聖女の愛はお金では買えません!
一話完結の不定期連載、第三話です。
この話だけでも読めると思います。
前作もシリーズ一覧からサクッと読めますので、よろしければ先にそちらも読んでもらえますと幸いです。
屋敷に戻ってもまだ少し胸に熱が残っているようだった。何故かは分からない。ただ、アリシアと会った時から私の中で何かがおかしい。
セレス。
いつぶりだろうか。私の事を友として、名前で呼んだ人は。家柄や才能を褒められることはあっても、私を一人の友人として見るものなど居なかった。
……何を馬鹿なことを。冷静になるのです、セレスティア・レーヴェン。
あれは貴族でいう社交辞令のようなもの。でなければ、仮にも聖女が私にあんな事を言う理由がない。公爵家の娘という記号でしかない私に。
頭を冷やしながら自室の扉を潜ると、程なくしてオーウェンがやってきた。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「あ、ああ、オーウェン。先程はご苦労様でした。いつもすみませんね」
オーウェンが目を丸くする。
「……失礼ですがお嬢様、どうかされたのですか? 私にねぎらいの言葉を掛けるなど、まるで普通のご令嬢ではないですか」
「失礼ですね。まるで私が普通ではない、と言うように聞こえましたけれど」
「はい。普通のご令嬢は魔道具を集めたり、魔獣を飼ったりしませんので。そんな事より、聖女様には会えたのですか?」
白い修道服を着て募金箱を抱える姿。小鳥のように震えながらも、私の手を取ってくれた。はにかんだ時のえくぼや、遠慮がちにも相手の事を気遣わんとする優しげな瞳。
「お嬢様?」
「……え、ええ。流石は『慈愛の聖女』と言ったところでしょうか。素晴らしい魅力を持った方でしたわ」
「……成程。お嬢様にこのような顔をさせるとは、市井の評判もあながち大袈裟ではなさそうですね」
「え、顔?」
「大変にやけておいでですが。何か良いことでもありましたか?」
そう言ってオーウェンはくっ、くっと笑った。
本当にこの執事、性格が悪いですね!
「〜〜〜っ! べ、別に何でもありませんわ。用がないならもう出て行きなさい。……あ、そうそう、明日から一週間の予定は全てキャンセルいたします。それ以降の縁談や予定も出来る限り引き伸ばすように」
「なっ……無理に決まっているでしょう! まったく、少しは可愛くなったかと思えば……」
「良い顔ですねえ。やはりオーウェンはそうでなくては」
にやけ笑いから顰めっ面に変わったオーウェンを見て満足そうに頷いた後、私は机に向かい小切手に金額を書き込んだ。
「ほら、金貨千枚です。貴方ならこれで何とでも出来るでしょう。残りは好きになさい」
「承知いたしました。どうぞ、お嬢様のお心のままに」
彼は小切手を受け取ると、何事もなかったように頭を下げた。つい先ほどまで無理だと言っていた顔ではない。
「ふ……その切り替えの速さは嫌いではありませんよ」
「お嬢様の執事ですので」
「よろしい。では下がりなさい」
「失礼いたします」
小煩い執事が退室し部屋に静けさが戻ると、ふと壁際の姿見に目が止まった。まったく、誰がにやけているなどと……
「…………」
コホン。
これは聖女の慈愛の一端を見ることが出来たからです。
そうに決まっていますわ。
◇
次の日。目を覚まして窓の外を見ると、空の端が淡く白み始めていた。
普段ならまだ夢の中にいる時間だが、今日から一週間の間、修道体験という名目で教会の手伝いをさせてもらうことになっている。
「ふぁ……こんなに早く起きたのは久しぶりですね」
朝の四時。これでも一次課からの参加なので、アリシアを含むシスター達はもっと早くの毎朝二時起きというのだから驚きだ。
「さあ、支度をしなくては」
出来るだけ簡素な外出着を選んで髪を整えた後、机の上に置き手紙を残す。
『夜までには戻ります。探さないように』
完璧だ。必要な情報は全て書いてある。
侍女たちを起こさないように転移の魔道具で屋敷の外まで出る。そこから半刻程歩けば、やがて白い尖塔を持つ正教会が見えてきた。
朝の空気は思っていたより冷たかったが、教会の前では既に若い修道女たちが、まだ夜露の残った石畳の上を箒で掃いていた。
私は神などというものは信じていないが、神の愛を信じ、勤勉であろうとする彼女らの行いは尊ぶべきだ。
その中に白い修道服に身を包んだアリシアも混じっていた。寝癖を直しきれていないのか、淡い青の髪が少しだけ跳ねている。
眠そうな目をしていたが、私を見た瞬間、ぱっと表情が明るくなった。
「セレス!」
彼女が声を上げると、近くで作業していた修道女たちの手がぴたりと止まった。
掃除の手を止める者。何やら小声で囁き合う者。多くは貴族令嬢の気まぐれな修道女体験だとでも思ったのか懐疑的な目を向けている。
「急に無理を言って申し訳ありません。本日はよろしくお願いいたしますわ」
礼をすると修道女たちは慌てたように頭を下げた。
その中でアリシアだけが私を見てくれている。
「お、おはようございます! セレス……。えへへ、呼び捨てはまだちょっと恥ずかしいです」
「ふふ、ごきげんよう。アリシア、今日は色々と教えてくださいね」
「い、いやぁ、私はまだ見習いですから。いつもシスターリリィに叩き起こされてばかりですし。村にいた時はこの時間はまだ寝てましたし、今も眠いです……ふぁぁ」
アリシアが口元を押さえて欠伸をする。
「こら、アリシア! 話してばかりいないで仕事しな!」
奥から年嵩の修道女が歩いてきた。昨日、募金の場にいた女性だ。彼女は腰に手を当て、私とアリシアを交互に見た。
「セレスティア様、あんたもここにいるうちは特別扱いしないからね。アリシアと一緒によく学ぶんだよ」
「お願いいたします、シスターリリィ。聖女の慈愛、しかと学ばせていただきますわ」
「神様についてって言ったんだけどね」
シスターは呆れたようにため息をついた。
朝の集会が始まる頃には、教会の礼拝堂は凄まじい人だかりになっていた。
早朝の集会など熱心な信徒がまばらに集まる程度だと思っていたが、実際には長椅子は全て埋まり、通路の端にまで人が立っている。老人もいれば、子供を連れた母親や、若い娘たちもいた。
「ほう。神への敬愛というのもあながち捨てたものではないのかも知れませんねぇ……」
祭壇の袖で感心して呟くと、隣にいたシスターリリィが苦笑した。
「セレスティア様は意外と純なのねぇ……違うわよ。あれはアリシアを見たくて集まってるの」
「アリシアを?」
「本来は聖女は神殿の本部勤めだからね、普通は大衆がおいそれと会えるような存在じゃないのさ」
礼拝堂の前方にいるアリシアを見ると、彼女は緊張した面持ちで讃美歌の本を持っていた。周囲の視線を受けて少し肩を縮こまらせながらも、笑顔を絶やさず聴衆に向けている。
讃美歌を歌って朝の集会を終えた後、ぞろぞろと帰る人の波を背にアリシアがこちらへ駆け寄ってきた。
「お疲れ様でした、アリシア。素晴らしいお勤めでしたよ」
「そんな、私なんてまだ全然です! 歌も音痴だし、一生懸命やる事くらいしか出来なくて……」
労いの声をかけるとアリシアが照れたように笑う。
その笑顔を見て、なんとなく民衆の気持ちも理解が出来た。
「ふふっ、これではどちらが信仰されているのか分かりませんねえ」
「やめな。お偉方に聞かれたら面倒だよ」
お偉方。神殿の司祭連中の事だろうか。
「そういえば、アリシアはなぜ神殿に行かないのです? あそこなら特別待遇で、朝もぐっすり眠らせてもらえるでしょうに」
「そ、そんな! たまたま聖女の力に目覚めただけで、私なんて教会の事もまだ詳しくないですし……一人前のシスターだって認められてからじゃないとそんな所いけませんよ」
そう言うとアリシアは、恥ずかしそうに耳の後ろを掻いて笑った。
「……素晴らしい」
漏れ出た声は自分でも驚くほど、震えていた。
「権威に着られるのではなく、権威に見合う己であろうとする。そういう事なのですね……貴女こそ、まさに聖女と呼ばれるに相応しい!」
「セ、セレス?」
公爵家という記号を退屈に思っていた私も、何処かで彼女を聖女という記号で見ていた。
ああ、私はなんと愚かな事をしていたのでしょうか!
「……今日ほど自分の浅慮を恥じた事はありません。不肖、セレスティア・レーヴェン。友として、アリシア・ミルフィールド、貴女に最大限の敬意を表させていただきます」
「セレス! や、やめて下さい」
その場でカーテシーをするとアリシアが慌てふためいた。
それを近くで見ていた若い修道女たちが、そっと手を合わせる。
「ほら、解散解散。仕事しな」
シスターリリィの声が飛び、修道女たちは慌てて散っていった。
◇
それから数日が経って、教会の仕事にも少しずつ慣れてきた頃、事件は起こった。
それはいつものように午前の集会を終えて、昼のお勤めをしていた時の事だった。
その日は週に一度の炊き出しの日であり、王都の貧民街の一画で配給をする事になっていた。流石に公爵家の人間を立たせるわけにはいかないと私は設備の脇に待機させられ、またその日は貧民街に出る私を案じてオーウェンも同行していた。
長蛇の列に並ぶ貧民の前で、一人の男がよたよたと、列を割るように入ってきたのだ。男は周囲の静止を振り切って前に出ると、アリシアの前に倒れ込むように膝をついた。
私は咄嗟にアリシアの肩を引いて、男との間に割って入った。そして更に、それより早くオーウェンが私の前に立つ。
「無礼な、自分のしている事が分かっているのですか!」
そう言って男を牽制するが、男は私を無視してアリシアを見上げた。
一瞬呆気に取られたアリシアだったが、我に返って一歩後ずさる。顔には明らかに恐怖の色が浮かんでいた。
「聖女様、お願いです! どうか私の足を治してください! このままでは明日から家族が路頭に迷ってしまいます!」
見た所、男は足を怪我しているらしく、包帯が巻かれた箇所は不自然に引き摺られており、足先は砂埃で汚れていた。きちんとした処置がされていないであろう事は傍目にも分かった。
ただ、だからといってこちらが助ける義理などない。
「アリシア、耳を貸す必要はありません。オーウェン、つまみ出して、聖女に無礼を働いたこの不届者を憲兵に突き出してやりなさい。多少手荒にして構いません」
「承知いたしました、お嬢様」
「聖女様! どうかお願いします! 見捨てないで下さい! 幼い娘と病気の妻がいるんです! どうかお願いします!」
喚く男にため息をついて、顎で合図をする。
オーウェンが小さく頷いて男の腕を捻りあげようとした、その時だった。
「……分かりました」
「アリシア!?」
アリシアが私の前にずい、と出た。
「救いを求めている人がいるなら、み、見過ごせません!」
絞り出すような声。体も震えていた。だが、目だけが真っ直ぐに男の方を向いている。
「やめなさい! アリシア」
「お待ちなさい、アリシア」
シスターリリィと私の声が重なるが、アリシアは「大丈夫です」と気丈に笑った後、男の方に向かって神聖魔法を掛けた。
神聖魔法は聖女だけに与えられた特権魔法である。否、神聖魔法という特権魔法を持つ者が、聖女として讃えられ、祀り上げられるのだ。
治癒や結界、祈祷や魔物の撃退に至るまで、様々な応用が効くそれは、一般的には『奇跡』と称される。だが、強力すぎる力はおいそれと使うべきではない。
少なくとも、目の前の礼儀知らずには過ぎた代物だと私は思った。
「大丈夫です。すぐに楽になりますから……。天より降る清らかな光よ。この方の痛みを包み、折れた骨を元の姿へお戻しください。どうかこの人がまた、自分の足で歩けますように——」
呪文ですらないその言葉で、淡い光が男の体を包んだ。光が消えた後、男が折れた足をトントン、とさせると、先程までの歪さは消えて、解いた包帯から傷ひとつない足が姿を現した。
「おお……聖女様……! ありがとうございます! ありがとうございます!」
男は大喜びで両足で飛んで見せた後、アリシアの両腕をがっしりと掴んだ。彼女は一瞬、ビクッと震えたが、それでも笑みは絶やさなかった。心なしか顔色が悪い。
シスターリリィを見た。彼女も怒りを押し殺すように顔を歪ませていたが、自分を押さえつけるようにして、この場は必死でアリシアの顔を立てようとしているようだった。
他の修道女も皆一様に顔を青くしている。
配給に並ぶ貧民達はざわつきながらも、いいなぁ、羨ましい、とぽつぽつと声を漏らしている。
「本当に助かりました。診療所に行くお金もなくて途方にくれていた時に、聖女様が来てるってんで。いやあ、奇跡とは素晴らしいものですね、本当に助かりました! これはほんの気持ちばかりですが、受け取って下さい!」
男は無神経にそういうと、教会の設置した募金箱に数枚の銅貨を投げ入れた。
そのチャリン、という音を聞いた瞬間、私の中で何かが切れた。
「お待ちなさい。このドブネズミが」
その場を離れようとした男がギョッとして振り返る。
「下郎が。自分のしでかした事を分かっていないようですわね」
「セ、セレス!」
アリシアが私を諌める。
だが、顔が青い。唇も震えている。
神聖魔法は理外の力だが、私の考えが正しければやはり何らかの反作用があるに違いない。
にも関わらず、アリシアはそれを行使した。
その代償の重さを、目の前の男は理解していない。
「アリシア、大丈夫ですよ。すぐ終わるので少し休んでいて下さい。オーウェン、彼女を頼みます」
「承知いたしました」
オーウェンがアリシアを後ろに下げた後、男が訝しがる目でこちらを伺った。
「なんですか、アンタ?」
「申し遅れました。私はレーヴェン公爵家の娘、セレスティア・レーヴェンと申します」
「なっ……」
どうやらこんな掃き溜めでも、この権威はそこそこ通用するらしい。本来なら今すぐこの場で始末したい所だが、流石に人の目に付きすぎる。
「結構。ここから先は私の胸三寸で、貴方と、貴方のご家族の処遇が決まるということをご理解ください。その上で余計な口答えはせず、私の質問にだけ答えなさい。……よろしいですか?」
「は、はい」
男の声が震えた。
だが、声が震えているのはこちらも同じだ。
もっとも、こちらは怒りで、ですが。
「まず貴方は、聖女アリシア様の奇跡を自分の都合だけで消費しようとしました。彼女という人間も、事情も、聖女の奇跡が彼女にとってどれほど重いものかも、何一つ考えずに。そうですね?」
「……! ですが、私には娘と妻が!」
「お黙りなさい」
低い声に男の肩が跳ねる。先ほどまで両足で飛び跳ねていた足が、今は地面に縫い止められたように動かない。
「ああ、根本から理解出来ないようなので、もう口を開かなくてよろしいですよ。こちらが勝手に話すので、黙ってお聞きなさい」
「……」
「診療所に行くお金がない? たまたま聖女が来ている? 奇跡は素晴らしい? ああ……いけません、いけませんいけませんいけません!」
自分の口から出た言葉で、喉が焼けるようだった。
この男はまだ自分しか見ていない。妻と娘を愛しているのかも知れない。それがこの男にとっての愛かも知れない。だが、その為にアリシアの愛を踏み躙ることなど、誰が許しても私は許さない。
「貴方の一言一句が、アリシアの慈愛に対する冒涜です! 彼女の気高き魂に対する侮辱です! ……そして、それを勝手な解釈のまま羨ましがる愚民共にも辟易しますねぇ!!!」
周囲のざわめきが、ぴたりと止まった。
炊き出しの鍋から湯気だけが白く上がっている。列に並んでいた者たちは、口を半開きにしたまま、こちらを見ていた。
「お嬢様、素が出過ぎです。僭越ながら、聖女様も怖がっておいでです」
「セレス……?」
「あっ! ああっ、違います! アリシア、違うのです!」
「お嬢様、何が違うのですか」
振り返るとアリシアはオーウェンの後ろで両手を胸元に寄せていた。
顔を青くしたまま、今は私を心配するような目をしている。
「……コホン」
余計なことを言う執事はあとで減給です。
「兎に角、貴方がたは聖女の奇跡を便利装置か何かだと思っているようですが、奇跡には相応の代償があるということです。私も含めてこの場の全員、個人の都合で彼女を消費することは許しません。理解出来ましたか?」
男は何度も頷いた。
周囲を見回すと、目が合った者たちも一斉に首を縦に振る。
「よろしい。それでは貴方に贖罪の機会を差し上げましょう。これは私からの慈悲です。その身をもって、聖女の奇跡を返納しなさい」
「と、言いますと……?」
「簡単な事です。今ここでもう一度、自分の足を折ればいいのですよ。先程、ほんの気持ちと言いましたね。安い気持ちなど不要です。こちらの贖罪をもって、アリシアへの謝罪と誠意を示しなさい」
「セレス!」
男が悲鳴をあげるように息を呑んだ。修道女たちの顔から血の気が引き、誰かが小さく十字を切った。
「アリシア。すぐ終わりますから、もう少しだけ待っていてください」
「な、何言ってるの! ダメ!」
「……困りましたね」
男は青い顔で自分の足を抱えるようにして後ずさった。治ったばかりの足で器用なものだ。
「ふむ。仕方ない。どれ、少し手伝って差しあげましょう」
「お嬢様、流石に過激すぎて、皆様ドン引きされていらっしゃるかと。ここはその男に、教会の奉仕をさせる方向で手を打ってはいかがでしょうか?」
見ると、真っ青な顔をしたアリシアをはじめ、シスターリリィが腕を組んだまま、深く息を吐いている。何も言わずに、ただアリシアの隣に立っていた。他の修道女も互いに顔を見合わせて心配そうに様子を伺っている。
「…………仕方ありませんね。貴方。今日から三ヶ月の間、教会の雑務を手伝いなさい。そして病人や怪我人が聖女に直接縋ろうとした時は、貴方がその身をもって止めなさい」
「は、はい……!」
「もし、次聖女様、及び教会に不敬を働いた時にはレーヴェン家の名において、貴方の家名を折ります。その際は足どころでは済ませませんよ」
男はまた何度も頷いた。
「アリシア、それでもいいですか? 私のこと、嫌いになりませんか?」
「う、うん。え、いや、はい! セレスは私のと、友達だよ!」
「親友と言ったではないですか! 酷いです!」
「……お嬢様の自業自得なのでは」
アリシアは困ったように眉を下げ、それから小さく笑った。
「……親友だよ、セレス」
「アリシア……」
私は咳払いをして、男に向き直る。
「感謝なさい。貴方の足が折れずに済んだのは、アリシアの慈愛のおかげです。二度目ですわね。今度こそ、その意味をお忘れなきよう」
男は跪いて地面に額がつきそうなほど深く頭を下げる。
チャリン、と先ほど投げ入れられた銅貨が、募金箱の底でかすかに揺れた気がした。
貧民達はもう誰も、羨ましいとは言わなかった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
少しでも刺さるものがありましたら幸いです。
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