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私は、彼のあんなさわやかな笑顔を知らない

「ありがとうございました!」

 働いている彼の姿を見たのは偶然だった。

「どういうこと?」

 私は彼に、仕事中の彼を見たことを話した。私の前での彼は、紫陽花の花言葉が似合うような、無情で高慢な人間だ。なのに、仕事中の彼の姿は、それとはかけ離れていた。私は、彼のあんなさわやかな笑顔を知らない。

「当たり前だろう。配達にもっとも必要なスキルは接客態度だ」

「私には何がもっとも必要なの? 私は、あなたが宅配便の仕事をしていることすら知らなかった」

 彼が私に必要としているものが見えない。彼は私に興味がないのかもしれない。無情なのは性格ではなくて、私がめんどくさいだけなのかもしれない。

「俺がお前に求めるものは、お前がお前らしくいてくれることだけだ」

「私らしく?」

「そうだ。俺に必要とされようなんて考えるな。お前は、お前に合った背広を着ればいい。俺もそうしている。お前といる俺も、働いている俺も、ほかの俺も……すべて俺だ」

 彼は、だれよりも人を必要としない無情な人間だ。だけど、それ以上に自分に素直なのだろうと思う。

「……だが、俺の仕事を教えていなかったのは、単純に気がついていなかった。すまなかったな」

「いえ、構わないわ」

 配達している彼を見て、こんな無情で高慢な人物だとは思わないだろう。配達中の彼は、とてもさわやかだから。

 だけど、私の前での彼を見て、あんなさわやかな人物だとも思わないだろう。照れくさそうにふてぶてしく謝る彼は、とても不器用だから。

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