事になるとは思わなかったな。そんな事を考えながら夜が更けていく。
午前3時になったので、そろそろグレッグを起こそうと肩を揺する。何か凄い幸せそうな顔で寝ている。ちょっとイラっときたので剣の柄を開けている口に突っ込んでみる。グレッグは驚いて目を大きく開き口を慌てて閉じる。そして剣の柄を思いっきり噛む。
「いっ」
HPバーを見ると少し減っている。これもダメージになるらしい。
「目は覚めたか?」
「……お陰さまでね」
俺の事を睨みながら言ってくる。まるで後で覚えていろよ、とでも言わんばかりだ。出来れば警戒しよう。俺は壁に背を向けて眠る。顔を上に向けたら同じ事をされそうだったので、腕を組んでうつむいて寝る。睡魔はすぐにやってきた。
「ん?朝か?」
目を覚まして周囲を見る。何故かサーシャが俺の肩にもたれて寝ていた。何だこれ。正面を見るとグレッグとエイミーがニヤニヤしてみている。どうやらこいつらの仕業らしい。
変に動けないし、声も出せない。メニューは開けたので時間を確認すると6時らしい。3時間しか寝ていないが、眠気は結構飛んでいる。エイミーがサーシャの肩を揺らして起こそうとする。出来れば離れて起こして欲しい。
「ん……」
サーシャがゆっくり目を開ける。そして俺と目が合うと、慌てて立ち上がって距離を取る。そして周囲を見渡して状況をゆっくり把握したようだ。ちょっとショックを受けたのは秘密だ。
グレッグがそれを見てニヤニヤしている。中々えげつない仕返しだと思う。さすがはグレッグだ。
「さて、目も覚めたし、今日は休みにしよう。さすがにこんな所で寝たのでは疲れは取れないだろうしね」
皆にそういって休みという事になった。俺たちが別々に行動するのは今日が初めてかもしれない。
「私は採掘してくるわ。グレッグ、後で鉱石を受け取ってね」
「うん解かった。午後でいいかな?午前中はもう少し寝たい」
2人はそう話している。何だかんだでこの2人は良い雰囲気になっている気がしなくもない。
「サーシャ、俺たちも何かするか?」
「ん~特にないかも」
どうやら俺たちには生産すらやる事がないらしい。主に金の問題で、だが。
「あ、そうだ。皆にお小遣いを配るよ。さすがにお金がないと休みも大して出来ないでしょ?」
そう言って俺たちに各100G渡してくる。食事なり生産なり好きにやれという事だろう。
「それじゃ、俺は料理スキルを試してみるかな。材料を全部購入になるから高くつくだろうけど」
「私が味見する」
そう言ってサーシャが立候補する。どうやら興味があるらしい。
「僕は宿で部屋を取って寝るね。店はもう少ししないと開かないだろうし、一緒に宿に向かおう」
俺たちはエイミーと別行動をして宿へ向かう。グレッグは片方の部屋に入ると鍵を閉めて寝てしまったようだ。俺はどうしようもないので、サーシャともう片方の部屋に向かう。サーシャはベッドへ、俺は椅子に座って雑談をする。その途中俺は意識がなくなった。
目を覚ましてメニューを見ると10時だった。どうやら気を抜いたら寝てしまったらしい。サーシャは俺が起きた事に気が付くとメニューを閉じてこちらにやってくる。
「目は覚めた?」
「ああ、話している途中で寝てしまってすまないな」
サーシャは気にしないで、と言ってくる。そりゃ社交辞令だし気にしない。
「料理の素材を買いに行くか。サーシャは何か買うものはあるか?」
「クレープを買おうと思う」
どうやらアレをお気に召したようだ。金が許す限り太らずに食べ続けられるってダイエットのストレス解消に役立ちそうだ。俺たちは宿を出て材料の調達に向かう。野菜炒めはアレなので兎の方を作ろうと思う。まずは調味料を買う為に道具屋に向かう。
「塩2G、胡椒3G、醤油5G、玉葱3G、兎肉7Gで合計20Gか……」
酒場に行けば15Gで食べられるのにこれは悔しい。生産スキルのサガとは言え、無駄に金を使う気分である。とりあえず5食分買う。失敗する可能性もあるし、何よりスキル上げが目的だ。サーシャは途中の屋台でクレープと自分と俺の為にジュースを買いそれをアイテムボックスへ入れる。そして宿へ戻った。
「調理場借りてもいいですか?」
宿のカウンターで聞いてみる。材料を買ったが料理をする場所も調理器具もない。どう考えても無謀だった。
「いいよ、その代わりちゃんと片付けてね」
宿の人はそう言うと案内してくれる。そういうシステムなのか、AIが優秀なのかは解からないが、借りる事は出来るらしい。
「サーシャ、すぐに作るから待っていてくれ」
そういうと俺は厨房に入っていく。調理場は何故かガスコンロだった。これでいいのか?ファンタジー。使う方としてみては簡単だからいいけどさ。
「何々?塩と胡椒で肉に下味を付けて両面を中火でしっかりと焼く。その間に玉葱を炒めて醤油を投入する。本当に簡単だな」
ソースの方にみりんとか使わないのだろうか。よく解からないが、書いてある通りに作ろう。そこまで難しい手順ではない。俺はちゃんと手順通りに作る。料理に慣れているわけではないから、下手にアレンジなんて出来ない。
「ここでソースをかけて完成か。皿はちゃんと用意しよう。食べ終わって消滅しても困るしな」
完成した料理を調べてみる。
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兎のステーキ
効果
兎の肉を使用したステーキ
オニオンソース付き
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「マイナスが付かなくて良かったと喜ぶべきか、何の付与効果もない事を嘆くべきか」
本当に料理は嗜好品らしい。一時的な能力アップとかもないようだ。取る人の気が知れない。俺は料理を持ってサーシャの所へ持っていく。既にクレープを平らげ待っていたようだ。
「出来たぞ。初作品だから味わって食ってくれ」
少なくとも調べた限りでは失敗ではない。そう考えればそこそこの味があると自信をもって言える。それでも俺はサーシャが口まで運ぶ動作を見逃さずに凝視する。考えてみたらまともに料理するのは初めてだ。
「見られていると食べにくい」
「失礼しました」
どうやら恥ずかしいと言う気持ちはあるらしい。俺はジュースを受け取って飲む。何度も飲んだ気がするが、この果物は何だろうか。料理をした事で食材に関して少しは気になりだしたのかも知れない。
「うん、美味しい」
どうやら大丈夫らしい。自分で食べていないから少しは気になっていた。
「一切れくれ」
「あげない」
どうやら全部自分で食べるらしい。そろそろ食いしん坊キャラを名乗っても良いかも知れない。サーシャは全部食べると、満足したような表情を見せる。どうやら美味しく食べてくれた様だ。どこか嬉しく思える。
「さて、俺はあと4セット分の素材があるから作ってアイテムボックスに保存しておくよ」
「私は部屋で調合してる。何かあったらチャットでお願い」
そう言って俺たちは別行動をする。4セット作って1つだけHQ品が出来た。どう味か違うのか後で皆で食べ比べてみようと思う。
「へーこれがフィルムが作った料理なんだ」
俺たちは今宿の部屋に4人揃っている。テーブルの上には、俺が作った料理のノーマル品が3つ置いてある。アイテムボックスに入れていたからか未だに湯気が出るほど暖かい。
「ああ、食べてみてくれ。サーシャは俺と半分な」
とりあえずノーマル品を食べる。特に物凄く美味いというほどではなく、そこそこの味だ。ただ、久しぶりに口に入れた物という意味で美味しく感じる。空腹時の食事みたいなものだ。
「うん、普通に美味しいよ。スキルの補助があるとは言え素質無しでもちゃんと作れるんだね」
「そうね。でも、何かが物足りない感じがするのが凄く残念だと思うわ……」
そりゃ炭水化物が欲しくなるだろう。俺が2人の様子を見ていると俺たちの分はサーシャに半分以上食われていた。危険だと思い食事に参加し平らげる。
「で、こいつがHQ品だな。1個だけ作れたから4人で分けよう。味の違いとかどれくらい出るのか知りたい」
そう言って4分割する。1人だとそこそこの量だが4人で食べると2口くらいだろうか。ちょっと味見程度にしかならない。
「これは……。ここまで差が出るんだ」
「ご飯が欲しい……」
「パンでも買って来ようかしら」
というのが3人の意見だった。素直に美味しいなら美味しいと言って欲しかったが、そんなもんだろう。4人ですぐに食べ終わる。
「料理も馬鹿に出来ないね。ステアップとかがないから取る人が殆ど居ないんだ。これならモチベーションのアップに繋がるかも知れない」
「ええ、定期的に食べたくなるわね。ノーマル品でも十分美味しいから、今後も作って欲しいわ」
「毎日でも食べたい」
どうやら好評のようで嬉しいと思う反面、ハードルを上げられている気がする。次に失敗作を出したらどうなる事やら。リアルに戻ったら自炊でもしようかと思えてくる。
「家を買ったら食費を出すよ。毎日は無理でもそれなりの頻度でお願いね」
とグレッグが締める。とりあえずは家を買うことが優先だ。もう少しなので、食事を我慢してでもさっさと拠点を確保したい。
今回の調理でスキルレベルは5に上がった。楽に上がりすぎだろうと思いながら、レパートリーを見るとジュースが追加されていた。レシピを見ると握り潰すとある。何とも豪快だ。果たしてレシピと言って良いのだろうか。
俺たちは部屋に戻り、明日からの訓練に備えて早めに眠った。
あれから数日経ち、その間はボス討伐やレベル上げ、模擬戦に費やした。レベルは29で止め、30未満の部門に備える。皆の防具を一新した。最低でもグレッグとエイミーだけのでも良かったのだが、レベルを上げられないので採掘や鍛冶に結構時間を費やしたようだ。そりゃ訓練ばかりでは気が滅入る。
その間、俺が発見した事は、料理はスキルが必要な物と必要がないものがあるという事だ。例えばお茶を入れるのはスキルに関係なく出来るが、果物を握り潰して100%ジュースにするのはスキルが必要。基準が良く解からないが、エイミーに握り潰して貰おうとしたが、幾ら力を込めても潰れないらしい。この世界の不思議がまた1つ増えた。
そのお陰か果物を潰しまくったお陰で俺の料理スキルは10に上がった。レシピにクレープやクッキーなどといった砂糖を使う品物が増えたが、下手に教えるとサーシャに粘着されそうだったのでこれは秘密にしている。
そして、明日から武道大会が開催される。俺は参加しないが、2人の応援にはいくつもりだ。さて、どうなるのだろうか。
生産品の品質判定はスキルレベル、素質を経て判定されます。
失敗やマイナス判定は全て作業中の行動で現れます。
ちゃんと作れれば必ずノーマル以上の品物が出来ますね。