第10話 プリンセス様、リズムゲーと巨大ロボゲーを楽しまれる
というわけで強制連行された俺は、ミースと一緒に初心者でも楽しめそうなゲームを探して回った。
「あれなんかどうだ。太鼓をたたくゲーム」
「太鼓? 面白そうですわね。どういったゲームですの?」
俺は前の画面を指差しながら説明した。
「左の方にラインがあるだろ。そこに音楽にあわせて右側から太鼓のマークが流れてくる。そのマークがラインを通り過ぎた瞬間に太鼓をたたくんだ。始めは少しずつしか流れてこないんだが、進めば進むほど流れてくるマークが多くなるし、スピードも速くなる。どんどん激しくたたかないといけなくなってくるんだ」
「なるほどですわ。では壬堂さん、一度お手本を見せていただけないかしら」
そう云ってミースは慣れた手つきでゲームに百円を入れる。ああ、自分でお金を入れろっていわれないだけよかった……さすが豪邸のお嬢様。
ゲームが始まって、俺は太鼓をたたきはじめた。基本、格闘ゲーム以外はゲーセンではほとんどやらないのでへたくそなんだが、まあ手本くらいにはなるだろ。
一番簡単なステージを選んで、ゲーム開始。ドンドンドン。リズムよくクリアして、ステージ2へ進む。俺は後ろで見ているミースを振り返った。
「こんな感じでやっていけばいい――」
そこで俺の顔がひきつった。
ミースがなにやらぶつぶつとつぶやきながら、ゲームの画面を色の無い顔で凝視している。
「▼A×&+◆UピJ*=○LOポ#~●>QH|プ■μ……」
「ミ、ミース……?」
「JYリΓT&$#ポ・プ#*~~仝仝ロtgxx△ピ△≒(・_・;仝仝仝仝……」
次のステージが始まった。
太鼓をたたく俺の後ろで、ミースがなにやらマンガを読むときの環田ばりにトランスしている。俺はできるだけ気にしないよう、プレイに集中しようとした。
なんとかステージ2をクリア。次のステージを選択する画面になったところで、俺はおそるおそる斜め後ろを振り返ってみた。
「み、ミース……」
「JYリΓT&$#ポ・プ#*ム●■■▲△∵∵▼%&$$$$~~仝仝ロtgxxΩμ仝仝仝仝打つ打つ打つ打つ打つ打つべし打つ打つべし打つべし&%‘{~……」
次のステージが始まった。
太鼓をたたく俺の後ろで、ミースが完全にトランスしている。俺はできるだけ気にしないよう、プレイに集中しようとした。
ぎりぎりステージ3をクリア。次のステージを選択する画面になったところで、俺はおそるおそる斜め後ろを振り返ってみた。
「ミ……」
「ポ#*ム●■■%&$$$#ダム$$$~~仝仝ロtgxxΩμ仝KOl……)」▲△∵▼@~|OKOPHンヴぁをぺいうtphうぇうrpうqKKKKKKl@‘「@;@p--0^00……」
こええよ。もう無表情でつぶやくのやめて。
次のステージが始まった。
太鼓をたたく俺の後ろで、ミースがトランス。俺はできるだけ気にしないよう、プレイに集中しようとした。
だがやはり妙なプレッシャーを受け続けたためか、あえなくそのステージで敗退。
すると、ミースもすぐ元の状態に戻った。
「◎**β……あ、壬堂さん。おつかれさまでした」
「仕事明けみたいな言い方やめろ……」と云いながらもややほっとする俺。
「……お前、俺がゲームやってた間、なにしてたんだ?」
「データを取得しておりました」ミースは答えた。「次はわたくしの番ですわね」
太鼓のある台にのぼると、ミースはすぐさまゲームを始める。選んだステージは――ってあれ。それ、一番難しいステージ『おにむず』だぞ?
ゲームが始まる。両手にバチをもち、ドレス姿のミースは太鼓の前に仁王立ちになる。画面の右からものすごい勢いで大量の太鼓マークが流れてくる。まさに目を覆いたくなる数。打ち方をあらかじめ知ってないと、とても目で追えるようなレベルじゃない。
……と俺が思っていたら。
ミースは最初から恐ろしく速い動きで太鼓をたたきまくる。無茶苦茶にたたいているのかと思いきや、画面には「その調子♪」の文字。ぴったりタイミングがあっている。
「……ウソだろ」
太鼓初心者にあるまじき正確かつ迅速な動きで、ミースは太鼓を打ち続ける。ときには太鼓の角をたたいたり、ひたすら連打しなければいけない場所もあるのだが、それらをまるで始めから知っていたかのように完璧にこなしていく。画面には「絶好調♪」の文字。一打もはずしてない。
まるでハードロックのドラムのような激しい打ち込みで、ミースはそのままゴールした。
画面には見たこともない高得点。その下には「ウルトラ達人!」の称号。文句なしの最高評価だ。
だがミースはバチを置いて台から下りると、楽しむどころか悔しそうに眉間にしわをよせていた。
「108打目と356打目が1/3000秒遅れてしまいましたわ。少々データ不足でしたわね」
いや、十分ですよお嬢様。
「これより難しい太鼓のゲームはございませんの? 次はデータの取得時間をもう少しのばして――」
「よし、次いこう、次!」」
俺はミースをつれてそそくさと太鼓のゲームを離れる。初心者どころの話じゃないな、これは……。
「これはなんのゲームですの?」
次にミースが目をつけたのは、サバイバル形式のロボットアクションゲームだ。舞台は千年後の未来。二足歩行の巨大なロボットを操って、3Dの荒野を縦横無尽にかけめぐりつつ、続々と現れる敵軍のロボットを破壊していくというもの。
最大の特徴は、ゲーセンのゲームなのに、自分だけのID番号をつくれること。そのIDでプレイすると、倒した敵機の数に応じてポイントが獲得できる。何度も同じIDでプレイしてポイントをためると、自分の機体をさらに高性能なものに乗り換えたり、強力な武器を手に入れたりできるという、戦闘だけでなく成長も楽しめるゲームなのだ。
「面白そうですわね。ロボットに乗って外を歩き回れるなんて、現代では考えられない未来のお話ですもの」
ミースが云うとなにか釈然としないが、とりあえず興味はもってくれたらしい。彼女が席に座り、俺は斜め後ろから見守ることにした。
ゲーム開始。まずはIDを登録。そして自分の乗るロボットと、身につける武器を選ぶ。はじめてのプレイだから当然、最弱のロボット「ザココ」と頼りない武器「旧式マシンガン」しか選べるものがない。
成長を楽しめる、ということは、逆に云えば、何度も足げくこのゲームに通わないとなかなか強くなれない、ということでもある。さっきの太鼓みたいにいくらミース自身がデータを集めて技術を高めても、弱いロボットのままでは攻撃力や耐久性にどうにもならない限界がある。
「……これだけしか選べませんの? 下のほうにあるロボットにはどうしたら乗れるのかしら」
「持ってるポイントが足りないんだよ。強いロボットに乗ろうと思ったら、ゲームをプレイして敵を倒して、ポイントをかせがないといけないんだ」
ちなみに一番下にある、赤黒くトゲトゲしいフォルムでいかにも強そうなロボット「レッドクリムゾン」は80000ポイントが必要だ。一回のプレイで手に入るのはせいぜい500~1000ポイントだから、百回くらいはプレイしないと手に入らない計算になる。もちろんいますぐ手に入れるのは不可能だ。
だが。
「80000ポイント必要なのですね。わかりましたわ(ピピッ)」
そう云ってミースはうなずくと、右端にある操作ボタンのひとつをピッと押した。
すると、所持ポイントがいきなり100000ポイントになった。
「――あれ」
俺がきょとんとしていると、ミースはピコピコとカーソルを下に進め、あっさりと最強のロボ「レッドクリムゾン」をゲットした。
次に武器の選択。あと20000ポイントあるから、全体の半分くらいの武器が選べる。だが画面の一番下にある最強の武器「反粒子ビームレールガン」は90000ポイント必要なため、あたりまえだが購入できない。
「結構お高いですのね(ピピッ)」
そう云ってミースは、また右端にある操作ボタンをピッと押した。
すると、また所持ポイントが100000ポイントになった。
「――あれれ」
俺がきょとんとしていると、ミースはピコピコとカーソルを下に進め、あっさりと最強の武器「反粒子ビームレールガン」をゲットした。
そのほかにも、第二・第三の武器やオプションのアイテムをどんどんポイントと交換していく。ポイントが無くなったら、右端のボタンを押して増やす。無くなったらまた押して増やす。その繰り返し。
あ然としている俺の目の先に、完全無欠のフル装備となったレッドクリムゾンが姿を現した。
「ミース。お前、なにやったんだ……」
「なにって、ロボットと武器を手に入れるにはポイントが必要だとおっしゃるから、ポイントを増やしたのですわ」
「だから、どうやって増やしたのかって聞いてんだよ!」
「ゲームのプログラムに少し手を加えれば、簡単に増やせますわ(ピピッ)」
そういいつつ、ミースは右端のボタンをピッと押してみせる。するとまた所持ポイントが100000になった。
なんなんだそのゲームシステムを崩壊させる便利な右ボタンは……。
ミースが戦いを開始する。やることといえば、二つのボタンをひたすら連打することだけ。
「あら、さっきのものに比べると簡単なゲームですわね。ただボタンを押していればいいだけですもの」
ボタンだけしか操作していないため、ゲーム画面の「レッドクリムゾン」はやたらめったら武器を振り回すだけ。だが序盤に出てくる弱い敵機は、ゴミくずのように次々と破壊される。
「反粒子ビームレールガン」と「四連式トマホークミサイル」の一斉掃射により、敵機ははるか先に出現した瞬間、死滅する。すぐに弾切れ・エネルギー切れになるが、オプションアイテムで購入しておいた予備の弾とバッテリーが500個もあるから、全く問題ない。好きなだけ撃てる。
……完全にチート(ズル技)だ。
ステージが終わり、またポイント交換の場に入る。当然のように「なぜか所持ポイントが増える不思議な右ボタン」を押し、そこで所持できる最高数まで予備の弾を手に入れ、次のステージへ。さきほどと同じように敵機がどんどんなぎ倒されていく。
そしてようやく、他の敵機よりかなり強めのボス敵が出現した。
『俺様がここの――ぐわー!』
名乗りをあげる前に粉々にされた。
最悪最強のレッドクリムゾンによる殺りくの大行進。彼の前に現れる全ての敵はただただ消されるためだけに現れ、ポイントの足しになるだけだった。
「巨大なロボットに乗って未来の世界をお散歩できるなんて、のどかなゲームですわね」
のんきなことを云う彼女の前で、淡々と閃光と爆撃が発射され、敵機が虫けらのように吹き飛ばされていく。
『俺がしとめてや――ぐわー!』
『この機体なら――ぐわー!』
『ま、待って――ぐわー!』
『いいかげ――ぐわー!』
『だから――ぐわー!』
『ちょ――ぐわー!』
『死――ぐわー!』
『ぐわー!』
「ミース……もうやめてくれ。敵がかわいそうだ……」
俺の言葉でようやくミースは殺りくの手を止めた。
「そうですわね。お散歩にもそろそろ飽きてきましたわ」
もうゲームの趣旨が違ってるし。
データを取得してマスター並みの技術を超短時間で身につけたり、ゲームそのもののプログラムをいじったり……想像を超える反則技を平然と使うミースに、まともなゲームプレイを教えることなんてできるのか。いや、できない。全然自信ない。
一体俺は今日どうしたらいいんだ。まじで。