第57話 黒田の失脚
学校に到着して教室に入ると由香が声をかけてきた。
「ねぇ心愛あんたダンチューブの配信なんてやってたの?」
「見たの? ちょっと恥ずかしいな。後輩の子たちが撮影や編集で協力してくれることになったからお試しで始めたんだよ」
「お試しって……私、昨日、今話題になってるチャンネルがあるからって勧められて、見たら心愛が映ってるから吹きそうになったわよ。しかも料理チャンネルの方なんて超本格的なキッチンスタジオじゃん」
「あれは自宅だよ、由香って私の家が食堂やってたの知らなかったっけ?」
「聞いてないよ」
「そっか、お父さんが居なくなって閉めてるから四年間は営業してないしね」
「ってかさぁ心愛、十層攻略して十一層とか入ってたけど、それってBランク以上じゃないと駄目じゃなかったっけ」
「まあ一応そうだね」
「あの一年生のちっちゃな子もBランクって事?」
「あーそれはね、パーティ登録を協会でしたらパーティでのランクって言うのが個人ランクと別に出来るんだよね」
「そうなんだ心愛のランクってどれくらいなの?」
「それは内緒だよ!」
「Bランク以上が確定してる状況で内緒とか絶対Aランク以上って事じゃん……」
「内緒!」
私と由香がそんな話をしていると他の子たちも話に混ざってきて結構大変だった。
男子たちからも「十層とかすげー」って言われてなんだか照れ臭かったよ。
みんな今日の放課後に私のチャンネルを視てくれるって言ってくれたよ。
放課後になり帰宅すると杏さんのポルシェも駐車場に停まって居た。
食堂側から家に入ると杏さんは電話中だった。
空気を読んで、声を出さずに口だけ開いて『た・だ・い・ま』と伝えた。
部屋の方に行き制服を着替えて食堂に戻ると、カウンター越しにコーヒーの香りが漂って来た。
「心愛せんぱーい、たっだいまー」私が、カウンターの席に腰掛けるのとほぼ同時のタイミングで、場違いな程に空気を読まない希が帰って来た。
「お帰り、希」
「杏さんもただいまですぅ」
「希ちゃんお帰りなさい、いつも元気で羨ましいわ」
「杏さん、先程の電話は澤田さんですか?」
「ええ、そうよ。金沢に到着して自衛隊の『ダンジョン特務隊』の葛城一佐って言う隊長さんと攻略に関しての意見交換をしたそうよ」
「そうなんですねぇ」
「全国の特務隊二百四十名が全員昼過ぎには金沢に到着していて、今日この後十六時から作戦が始まるそうですけど、金沢の部隊以外は『ダンジョンリフト』での移動が出来ないので、すでに一般探索者を全員退出させた状態で全隊員で二十八層まで強行軍で進んだ後、二日後にダンジョンを攻略する決定になったようですね」
「そうなんだ、何が起こるのか気になりますね」
「明日は朝から下関に向かう予定だけど、今日は博多ダンジョンでの狩りで問題ないのよね?」
「はい、それで問題無いです。杏さんは博多ダンジョンは何層まで行った事有りますか?」
「私は六層までよ」
「そうなんですね、じゃぁ今日は六層から急ぎ足で降りれるだけ降りて行きましょう。目標はレベル二十ですから」
「本気の心愛ちゃんの狩りが見れるのね。楽しみだわ」
「既に十二層くらいまでなら、希一人でも余裕ですけどね」
「そこまでの実力があるの? じゃぁカラーズでもグリーン以上に相当するって言う認識だね」
「先輩。私ってそんなに強いんですか?」
「私もカラーズの実力が解って無いけど、杏さんが嘘を言う必要が無いからそうなんでしょうね?」
「先輩どうしよう、顔がにやけてきちゃいますよ私」
「さぁ時間も勿体ないし行くよ」
西新のマンションへと転移しダンジョンへと入ろうとすると、入場ゲートで杏さんにゲートのチェック担当職員が声を掛けて来た。
「大島さんも今日は探索されるんですか?」
「ええ、私の担当のパーティとご一緒させて頂くわ。他の探索者の方たちの参考になるような事があればいいと思ってね」
「気を付けて行ってらっしゃい」
「ありがとうございます」
「杏さん六層からスタートするので、リフトで先に行きますね」
「了解です」
それから他の探索者の目が無い所では、自重無しに魔法も使いながら下層階への道を駆け抜ける様に進んだ。
◇◆◇◆
時間は少し戻り、金曜日の朝九時、渋谷ダンジョンに隣接する日本ダンジョン協会本部では朝から協会の理事が全員揃い、鑑定オーブの取り扱いに対しての会議を行おうとしていた。
「冴羽、自分のミスのけつも拭けずに、博多に逃げたお前が何をしに来たんだ」
「黒田常務理事お早うございます。常務理事もそろそろ自分の事ばかりではなく、日本のダンジョン探索が世界を先導して行けるような意見を口にされた方がよろしいかと思いますよ」
「探索者など所詮はまともな職に就けない奴らがやる底辺職だ。俺の様な支配階級の人間が上に座ってやっているから、探索者などと名乗っていられるだけじゃないか」
「そうですか、それが黒田常務の本心でよろしいんですね」
「お前の様な雑魚が、俺に対して何かできるとでも思ってるのか?」
「ちなみに今日の会議の内容は把握されているのですか?」
「そんな事は俺の仕事じゃない。秘書の仕事だ。お前も今までそうしていただろう」
「秘書の人選すらも出来ない人には、何を言っても無駄の様ですね。それでは会議の席でまた」
定刻を迎えて会議が始まり、各理事は事前にそれぞれの秘書がまとめた資料を基に、それぞれの見解を述べるが、昨晩のライブチャット会議に参加をすることもしなかった秘書から資料を渡されることも無かった黒田は一人無言を貫いた。
一通りの見解を述べた後の小休憩で、黒田が秘書の女性に対して声を荒げていた。
「折角目を掛けてやったのに、会議資料を纏める程度の簡単な作業も出来ない能無しとはな」
「コンパの途中に会議を始める連絡が来るのを、当たり前の事に言うなんてあり得ません。理事の秘書なんて馬鹿でも務まるから、見た目のいいお前にさせてやると言ったのは常務理事じゃないですか」
あまりの会話のレベルの低さに他の理事と秘書たちは呆れかえっていた。
「その辺りにしておきなさい黒田君。君はこのまま退席しなさい。その秘書も連れて。追って正式な通達は出すが、君には多額の使途不明金の疑いが掛かっている。そのまま自宅で謹慎処分だ」
「先日の『ダンジョンリフト』の報奨金を当てれば十分に充当できる程度の額で、何を騒ぎ立てる必要があるんですか協会長?」
「正気で言ってるのか?」
「まぁこんな魔物を相手にする様な底辺の仕事は私には相応しくありませんので、正当な退職金にプラスして、期限内の契約解除の違約金を加算請求させていただきます。私は政治家にでもなって、ダンジョン協会から余剰金を毟り取る仕事でもさせていただきましょう。多額の内部留保金の詳細も握って居る事ですし野党なら喜んで推薦を出すでしょうから」
「つくづく屑だな、黒田」
「探索者などと言う野蛮人種と比べれば、まともな人間だと思っていますよ」
「黒田さん、あなたの今日の発言は総て録音させて頂いています。このままマスコミに渡しますので世論の反応でもお楽しみください」
「な、なんだと、冴羽、そのレコーダーをよこせ。お前ごときの雑魚に俺の邪魔をさせてたまるか」
「警備員、ご乱心の黒田常務理事を拘束してください」
「冴羽君、嫌な役割をさせたな。黒田の問題は後はわしがかぶろう、協会長を引責辞任する事で対外的な面では収まりがつくだろう。今日、君と博多支部が持ち込んでくれた議題のお陰で日本ダンジョン協会は一気に世界最先端のダンジョン討伐を行う組織となった。これからは君たちの世代の時代だ。ダンジョン協会をよろしく頼む」
「会長、ありがとうございます。まだまだ我々では政治的駆け引きには不安が残りますので理事の方々の協力を仰ぎつつ、日本が世界をけん引できるように頑張ります」




