第94話 一撃撃破
まずは二個の魔石を並べてアイテムボックスの機能の【時間経過無し】だけを【スキル細分化】で指定する。
それをオーブ作成で一度だけ使用できる状態で付与してみた。
「うん、二個は一度に出来たね」
何個まで出来るんだろう?
十個ずつ数を増やしていく。
五十個までは成功したが、六十個は出来なかった。
もしかして私のレベルまでとかかな?
五十二個は成功、五十三個は出来なかった。
間違いないね、私のレベルと同じ数まで一括指定できるんだ。
効率は悪くなさそうだね。
早速五十個ずつの付与で一層の魔石の在庫があるだけ四百個を作っておいた。
一層の魔石だとビー玉程度の大きさなので、ポーチの中に一緒に入れても問題無いしね。
後は買取業務を実際に行う冴羽さんに、ある程度は能力を身に付けてもらわないと駄目か……
杏さんと同じ【アイテムボックス】と【鑑定】は必須だよね。
信じると決めたんなら覚えて貰う選択しか無いか。
今は二十二時だ、まだ起きてるかな?
冴羽さんに電話を掛けた。
『冴羽さん。今、大丈夫ですか』
『心愛ちゃんどうした?』
『今からとか、食堂の方に来れますか?』
『ああ、これから杏と一緒に食事に行くところだったから大丈夫だ。一緒に行くな』
『あれ? デートのお邪魔しちゃいましたか? そう急ぐ必要もないから明日でもいいですよ?』
『馬鹿、そんなんじゃない。今からすぐ行くな。三十分ほどで到着する』
杏さんと一緒に冴羽さんがやって来て、お土産のケーキを抱えてた。
「すぐコーヒー淹れますね」
「私がやるよ心愛ちゃん。ねぇもしかして用事ってかつ丼と茶碗蒸しかな?」
「さすが杏さん、察しが良いですね」
「私も絶対必須条件だよね、と思ってたから」
「心愛ちゃん、杏、何を二人で話してるんだ?」
「きっと、冴羽さんは喜ぶと思うからそのまま座っててください」
杏さんがコーヒーを用意する横で、私はアイテムボックスからかつ丼と茶碗蒸しを用意して、冴羽さんへと出した。
「これ召し上がって頂けますか?」
「あ、ああ、まだ今から食べる所だったから助かる。心愛ちゃんが作ったのかい?」
「そうですよ、結構な自信作ですから召し上がって下さい。まだ杏さんにしか出した事無いんですけどね」
「そんな自信作ならみんなに食べさせてあげればいいのに……」
そう言いながらかつ丼を一口食べると、冴羽さんが呟いた。
「凄いな……皆には絶対だめだ」
「でしょ? 食べて貰いたいけど出せないんです」
「どうやって身に付けたんだ? この料理」
「それだけは内緒です」
「杏は、この料理食べたって事は……使えるのか?」
「そうですよ、便利です。冴羽さんもスキルオーブの取引を行うには必須になるから良かったですね」
「ああ、助かる。どうやら本当の意味で俺を仲間と認めて貰えたようだな」
「よろしくお願いしますね、冴羽さん」
「で、杏さんと冴羽さんにはこの能力を覚えて欲しいんですけど」
と言って、二つの二十層の守護者クラスの魔石を取り出した。
「これは何のスキルオーブ?」
「早速、鑑定してみて下さい」
「うわ、無制限の言語理解スキルか、これも凄いな」
「こっちは料理では無いという事は、覚えた経緯も違うんだな?」
「その通りですね、下関のボス討伐で手に入れた能力です。ボス扉の不思議言語も理解できるし、世界中の言語が、ネイティブ理解できます。普通に自分では日本語で会話しているつもりでも、相手にはネイティブな言語で聞こえてるみたいですね。英語の成績最悪な私が、普通にロジャーと会話できるから」
「世界を相手にする俺には非常に重要なスキルだ。ありがとう」
その後で実験に拠って時間停止の使い捨て魔石の生産にも成功したことを伝え、取り敢えず在庫分の四百個を渡しておいた。
「凄いな、世界が変わるぞ。ダンジョン協会横の会社事務所は既に契約したが、そっちの社屋には原則俺だけしか近寄らないようにする。杏や心愛が出入りすると危険もあるからな、各国の諜報はまだ諦めては無いはずだし、事務員だけ採用してもいいか?」
「それは社長にお任せしますよ。私は心愛ちゃんと今まで通りここで、美味しいコーヒーを楽しむ生活をします。ね、心愛ちゃん」
「ですよね! 杏さん」
「あ、冴羽さん。その能力を身につけたなら、私がやろうと思ってた仕事頼んじゃっていいですか?」
「どんなことだ?」
「各国のダンジョンのランキング看破と、ボス階層の不思議文字の解読です。協会と特務隊【DSF】との連絡をして貰えれば、情報は届くはずですから、よろしくお願いします」
「解った。俺もいきなり忙しくなりそうだな」
「私は、ダンジョンで食材集めに専念したいですからね」
「ぶれないね、心愛ちゃん」
「それを忘れたら、本末転倒ですから。それと杏さんD-CANの件とは別で少し相談があるんですけど」
「どんな話かな?」
「私の動画の編集を頼んでいる日向ちゃんの事なんですけど……」
そう切り出してから現状の日向ちゃんの置かれている状況を説明すると、少し憤慨して返事をしてくれた。
「そんなの許せるわけないじゃない。すぐに熊谷先生に連絡をして対処してもらいましょう。熊谷先生は奥さんも弁護士さんで主に女性の権利や人権問題を専門にしてるそうですから女の子でも安心して相談できるよ」
「杏さん、ありがとう。早速お願いしてもいいかな?」
「うん。任せてて」
その話の間、無言を貫いていた冴羽さんが話の終わったタイミングで声をかけてくれた。
「心愛ちゃんの配信活動は、それも収益化をさせる方向性という事で間違いないのかな?」
「はい、そうですね。大きく稼ぐとかじゃなくて、日向ちゃんのお小遣い程度は稼げるようになりたいかな? って感じですけど」
「きっと心愛ちゃんが思ってるより大きな金額が動くことになりそうだけどね。その配信活動もD-CANの一部門として取り組んで税金や経費関係での優遇を受けれるようにするべきだと思う。日向ちゃんには配信部門の所属という事で雇用してあげればいいんじゃないかな?」
「高校生でも問題は無いんですか?」
「一応、十八歳未満の雇用に関しては二十二時から五時の間の労働は不可とかの決まりごとはあるから動画撮影の時間なんかは気にしておいてほしいな。採用自体は学生でも問題ないよ。希ちゃんも勿論大丈夫」
◇◆◇◆
今日は下関の検証の最終日だ。
ロジャーとグレッグは無事にマッケンジー長官から、ポーションⅣを手に入れたようだった。
「それじゃぁパーティ作成とエスケープは美咲さんが使って下さいね」
「任せて、行って来るね」
君川一尉、冬月二尉、ロジャー大尉、グレッグ大尉の四人は、扉の向こうへと突入して行った。
そして十分後、無事に一撃撃破に成功した四人は戻って来た。
「心愛、宝箱出たぞ。三個のうち右端の一個を開けたら、他のは消えた」
「グレッグ、鑑定とか持ってないのに、宝箱開けるの怖く無いの?」
「そんなのは運だ!」
「その発想、めちゃ危険ですからね……」
「四人とも隊を率いる立場だから、みんなパーティ作成を選んだよ」
「そうなんだ、言語理解は出なかったですか?」
「出なかったね」
「そっかぁやっぱり初討伐者の報酬なのかな? 次のダンジョン討伐したら解りますね」
「そうだね、ねぇランキング上がったんだよ、私が十五位で君川一尉がついに、日本人初のシングルになったよ」
「わ、凄いですね。ギフトは手に入ったんですか?」
「ああ、手に入ったよ【弱点看破】だ」
「凄いですね、それなら金沢のオーガキング問題無く倒せちゃうじゃないですか」
「俺としてはロジャーたちの様な攻撃手段が欲しかったんだが、どうやら俺はサポート要員に徹する事を求められてるみたいだな」
「あの? 少し思ったんですけど、君川さんがシングルに成ったら誰かが落ちる訳ですよね? その時落ちた人のギフトはどうなるんですか?」
「使えなくなるね、又ランキングが戻れば再び使えるようになるけど、違う能力が身に付く事は無いらしいよ」
「そうなんですね、私も頑張ってシングルめざします」
「心愛ちゃん、せめて金沢終わるまでは勘弁してくれよ? 俺九位だから、心愛ちゃんに抜かされるとギフト使えなくなるからな?」
「了解です、まだイエローだし全然余裕ですよ」
「心愛、俺達にも聞いてくれよ」
「グレッグはどうだったの?」
「ああ三位に上がったぜ、ロジャーはそのまま二位だ」
「ロマノフスキーさんって、どれくらいのレベルなのかな? 顔写真とか手に入ればいいのに」
「昨日ボスが言ってたぞ、中国のトップチームと、ロシアのトップチームが日本に入国したと」
「本当ですか、それってここに来てるんですか?」
「他に理由は無いだろうな。一応ポーションⅣでの一撃撃破が可能な事は今日ダンジョンリークスで発表するから、各国のトップチームが続々来るだろう」
「下関が、世界一人気のダンジョンになっちゃいますね」
下関の攻略はこうして一応の決着を見せた。




