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その四

 成仏、させることが可能ですって?


「話聞いてた? おじいちゃん。恨んでいるのは自分なの。恨みは晴らせないし忘れることもできない。どうやって成仏すればいいの?」

 できるわけがない。

「信じられん、という顔じゃな」

「私はね、お前を成仏させると言った除霊師を12人殺したわ」

 そういうと、ジジイはカッカッカと笑った。

「おお恐ろしいことじゃ。しかし100年の科学の進歩は偉大じゃ。霊は研究され尽くしておる」

「へぇ、ごたくは結構よ。何をする気なのかしら? 科学の進歩とやらの成果を見てあげようじゃないの」

 ジジイは、頷いて言った。

「お前さん自身を分離するのじゃ」

「……分離?」

「そうじゃ。悪霊が成仏できんのは、自らを恨んでいるというその矛盾性による。そこでその存在を二つに割ってしまえば、恨みを晴らすことも可能になるというわけじゃ」

「私が二人になるってこと?」

「お前さんの中には、恨みをもつ人格と、恨まれることが分かっている後ろめたさをもつ人格の2つが混ざっておるのじゃ。霊魂の操作を行い、2つを分離する。そうしてしまえば、後は普通の霊と同じこと。恨みを晴らすなりなんなり、すれば良い」

 ……それって、恨みを晴らす方の私はいいけど、恨みを晴らされる方の私は消えちゃうんだろうか。複雑な気分だが……成仏させてくれると言うのなら、何でもいいという気もする。心の底から聞こえてくる、あの声。あの声に従って衝動的に生きている人間を呪い殺してきた。止められるものなら、止めて欲しいのは、紛れも無い本心だった。

「……簡単に言うけど、そんなことできんの?」

「普通はできんよ」

 ジジイはさらりと言った。

「じゃが、お前さんの場合は特別なのじゃ」

「……何が」

「お前さん、100年前に何が起こったか、全く覚えておらんか」

「……」

「最後の闘いの時のことじゃ。除霊師、副島京四郎に術をかけられた後のことじゃよ」

 残念ながら、京四郎との戦いのさなかから、記憶はぷっつりと途切れている。

「覚えておらんか。では黒き星の守り人よ、説明せよ」

「はい」

 隣で京軍が頷いた。

「昨日言ったが、僕は京四郎の子孫だ。京四郎のひ孫にあたる」

 そういえば、顔は似てるのよね。……中身は全然似てないけど。

「記録が残っている。京四郎は、君を消そうとしたわけじゃない」

 なんですって。

「京四郎が君に仕掛けた術、実はそれこそが霊魂の分離を行う術なんだ」

「何を言っているの」

「恨む霊と恨まれる霊の二つに分離する……それは京四郎が開発した術で、100年経った今でも科学技術では実現できていない、高度な技術だ。京四郎は天才だったんだよ」

「へぇ……それで? その天才様の術は失敗したってわけね? だって私は悪霊のままだし、酷いダメージを受けて眠りっぱなし」

「確かに、成功はしなかった。でもそれは君が……抵抗したからだ」

「…………抵抗……まぁ、したかもね」

 覚えてはいないが。私には抵抗しない理由なんかなかった。

「京四郎は…………」

 京軍は、一度言葉を切った。

「君が、殺したんだよ」

 え。

「うそ」

「嘘じゃない。僕の祖先……京四郎の妻や子供がその場面を見てるんだ。君は大きなダメージを受けながら反撃し……京四郎はその時の霊障が元で亡くなっている」

「へえ」

 なんだ……私、もう復讐は果たしてたのか。

「本当なら、僕がひい爺さんの仇を討ちたいところだ」

「やれば?」

「やめとくよ。ひい爺さんもそれは望んでない筈さ。代わりに、爺さんの望み……君にかけた術を、完成させる」

「あんた、バカじゃないの」

「君にはひい爺さんに感謝して貰いたいね。勝手に助けようとして傲慢だと思うかもしれないが、傲慢で結構。これは僕の意地でもある」

「いいわ。感謝してあげるわよ……ま、その分離術とやらが本当ならね」

 横からジジイが口を挟んだ。

「本当じゃよ。いいかね。術はまだ現代の科学技術でも実現できない高度なものだが……その原理までは解明されたのじゃ。それで、お前さんに起きたことも判明している」

「あら興味深いこと。教えてよ。私に何が起こったの?」

 再び、京軍が説明を再開した。

「中途半端に術が効いたせいで、君の霊魂はすごくゆっくりと分離していくことになったんだ」

「ゆっくりと……」

「それが、100年という時間の理由だ。考えてもみなよ、君ほどのレベルの霊は、霊体の回復は速い筈なんだ。どんな傷だって、100年も回復にかかるわけがないんだよ」

 そういやそうだ。あの銃で霊体を八割方消し飛ばされた時も、回復は速かった。数十分で済んでいる。どんなに深手だったとしても、100年もかかるわけがない。

「じゃあ何? 私は分離するのに時間がかかっただけで、術は効いてたってこと? このまま待ってれば、私の魂は二つになるのかしら?」

「いや、分離一歩手前の状態だが、術の途中で止めてしまっているから、そのままじゃダメなんだ。最後の一押しが必要な状態だ」

「一押し?」

 京軍は、頷いて言った。

「君は、自分がなぜ自分を恨んでいるのか、理解してない。そこを思い出さないことには、霊魂の分離は完了しないんだ」

「あら残念。でも私、どうしてもわからないの。自分を恨む理由なんて、心当たりないのよね」

「ふむ。では、ワシらが協力しよう。思い出させる手助けができる筈じゃ」

「そういえばお爺ちゃん、科学の進歩とか偉そうなこと言ってたけど、結局、全部天才京四郎の手柄じゃない」

「何を言うか。原理を解き明かしたからこそそこまで判明し、最後の一押しが可能なのじゃ。これこそ偉大な進歩じゃよ」

 ジジイの言葉には、ムッとした様子は無かった。淡々と事実を述べる口調。それはそうなのかもしれない。良かったわね、京四郎。あんたの死はムダにならずに済みそうよ。

「教授は、僕と違って歴史に詳しいんだ。20世紀あたりの都市伝説「メリーさん」の正体を暴いてくれるはずさ」

「まあ簡単にはいかんじゃろうがな。なにせ100年も経ってしまっていて、断片的な情報しか残っていないんじゃからな」

「教えてもらおうじゃないの」

 私も、自分のことがこの時代にどう伝わっているのか、興味が無いでもない。

「良かろう」

 ジジイが咳払いして話し始めた。

「昨日、黒き星の守人より相談を受けてな、当時の紙媒体や電子的な記録の一切合財から関係ありそうな情報を吸い上げてノイズを落としてみた。メリーさん、というのは当時のいわゆる怪談の一つじゃな。話にはいくつもバリエーションがあるが、共通する大きな特徴として、まず電話をかけてくるということがある。最初の電話は……まあ色々じゃが、とにかく離れた場所から電話がかかってきて、「私メリーさん、今どこどこにいるの」というセリフが聞こえてくる。その後また何回かかかってくる。そのたびに場所がだんだん近づいてきて、あなたの部屋の前にいるの、とこう来る。ドアを開けると誰もいない。そこで最後の電話がかかってくる。残念ながらその内容には触れられているものがないのじゃが」

 ジジイに聞いた話は、大体私の知っているものだった。

「……それは知ってるけどね。それ、私の呪殺条件そのものだし」

「なんと。呪殺条件とはなんじゃ」

「そうよ。悪霊って言ったって案外無力なものでね、ちゃんと条件を整えないと殺すなんてできないのよ。私の場合、電話を3回以上かけること。最初はどこでもいい。次はそのとおり、相手の部屋の前よ。最後がターゲットの背後。全部の電話に、相手が出ることが条件。結構厳しいのよ」

「その条件は、自分で決めるのかね」

「そんなわけないでしょ。誰がこんな面倒くさいことを。いつの間にか決まってたのよ。悪霊一人一人バラバラなのに。……推測だけど、霊の生前の体験に関係するんじゃないかしら」

「とすると……それこそが鍵、じゃな。おそらくお前さんが自分を恨むようになったきっかけ……それに関わりのあるものじゃ」

「やっぱり電話が……鍵、でしょうか」

 京軍が口を挟んだ。

「そうじゃろうなぁ」

「電話ねぇ……」

「20世紀末と言えば携帯電話が普及し始めた時期だった筈じゃ」

「電話に何か恨みでもあったのかしら」

「いやそれは無かろう。使っておるんじゃから。何か電話でいやな話を聞いたとか……」

 私はふと、思っていたことを口にした。

「私、この時代に出てきてから、不思議に思っていたの」

「なんじゃ」

「あれ程私を突き動かしていた……衝動が失せているのよね」

「衝動?」

「だから……人を呪い殺したい、という衝動」

 ジジイと京軍は顔を見合わせた。京軍が恐る恐る口を開く。

「それはどういうことなんだろう」

「さぁ、わからない」

「君はそもそも、どうやってその……呪い殺す人を選んでいるんだ?」

「殺す対象はそういえば傾向はあるわね。気に入らないのは、家族を捨てて愛人のところに走った男とか、恋人を捨てる女とか、友達を切り捨てるやつとか、ペットを捨てる子供とか、とにかく、「捨てる」やつなのよ」

 言ってて、これは嫌な結論になりそうだ、と思った。

「すると、お前さんが捨てられた経験か」

 当然そうなるわよね。

「……そうかもね。冗談じゃないけど」

 がっくりするような話だ。私ってば、捨てられた腹いせにやつあたりする女なわけ? 何ソレ。格好わるぅ。

「とにかく、なんとなく糸口が見えてきたような気はするな」

 ジジイがのたまう。

「どこが? 何もわかってないじゃない」

「いいんじゃよ。後はお前さんを退行催眠にかける。そこで電話だの捨てるだのというキーワードで記憶を引き出すのじゃ」

「退行催眠? 催眠術ってこと?」

「残念ながら道具なしに催眠術をかけられる人間は今の時代にはもうほとんどおらんでな。催眠装置を使う。大丈夫じゃ、幽霊にも通用する」

「わかるように説明してよ。催眠術で何をする気なの」

「催眠術に関してはお前さんが生きてた時代から本質的には変わっとらんよ。見たことないのかね。貴方は子供時代に戻っていきます……と催眠術をかけられると、本当に子供に戻ったように振る舞い始める……。それが退行催眠じゃ。子供時代の記憶を呼び起こしているわけじゃ。人間というのは意識下では思いの外色んなことを忘れていないもんじゃでな。子供時代のことだって忘れてはおらん、思い出せなくなっておるだけじゃ。それを思い出させるのが退行催眠というわけじゃ」

「それが何の関係があんのよ」

「察しが悪いのう。お前さんが生きてた頃に記憶を戻して、何があったのか聞いてみるんじゃよ。お前さん、忘れてるわけじゃなくて思い出したくないだけじゃと思うでな」

「ふーん、じゃあ、まあよくわかんないけど、やってみてよ」

「よしきた。装置を取って来るんじゃ」

「はい、わかりました」

 言って部屋を出てすぐ戻ってくる京軍。その手に握られていたのは、ラッパのような形をしたものだった。

「ではいくぞ」

 ちょっと待ってと言うまもなく、スイッチを入れるジジイ。ラッパをこちらに向ける。ラッパから低いうなり声のような音が聞こえる。それを聞いているうちに、眠くなっていった。朦朧とする……。


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