第46話 【閑話】希
「え? ナニこの敵、ヤバイよみんな逃げてぇえ」
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今日は家計の手助けの為に、朝からダンジョンに来ていた。
同じクラスの日向ちゃん、昭君、悟君と四人パーティだよ。
ダンジョンに入る前に心愛先輩に出会って「ポーションはちゃんと持ってきてるの?」って聞かれたけど、先輩って私の為に言ってくれてるのは解るんだけど、お母さんの小言みたいだよ。
基本大好きなんだけど、その時だけはちょっとうざいんだよね……
だってポーションなんて買ったら一本一万円もするし、そんなの使ってたら間違いなく赤字になっちゃうから、先輩だってお小遣い稼ぎに来てるんだろうし懐事情なんて変わんないはずだから、もうちょっと柔軟に考えたらいいのにね?
それでも無理やりポーションとキュアを一本づつ持たされちゃったから、ありがたいけど荷物増えちゃって嫌だなぁ。
大体私達だって怪我なんかしたく無いから、無理なく狩りが出来る四階層より下へ行く事なんて無いんだし心配しすぎだよね。
でも先輩っていつも一人で狩りしてるって言ってたけど何層に行ってるんだろ。
私なら絶対一人とか嫌だけどな。
順調に狩りは出来てるけど、やっぱり週末だからちょっと人が増えてきちゃったね。
今のままだと一人一万円の目標には届きそうにないなぁ。
「ねぇ、人増えたし効率が悪いから四層に移動しない?」
みんなに聞いて見たら全員賛成だった。
良かった。
ダンジョンの狩りは、結局自分の安全は自分で確保するしか無いんだし、もし怪我をしても自己責任だって皆判ってるからね。
だからこういう階層を進むときの判断は、全員の意見の一致は大事なんだよ。
これを怠ると、もし何かあって怪我した時に「私は行かない方が良いって言いました! 希ちゃんが嫌がってる私を無理やり連れて行きました……」何て言われたら目も当てれないしね。
三層の守護者は見た目は大きなイノシシだから強そうだけど、突進してくるだけだから、冷静に見極めたら四人いれば結構楽勝だからね。
すばしっこい私が最初に敵の注意を引いたら、他の三人は遊撃の位置から攻撃を加えて行くだけでいいし、ボアのお肉が結構な確率で落ちるから高く売れるんだよね。
守護者の部屋に到達すると、敵が現れた。
(あれ? なんかいつもと違う……二足歩行の大きな牛でメチャ強そうだ)
「え? 何この敵、ヤバイよみんな逃げてぇえ」
私は、危険な雰囲気を察知して叫んだ。
次の瞬間正面に立つ私ではなく、横に位置取って居た日向ちゃんが足を蹴り飛ばされて倒れた。
今の一撃で骨が折れて皮膚を突き破ってた。
「日向ちゃーん」と叫んだけど動かない。
どうしよう急いで助けなきゃ。
あれは、ミノタウロスだよね? こんな階層に出ていい敵じゃ無いはずだよね? なんで? 何で私達の前にこんなのが出るの?
悟君と昭君が逃げ回りながら叫ぶ。
「希、日向を連れて部屋から出ろ。部屋の外には来れないはずだから」
「解ったぁ、もう少しだけ引き付けててね」
私は、日向ちゃんに駆け寄って、抱え上げた。
ダンジョン内では身体能力が上がってるので、私でも日向ちゃん一人を抱え上げるのは無理ではない。
何とか日向ちゃんを外に出すと、今度は昭君と悟君を逃がそうと思って走り寄ろうとした。
「馬鹿、希、来るな。俺達は何とかするから、そのまま外に居ろ」
その声で入り口の側で踏みとどまって状況を見てた。
ミノタウロスは想像以上に素早く、出口に向かって走ってくる昭君を横から殴り飛ばした。
三メートル近くも飛ばされて昭君が倒れた。
私は持っていた武器や下に転がっていた石を拾って、ミノタウロスに投げつけながら注意を引いた。
「悟君、今のうちに昭君を連れ出してぇえ」
「解った希、けがするなよ」
悟君が昭君を背負って入り口側に走り始めた。
私はミノタウロスに石を投げつけながら反対側に走る。
「希、もう大丈夫だ早く逃げろおお」
早く逃げろって言ったって私も結構限界っぽいけど……
でも、絶対何とかするんだ。
私が投げつけた石が、ミノタウロスの目の近くに当たり、一瞬動きが止まった。
『今だ』って思ってミノタウロスのすぐ横を一気に走り抜けて、部屋の外に飛び出した。
「希、よくやった。助かったよ。でも日向と昭の出血が激しい。一層まで持たないかもしれないどうしよう」
その時思い出した、先輩から預かったポーションの事を。
傷口からばい菌が入ってるかもしれないし、キュアと両方使おう。
半分ずつ、二人の傷口に掛けると、なんとか傷口は塞がって血は止まったけど明らかに骨は折れてる。
私が日向ちゃん、悟君が昭君を抱え一層を目指した。
途中で出会った他のグループの子に、ボス部屋にミノタウロスが出てるから、絶対近寄らないように伝えたけど「三層で出会えるとかラッキーじゃん。倒しに行こうぜ」と言いながら向かって行った。
「この階層で狩りをしている人には絶対無理だから止めて」と言ったけど誰も聞く耳を持たない。
他にも二組ほど声を掛けたけど「見てみたいよな」とか言いながら守護者の部屋へ向かって行った。
「駄目、あの人たちみんな止めなきゃ死んじゃうよぉ」
「無理だ。ダンジョンは自己責任なんだから、自分達、今は同じパーティの二人を守るのが優先だ」
悟君は結構冷静だった。
一層まで戻った時に、やっと少し安心すると、涙が止まらなくなった。
「昭君、日向ちゃんもう少しで出れるからね頑張って……グス……」
その時だった。
「どうしたの? 希」
先輩だった。
私は必死で先輩に状況を説明して手伝いを頼んだ。
なんか先輩はメチャ冷静で日向ちゃん達も死ぬような怪我じゃ無いから、それより三層の守護者部屋の対処の方が重要と判断したみたいで、一人で下に向かって行った。
なんなの、あの余裕は……カッコイイ……
私は悟君と一緒に二人を外に連れ出すと、協会に三層の惨劇を連絡して、すぐに向かって貰うように頼んだ。
急がないと、先輩や先にすれ違った人たちが危険だ。
二人は自宅に連絡して親が迎えに来ることになったけど、日向ちゃんは凄く表情が暗い。
先輩に提案されたポーション治療を断っちゃったけど、冷静に考えればダンジョンでの怪我は健康保険も適用外だから、結局先輩に提案されたポーション治療が一番安くて一番確実に治療できたと思うけど、それは私が判断する事じゃないよね?
迎えに来た二人の両親は、私と悟君を凄い悪者の様に言って二人を連れて帰った。
確実な治療を格安で提供しようとした先輩の悪口まで言いながら……
でも、きっと先輩に預かっていたポーションが無かったら二人共外に出るまでもたずに出血多量で死んでいたかもしれない。
「先輩ごめんなさい。もう絶対ポーション持たずにダンジョンに入ったりしないです」
その日の夜に先輩の家に行き、今日のお礼を伝えた。
他にも色々話したら、先輩はあの私達が手も足も出なかったミノタウロスを一人で倒してしまっていた。
そして、お小遣い稼ぎで行ってるだけだと思っていた先輩からは、まさかのお金は困っていない発言だった。
なんかもう……「飼って下さい!」当然本気で言ったよ?
相手にされなかったけど。
それから私は先輩に一生懸命付き纏っていたら、先輩の相棒としてダンジョン活動を行える事になった。
そして先輩は知れば知るほど凄い人だった。
私に出来る事は何だろう?
そう! 先輩を全力で愛する事だよね!!




