キノコの炊き込みご飯と青菜のおひたし
「ごめんなさい、佐代さん。遅くなっちゃって…。あら、こちらは…」
そのあと、すぐに小栗さんがやってきた。
「すいませーん。配達です」
食材も届いた。
「小栗さん、こちらが先生のお孫さん。
配達ありがとうございます。こっちへ置いてください」
挨拶したり、食材の用意をしているあいだに、生徒さんもちらほらやってきた。
そしてその日の教室は、みんな、どことなく浮き足立っていた。
先生は、若い男の人。
それもなかなかの器量よし。
小栗さんは、こまごまと若先生の世話を焼いている。
教室一おしゃべりの大葉さんは、いつにもまして声が高い。
(今日は、賑やかだなあ…)
そんなことを思っているうちに、キッチンに、いい匂いが満ちてきた。
今日のメニューは、キノコの炊き込みご飯と青菜のおひたし。
「わー、おいしそうにできたわね」
「本当。キノコはいい匂いよね」
料理ができあがったら、みんなでお茶にする。
その時に、作った料理を食べたい人は食べ、持ち帰る人は持ち帰る準備をする。
私は、後者。
炊きあがったご飯をおにぎりにする。
「お茶の準備、できましたか?」
用意ができた。小栗さんが話をする。
「今日は若先生、初めてですから、お茶の前に、みんなで自己紹介しましょうね。
ではまず、私から」
小栗さんがウキウキと話しだし、みんながそれに続く。
「次、佐代さんよ」
指名され、私は、椅子から立ち上がった。
「…佐代です。市内から通っています。この教室に来て三年ほどになります」
すると、若先生が口をひらいた。
「さよ、さん? …って、名字? 名前じゃなくて? 」
「はい。名字です。よく間違われます」
「お名前は麦穂さんっていうのよね」
小栗さんがすかさず補足した。
若先生は、それに答えず、私を見たままだった。
何だろう?
「よろしくお願いします」
少しの居心地悪さを感じ、私はさっと言って、席に座った。
お茶が終わり、あと片づけもすんだ。
するといつもは、生徒さんたちはぼちぼち帰りはじめていく。
が、今日は皆さんキレが悪い。
私はもう、保育園に子どもを迎えにいかなければならない。
「小栗さん。お先に失礼します。これ鍵です」
「佐代さんありがとう。おつかれさま」
若先生もこちらに顔を向けて言った。
「おつかれさまでした」
若先生には軽く会釈で返した。
私は急いで挨拶してキッチンを出た。
保育園で星也が待ってる。
「お母さん! 遅いよ! 」
自転車を精一杯こいで、保育園に着いた。
延長保育の部屋で待っていた星也が、飛びついてきたう。
「ごめんね。今日は初めての先生だったから…」
「お腹すいたー。なんかいい匂いがする。今日は何作ったの? 」
「今日はキノコの炊き込みごはんだよ」
小学生の宙には、家の鍵を持たせてある。
料理教室がある日はいつも、学校から帰ってきてひとりで家で待っている。
自転車の荷台に取りつけた子供用キャリアに、星也を持ちあげた。
「よいしょ。重くなったなあ」
走り出すと、風は昼間とは違い、少し肌寒い。
「帰ったら、みんなでご飯食べようね」




