11話
「海に行こう」
翌日、今日は何をやるか話し合う場で俺が言う。皆怪訝そうな顔をする。下心がバレていないよな?
「海なんてあるの?」
サーシャが聞いてくる。あのスレって余り見られていないのだろうか。
「ああ、ゲートでマルタの町という所に行くとあるらしい。波打ち際で遊ぶ分には大丈夫なんだってさ」
「へー、それはいいね。たまには狩りとかダンジョンをやらないで遊びに行くのもよさそうだ」
俺の意見にグレッグが賛同してくれる。こいつはムッツリだから表情には全く出さない。だが俺は知っている。こいつの特殊な性癖を。
「海の近くにあるって事は結構暑いのかしら?この装備だと蒸れそうね」
そう言いながらエイミーは自分の装備を見る。あれ?何時の間に装備が変わったんだ?
「そうだね。皮装備も辛いけどフィルムの鉄装備は地獄だと思う」
グレッグがそう言ってくる。どうやら2人共装備を新調していた様だ。
「服を買うのは?」
サーシャが提案してくる。そういえば普通の服って持っていなかったな。
「それはいい考えね。行きましょうか」
「え?あ、うん」
エイミーが勢い良くグレッグを引っ張っていく。どうやら買う事は決定しているらしい。俺とサーシャはその後を付いて行った。
「どうして、女の買い物はこうも長いんだろうな」
「諦めようよ。あと選択肢を突き付けられたら気をつけてね」
こいつの経験談だろうか。選択肢を選ぶのを失敗すると大変らしい。俺とグレッグはラフな格好になっている。ファンタジーとは合わないが、着ていて楽なのを選んだ。この世界にジーパンがあるとは思わなかった。
しばらく待っていると、2人が決まったのか買ってこちらへ来る。サーシャはワンピース、エイミーはキャミソールとショートパンツだった。この世界に来てからこういった格好は全然見なかっただけに新鮮だ。
「2人とも似合ってるよ」
真っ先に2人を褒めるグレッグ。慣れてるだろ、こいつ。しかしスカートがやっときたか。
「そうだな、似合ってるぞ」
褒める言葉がわからないので、便乗しておく。変に意見を求められても困る。
「ありがとう」
サーシャがお礼を言う。しかしこの町の中でこの格好は違和感が凄いと思う。中世の雰囲気がある石造りの街中で現代の服を着るというのは……観光者っぽい。
「それじゃ、ゲートへ行こうか。ここに居てもちょっと寒い格好だしね」
海が近い町という事で基本的に夏の格好である。ここは割と普通の陽気なので半袖では少し肌寒い。ゲートに向かうと様々な格好の人が一杯いた。もしかしたら情報を見て海に行く人らなんだろうか。並んでいたので最後尾に行く。
「しかし、皆こんなに娯楽に飢えていたんだな」
「そうだね。ここに来てもう3週間は経つからね。大分資金が安定して来た人は冒険以外をしたくなる頃合じゃないかな」
攻略組が知ったら憤死しそうだが、後続のプレイヤーなんてこんなものである。雑談をしながら4人で待つ。やっと順番になったようで、ゲートの前で行き先を設定しお金を入れる。するとゲートが起動した。俺たちはそのゲートを潜るといきなり気温が上がった。
「凄いな。気温を感じる機能もあるのか」
ゲームらしくないと思う。と言っても汗をかく訳ではないから不快な気分にはならない。理想的ではないだろうか。
「ん~~」
エイミーが背伸びしている。風と共に潮の香りがする。五感がしっかり機能しているようだ。俺たちは海の方を見ながらしばらくボーっとする。まだこっちに来て3週間程度、ホームシックには早いかも知れない。
「さて、水着とかは売っているのかね」
「どうだろう。そもそも海に入れるのかな?」
ふんどしが売っている事は確認済みだ。買わないが。
「とりあえず、海の方に行って見ましょ」
水着よりまずは水に入れるかどうかだろう。入れないのに買っても水着としては意味が無い。目の保養にはなるが、怖いから言わないでおく。
俺たちは波打ち際まで来る。波が裸足になった足にかかる。そして俺たちは濡れた足を……って濡れてない?
「あれ?水に濡れた感触はあったよね?」
グレッグも困惑しているようだ。こうなったら俺が突撃をかますしかない。俺はグレッグの手首を掴むと波が来るタイミングで勢い良く倒す。大きな水飛沫が舞う。
「ちょ、何するの!!……って、あれ?」
慌てて立ち上がるが、全く濡れていない。何とも奇怪な現象である。
「どうやら水に濡れる感触はあるのに実際は濡れていないみたいだな」
しかしどうするか。これでは水着が必要ない。このまま特攻できるくらいである。ちょっと海の方に歩いていく。大体膝くらいまでつかる。
「冷たいし水の中に入っている感覚はあるだが、どうなっているんだろうな。服が体に張り付かない」
不快にならないのはいいのだが、物足りない気分がある。顔を水面に付けて口を開けてみるが、入ってこない。顔をつけたまま鼻で呼吸をして見る。現実でやったら鼻がやばい事になるだろうが、普通に呼吸が出来た。
「呼吸も出来るのか。このゲームの海ってそういうフィールド扱いなのか?」
「そうかも知れないね。水中で戦闘とかあるのかも知れない」
グレッグがそう言ってくる。ゲームで水中で戦うとか良くあるのだが、感覚があると違和感が凄い。何時の間にか隣に来ていたサーシャは水に触れて涼んでいた。
「まぁ、水着を買わなくて良かったじゃないか。余計な出費も減りそうだしね」
解かっていない、グレッグは全く解かっていないと思う。青い海、暑い気候、なら水着が必要じゃないか。そう叫びたい。変態扱いされそうだからやらないけど。
「ん?何だあれ」
良く目を凝らすと黒い影が近寄ってきている。凄く嫌な予感がする。俺は横に居たサーシャを小脇に抱えると急いで砂浜まで戻る。そして海からでかい蟹が出てきた。
「あはははは、本当にフィールド扱いだったみたいだね。魔物まで居るんだ」
グレッグが何がおかしいのか笑い出す。俺たちは集まって武器と防具を取り出し装備する。こういう時一瞬で着替えられるのは便利だと思うが、何か悲しい。
「いくぞ、どれくらいの強さか解からないから気をつけよう」
いつもはグレッグが指示を出すのだが、グレッグは何か壷にはまったらしく、未だに笑いから抜けていない。サーシャのバフを受けて俺は1人で突っ込んで行き挑発を行う。
エイミーは上空から蟹の目に向かって攻撃をしている。グレッグは足だ。俺は蟹の爪を避けながら見る。サーシャは相変わらず場所を関係なくライトボールを打ち込んでいる。
「こいつは、硬いね。もしかしたら結構強い相手なのかもしれない。敵のスキルに気をつけて」
グレッグはいつの間にか正常に戻っていた。蟹のスキルと言ったら泡だろうか。それを使ってきたらすぐに離れよう。
どれくらい経っただろうか、ずっと俺たちは攻撃し続けている。疲労を感じないとか凄く恐ろしい。サーシャはMP切れがある為定期的に休憩を入れて休んでいる。そして俺たちの周りにはギャラリーが出来ていた。これでは逃げるに逃げられない。
そしてエイミーが槍のスキルを使って攻撃すると蟹が倒れた。報酬はどうせ俺には来ないから解からない。
「ふぅ……なんだったんだこいつ」
「何か凄い耐久力だったね」
俺とグレッグが話しているとエイミーとサーシャも寄ってくる。ギャラリーが歓声を送ってくる中、俺たちはこれ以上目立たないようにその場を立ち去った。
町の広場まで来るとベンチに座る。さてどうするか。
「海に行けなくなってしまったね。この町って他に何があるの?」
グレッグが俺にガイドをやらせようとしてくる。俺は海があるとしか調べていない。他の事なんて全く知らない。1点を除いて。
「ふんどしがあるぞ」
「は?」
「いや、ふんどしが売ってる」
俺が言うとグレッグは何言っているんだこいつ、という視線をぶつけてくる。俺もこんな事を言われたらそう思うだろう。ふんどしなんて言い出されても正直どうしていいか解からない。
「ふんどしを見に行きましょう!!」
エイミーがベンチから立ち上がると大声で宣言する。恥ずかしくないのかこいつは。
「冗談だったんだが……」
まさか乗ってくるとは思わなかった。しかも別方向からとは予想外である。何か変なこだわりがあるのだろうか。
「冗談でも売っているんでしょ?買いましょうよ」
こんな所にふんどし愛好家がいるとは思わなかった。女用のふんどしもあるらしいから、そういう考え方なのだろうか。俺たちは衣服を売っている店をマップから調べる。意外と少なくそこそこの大きさの店舗に向かった。
「で、何でこんな事になっているんだ?」
「僕に聞かないでよ……」
俺とグレッグがテンションの低い声で言う。何せ俺たちは今ふんどし一丁で突っ立っている。正直晒し者だ。それを見ているのは興奮したエイミーだ。サーシャはチラチラこちらを見ている程度だ。
「いやー最初に見た時から似合うと思ってたのよ。鉢巻もつけて欲しい所だけどないのよね」
エイミーがそんな事を言ってくる。もしかして祭りとかでそういう格好の人が好きなのだろうか。これはアレか、女の子の水着を見たいという下心を持ったから、その罰だろうか。
「ポーズ決めてーそうそう、筋肉を強調するように」
エイミーがメニューを開きながら何かしている。まさか録画か?
このゲームではスクリーンショットを撮る機能は標準的に備えていないが、録画機能は何故かある。そしてそれを掲示板に簡単にアップ出来るらしい。
「あのな、エイミー。個人的に楽しむのはいいけど、掲示板には勘弁してくれよ?」
もう録画しているだろうから、何を言っても無駄だろう。だが、最低限の一線は張らせて欲しい。
「いやよ、同士と一緒に楽しみたいもの」
いきなり拒否された。もうどうしようもないらしい。きっと海に来た時点で俺たちの運命は決まっていたのかも知れない。魔物と戦うよりも精神的に疲れる。
「グレッグ、そこでフィルムに抱きついて!!」
「おい、まて、止めろ。何を指示しているんだ」
ふんどし姿の男が好きなんじゃなくてそっちかよ。さすがにそこまでは無理だ。勘弁して欲しい。
「ここで終わりだ。これ以上いけない」
「うん、やばい方向に進みそうだよね……」
そう言って俺たちは別々の脱衣所に入って着替える。俺は変態だと自覚はしているが、同性愛の趣味はない。サービスは終わりだ。
「えー」
エイミーが外でブーイングしている。何か疲れたから後でサーシャの猫耳を触らせて貰って癒してもらおう。怒られそうだけど。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
攻略スレ part45
477 名無しの剣士さん
海の所の蟹が倒されたってよ
478 名無しの双剣士さん
え?本当か?今のレベルで倒せたのか
479 名無しの重戦士さん
ああ、遠くから見ていたから本当だ
しかも倒したのは4人だったぞ
480 名無しの双剣士さん
4人って・・・削りきれなくないか?
盾役が持たないだろう
481 名無しの重戦士さん
それが攻撃を全て避けてた
俺が見始めてから2時間は戦っていたな
実際は更に長くやっていたんじゃないか?
482 名無しの双剣士さん
2時間以上避け続けるとかwwww
出来たとしても先に気力が尽きるわ
483 名無しの剣士さん
俺もそう思う
その戦力は欲しいな
スカウト出来たのか?
484 名無しの重戦士さん
いや、倒してすぐにどっかに行ってしまった
名前も確認出来なかったよ
485 名無しの双剣士さん
そうか、残念だな
それだけの能力があるなら
最前線で戦えそうなのにな
486 名無しの神官長さん
回避盾はうちには少ないですからね
もう少し盾役の人は欲しいです
487 名無しの重戦士さん
そうだな
殆ど俺が盾やっているくらいだし
分散できればもっと楽になるんだが・・・
488 名無しの剣闘士さん
俺は一緒に居た剣士と槍使いが気になったがな
結構良い腕してたぜ?
489 名無しの魔術師さん
後ろで魔法使っていた猫耳ちゃんも可愛かったよな
お持ち帰りしたい
490 名無しの剣士さん
お前ら結構見てたのな
誰か動画でも撮ったのか?
491 名無しの魔術師さん
ああ、撮ってたぞ
面白い戦いだから研究しようか
492 名無しの重戦士さん
そうだな
俺たちが出来るかは解からないが
そう言う手を知っていると何か変わるかもしれない
493 名無しの突撃兵さん
あ、その人たち別スレでふんどし姿がアップされてたぞ
男の方だけだが
494 名無しの剣士さん
え?
495 名無しの双剣士さん
何してんだよwwww
水着回でした。ふんどしが水着かどうかは置いておくとして。