愛情はかたいクッキー
テーブルの上に、たくさんのクッキーを並べて、姉が悩んでいる。
「どうしたの?」
「あら、リュウタロー。一つ食べる?」
そう言って渡されたクッキーを、僕はおそるおそる口に入れた。さくっとやわらかく、ほのかにバニラの香りがする。
「美味しい」
もうひとつ食べようと手をのばすと、姉にとめられた。
「そっちは、生地から作ったやつだから、食べない方がいいよ。さっきのは、人工のクッキーシートだから、やわらかかったのよ」
なるほど、そういうことだったのか。これからは、美味しいお菓子が安定供給されると思った僕は、非常にがっかりした。
「冷凍室で凍らせたのが、いけなかったのかしら」
姉が一枚つまんで口にすると、がり、と音がした。それはクッキーというより、食べられる石だといわれたほうが納得するような塊だった。
「こっちの方が美味しいけど、手抜きだって思われるだろうし、でもこんなかたいのあげるのもダメよね」
「両方持っていったら?」
みかねて口だしすると、姉は目を細めた。
「そうね。ありがとう、リュウタロー」
次の日、姉はみるからに上機嫌で帰ってきた。
「リュウ、これ余ったからあげる」
渡された紙袋の中には、昨日の人工やわらかクッキー。
「あげなかったの?」
尋ねると、姉は真っ赤になった。
「ううん。こっちの固い方が、君らしくって美味しいって。リュウもそういう人にならないとね」
「姉ちゃんの弟だから大丈夫だよ」
「え?」
今まで、さんざん下手な料理食べてきたんだから、素質は十分あると思う。
こんな弟がいればなあ。
現実は、厳しいです。
お題は
『クッキー』『人工』『冷凍室』でした。