ache
今日の生物は解剖実験。
鶏の頭のなかを覗くのだ。
わたしはどきどきしながら、理科室に入った。決して解剖が楽しみなのではなく、実験班のメンバーに好きな人がいるからだ。
誤って彼がメスで指を切っても大丈夫なように、絆創膏まで持ってきている。
実験の手順を読んでいると、彼がやってきた。白衣がとてもよく似合っていて、すこしまぶしい。
「どうよ、オレもぐりの天才外科医みたい?」
彼が嬉しそうに話しかけた。わたしに、ではなく彼の隣の雨宮さんに。
「うん、もぐりの不器用ヤブ医者みたいだね」
「ひどい。オレ不器用じゃないし」
「ふうん。まあ、解剖すれば分かることだけど」
「おう、見てろよ、オレの華麗なメスさばき」
「じゃあ、わたしの分もよろしく」
「待て、なんでそうなる?」
「二倍練習できていいじゃない。不器用なんだから、人の倍、頑張らなくちゃいけないんでしょ?」
「だから、不器用じゃないって」
そんな調子で、二人は解剖の最中もずっと話している。
「よく喋るね」
班の他のメンバーはすこし呆れたように笑っていた。わたしは笑えなかった。
「うわ、ちょっと、血がでてるじゃない」
雨宮さんの悲鳴のような声が聞こえたのは、ほとんど解剖が終わる頃だった。
「え、あ、ほんとだ。でも大丈夫だよ、これくらい」
見ると、たしかに彼の左の人さし指が出血していた。絆創膏の出番だ。わたしは慌ててポケットを探る。
「あの」
「ダメだっての、ほら、これ貼っときな」
雨宮さんの手には、絆創膏。
「おー、サンキュー。しかしよくこんなの持ってたな」
「あんたがケガするんじゃないかと思って持ってきといたの。お礼は白水堂のあんみつパフェでいいから」
「高っ!一枚七百八十円かよ」
おかしそうに笑いながら彼が絆創膏を巻きつけるのを、わたしはただ黙って見つめていた。
「どうかした?」
目があうと、彼は不思議そうな顔をした。
「ううん、なんでもない」
絆創膏、あげなくてよかった。
でも、どこに貼ればいいのかわからない。たしかにひりひり痛んでいるのに。
ほんとは、楽しい話になるはずでした。
だったのに…。
お題は
『理科室』『パフェ』『絆創膏』