第171話 ジャフナスタンピード発生
真夜中になるまで、私たちは仮眠を取って備えた。
二十三時三十分になると『大衆食堂心愛』にはアンリさんのチーム二十名、ロジャー、グレッグ、樹里さん、美穂さん、私と希と日向ちゃんそして冴羽社長と杏さんが揃った。
一度には転移できないので、最初に冴羽社長、アンリさん、杏さんを連れてジャフナへテレポした。
そこに転移プレートを一枚設置すると、私だけが食堂へ戻り、対になるプレートを食堂へ設置した。
残りのメンバーが次々とジャフナへ転移プレートで渡って行く。
冴羽社長は忙しそうにスリランカ政府の人と連絡を取り合ってるようだった。
そのまま日本時間の二十四時を迎えたが、何も異変は起こらなかった。
「まさか? 違う場所なの?」
「いや、待て。現地時間の二十四時である可能性の方が高い。一応WDAに確認を入れてみよう。杏、連絡を入れてみてくれ」
「わかりました」
杏さんがWDAにスタンピードの情報を確認するが、やはり、まだどこからもスタンピード情報はもたらされてなかった。
「現地時間だとすると、三時間半のタイムラグがあるな。杏はWDAの情報を注視しておいてくれ」
冴羽社長が杏さんに指示を出すと、アンリさんが「うちの諜報班を使ってジャフナの協会支部の様子を見てこさせよう。グランデとペティーテに頼む」
「了解しました」
喬姉妹が行動を開始した。
残された私たちは、折角だからセイロンティーを楽しみながら時間が来るのを待つことにしたよ。
冴羽社長によれば、昨日のお昼に中国大使館を通じてD-CANに北京の結界構築をした場合の概算費用の確認が行われ、二百億USドル、日本円で三兆円弱と伝えたそうだ。
「そう言えばグレッグ、一目惚れの相手って誰なの?」
と聞いてみた。
「ああ、あの娘だよ」
グレッグの視線の先には、ニコール中尉が居た。
ニコール中尉は正統派の超美人さんで175センチはある高身長に加え、九頭身の抜群のプロポーションで、出るところもしっかり出てる。プラチナブロンドの髪をなびかせるその姿は、まさにワルキューレと言われても誰も疑いを持たないだろうな? って感じの人だ。
「それで本人と少しは話をしたの?」
「いや、畏れ多くてまだ声はかけてない」
「グレッグってそんなキャラだったっけ? もっと当たって砕けろ的なイメージだけど」
「あー、なんて言うか俺もこんなことは初めてなんだ。今までなら玉砕覚悟で迷わずすぐに突撃してた。だがな、最初の出会いの後に二、三日ぼーっとしてた自覚はあるんだ。そこがおかしいと思って、その原因がはっきりするまで行動には移さないようにしてる」
「へー、ちゃんと冷静になれてたんだ」
でも確かに気にはなるので、ニコールさんとお話ししてみる事にした。
「ニコールさん、ちょっとお話しても大丈夫ですか?」
「全然OKだよ心愛ちゃん」
「ニコールさんって魅了系の能力を持たれてたりしますか?」
「えっ? 随分ストレートだね。その答えはね、あるらしい? ってところかな」
「それって、どういう意味なんですか?」
「うちの王ちゃんがね、その人の守護霊が見えちゃうらしいんだよね。それによると私の守護霊はアフロディーテなんだって。でー王ちゃんがアフロディーテのタトゥを入れたら、もっと守護の力を強く発揮できるなんて言うもんだから、入れてもらったの。それから、時々、波長の合う人が魅了状態になっちゃうみたいだね」
「そうなんだぁ。ってタトゥも王さんが入れてくれたんですか?」
「そうだよ、凄く上手だから心愛ちゃんも入れてもらいなよ」
「あ、まだ高校生だし、学校に怒られそうだから今の所大丈夫です」
「そうなんだ。でも、見てもらうだけでもいいかもよ? 心愛ちゃんが聞いてきたのはグレッグの事かな?」
「気づかれてたんですか?」
「勿論だよ。なんだか特別、波長が合ったみたいだね。心愛ちゃんのそばにいるなら、これからも色々関りがあるかもしれないから、仲良くしといたほうがいいかな?」
「無理にとは言いませんが、グレッグは一目惚れだって言ってましたよ」
そう伝えるとグレッグの方を見て、ウインクしてた。
ウインクされたグレッグは顔を赤くしてうつむいてたよ。
そんな事をしてるうちに時刻は現地時間の二十四時を迎えた。
それと同時に、ダンジョンの入り口から魔物が出現してきた。
アンリさんの号令の下、早速迎撃態勢に入る。
冴羽社長が予定通りに、スリランカ政府からの救援要請を出させる。
それを受けて、WDAが事前に通告していた通りに、ダンジョン攻略情報を公開していなかった国に対しての支援は行えないと公式発表をすると同時に、このダンジョンを実質管理していた中国政府に全責任があるとして、これから起こるスリランカ国内でのすべてのスタンピード被害は、中国政府が責任もって賠償を行う必要があり、それを行わないと中国とは一切の国際協力を行う事は無い、そして今現在、中国との対外債務によりダンジョンを差し押さえられてる国家は、その契約を破棄するべきだと声明を出した。
その声明に対して助け舟を出すような形で、中国政府に打診を出したのはD-CANだ。
すぐに、スリランカ国内の二つのダンジョンの所有権を放棄すれば、その対外債務の対価として先日、打診のあった北京の結界構築を割引価格で請け負うと連絡した。
そこまでに要した時間は二時間。
現状はまだ、ロマノフスキーやロジャーを中心にダンジョンから湧き出てくる魔物を封じ込めている。
日向ちゃんは、その様子を映像として記録している。
現地時間の午前三時を迎えた頃に漸く、中国政府から正式にD-CANに対しての結界構築の依頼と共に、スリランカ政府へダンジョン所有権の放棄が通達された。
そこから今度はスリランカ政府からD-CANに対してスタンピードの鎮圧の依頼が出される。
その対価は、百三十八億USドル。
日本円にして約二兆円。
スリランカ政府の財務状況から考えると到底支払い困難な金額であるが、セイロン島北部の政府所有地の租借権を充当する契約により成立した。
それを受け、早速ダンジョンスタンピード鎮圧のための突入部隊が編成される。
心愛、希、日向、ロジャー、グレッグ、ロマノフスキー、ソフィア、樹里、美穂、アンリのメンバーだ。
その他のクリスマスホーリーのメンバーがダンジョン一層に陣取り、湧き出してくる魔物を迎撃しつつ、スリランカ政府軍が入り口付近に展開して、ダンジョンから漏れ出た魔物に対処する事になった。
心愛の用意していた、期限付きの【リミットブレイク】のスキルオーブをスリランカ軍のメンバーに配布するのは冴羽社長と杏さんの担当だ。
世界最高の豪華メンバーによるジャフナダンジョンの攻略がスタートした。




