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恋も男も、ままならない!

ぶりっ子 vs サバ女~年下男子は誰のもの?~

作者: かず
掲載日:2026/11/07

間違えて連載設定で投稿してしまったので改めて再投稿です。

もし、「ぶりっ子 vs サバ女 年下男子は誰のもの?」を読んでくださった方がいらっしゃいましたら

これは、まったく内容は同じです。

すみません。

寝起き投稿は危険がいっぱい。

「今日から当部署に配属になりました、佐々木陸(ささき りく)です! まだまだ分からないことばかりですが、精一杯頑張ります。よろしくお願いします!」


爽やかな声とともに深々と頭を下げた新人に、オフィスの一角で二人の女性が熱い視線を注いだ。


佐々木陸、二十二歳。


一八〇センチを超える高身長に、無駄のないスラリとしたスタイル。爽やかな笑顔と清潔感あふれるビジュアル――どこからどう見ても、滅多にお目にかかれない超・好物件!


(なにあの子、超イケメンなんだけど……! よし決めた。私の「可愛さ」で一瞬で落として見せるわ)


結菜の頭の中で、ロックオンマークが陸の額にカチリと合わさる。


(ふーん、顔良しスタイル良しのハイスペックね。若い男なんて、結局頼れるお姉さんに甘えたいのが本音でしょ。私の「頼もしい先輩」アピールで一コロね)


凛の頭の中でも、同じくロックオン完了の通知が鳴り響いていた。


そして――二人は同時に互いの方を振り返り、その視線を鋭く交差させた。 


二人の狙いが定まった瞬間、戦いの火蓋は切って落とされた。


((絶対に渡さない!))


職場全体への挨拶を終えた陸は、課長に連れられて、二人のいるデスクまで挨拶にやってきた。


目の前にやってきた陸を見て、凛がすっと立ち上がり、爽やかなドヤ顔で名乗りを上げた。


「課長、彼の教育担当なら私に任せてください。実務も一から教えられますし、私が担当した方が彼も安心だと思います」


すると、結菜もすかさず椅子を引いて立ち上がり、ふんわりとした笑顔で割り込んだ。


「え~? ちょっと待ってよ凛。教育担当なら、結菜がやった方がいいんじゃないかなぁ? 優しく丁寧に教えてあげられるよっ」

「いつもあんた『これ、分からなぁ~い』って周りに甘えてるじゃない。どこをどう取ったら指導できるのよ」

「それはぁ、素直に頼るのがコミュニケーションだからだよぉ? ちゃんと彼のお世話くらい、私だって完璧にできるもんっ」


二人はにこやかな笑みを浮かべたまま、課長と陸の目の前で肘によるミリ単位の押し合いを始めた。


(やれやれ……初日からこれか)


「おいおい……二人とも、初日から圧をかけるなよ。教育は二人で協力して、ほどほどにな?」


間に挟まれた課長は、二人の凄まじい熱量に圧倒され、顔を引きつらせながら釘を刺すのが精一杯だった。


だが、二人の耳には課長の制止など一切入っていない。 


そんな空気を微塵も気にせず、凛はふっと鼻で笑うと、目の前で固まっている陸に向かって包容力たっぷりの笑みを向けた。


「とにかく、佐々木陸くん。分からないことがあったら、遠慮なくなんでも『私に』聞いてね? あ、言い遅れたけど、私は滝沢凛(たきざわ りん)。よろしくね」

「あ、ありがとうございます、滝沢先輩! ええと、俺――」

「あ、私もいろいろ教えてあげるからねっ! 私は有村結菜(ありむら ゆいな)。みんな私のこと『結菜ちゃん』って呼ぶから、陸くんもそう呼んでいいんだよぉ?」

「あ、はい。有村先輩、よろしくお願いします!」

「もーーう、固いな。『結菜』だってばっ!」


結菜は頬をぷくりと膨らませ、上目遣いで陸を見上げる。


(「有村先輩」なんて呼ばれてたら、凛と同類になっちゃうじゃない。こうやって結菜って呼ばせて距離を一気に縮めるのが、私の真骨頂なのよ。わかってないわね凛は)


「あ、はい。結菜先輩!」

「……」


すぐ隣で繰り広げられるそのやり取りに、凛は内心、呆れたように鼻を鳴らした。


(あんな分かりやすいぶりっ子アピールで男を転がせると思って……。はぁ、やれやれ。相変わらずあざとい真似をするわね。必死すぎてバカみたい)


呆れた凛は、陸の肩を軽く叩いた。


「はいはい、あざとい挨拶はそこまで。課長、彼のデスクはあそこでいいですよね? 佐々木くん、そういうことで、君のデスクはあそこだから」


凛は少し離れた場所にあるデスクをすっと指で示すと、ファイルが収まっている棚へ向かい、そこからスマートに分厚いファイルを取り出して、陸のもとへ戻ってきた。


「まずはうちの部署の業務フローと主要な取引先のリスト、私が分かりやすくまとめたやつ渡すわね。分からないことがあったらなんでも私に聞いて」

「あ、ずるーい! 結菜だって陸くんのためにマニュアル整理するのに! 陸くん、私のもあとで見てねっ」


結菜はあからさまに胸元に手を当て、ゆるふわな笑顔で陸を見つめ返す。


張り合うように次々と対抗アピール(という名のマウント合戦)を差し出してくる二人を前に、陸は目をキラキラと輝かせた。


「すごい……! 初日からこんなに優しくしてもらえるなんて……俺、この部署に配属されて本当に良かったです!」


(どうよ、この「可愛いお姉さん」アピール! 初日から私の可愛さと手厚さにメロメロになってる証拠よ、完璧っ!)


一方、そんな結菜のドヤ顔を真横で目撃した凛も、すぐさま鋭い眼光を帯びて内心で闘志を燃やす。


(ふふん。どうよ! 私がこれからもっと「本当の頼れるお姉さん」の魅力を叩き込んで、こっちに振り向かせてやるわ……っ!)


◇◇◇


二人が激しいライバル心を燃やした日から、数日後。


部署の仕事や環境にも少しずつ慣れてきた陸のデスクには、連日二人からの熱心な指導(という名のマウント合戦)の痕跡が積み重なっていった。


ある日の昼下がり。


結菜は「お疲れ様! 疲れたときには甘いものだよっ! 食べてね♡」と、パステルカラーの可愛いクマのイラストが描かれた付箋にメッセージを書き入れて、それをお菓子にペタッと貼って陸のデスクに差し入れた。


「陸くん、午前中のデータ入力お疲れ様でしたっ。これ、頭が回らなくなったときに食べてね? ……あ、分からないところがあったらいつでも『結菜』に聞いてね?」

「わあ、結菜先輩、ありがとうございます! この付箋のクマ、癒やされます……! お菓子もこうやって疲れたときに渡されると嬉しいですね!」


少し離れた自席からその光景を見ていた凛は、ふっと鼻を鳴らすと、デスク棚から取り出した分厚いファイルを手にして立ち上がった。


「はい、佐々木くん。昨日提出してもらった資料、いくつか修正点があったから私が付箋でポイントをまとめておいたわ。効率的なチェックリストも挟んでおいたから、これを参考に次から直して。分からないところは『私に』聞いてちょうだい」

「はい! ありがとうございます、滝沢先輩! すごく的確で勉強になります! やっぱりできる人は違いますね!」


二人からの手厚すぎるサポートの嵐に、陸は目を輝かせながら自分の手帳を取り出し、熱心にペンを走らせた。


サラサラサラ……ッ


手帳に真剣な表情で何かを書き込んでいる陸の姿を見て、結菜と凛は気になってたまらず、左右からほぼ同時に手帳を覗き込んだ。


「陸くん、なにを一生懸命メモしてるのぉ? 何書いてるのか見せてくれると、結菜嬉しいな?」

「佐々木くん、熱心ね。何を書き留めてるの?」


二人に覗き込まれ、陸は少し照れくさそうに手帳を胸元に引き寄せながら、笑顔で答えた。


「あ、これですか? 初日からお二人に教えてもらったことや、やり取りの記録です! あとは……先輩たちに親切にしてもらって、嬉しかったことなんかも書いてるんです!」

「嬉しかったこと!?」

「やり取り!?」


陸の爽やかでピュアな回答に、結菜と凛の脳内で、一瞬にして都合のいい変換回路が作動した。


(ほら! 「嬉しかったこと」って言ったよね!? 絶対に私のお菓子の差し入れと「結菜って呼んでね」って言ったことじゃない! きっと呼ぶのが恥ずかしい分、手帳には結菜さんは優しいとか可愛いとか、書いてるのよ!)

(ふふん、「やり取りの記録」ね! 私が渡した的確なチェックリストと仕事の指導に感激してる証拠だわ。私の方が圧倒的に頼りにされてるわね! あんな甘いお菓子より、実務に直結することのほうが響いてるに決まってるわ。きっと「滝沢さんの指導は分かりやすい」って書いているのね!)


陸の手帳こそが「自分への好意と信頼のバロメーター」だと確信した二人は、相手よりも多く、自分に関する「嬉しかったこと」や「教わったこと」を手帳に書き込ませようと、ますますライバル心を燃やすのだった。


こうして、二人の怒涛の対抗アピール(という名のマウント合戦)と、陸の勘違いメモ術の日々が始まった。


――それから三か月。


二人の熱心すぎる指導合戦は続き、陸もすっかり部署の仕事に慣れていった。


◇◇◇


二人が、そろそろ一気に距離を詰めて落とす頃合いと見定めたある日のこと。第二ラウンドの火蓋が切って落とされた。


「あ、陸くん! これ、どうぞっ! コーヒー淹れたよぉ。新人研修もひと段落して、覚えることが多くて大変でしょう? 無理しちゃダメだぞっ?」


結菜が萌え袖から覗く華奢な手で紙コップを差し出すと、陸はパッと顔を輝かせた。


「わ、結菜先輩! ありがとうございます! すごく嬉しいです!」


その微笑ましい光景のすぐ後ろで、書類の束を抱えた凛がふっと鼻で笑いながら割り込む。


「ちょっと結菜、佐々木くんにあんまり甘い顔しちゃダメでしょ。佐々木くん、男はさ、ただ甘やかされるより仕事を任されるほうが嬉しいもんよね? これ昨日の会議資料のファイリング。できるところまでやってみて。分かんないことはなんでも私に聞いていいから」

「はいっ! 滝沢先輩! 俺、一人前だと認めてもらえるようバリバリ頑張ります!」


陸が元気に資料を受け取ると、結菜はふんわりとした笑顔を張り付けたまま、ぱちりと目を見開いた。


「え~? 凛ったら相変わらずスパルタなんだからぁ。年下の男の子って、年上のお姉さん(私)に可愛がられて、母性たっぷりに包み込んでもらった方が、やる気が出ると思うんだけどな?」

「そう? 一人前の大人として扱って、責任ある仕事を任せる方が、彼の自信にもつながると思うけど。甘やかすだけが優しさじゃないわ。子ども扱いして甘やかすより、仕事を任せて信頼を示す方がずっと響くはずよ」

「えー、でもぉ。男の子って、やっぱり守ってあげたくなるような『可愛い女の子』に甘えたいんじゃないかなぁ?」

「ふふ、どうかしら。甘やかすだけじゃなく、『並んで走れるパートナー』の方が今の時代ウケがいいと思うけど?」


バチバチバチ


同僚二人の間には、第三者には見えない火花が激しく散っていた。


当の陸は、そんな二人の思惑には微塵も気づかず、「俺の指導について、二人で真剣に意見を交わしてくれてるんだ……!」と感動の眼差しで見つめていた。


二人からの手厚いサポートを笑顔で受け止め、陸は感慨深げに胸の前で拳を握りしめた。


「……あの、本当にありがとうございます! 結菜先輩はいつも優しく癒やしてくれて、滝沢先輩は仕事をテキパキ教えてくれて……本当に、最高の先輩たちに恵まれました! お二人のおかげで、俺、毎日すごく充実してます!」


ピュアな瞳でキラキラと感謝を伝える陸。その言葉に、結菜と凛の脳内で、当然のように都合のいい変換回路が回りだす。


(ほら見たことか! 「癒やしてくれて」って言ったわよね! 私の癒やし系アプローチが完全に心に刺さってるってことよ……っ!)

(ふふん。「テキパキ教えてくれて」って言っていたわ。これって私の圧倒的な仕事の指導に惚れ込んでる証拠よ!)


相変わらずお互いに「自分が決定打を与えている」と確信し、内心でドヤ顔を決め込む二人。当の陸は満足げに『よし、午後も頑張るぞ!』と気合を入れ、爽やかに自分のデスクへと戻っていくのだった。


◇◇◇


――午後の業務が始まって、しばらく静かな時間が流れた頃。


結菜と凛が自分のデスクからふと陸のほうを見ると、彼はまたしても真剣な表情で、ポケットから取り出した手帳に何かを書き込んでいた。


気になって仕方のない二人は、自然と足音を忍ばせて陸の背後に近づき、その手元をそっと覗き込んだ。


「陸くん、また一生懸命メモしてるの? 何書いてるのか、結菜に教えて?」

「佐々木くん、そんなに熱心に。何を書き留めているのかしら」


二人に声をかけられ、陸はパッと顔を上げて、どこか誇らしげに手帳のページを見せた。


「あ、先輩方! さっきいただいたアドバイスがすごく勉強になったので、忘れないように自分なりに要点をまとめたんです!」


陸が指さした手帳には、丁寧な文字で次のように書かれていた。


・「守ってあげたくなる可愛い女の子」を求める相手の期待に応える

・「並んで走れる自立したパートナー」を求める相手の期待に応える


「相手のタイプに合わせて、守ってあげたくなる可愛い女の子を求める人にも、並んで走れるパートナーを求める人にも応えられる男になるのが大事なんだなって気づきました!」


嬉しそうに語る陸のセリフとメモを目にした瞬間、結菜と凛の脳内で、再び都合のいい変換回路がフル稼働する。


(ふふっ……「可愛い女の子に応える」って、完全に私のことじゃない! 私の期待に応えたいのね……っ!) 

(ふふん。並んで走れる『自立したパートナー』こそが本命の教えよ。私の期待に応えようとしてるわ……っ!)


お互いに「自分の教えこそが陸のメインカリキュラムに選ばれた」と確信し、火花を散らしながら不敵な笑みを浮かべ合う。


当の陸は、「すごい先輩たちを持ったなぁ……」と、今日も今日とて的外れな感動に浸りながら、満足げに手帳をパタンと閉じるのだった。


◇◇◇


そんな日々が続いたある日のこと。


「先輩、あの、友達のことなのですが……ちょっと相談に乗ってもらってもいいですか?」


デスクワークの合間、陸が少し緊張した面持ちで二人のところへやってきた。


「なぁに?」

「どうしたの?」


「あの……女性に好印象を持ってもらうには、どうしたらいいんでしょうか? その……友達が悩んでて」

「「えっ?」」


思わず結菜と凛は顔を見合わせた。女性に好印象? 友達とか言っているけれども――それって、つまり……。


「えーっと、それってどういうことなのかなぁ?」

「えーっと、具体的にはどういうことか聞いても?」


結菜と凛が優しく探ると、陸は少し照れくさそうに、後頭部をポリポリとかいた。


「実は、すごく気になっている女性がいて。でも、どうやって距離を縮めればいいのか分からなくって。あ。友達がそう言っていて……」

「あらぁ?」

「へえ?」


途端に、二人の胸がキュンと高鳴った。気になっている女性? それって、やっぱり……!


「陸くん、まずは笑顔と親しみやすさが一番よ? 優しく笑いかけて、相手の警戒心をふんわり解きほぐしてあげてね。女性は優しく笑いかけてもらえると嬉しいものなの」

「そうなんてすね……!」

「ちょっと結菜、笑顔だけじゃ浅いわ。笑顔も確かに大事だけど、それだけじゃ駄目よ? 相手の話にしっかり耳を傾けて、困っている時にそっと手を差し伸べられる包容力を見せることよ。時には助けてあげることも大切なの」

「なるほど……っ!」

「それからね? たまには隙を見せて、可愛らしく頼ってみるのもギャップがあっていいと思うなぁ」

「可愛らしいところ……」

「いや、それはだめよ。自分の軸を持たずに流されるのは逆効果よ。相手に合わせすぎるのもよくないわ。自立した大人として、自分の意見をはっきり伝える強さも必要なの」

「自分の意見ですね……!」

「あらぁ。自分の意見をはっきり伝えるだけじゃ、つまらないわよぉ? 甘えるっていうのも大切だと思うなぁ?」

「甘えるのと頼るのは違うと思うけど? それに、しっかりしている男性の方が素敵じゃない」

「えー、そうかなぁ? 凛は全然わかってないと思うよっ!」

「先輩方のアドバイス、すっごいためになります! 聞いてよかった!」


陸は真剣な顔で何度も頷きながら、ポケットから取り出した小さな手帳にサラサラとペンを走らせていた。


(ふふふ。これで、私への告白の方向性はバッチリね……っ!)

(ふふん。私への告白の仕方、しっかり学んだようだわ!)


「あ、それにね? 相手の素敵なところを、素直に褒めてあげるのも忘れちゃ駄目よ?」

「褒める……!」

「あら結菜にしてはいいこと言うのね。そうね、お世辞だと取られないようにね。心からの言葉で、自然に伝えること」

「はい! 本当にありがとうございます!」


陸は、何かを心に刻むように真剣な表情でお礼を言うと、自分のデスクへと戻っていった。


そして、さっそく手帳を開くと、書き留めた内容を真剣な顔で読み返し、何度もウンウンと頷いていた。


遠くからその様子を見つめ、結菜と凛の脳内で、すかさず都合のいい変換回路が立ち上がる。


(ふふふ。これで私に告白するときは、可愛く笑顔で気持ちを伝えてくれるはずね……っ!)

(ふふん。私に告白するときは、きちんと自分の言葉で誠実に伝えてくれるはずよ!)


二人は互いに視線を交わし、「勝利」を確信し密かに不敵な笑みを浮かべ合うのだった。


それからというもの――。


陸の様子には、明らかに変化が見られるようになった。


ある日の昼下がり。


コピー機の前で資料を崩しそうになっていた隣の部署の女性社員に、陸がスッと手を貸していた。


「大丈夫? 途中まで運ぶよ」


そう言って爽やかな笑顔を浮かべ、資料を半分引き受けると、手際よく運んでいった。


遠くからその光景を目撃した結菜と凛の脳内で、瞬時に都合のいい変換回路が作動した。


(あら? あんなに柔らかい笑顔で……ふふっ、私に教わった笑顔の使い方を実践しているのね!)

(ふふん、私の教え通り、困っている相手にスマートに手を差し伸べているじゃない。……なかなかやるわね)


二人は互いに目を細め、それぞれ内心で「あれは私の教えの成果に違いない」と誇らしげに胸を張るのだった。


――それから数週間後。


「結菜先輩! 滝沢先輩!」


昼休み、陸が満面の笑みで二人のデスクに駆け寄ってきた。


「ん? 陸くん。どうしたのかなぁ? そんなに嬉しそうにして、何かいいことあったの? 結菜知りたいな?」


結菜が瞬時に「可憐な先輩」のスイッチを入れる。


「何かいいことでもあった? 相談ならいつでも乗るわよ」


凛も即座に「頼れるお姉さん」の顔を作る。


陸は二人の前でパーッと顔を輝かせ、照れくさそうに笑った。


「先輩たちのおかげです! 俺、彼女ができました!!」

「…………え?」

「…………は?」


二人の完璧な営業スマイルが、固まった。


「か、彼女……?」


結菜がひきつった声で尋ねると、陸は照れくさそうに頭を掻いた。


「実は、隣の部署にずっと好きだった同期の子がいたんです! どうアプローチしていいか分からなくて……。あの時、お二人が教えてくれたじゃないですか! 友達の話じゃなくて、実は俺の話だったんです!」


陸は嬉しそうに続けた。


「アドバイスを実践に移しながら、思い切って食事に誘ってみたんです。そしたら、いいですよって言ってくれて! それで何度か一緒に出かけて、昨日、付き合うことになったんです!」

「……え? そ、そうなの? 結菜、知らなかったなぁ……?」

「……は? お、おめでとう……?」

「ありがとうございます! お二人のおかげです!」

「そ、そう……よかったわね?」

「えっと……よかったね?」

「はい! お二人とも本当にありがとうございました!」

「「……」」


思いもよらない展開に、結菜と凛は言葉を失った。


陸は「彼女とランチに行ってきます!」と、軽やかな足取りで去っていった。


陸の背中がドアの向こうに消えたのを見届けて――


五秒……十秒……


「「………………は?」」

「…………ねえ、凛」

「……何?」

「私たち、何をしていたのかしら?」

「…………さあね」

最後までお付き合いありがとうございました。


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